SIDE:のどか
――絵本の中では、こういうのは、あんまり――
この間の地底図書館でもそうだったけど、こんなにおっきな生き物がいたんですねー。あ、でもゲームでした。三百メートル超えのワニさんは、吼えながらまるで魚雷のように突っ込んで……あ、避けた二人の後ろにいたモンスターの皆さんが食べられた。三メートル超えの半魚人さんが踊り食い……。
「「無理無理無理無理ーーーーーッ!!」」
……ですよねー。記憶の中のアキラさんも水原さんも、ものすごい勢いで逃げ惑ってる。
「こんなの無理だろ! 何考えてんだ、運営!! ゲームバランス崩壊してるだろ!?」
「さ、さすがにここまで大きい海獣は初めて見たよ。百メートルまでなら『倒した』ことあるけどね」
……………………は?
「…………あのー、レーカさん。聞き間違いでなければ、今、百メートル級の海獣を倒されたとかおっしゃいました?」
「うん。ウンディーネの執行部が主導となって、当時の軍部の精鋭と有志のプレイヤーを集めて、領地の≪三日月湾≫近海を徹底的に調査、危険ボスの排除を行ったんだ。ウチは結構な人数、水泳や水中戦闘好きが多いからね。せめて近海くらいは、初心者も安全に遊べるようにしたんだよ」
わー、初心者思いの領主さんですねー。
「……それで倒した、と?」
「うん。あの時はヒドかったなあ。近海にいたのは、百メートル級の白鯨でね……
「……つまりあの大海獣はその三倍の戦力が必要だと?」
「単純計算ではね」
「「あはははは……」」
笑うしかないって、こういう状況かな?
「無理! こうなったら、何とかスキを見て逃げる! そんで、さっさとアルンへダッシュ! これしかない!!」
「……あー、それも難しいかも」
「ん?」
視線を向けると、あのおっきなワニさんが振るったしっぽが、来た道と先の道、その両方の穴を砕いてしまいました。本当に何気ない一撃で……。
「マジか……」
「こうなると、撤退は不可能だね……。ねえコウ、アルンに行くのって大事な用事なんだよね?」
アキラさん、こんな時に何を……?
「……ああ。大事な仲間が向こうで待ってる……どうしても行かなきゃいけないんだ」
「そっか……」
それだけ聞くと、アキラさんはその手の杖を握り締め、ワニさんに向き合いました。そこにあったのは決意を秘めた顔。
「――私がアイツを引き付ける。コウはその間に水から上がって、洞窟の明り取りの穴から出て。天井までかなりの高さだけど、≪
「な! ちょっと待て! オレはそれで逃げられても、レーカはどうなるんだよ!」
「私は、大丈夫。この遠征で結構な金額と熟練度も溜まってるし、
その言葉に、水原さんが俯きます。これは……怒ってる?
「……だめだ」
「え?」
出てきた言葉は拒絶。そして、水原さんはここまでの道中で使っていた片手剣の他に、もう一本刀を腰に吊るしました。
「オレのために、レーカが死ぬのは絶対にいやだ」
「で、でも無理だよ。あんなのに襲われたんじゃ、二人のうち一人助かればむしろ運が良いほうで……」
「それでもッ!」
そして水原さんは、両方の武器を手にします。片手剣とカタナ、SAO時代最高のスタイルへ。
「オレのために……もう仲間は死なせないッ!!」
弾丸は、放たれました。最大速度で猛然と迫る水原さんは、その勢いのままワニさんの胴体を斬り裂きながら、すり抜けました。赤いダメージエフェクトとともに、ワニさんが水原さんに標的を変えます。
「何を?!」
「前衛は受け持つ! コイツを倒して正面から押し通るぞ!!」
「――! もう!!」
その言葉を聞いて、アキラさんも呪文詠唱を始めました。明らかにさっきまでより長く、威力の高いだろう呪文。そして、その間も攻撃は続いています。
「おおおおおぉぉぉおああああああああぁぁあっ!」
水原さんは真正面から攻撃し、ただひたすらに相手の意識を自分に向けることに専念していました。ワニさんはしばらくそれを煩そうに攻撃していましたが、不意に向きを変えます。向いたのは、アキラさんの方。
「ッ! どうなってんだコイツのAI! 魔法完成寸前の相手も、攻撃するように仕組まれてんのか?!」
そんな悪態はお構いなしに、ワニさんは弾丸のようにアキラさんに突っ込みました。たまらずアキラさんもそれを避けましたが、その間もずっと詠唱は続いています。そしてついに完成しようとしたとき――――衝撃がアキラさんを襲いました。
