ハーメルンよ、私は戻ってきた!(木星帰りの男風)
地球か……何もかもみな懐かしい……(某艦長風)
SIDE:アキラ
『――――キィィィシャァァァァァ!!』
部屋全体に咆哮が響く。攻略組の中でも、精鋭揃いのメンバーの前に対峙するのは、骨でできた異形。≪The Skullreaper(骸骨の狩り手)≫と呼ばれるそれは、前脚の大鎌の一撃で何人もの生命を刈り取っていく。
――これが、コウとチウが立ち向かった戦場……!
視界の真ん中を、漆黒の鎧と銀色の鎧が駆け抜けていく。その手に携えた片手剣≪デイブレイク≫と両手剣≪スターダスト≫が、ムカデのような長い胴体にいくつもの傷を刻んでいく。周りのプレイヤーも同様だ。キリトさんが、アスナさんが、スカルリーパーの攻撃を防ぐ。クラインさんが、エギルさんが、その手の武器でボスに立ち向かっていく。
……そして、ついに。
『ギィィィィィ…………!』
長い長い断末魔の末に、ようやくボスは幾千ものポリゴン片へと砕け、空気に溶けていった。
「っ、はあっ、は……」
「……こんなのが、後25層も続くってのかよ」
ボス戦を終えたメンバーは喜ぶこともなく、その場にへたり込んでいた。当たり前だと思う。それほどまでにギリギリの戦闘だったんだから。それに、みんなが皆、この先の攻略に思いを馳せているんだろう。だけどその答えは、客観的に見ていた私にだってわかる。
無理だ、こんなの。
今の戦闘だけで、10人以上の人が死んだ。
それもレベルの低い一般プレイヤーでもなく、正真正銘トッププレイヤーの中から死者が出たんだ。このまま上に上がっていけば、100層にたどり着く前に全滅する。誰が見たってわかる結末だ。
……そうなったら、生き残るのは多分。
私の視線は自然と一人のプレイヤーへと向いた。聖騎士ヒースクリフ。掛け値なしに、SAO最強の剣士。だけど……どうして私は、彼とALOで会ったことがないんだろう?
その疑問は、目の前に割り込んできた一人のプレイヤーの、唐突な行動で明らかになった。
『え!?』
目の前でいきなり走り出したのは、キリトさん。繰り出したのは、片手剣ソードスキル≪ヴォーパル・ストライク≫。そしてその一撃は……………………ヒースクリフの前に展開された【Immortal Object】――『不死存在』のウインドウに跳ね返された。
「システム的不死……?」
呆然としたアスナさんの声が響く。その一方で、全てを客観的に眺めていた私は徐々に悟り始めていた。……そうだ。コウもチウも、SAOから解放されたのは75層だったと言っていた。100層まで登りきる以外で、外に出る方法はただ一つ。
「≪他人のやってるRPGを傍から眺めるほど詰まらないことはない≫。……そうだろう、茅場晶彦」
プレイヤーの中に紛れ込んでいた、SAO事件の『真の犯人』を、その手で倒すことのみ。
キリトさんの衝撃的な推測から、ヒースクリフ……いや茅場晶彦は逃げなかった。そしてその言動が、プレイヤー全員にあまりにも非情な現実を思い知らせる。最強のプレイヤーが、一転して最悪のラスボスに。余りにも酷い展開だ。
「貴様……貴様が……。よくも…………」
絶望した血盟騎士団の一人が、
「よくも――――ッ!!」
突進するプレイヤー。だけどその行動より、茅場晶彦の行動の方が早かった。一瞬でシステムウインドウを呼び出し、何かのボタンをタップする。ただそれだけですべてのプレイヤーが地に伏した。……キリトさん以外は。
「……どうするつもりだ。このまま全員殺して隠蔽でもする気か?」
「まさか。そんなフェアじゃない真似はしないさ」
茅場晶彦は、このまま100層の紅玉宮に転移し、プレイヤーを待つという。そして、その前に、自分の正体を見破ったキリトさんに、決闘を申し込んできた。報酬は、勝利時の全プレイヤーの解放。
「キリト君、駄目よ……!」
