SIDE:アキラ
『――ゲームクリアのアナウンスの後、私たちは、アインクラッドの崩壊を俯瞰で見ることになった』
アナウンスの後、コウとチウ、それにキリトさんやアスナさんは、雲の上に佇み、崩れていく黒鉄の城を眺めていた。
「――なかなかの風景だろう?」
そこに現れたのは、茅場晶彦。テレビのニュースで指名手配されていた白衣姿そのままだった。……そっか。コウやチウは、私たちがどう反応するか分からないから、ヒースクリフの正体は語らずにコーチ役を任せたんだ。この人が何をしたか、ニュースでも連日やっていたから、私達でも知っているし。
「……なあ、茅場。なんで――こんなことをしたんだ?」
だから、キリトさんのその言葉は、私達全員の疑問だった。天才として名声を欲しいままにしていたこの人が、どうしてこんなことをしたんだろう?
「なぜ――か。言っても理解はされんだろうな。私はね、キリト君、フルダイブ環境を作り上げるずっと前から、それこそ天才などという空虚な名声を手に入れるよりも以前、子供のころからあの城を作り上げることだけを欲していたのだよ」
「なんで――――?」
その言葉に茅場は崩れ落ちる城へと目を移し、ほんのわずかに感情を込めた。……なんだろう。どこか悲し気なような……?
「……昔、本当に昔、私は英雄に憧れ、物語を好む普通の少年だった。いつか自身の知る英雄に追いつきたい、隣に立ちたいと思ってはいたものの、それ以外は語るところもない、本当に普通の少年だったんだよ」
「…………」
「そんな折、ある機会に一人の少女と私は知り合った。その少女の事情は語れないが、『籠の鳥』という表現が適切なのだろうな。とにかくその少女と知り合い、私は彼女に様々な物語を語った……」
彼の目に宿るのは、本当に懐かしいような色。そして、ほんのわずかに哀しい色。
「彼女は育った環境のせいか、感情が表面に現れにくかったが、そうして語ったいくつもの物語の中で、私が幼少の頃夢想した、あの黒鉄の城に興味を持ってくれた。魔法はなく、ただ剣でのぶつかり合い。そんな世界があるのなら、あるいは――」
自分も、自由に生きられただろうか――――――と。
「私は、そんな彼女をどうしても放っておけなくてね。物語に出てくるような騎士の誓いを真似て、二つの誓いを立てたのだよ」
自分が、何時か必ず彼女が自由に生きられるようにしてみせる。そして、その時はあの夢想の城へと一緒に行こう――――。
「その時、能面のようだった彼女は、ほんのわずかに口元を引っ張って笑みを見せてくれた……『私の騎士だったら、ちゃんと騎士らしくしなくちゃダメ』とダメ出しもされてしまったがね」
「……その娘は、こんなことは望んでいなかったんじゃないか?」
子供の頃の約束。それだけのために4000人近い人が死ぬ。普通の娘だったら、そんなこと望むわけはない。
「もちろん望んではいないだろうさ……今回の事件は完全な私の独りよがりだよ。破壊的で破滅的な自己満足。彼女のためにではなく、自分の望みを叶えるために行った結果が、これさ」
茅場の語りが続く中、崩壊はいよいよ最後になろうとしていた。たくさんの人が泣き、笑い、そして生きた世界は、空中で少しずつ、少しずつその姿をなくしていく。
「この光景も『二度目』だが――私はね、キリト君。今でも信じているのだよ。どこか違う世界には、あの黒鉄の城は本当に存在していて、その世界にいつか人はたどり着ける。そして、その世界なら……」
彼女も、と茅場は言い、そのまま背を向けた。それから一度も振り向くことなく、4000人近い人を死に追いやった、茅場晶彦は去って行った。
『――これが、多くの死者を出したSAO事件、その真相だ。そして、私達がこれを語った理由はな、ネギ先生、あんたにある』
「え――?」
