SIDE:エヴァ
――フン、ここまでの『闇』を抱えていたか……
目の前で獣のように叫ぶ水原を見て、抱いた感想はソレだった。
「■■――ア■■■■■■ォオ■■■オ■■■■■オお■■お――――ッ!!!」
もはやヒトとは思えぬ動きで、水原はラフコフの幹部三人を追い込んでいく。だが、明らかに敵も手練れ。一人で三人を追い回すのは無理がある。
(それでも、止まらぬだろうな……)
見れば、水原も決して無傷ではない。あの身体を覆うライトエフェクトは、魔法使いや気の使い手が、その身に纏う障壁とほとんど同じ性能のようで、威力の高い攻撃はその身体に突き刺さる。だが、そんなことお構いなしに目の前の騎士は暴れまわっているのだ。
「≪獣騎士≫――か。成程な」
確かに、コレは『獣』だ。抑えきれぬ激情に支配された、一匹の『怪物』だ。だからこそ、思う。
「よりにもよって、
『怪物』を殺すのは、何時だって『人間』だ。『人間』でなければいけないのだ。それを放り出し、自らそんなところに落ちるなど――――本物の愚か者だ。何より、
「オレンジカーソル…………ここに来るまでに、
「ヒュー、ヤベエヤベエ! どうしましょーか、
「……、確か、にな」
「A-han? なあに、コイツを止める方法も、逃げる算段もついてるさ…………『あの女』だ。やれ、ジョニー」
「合点承知!」
攻撃の合間を縫ってジョニーと呼ばれていた頭陀袋が走り出し、ヨルコと呼ばれていた女の襟を捕まえる。
「ヨルコ!」
カインズという男が止める暇もなく、ヨルコにジョニーの持っていた毒ナイフが突き刺さり、その身体が弛緩する。
「オー、ラよ! 止まりなあああッ!」
だらりと下がるヨルコの身体を水原の目の前に投げつけると、先刻までの狂騒がウソのように動きが止まった。
「ヒャハ、貰いいいいいいッ!」
「死、ね」
「Good nightだ、≪獣騎士≫」
その隙を逃さず、三人の凶刃が水原へと迫る。
「やらせる、かよおおおおおおッ!!」
「くっ……!」
長谷川とキリトが割り込み、なんとかザザとPoHの攻撃を防ぐ。しかし手が足りなかった。
「いっただきいいいいッ!」
ジョニーの毒ナイフが、深々と水原の胸板に突き刺さる。それによって身体に一瞬緑がかったライトエフェクトが奔る。麻痺毒の画像効果、だったか。
「まーだ、生きてやがる。ヘッドー? もう殺してもいいッスヨねー?」
ナイフを片手で弄びながらの台詞に、PoHが答えた。
「ああ、いいぞ。そいつが死ねば、また新たに≪狂乱剣≫の使い手を作ることも可能だろう。今度こそ味方につけたいしな」
「そうッスね、ヘッド! そんじゃまー、遠慮なく……」
ナイフを振り上げ、胸を貫かれた衝撃で武器を手放してしまっていた水原に、とどめを刺そうとする。そこに割り込んでくる者がいた。
「コウーーーーーーッ!!!」
長谷川が必死に走り寄る。その背中に、狙いを定める男を無視したまま。
「Wow……どうやらさよならだな、お嬢ちゃん」
「ひひ、そうみたい、ッスね!」
後方にはPoH、前方にはジョニー。それぞれの武器に光を宿らせ、狙いを長谷川一人に集中させる。躱せない、タイミング。長谷川は、おそらくは衝撃で遅く感じるだろう時間の中で、
目の前で、両腕を盾にし、二つの武器を受け止める、
その鎧は両腕を斬り裂かれながら、二人の胴体に続けて蹴りを放ち、長谷川から凶刃の相手を引き離した。
「…………コウ?」
今度こそ、足元に転がり、起き上がってこない黒一色の鎧に、長谷川が呆然とした声を出す。
「っ
「……まったくだな。だが時間をかけすぎた。今日はここで退くぞ、ジョニー、ザザ」
「……了、解」
その言葉とともに、三人は森の中へと移動し、やがて見えなくなった。
そこまでいって、ようやく同行していたアスナとかいう小娘と、今回の首謀者であるグリムロックの姿が現れた。
周囲では回復したシュミットやキリトが事態の説明をしていたが、長谷川はそんなものには構わず、ありったけの回復アイテムで水原を治そうと試みる。
「オラ、飲め! ≪ヒール≫! ≪ヒール≫!! ――――くっそぉっ! ダメだ!HPの減りがおさまらねえ!」
見れば、戦闘は終わったというのに、水原を未だに漆黒のライトエフェクトが包んでいる。……どういう、ことだ?この
「こうなりゃ……! オイ、コウ! 助けてやっから、この申し込みさっさと承諾しやがれ!!」
そういって長谷川が何かの操作をすると、水原の目の前にウインドウが現れる。その内容は――――――――――『結婚』の承諾、文?