「きゃああああああッ!?」
「レーカ!」
アキラさんを襲ったのは、しっぽ。その尾びれがアキラさんを襲い、その手に持っていた杖をバラバラに砕いてしまいました。衝撃で動けないアキラさんに向かって、ワニさんは大きく口を開け、そのまま飲み込もうとしています。そこに駆けつける人がいました。
「オレの仲間に手を出すなあああああっ!」
叫んだのは水原さん。彼は壁を足場にし、一気にアキラさんの元へ駆け寄り、そのまま飲み込まれていきました。
◇ ◇ ◇
……それから、どのくらいの時間が経ったのでしょう。結論から言うと、二人は生きていました。ただ、無事かというと………………そうでもないような。
「……! いやあっ! コウッ、こっち見ちゃ駄目!!」
「えっと…それじゃ助けられないからね……?」
「見ないで助けてーーーーっ!!」
だって目の前で、アキラさんが触手とかイソギンチャクとかに襲われてますし。
『ネ、ネギ、アンタには早い!』
『え、何でですか、アスナさん?』
アスナさんがネギせんせーの目を塞いでるみたいです。た、確かにこれは背徳的というか、見せちゃいけないものの気がしますー。はわわわわ……
「あれから大分歩いたけど……全然出口に着かないな?」
「そうだね、でも驚いたよ。まさかあの海獣のお腹の中がハイレベルダンジョンになってたなんて。『食べられること』が条件だったのかな?」
「んー、それと『無傷』で、も条件に入るだろうね。実際ここの入り口にたどり着くまでで、僕らは舌の攻撃だの、牙のストンピングだの、胃液の津波だのに襲われたしね」
「途中でだめなら、消化されてたってこと……?」
あまり楽しくない想像を脇にやり、二人は海獣の体内を歩いていきます。周りは極めて気持ち悪い桃色の壁で覆われていました。これ、あの海獣の体内なんですよね?少し気味が悪いです……。
「――ん。何かあるな」
水原さんが、道の先に何かを見つけました。そこには、見たこともないほど幻想的な光景が広がっていました。そこは、透明な水晶で出来た神殿。その意匠は古代ギリシアを思わせ、階段も柱も天井もすべてが水晶。……すごい。
「…………うそ。あの、あの
そんな中アキラさんが釘付けになったのは、神殿の中心。台座に突き立つ一本の『槍』でした。
「――――≪神槍ネプチューン≫。水魔法と回復魔法の効果を最大まで高める、ウンディーネ最強の
アキラさんはふらふらとその槍に手を伸ばし、一気に引き抜きました。
「……すごい。前の杖以上に手になじむ。もらっていいのかな?」
「……いいんじゃないか? レーカは杖を無くしたところだったし、よく似合ってるぞ」
「えへへ、そうかな? ――よし! これならすぐにでも出られるよ! コウ、詠唱終わるまで護衛頼むね!」
そう言って彼女は、複雑な詠唱を始めました。以前の詠唱と比べてもはるかに長い。しかも変化はそれだけではありません。
「水が……集まっていく?」
周囲の水が、彼女の手元に発生させた水球にまるで吸い込まれるように集まっていきます。しかもその球は加速度的に大きさを増していきます。
『あれはね、周囲の水と魔力を全部集めて……私の魔力を使って増幅・圧縮。私が使える、最高の『対軍』殲滅魔法だよ』
『…………ちょっと待て、大河内アキラ。キサマ、今何を殲滅すると言った?』
エヴァンジェリンさんのツッコミは、私も同感。今、『対軍』って聞こえたような……。
「いくよ――――――」
記憶の中のアキラさんは、自分の目の前に作り上げた水球に向かって、
「≪ノアズ・アーク≫!!」
叫ばれたその名とともに、圧倒的な体積の水が水球の中から放出され、奔流となり、洪水となり、ついには大津波となりました。その水はたちまち周囲を埋め尽くし、それでも止まらず――――最期には、海獣の胃をパンクさせました。
それがアキラさんが槍を持つまでの全て。≪THE Ketos of Poseidon≫――≪ポセイドンの大海獣≫との戦いでした。
SIDE OUT
はい、というわけでアキラさんが相棒に出会いました。彼女はドハデな魔法バトル担当なので、作者も期待してます。剣の勝負も好きだけど、魔法合戦も好きなので……♪
アキラ最大の魔法、≪ノアズ・アーク≫……まあ、原理は某管理局の方と全く同じで、水に特化しただけという……ちなみに実は京都の第一撃もこれw