SIDE:ネギ
――なんて、力なんだ……!
視線の先、この世界最後の戦場では、五本の剣と一つの盾が舞い踊っていた。荒れ狂う暴風のように襲い掛かる、水原さんの剣。同じく荒れ狂いながらも、まるで迅雷のような的確さと速さを持って振るわれるキリトさんの剣。二人とは対照的に、静かに堅実にすべての攻撃を防御するヒースクリフの盾。
今の僕では及びもつかないような、近接戦闘の極みがそこにあった。
そんな戦闘の中にあって、僕は水原さんの暴風のような剣から目が離せなかった。
(すごく激しく、そして強い……!)
なんて強さだろう。なんて激しさだろう。これだけの強さが、もし自分にあったら。≪
――――――アノ雪ノ日ノ悲劇モ、防ゲタンジャナイカ?
そこまで考えて、思考を停止する。……違う。違う違う!
僕が強くなりたいのは、皆を守りたいから。困っている人を助けたいから!そうだ、あの日見た――――父さんのように。
だから、憧れない。憧れるはずがない!皆を守る力とは対極にある、こんなすべてを壊してしまうような『力』に!
僕モソウナリタイ、ダナンテ思ウハズガナイ!
「くっそおおおおおおおっ!」
「■■■■■■……固゛…い゛…………」
水原さんとキリトさんの上げた声に、うつむいていた顔を向ける。そこには相変わらず泰然自若としたヒースクリフと、疲労困憊といった様子の二人がいた。
「なんつう固さだよ、全く……」
「グ………■■■……■■■■■……」
そうこうするうちに、水原さんの身体を覆う漆黒の影が勢いを増し始める。まるでその身体も精神も、喰い尽くすみたいに。
「……そろそろ限界かね、コウ君? そのユニークスキル≪狂乱剣≫は、作ったはいいが私の言うことも一切聞かないじゃじゃ馬でね。
そう話した後、切っ先を水原さんに向ける。
「一時的に≪狂乱≫を跳ね除け、理性を僅かばかり取り戻したのは大したものだが……やはりそのスキルはプレイヤーの手に余るものだ。君をここで倒した後、代替のユニークスキルを用意し、そのスキルは厳重に封印させてもらおう」
そう言って、悠然と二人に向かって歩く。その歩みには驕りも焦りも一切ない。まるで神の宣告のようだった。
「ふっ…………ざけんなあっ!!」
その場に、一つの叫びが上がる。それは未だに麻痺に囚われ、地べたに這いつくばったままの長谷川さん。
「……残念だが、チウ君、私はふざけているつもりはない。彼はここで倒れ、スキルは封印する。これはもはや決定事項だ」
「コウを倒す、って……殺すって意味だろうが! やらせねえ、絶対やらせねえぞ!!」
そう叫び、彼女は地面をかきむしる。這ってでも前へ進もうとするように。
「……チウ君、≪狂乱剣≫の使い手でもなければ、≪二刀流≫の使い手でもない君は、この
「チウちゃん一人じゃない! 私だって一緒よ!」
その声に反対側を見ると、そこではアスナさんが長谷川さんと同じように、何とか力の入らない身体を起こそうとしていた。
「無駄だよ、アスナ君。麻痺から回復する手段は存在しない。君らはこの戦いを見ていることしか出来ん」
「くっ……!」
「……っ、へへへ……そう、でもないぜ?」
そう話す長谷川さんの手元が輝き、光を湛える結晶体が現れる。あれは、あの、日の?
「――それは、何だね、チウ君」
「アスナさん! 力一杯思うんだ!! 『麻痺なんか関係ない、自分は動ける』って!!」
「! うん!!」
そうして二人ともがもがきながら、必死に身体を進ませようとする。そこに光が舞い降りる。腕に、足に、光が宿っていく。
「なんだ、これは…………」
「「う――――ああああああああああっ!!」」
最初に手が動き、腕が動き、肩が動き、ついに身体がゆっくりと動き出す。どんどんと強くなった光に思わず目を覆い再び開くと、そこには立ち上がった二人の姿があった。
「馬鹿な……GM権限による麻痺からの回復手段は、このゲームには……」
「ああ、確かに無いさ。だけど、こう思えばどうだ? 『無いなら、思い描き、現実に作ればいい』って」
「!! まさか、君は!」
「ああ。コウを助けるためにシステムに介入して、知ったよ…………『シンイ』の力をな!!」
……『シンイ』?