「ちょ、ちょっと、チウちゃん?! 一体何を――」
「いいから! とっとと押せえッ!」
外野の台詞を無視し、半ばから斬られた水原の右腕で、無理やりウインドウを押させると、長谷川はその途端に自分のウインドウをさらに操作。空中にキーボードを発生させると、そのままかなりの速度で打ち始めた。
「……チウ? それは一体――」
「黙ってろ、キリトさん! 『結婚』は、SAO内でもっともセキュリティーが緩くなる状態だ! この状態でコウの状態異常にシステム側から介入して、通常状態へと戻す!」
……成程。通常の手段で治らんというのなら、確かにそれしか方法はあるまい。だが……
『ALERT! システムへの違法な介入を確認!』
『ALERT! 直ちに介入をやめてください! 介入をやめない場合、プレイヤーデータの消滅も考えられます!』
「うるせええええええええッ!!」
システム側からの警告すら無視して、長谷川は一心不乱にキーボードをたたく。その速度は緩まるどころか、徐々に、徐々に上がっていく。
『ALERT! ファイアウォール1~5番、突破を確認! 6~15番、展開!』
『ALERT! 巡回プログラム停止! セキュリティプログラム起動!――――失敗。起動プログラムへの介入を確認!』
「これは違うこれも違う違う違うこれじゃないあれでもない…………」
茅場が作り上げた伝説のVRゲームが、一人の少女によって、内側から食い破られていく。
「状態異常≪狂乱≫は、ユニークスキル由来のバッドステータス……だったら、よお…………」
『緊急用
いつしか、長谷川の周りには奇妙な光の球体が集まり始めていた。それは、蛍のように、雪のように、ほんのわずかに瞬きながら、長谷川へと集まっていく。その『七つ』の光の内、一つが長谷川の正面で静かに舞い降りた。
「同じ≪ユニークスキル≫なら!!」
『ユニークスキル≪七星剣≫――――
舞い降りたその光を握りつぶし、長谷川が叫ぶ。再び開いたその手には、宙に浮かびながら、その中に光を湛える結晶体が存在した。
「『揺光』よ、奇跡を――――≪ザ・フラクチュエーティング・ライト≫!!」
結晶が輝き、水原にまとわりついていた黒いエフェクトが消滅していく。後に残ったのは、HPを赤く染め上げてはいるものの、静かに横たわる水原がいた。
「…………おい」
「……」
「……これだけやらせといて、戻ってこないとか言いださねえだろうな」
「……………………でも」
「うるせえ、黙れ。いいか、一度しか言わねえから、よーく聞けよ」
そう言って横たわっていた水原の顔を両手ではさみ、自分の正面まで持ってくる。
「私はお前がどんなになっても、引き戻してみせる――――だからテメエは、四の五の言わずに、私のところに戻ってこい。……これから『
そこまで言って、長谷川が赤い顔を俯ける。――フン、中々の啖呵だが、その赤くなった半泣き顔をどうにかしたらどうだ?
「……えっと、チウ。それはつまり――」
「四の五の言うな、っつっただろうが。…………で、返事は」
ククク、四の五の言わせないんじゃなかったのか?返事だけ聞きたがるなんて、存外乙女じゃないか、ええ?
「あー、そうだね……」
「…………」
「……分かった。これから先、たとえ
とある世界、とある森。とある二人は、どこにでもある愛の誓いを立てた、か…………
全く、少々定番すぎやしないか?なあ、茅場。
SIDE OUT
ついに、千雨が≪七星剣≫覚醒!まあ、あれくらいの無茶でもしでかさないと、解放されないスキルです。ファイアウォールや電子精霊を、電脳戦で打ち負かすくらいじゃないと解放されません。
なんとSAO内で『結婚』していたチウとコウ。この時点で、アキラやゆーなに無理ゲー臭が……攻略対象(コウ)が、とんでもない難易度に♪
ここでお知らせです。またもや仕事で来週更新できなくなりました……本当にスイマセン!