SIDE:明日菜
――なんだろうな、これ……
この記憶の世界に来てから感じていた、妙な違和感。それはずっと心の奥で、少しずつ降り積もっていった。
……原因は、分かっている。目の前にいるこの二人の小さな子供と、それを守ろうとするこの
「……≪
「ハハッ、当然だろうな。ワシらはまだ結成して一月もたってないんだからな」
「…なんやと?」
サクヤさんは、会話をしながらも全く気を抜いていない。むしろ、スキあらばチウを名乗ってる長谷川を取り返そうと、徐々に間合いを詰めている。
「お前等に話したところで問題ないが、もうすぐアインクラッドを恐怖のどん底に陥れる、最高にクールな
「……それがなんで≪
「んー? 簡単さ。今月中に攻略組の誰かを殺せれば、俺たち全員が、『あのヒト』の作るギルドに入ることが出来る。だったら期間限定の名前の方が面白いだろ?」
「――ああ、そう、かいッ!」
そこで会話を切り、サクヤさんが≪瞬動≫に入る。このシステム外スキル、当初は彼女の≪疾走≫スキルや、ステータスがかなり低かったこともあって、全く成功しないスキルだった。けれどキャラレベルが60に至った今では、ステータス補正で成功率はほぼ100パーセント。初見の相手には、確実に通用する奇襲。
だけど、その目の前に、『幅広の包丁』が振り下ろされた。
「くッ!?」
慌てて≪瞬動≫を中止し、急ブレーキをかけるサクヤさん。空振った包丁は、そのまま地面に突き刺さった。
「アンタら……」
地面に突き刺さった包丁を抜き、何の力も入れずに佇む男と、その後ろに立つ、最初に二人の行く手を阻んだ
「オイオイ、下手なマネしないでくれよ? こっちには人質がいるんだからな」
そう言って指し示した先、長谷川は首元に不規則に折れ曲がったナイフを突きつけられていた。その様子に、サクヤさんの動きが止まる。
「クソどもがッ……!」
「オイオイ、クチわりィなあ。見た目は結構イイのに、そういうところはタイプじゃねえや」
「ハッ、アンタらなんぞに好かれるのは、虫唾が走るわ。首だけになっても、ウチの10km以内に入る価値もないで、アンタら」
「……マジで、ワシらより
その言葉と共に、黒服のサンタたちが、サクヤさんと水原の周りを取り囲む。逃がすつもりはない、ってことか。
「ショウ、やて? 何をするつもりなんや、アンタら」
「んー? そうだなあ、とりあえず『殺しあって』もらおっか」
「……何?」
全員がニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている。一体何をさせる気?
「だーかーらー、アンタと、横のコウって奴が、これから殺しあうんだよ。………………≪
「!! アンタら、わかっとるんか? ≪完全決着モード≫は……」
「『どちらかが死ぬまで』決着しない。分かってますよー?」
私は、怒りで拳を痛いほど握り締めていた。何フザケたことぬかしてんのよ、このイカレサンタ!
……だけど、その言葉に、サクヤさんは、一度だけ包丁の男と、
「……しゃあないな」
そして彼女の操作で、水原の前に、
「し、師匠……?」
「ウチは、ここで死ぬわけにいかん……それに、アンタらも、本当は死なせとうない。だから、チウだけでも助けるために、ここでアンタには死んでもらうで」
「え、あ……?」
「! や、やめろ、師匠! わたしのために、コウを殺さないでくれ!」
長谷川が泣き叫ぶけど、その声はすぐに喉元につき立てられたナイフに阻まれる。
「あ、あ……」
「……受けるんや、コウ。そうせんと、ウチはオレンジになってでも、アンタを斬るで」
その言葉に水原は身を震わせ、ウインドウのボタンにそろそろと手を伸ばし――――押した。
「はあああっ!」
「! わあああっ!?」
その途端弾かれたようにサクヤさんが飛び出し、水原を吹き飛ばした。
そこからは目を覆いたくなるような一方的な展開。余りにも激しいサクヤさんの攻撃に対し、水原はまともに反撃することも出来ていない。常に吹き飛ばされ、そのたび周りのギャラリーに輪の中心へと押し戻されていた。
「オイオイ。一方的すぎるだろ? 面白くねーぞー?」
何がッ……!私は、そのサンタの言葉に怒り狂った。自分達でやらせておいて、何が……!だけど、中心にいる彼女は違った。
「……そーやな。いいかげん反撃しい、コウ」
「え、だ、だって……」
水原はその言葉に首を横に振る。当たり前だ。誰が、知り合いを殺したいものか。
「……なんや、情けないヤツラやなあ、アンタら。一人は戦う気をなくしとるし、もう一人は簡単にこないな奴らにつかまっとるし……愛想尽きたわ」
そう言って、彼女は切っ先を捕まったままの長谷川に向けた。
「コウを斬ったら、次はアンタの番や、チウ。ウチは、アンタら二人見限って、このギルドに入らせてもらうで」
「! え、マジ? アンタみたいに腕の立つ女なら、ワシらも大歓迎なんだけど?」
「こっちの方が沢山『首』が取れそうやからな。だからとっとと――――
「やらせない」
――ん?」
その声に目を向けると、そこには剣をのろのろと、しかししっかりと握った水原の姿。
「チウを……殺させるもんか――――ッ!」
その言葉と共に、暴風が巻き起こった。
「うああああああっ!」
「くうっ……!」
先ほどまでとは、完全に攻守が入れ替わっていた。ソードスキルも交えた、右の刀と左の直剣に、野太刀一本しか持たないサクヤさんは身を守ることしかできない、そして、遂に彼女のHPが赤く染まった。
「うわあああああああああッ!!」
一際大きな声と共に、左腕に握った西洋剣を大きく後ろに振りかぶり、ジェットエンジンのような音を立てて突進していく。片手剣単発重攻撃ソードスキル、≪ヴォーパル・ストライク≫。確か、そう呼んでいたスキル。
その攻撃に対して彼女は、一度だけ微笑み――――――自分の愛刀を放り投げた。
「――――え?」
呆けたような水原の声と、すさまじい勢いの剣が、彼女の胸に深々と突き刺さるのは、同時だった。
……声が、出なかった。記憶の中の彼らも、その記憶を見ていた私達も。この行動でようやく、サクヤさんがどうしてこんなことをしたのかを、おぼろげに理解してしまったから。
……なんでよ。なんで、こんなコトになるのよッ?!