「システムへの介入……私が作り上げたものではない、武器種……そうか、君もユニークスキル保持者か」
「ユニークスキル≪七星剣≫……その七つの形態の一つ、≪ザ・フラクチュエーティング・ライト≫。能力は『シンイ』の増幅によって空想を具現化する、
その言葉を聞き、僕は驚愕を隠せなかった。今長谷川さんの手にある結晶体は、魔法使いの常識を覆しかねないもの。それほどの希少性を持つ能力だ。
「――ただの器用貧乏でしかない、と思っていた≪七星剣≫が、随分と化けたものだ。だが、肝心の二人が疲弊している今、君らにどれほどのことができるのかね?」
「そうだな、とりあえず……周りを見てみな」
「何? ――――これは!」
周りを見ると、そこには身体からさっきの二人と同じ光を纏わせた人達の姿が見えた。身体をずりずりと動かし、視線だけはヒースクリフをにらんでいる。
「さっきの効果を、ここにいる全員に適用した! これだけの人数なら、大逆転だって可能だ!」
そうか!ここにいる皆でかかれば確かに倒せるかもしれない!だけど、その希望に対して、ヒースクリフの対応は冷ややかだった。
「……成程。どうやら、君を真っ先にこの手で倒さなければならないらしい」
そう冷徹に断定し、ヒースクリフが長谷川さんに狙いを定める。その眼前にアスナさんが割り込んだ。
「団長――いえ、茅場晶彦! チウちゃんには、指一本触れさせません!」
「退き給え、アスナ君」
「退くもんですか! ハアアアアアッ!!」
その手に持った
「残念だが、アスナ君、君はチウ君とともにここでゲームオーバーだ。二人で仲良く――」
「させるかあああッ!!」
そこに介入したのは、キリトさん。まるで黒い太陽のプロミネンスのような連続攻撃が襲い掛かる。≪ジ・イクリプス≫。ユニークスキル≪二刀流≫の最大奥義が発動した瞬間だった。
だが、その凄まじい攻撃も、ヒースクリフはまるで予定調和のように、淡々と捌いていく。その瞳には、あの猛攻のすさまじさも、これから起こるであろう『結果』についても何の感情もはさんでいないように見えた。このままじゃ……!
「コウーーーーーッ!!」
そんな中響き渡ったのは、長谷川さんの声。相手は、今も身体を蝕む狂乱に苦しむ水原さん。
「てめえ、何やってやがる! 何時までんなトコで寝てやがんだ!」
「…■■……ガ………?」
僅かながら反応がある。水原さんも戦っているのか?
「『守る』と誓ったんなら………………何だろうと、跳ね除けて守りきりやがれえええええッ!!」
「!!! ガアアアアアアアアッ!!」
その瞬間起こったことが、僕には理解出来なかった。あれほど彼を苦しめていた漆黒の闇は一瞬で消え去り、次の瞬間には両手の武器を横薙ぎにヒースクリフにぶつける水原さんの姿があったから。
「!! ≪狂乱≫を跳ね除けただと――!」
「はあ、はあ、はあ……」
ふらつきながらも、しっかりと立ち上がった水原さんの手には、さっきまで身体を覆い尽くしていた漆黒の光が刀身全体を覆っている二本の剣があった。まるで夜の星空のような深い闇を湛えている。
「……そうか。精神を蝕む≪狂乱≫を、剣に押し込めたのか。こんな方法は開発者たる私でも思いつかなかったが……」
「御託はいい……それより……」
水原さんがゆっくりと両手の剣を構える。その後ろでは、アスナさんとキリトさんが同じく構えた。
「決着……つけようか……」
「――いいだろう」
動き出したのは、水原さんが早かった。一瞬でヒースクリフの側面に周り、二連続で攻撃を叩き込む。その攻撃は難なくヒースクリフに防がれた。
「理性を取り戻しても、この程度かね? それでは勝てんよ」
「勝つ必要、ないからねぇっ!」
「何?!」
水原さんの攻撃を防ぐために前面に押し出していた盾を、水原さんが抱え込んで固定する。両手の剣先は地面にがっちりと噛み付き、容易には抜けないだろう。
「セアアアアアッ!」
そこに滑り込んだのはアスナさん。
「おおおおおおおッ!!!」
その後ろから駆けてくるのはキリトさん。その技の動きは、単発重攻撃ソードスキル≪ヴォーパル・ストライク≫。渾身の力を込めたそれは、がら空きのヒースクリフの胸を貫き、凄まじい轟音を周囲にまき散らした。
「………………見事だ」
細かな破片となってヒースクリフだった身体が砕け、風に舞う中、記憶の中の皆も、それを外から見ている僕らも、半ば放心して眺めていた。無機質に、世界に響く一つのメッセージとともに。
――ゲームはクリアされました。ゲームはクリアされました…………
SIDE OUT
ようやく出せました、題名通りの『闇の剣』!コウが狂乱剣を跳ね除けたとき、その剣は『夜闇の剣』へと変化する!長かったなあ……
当初この剣はただの通称で、名前も他の呼び名を適当につけていたのですが、Web版読んだことのない作者には致命的なことに、アリシの最新刊で、全く同じ名前が登場……急きょ『夜闇の剣』としました……もうちょっと捻れば良かった……
ネギも着実に『あの道』へと近づきつつあります。こう書くとアンチと見られるかもですが、ネギの本質については、クルトの意見も結構もっともだと思ってます。
ちなみに、実は今回一番ヤバイのはチウの方。彼女の能力は、これから先狙われる可能性を高めるものです。まあそれでも、ネギにSAOでの皆の生き様を見せるために明かしました。これがどう繋がっていくか……
次回はエピローグを少しやって、いよいよ『次』へ!