アスナさんが、動かない身体に鞭打って、キリトさんを制止する。だけど、それでも止まらない。止められるわけがない。ここで止まればすべてのプレイヤーを裏切ることになるんだから。
クラインさんが、エギルさんが、止めようとしたけど、キリトさんはそれすら拒む。ただ前へと歩を進める。
「キリトさん……!」
「やめろよ、オイ……!」
コウとチウも地べたに横になりながら、必死に声を上げる。それでもキリトさんは止まらない。
「……コウ、チウ、ごめんな。ラフコフの討伐戦、お前らの代わりに仇を討ってやりたかったけど、PoHの奴を逃がしちまって」
「……! 今は、そんなこと……!」
「そうだ! んなことより、今すぐやめやがれ!」
地面を引っ掻くようにもがきながら、止める。だけど目の前のキリトさんは、静かに首を横に振った。
「いいんだ。オレは……皆を、何よりもアスナを現実に戻してやりたい。だから……」
そうして静かに剣を抜く。≪エリュシデータ≫と≪ダークリパルサー≫。SAO解放の英雄が最後まで手にしたとされる、無二の相棒。
「ここで、茅場を倒す」
「「……!」」
もう止められない。何を言っても止まらない。それが二人には分かってしまった。――だから。
「茅場ァッ!」
コウが怨敵の方に話しかけていた。
「何かね?」
「この決闘……『途中参加』ありにしろ!」
「――――なに?」
その言葉に、茅場晶彦の表情を、疑問が覆う。それほど今の申し出は予想外だった。
「……それに何の意味があるというのかね? 現にキリト君以外のプレイヤーは≪麻痺状態≫に陥っている。それとも私が麻痺状態をわざわざ解くとでも思うのかな?」
「いいから! 認めるのか、認めないのかぁっ!」
有無を言わさず、条件の成否のみを問う。それに対する茅場晶彦の回答は――――是、だった。
「――いいだろう。『自力』で麻痺状態を解ける者がいるのならば、この決闘への参加権を認めよう。もっともそんな者は、この場には――――」
「ここに、いる……!」
地べたでもがき続けるコウの身体を、漆黒の闇が覆い始める。HPバーに表示された『麻痺』のアイコンが、より凶悪なアイコンに塗りつぶされていく。
「ゴメン、チウ……! 『二度と使わない』って約束……破るよ」
「! ……許さ、ねえぞ。だから、とっとと倒して、
「う゛………ん……………!!」
そして、獣は再び降り立った。
「■■……■アオォオ■■■■■■オオオオオオ…………!!」
その鎧よりなお昏い漆黒の闇が身体を覆う。その手には二本の剣。片手剣≪デイブレイク≫と、≪ヒガンバナ≫という名のカタナ。HPバーの下には、SAO最悪の状態異常≪狂乱≫の文字。
「――――成程、君は≪狂乱剣≫の適合者だったのか。確かにそれならば『麻痺』など塗りつぶせるだろう。もっともそれでは敵味方も分からなくなるだろうがな」
その言葉を示すように、コウはいきなり明後日の方向へと走り出す。その目標は、キリトさん。呆気にとられていた彼も、二刀を前に出し、構える。
だけど、コウは突然空中でターンを切り、キリトさんの直前で急停止した。呆けていたキリトさんに、かすれた声が響く。
「■■キ■……キリ゛■■■トざん…………!」
「! コウ、お前!?」
見れば、コウは自分を包む漆黒の光を、徐々に徐々に押し返していた。その瞳に理性の色が浮かぶ。
「倒゛■■し……まじょ■■■■う…………そしで……皆を……■■■…外゛へ……!」
「……! ――ああ!」
SAO最後の戦いが、ここに始まった。
SIDE OUT
というわけで復帰第一弾は、ヒースクリフ戦の前置き回。終わったらALOとGGOのダイジェストだぜ!
≪狂乱剣≫の説明に少しだけ入っていた、状態異常の上書き機能。実は、このSAOのクライマックスを行うための設定だったりします。まあでも、このとき彼と戦ったのは、『四人』なんですがw
復帰はしましたが、まーだ年度初めの仕事は立て込んでいます。一週休みくらいは時たまあるかもしれません。予告はするつもりですが……