「……はは。うまいこと騙されよったなあ、アンタ」
「あ…………あああ……!」
「ウチが、この世界で出会えた……だいじな、だいじな、もう一人の『妹』と『弟』を…………斬れるわけ、ないやん……」
そう言って彼女は、身体に剣が突き刺さったまま、一度だけ水原を抱きしめ、その髪にキスをした。
「――――あんたの、せいやない。気にせんとき。ウチの『死』はウチだけのモンや。だから絶対に、チウのせいでも、アンタのせいでもない」
そして、彼女は視線を外し、どこか虚空を見つめた。
「ゴメンなあ、
その言葉を最期に、彼女は静かに目を閉じ、幾千もの光になった。
ぽつぽつ、と雨が降り出していた。その雨の中、彼女だった光の欠片は、宙へと舞い上がり、空に溶けていった。後には、彼女の遺体も、なにも残らなかった。残ったのは、彼女が装備していたアイテムがいくつかと、地面に突き刺さったままの彼女の愛刀≪ヒガンバナ≫だけ。
ドクンッ……
不意に、心臓の音が聞こえた。ソレと同時、頭に割れるような痛みを感じる。なに?なんなの?何でわたし――――「
そうして顔を上げた時、私は一人で、今までとは違う光景の中にいた。
森の中、遠くや近くから、何かが爆発する音が聞こえていた。
その中で私は、まだ小さくて、血を流す誰かにすがり付いていた。
――幸せになりな、お嬢ちゃん。アンタには、その資格がある。
――やだ、ガトーさん!いなくなっちゃ、やだ――――!!
……ガ、トー、さん……?
思い、出した。私の、大切だった『誰か』の名前。何で、何で私、今まで忘れていたの?
だけど、その私の思考は、再び割り込んできたSAOの光景に遮られた。
「あ………………あアァアああぁぁあ――――――ッ!!!」
まわりの群集から漏れ出す嘲笑を、一つの叫び声がかき消していく。その両目には涙を流し、声が枯れても構わないとばかりに、叫び続ける。
そんな彼の周りに、突然赤いウインドウがいくつも発生した。そして響き渡る警告音。
『ALERT! 限界域を越える、感情の発露を確認!』
『ALERT! メンタルヘルス・カウンセリングプログラムより、感情抑制の必要を要請!』
『ALERT! 感情抑制プログラム実行――失敗』
それは余りにも無機質で、無感情なウインドウ。多分システムが自動で行っているものだと、すぐに分かった。
『ALERT! 感情名≪絶望≫が限界域を超えたことにより、プログラムの解放を確認』
そして、彼の目の前に、一つのアイコンが降りてきた。
『ユニークスキル≪狂乱剣≫――――
彼は、そのアイコンを空中で握りつぶし――――――吠えた。
「お――オぉぉォおオ■■■オオオ■■■■■オオお■■おおお――――ッ!!!」
それは獣の叫び声のようにも、どこか泣きじゃくる子供の泣き声のようにも聞こえた。
SIDE OUT
≪狂乱剣≫、解・放!!
絶望編のキーは、このスキルです。警告が示しているとおり、このスキルの解放条件は、一定の限界域を超える『絶望』です。狂気にとらわれた人間に舞い降りるスキルとでも言いましょうか……そんなスキルだから、中層域でコレに目覚めたプレイヤーは、残らず命を落としてます。
そして、ここで明日菜の記憶の一部解放……さて、どうなりますかね?
≪黒ひげサンタ≫が加入を目指すギルド……この記憶の日付が12月23日なのがミソです。後8日ほどで結成されるギルドなので☆まあ、思い切りそこの幹部級の方々があちこちにいますが……
さて、来週の投稿なのですが、もしかしたら遅れるか、一週またぐかもしれません。大晦日に思い切り被ってしまっているので、その場合はどうか年明けまでお待ち下さい。