SIDE:裕奈
――成程ねー、これが『ALO事件』なのか……
俯瞰で見渡す私の目の前には、身体を与えられず脳髄だけを引き抜かれたプレイヤーがいる。それも何十という数がだ。
あの後、遅れてやってきたシルフとケットシーも加えた戦線は、一気に優勢に傾き、コウとチウ、それにキリトとユイちゃんを含めた四者の突破を成功させた。で、今は二手に分かれてアスナや他のプレイヤーを探していたところだったのだけれど、見つけたのはこれだった。
『
冷静でいられるのは、エヴァちゃんくらい。他の皆は顔を青くするどころか、白くさえしている。本屋はすでに泣いてるし。流石は600年生きた吸血鬼。酸いも甘いも噛み分けて、ってやつかな?
『? 今誰か、私を『大年増』と考えた気がするな。現実に戻ったら、下手人は永久氷壁にでも閉じ込めてやろう★』
…………いや、マジでスイマセン。謝りますから、それだけは許してくれませんか。
「この部屋にはコイツラだけだな……」
記憶の中のチウの足元で、ぐちゃぐちゃの肉片になっているのは、この狂った研究をしていた研究員。何故かナメクジの姿で出てきて、しかも自分の感覚を切っていなかったので、切り替える前に二人がかりで斬り刻んだ。
「急ごう、チウ。もしかしたらキリトさんと、さっきナメクジが言っていた責任者って奴が遭遇してるかもしれない」
「そうだな……不意討ちならともかく、いきなりGM権限とか使われると、対処できないしな」
そうして、二人でその部屋を飛び出す。GM用のコンソールも見つけたが、それに対応するアクセスコードはユイちゃんしか持っていない。合流は必須だった。
「――――いた! ユイ!」
彼女を見つけたのは、巨大な鳥かごのすぐ近く。だが、その鳥かごがおかしい。真っ黒な空間に覆われ、さらにどこにもキリトの姿がない。
「どうなってんだ、こりゃあ!?」
「あ、チウちゃん! パパがママを見つけたんですが、いきなり目の前の暗闇に座標も空間も固定されて、脱出不可能になったんです!」
「まさか、二人はこの中なのか!?」
事態を把握したコウが手持ちの武器を黒い空間に振り下ろす。だけど剣は中空でとまり、びくともしなかった。
「くそ、ダメだ! 攻撃が徹らない!」
「干渉不可の空間を展開してるのか……GM権限で展開されたものだろうな、やっぱり」
「パパ……」
その場にいる全員が、祈るような思いで空間を見つめていた。そして、十数分後、ピシリ、とわずかなヒビが入った。そして、その中から、ひしと抱き合う黒服と白のドレスの男女が……
「「「…………」」」
……まあ、状況的に考えて、GMを何らかの手段で撃退し、再会の喜びを分かち合っているのだろう。それくらいのこと、この場にいる三人は理解できる。理解できるのだが…………それでも待たされたあとなわけで。
「……おい、そこのバカップル。そういうことは、現実に戻ってからにしてくれねえか?」
「心配させといて……」
「はわわわわ……ママもパパも大胆です……」
「「!?」」
こちらに気づいた二人の顔が赤く染まるが、まあ無事なようだし、安心したという気持ちが本当のところだ。
『これが『ALO事件』の顛末――――現実に戻ったあと、この違法実験を主導していた主任研究者である須郷という男は逮捕された。しかし今では脱獄して、ラフコフと合流している。充分注意しろよ、ネギ先生』
『え? どうしてですか?』
『研究者ってのは、敵に回すととんでもなく厄介なんだよ。ましてコイツは人間の脳味噌取り出して、感情のモニタリングと操作なんてことをやろうとした真正だ。アレに捕まったら、最悪無理やり延命されながら、ありとあらゆる非人道的実験のモルモットだぜ?』
『!』
『ラフコフに捕まるってことはそういうこと……だから絶対に捕まらないようにな』
その言葉に私も覚悟を決める。これからも、コウやチウと一緒にいるってことは……最悪そういう可能性もあるってこと。だけど、私は、退くつもりはないよ?
『とにかく、『ALO事件』が終結してからしばらくは平和だったんだ。私もコウもリハビリを終えて、麻帆良の中学に上がるために特別クラスに編入した……もっともクラスメートはコウ一人だったけどな』
二年も寝てたんなら当たり前だよね~。
『だがな……そんな生活をしていた私たちに、最大にして最高の問題が降りかかってきた……』
『どんな魔法でも解決できない問題がね……』
『ど、どんな問題なんですか……』
あー、ネギ君?真面目に反応してるとこ悪いんだけど――
『『つまり――――――――お金がないッ、と!!』』
ものすごく、しょうもない理由だよ?