ネギ先生から戸惑いの声が上がる。でも、分かるよ。彼が、とんでもなく『危うい』ってことも。
『アンタは、力を一人で求めようとするところがある。それこそかつてのコウと同じようにな。今回過去の記憶を周りに明かしたのだって、危険に巻き込んでしまうから、ここにいる全員と距離を置こうとしたからだろう?』
「う……」
『そんで自分は危険の真っただ中に一人で突っ込む……完全にコウと同じだな』
『あまり人のことは言えないけど……それでも言わせてもらうよ、ネギ君』
コウの、あの姿。漆黒に包まれた姿が、頭の中でネギ先生に重なる。それが、私たち全員が抱いている危惧だ。
『その心を変えないと――――いつか君は、オレと同じ『闇』に堕ちるぞ』
闇に堕ちれば、戻っては来られない。何とか戻ってきたコウだって、未だに苦しみ続けている。だから私達は、ネギ先生が心配だ。
その言葉にネギ先生は重い沈黙を背負った。すぐには認められないかもしれない。だけど、忘れないでほしい。そんなキミを、心配してくれる人たちがいることを。
『……まあ、これからどうするかは、ここからの記憶も見て決めてくれ。これから出てくる奴らは、力を求めすぎて、狂気へと堕ちていった奴らだからな』
その言葉とともに、世界は巡る。その風景は、私にとってもう一つの故郷とも思える、妖精の世界。アルヴヘイムの世界だった。
『SAO事件の終了後、私たちは現実へと戻ってきた。だけど何故か一部の人たちは、未だに昏睡中で、一時は茅場の残した呪いか、なんて話も上がったよ』
遠くから音が聞こえてくる。それは、今では慣れ親しんでしまった翅の羽音。
『だけどそんな時に、私達はこの世界にかつての仲間、アスナさんの痕跡を確認した。そこで私達は――』
『…………、――――――! ちょっと待ってチウ!』
チウの言葉をコウが遮った。一体どうしたんだろう?
『あ? なんだよ、コウ』
『いや、お願いだから、この場面飛ばしてくれないかな?! 具体的には、世界樹突入時点まで!』
『それほとんど終わりの方じゃねえか……いいじゃねえか。この時私はキリトさんと合流してたから、気になってたんだよ』
コウの慌てぶりは相当なものだ。そういえば、この場面は、一体何時のものなんだろう?正直自分の記憶とは合致しないような――。
そこまで考えたところで、遠くから変な音が聞こえてきた。
「――――……ぁぁぁ」
?遠くてわかりづらいけど、これは、叫び声?
「わぁぁぁぁあああああ! 誰か止めてぇぇぇぇぇ!!」
その叫びを聞き取ってようやく理解した。声の主はコウだ。それもキャリブレーションをやり直した長身の姿。どうやらALO最大の特徴である飛行を試そうとして、止められなくなったようで――――
そこで、気づいた。
これは……マズイ。これは、コウの記憶。場面はログイン直後。つまりはあのシーンだ!
コウが向かう先に視線を移すと、そこには記憶の中の私が
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「え? きゃああああああ!」
横合いから突っ込んできたコウに、記憶の中の私は衝突し、そのままもつれ合ったままゴロゴロと地面を転がり。
私の胸に顔を埋め、両手で揉みしだくコウの図が完成した。
『………………』
『………………』
チウとキッドの沈黙が、私とコウにはとても痛かった。
SIDE OUT
独自設定の嵐、嵐ッ!
表情乏しくて、籠の鳥な幼女……一体ダレナンダー(棒読み)。このために、茅場をタカミチの元同僚に設定した!そして、二代目紅き翼はタカミチ、ヒースクリフ(茅場)、クルトととんでもないメンバー……何だこのチート具合w
ところで来週ですが、GWだというのに、仕事が入る可能性が……もしかしたら日曜の投稿は一週休むかもしれません。