『『『『…………は?』』』』
『だってそうだろ!? 私らは現実ではまだ小学生だぞ! どこにバイトの働き口があるっていうんだよ?!』
『親は、特別クラスに通うために入った、寮での生活費くらいは出してくれるけど……絶対出してくれないものもあってね』
『ナーヴギアの後継機、≪アミュスフィア≫の購入に、毎月のネット接続料に、月額課金に……あ、後、当時最新鋭のスペックの
……チウ、最後のが一番の原因だよ。
『そーいうわけで、早急に金を稼ぐ必要が出てな、VRゲームの中で唯一金を稼ぐことの出来る、≪
『え、お金が稼げるゲームって、そんなのあるの?』
食いついてきたのはアスナ。確か、新聞配達してるって聞いたっけ。それは気になるだろうな。
『GGOは、ゲーム内の通貨を現実の電子マネーに変えることが出来てな。ゲーム内でレア物のアイテムを取って売っ払えば、一攫千金だ。中には十万を超える高値で取引される銃もある』
『じゅ……たった一つで……って、『銃』? 銃のゲームなの?』
『ガンゲイルって言っただろうが……』
アスナ……まさか、『
『GGOは銃を駆使して戦うゲーム……当然今までの剣を使うゲームとは違うスタイルを要求される。ただ、まあ問題ねえ』
そして、段々と見えてきた光景は――
『銃弾も相手も、
光の長大な刀身で、大男を真っ二つにする『幼女』の姿だった。
「くそおッ、ジミィがやられた!」
「出やがったな、ガキ!」
廃墟の中、騒然となった場のプレイヤー達が一斉に銃を向ける。そうなってなお、その中心の小学校低学年くらいの女の子は微動だにしない。むしろ油断なく身構えている。
『……いや、誰よ、あのちびっこ』
アスナの台詞に、私は思わず苦笑いが出た。まあGGOでのチウの姿は、そういわれても仕方ない。小学校低学年くらいの幼い容姿、背中に背負った変形ランドセルみたいなカバン、そのカバンからリコーダーみたいに突き出た大出力
『容姿はランダムでな……まあ、ちょっと趣味に走ってみたが』
『≪
『……やかまし。大体コウよりましだろうが』
そうこうするうちに、チウに向かって四方八方から銃が撃たれる。それに対しチウはゆらりと身体を揺らし、剣の柄を掴んだ。
「……ふっ!」
――一瞬。その一瞬で飛来した銃弾を斬り裂いて、その先のプレイヤーを通り過ぎた。次の瞬間には、そのプレイヤーに斜めの線が入る。
「ぐああっ!」
線を中心にダメージエフェクトをまき散らし、プレイヤーはポリゴンへと帰っていく。たちまち他のプレイヤーは陣形を変えようと動く。だけどそれを許さないものもいた。
「……え?」
呆けたような仲間の声に振り向いたプレイヤーは、絶句した。窓際にいたプレイヤーの腹に棒のようなものが突き出ている。いや、それは、『アイスホッケーのスティック』だった。
「ヴォオオオオオ!」
地鳴りのような唸りが鳴り響き、続いて何らかのエンジン音も響き渡る。とにかく、仲間を助けようとしたプレイヤーは走り寄ったが、この場ではどうしようもない悪手だった。
「オラアッ!」
そのプレイヤーはおろか、自分までチェーンソーで引き裂かれるという結果を招いたのだから。
『きゃあああああ!』
出てきたコウの姿に、初めて見たみんなの悲鳴が上がる。あー、気持ちはわかるよ、ウン。
右手に持ったアイスホッケーのスティック、それは黒光りし、オマケにどういうエフェクトなのか、血が滴っている。左手に持ったチェーンソー、これも絶賛稼働中。おまけにその顔。顔にはいわゆる一つのホッケーマスク……うん、まあ、つまり。
どっかの特定日付、特定曜日でしか活動しない殺人鬼が目の前にいるんだから。
『さっすが、≪
『このすぐ後に、あんな真似しでかした人間に言われたくない』
別に大したことしてないよ?
「……? チウ、何か妙な音が聞こえないか?」
「ん? そうだな、なにか飛んでくるような音が――――」
次の瞬間、部屋の中の音が死んだ。窓から数発の
「ニヒ、不意討ち上等じゃないとね~☆」
それを見上げるのは、この世界の私。現実と同じくらいの長さの髪を、首の後ろで一まとめにし、焦げ茶色のタンクトップにショートパンツを身に纏った私。左肩にトライバルパターンの
「こ~の、≪
記憶の中の私は、不敵に笑った。
SIDE OUT
みんなお待たせ!『ちびちう』のご登場だああああああッ!!ここを逃したら学園祭までないから、思い切って出してみたぜ!そして、ジェイ○ンなコウ……
そして、ようやGGOに入ったというのに、来週所用で休みます……皆さんご了承ください……