SIDE:アキラ
――そっか、ゆーなはこんな風に事件に巻き込まれたのか。
私の視線の先には、記憶の中のゆーなのアバターであるキッドと、それを抱えながら河を流されるコウの姿があった。流れに沿って流されることしばらく、ようやく河の流れが緩やかになったところでコウがキッドを抱えたまま岸へと上がる。
「……ふう。とりあえず、どこかで態勢を整えないとな。キッドもそれでいいか?」
「…………」
その問いに、キッドからの返事は無い。既に電磁スタン弾の効果も切れているはずなのに、俯けた顔を決して上げようとしない。
その様子に、ふう、と息を吐いたコウが辺りを見回し、近くに洞窟を見つけると、そこに入って、インベントリからランタンを出した。その作業の間もキッドからの会話は無かった。
「……なあ、いい加減顔を上げてくれないか? こっちも会話無しっていうのは――――」
そう話したところで、キッドが顔を上げた。そこにあったのは決然とした表情。
「――何で、邪魔したの?」
問われたコウの方は困惑。それはそうだろう。あの状況では、キッドは≪死銃≫に撃たれていたかも知れなかった。それなのに、そんなことを言われるとは思わなかっただろうから。
「……邪魔?」
「そうだよ! あそこで邪魔しなきゃ、私はあの強者ともっともっと戦えたんだ! 私の持つデザートイーグルが、私の銃が最強だって証明できたんだ! なのに、何で……!」
「そんなわけないだろう! 死ぬかもしれなかったんだぞ!」
コウの剣幕に、思わずキッドの言葉が止まる。あたりに沈黙が漂った。
「……アイツがなんなのか、全部話す。なんでオレが邪魔したのかも、すべてな」
もっとも信じてくれるかどうかは分からないけどな、と付け足した。そうして語られたコウの話に、最初訝しげな表情をしていたキッドも次第に、顔を青くしていった。文字通り、さっきのが生命の危機だったからだ。
「……今の話、証拠はあるの?」
「…証拠になるかどうかは、微妙だけど、少なくとも≪ゼクシード≫と≪薄塩たらこ≫は死体で見つかった。それにアイツの中身は、人を殺すことなんて、何とも思っていない」
「そう……」
そこで会話が途切れ、しばらく重苦しい空気が漂った。だけど、ふとキッドが立ち上がる。
「私……アイツと戦う」
その顔は、青白いままだったけど、キッドは戦うといった。
「……なんだって?」
「アイツは……現実の相手まで殺せる、GGO最強の戦士なんでしょ? だったら、私はアイツと戦う。そうすればきっと……!」
「何考えてんだ! さっきの話聞いてなかったのか!」
コウが怒鳴っても、キッドの決意は変わらない。絶対行く、行かせないの押し問答となっていた。
(なんで、そこまで……?)
私はそれを見ながら、どうしようもない違和感を感じていた。ゆーなとはこの麻帆良女子中に来て以来ルームメイトで、その中で感じたのはお父さん思いで、いつも笑いを絶やさない明るい娘という印象だけだった。ALOで一緒に冒険するときも同じ印象で、こんなに思いつめたような印象は受けなかった。
「あんたなんかに、何が分かるのよ……私は、私の銃は…………」
あふれ出ようとする感情を抑えるようにキッドが俯き、そして吼えた。
「私の『お母さん』の銃は、最強なんだ!!」
その言葉で、一瞬コウが呆けた。キッドは大声を出したことで、肩で息をしている。
「……どういうことだ?」
キッドはその問いに対して、最初答えようとはしなかった。大声で吼えた後、膝を抱えてそこに顔を埋めていた。コウは地味に洞窟の出口側の位置に座り込んでいる。コウをどかさないと、キッドも外には出られないだろう。
どれだけの時間が流れたのか、重苦しい沈黙の中、ようやくぽつり、ぽつりとキッドが訳を話しはじめた。
「…………私ね、お母さんいないんだ。ううん、昔はいたんだけど、随分昔に、仕事先の海外で事故に遭って死んじゃった。あの時は、わんわん泣いちゃったなあ」
コウは何も言わない。ただ黙ってその話に耳を傾ける。
「お母さんいつも言ってたんだ。『元気が最強! 元気であれば何も言うことない!』って。それからずっと外でも内でも元気を振りまいてたけど、本当はカラ元気もいいところでさ。どんなときでも『元気だから、大丈夫!』って顔してるけど、全然そんなことない」
……ゆーなの元気には、私も随分救われた。部活で上手くいかない時も、元気づけて励ましてくれたし、亜子がフラれた時も、一緒に悲しんで、その上で『亜子をフッた奴が、羨ましがるくらい超優良物件をゲットしにいこう!』とか言って、合コンをセットしてくれようとまでしてくれた。カラ元気でも、私達三人、ゆーなには助けられてるよ?
「…………だから、さ。お父さんが、職場の上司の勧めで、お見合いしたって聞いた時も、私、元気いっぱいに笑ってたんだよ? 相手の写真見ても、『おー、知的美人って感じだねー? お父さんには勿体ないんじゃない?』なんてお道化て見せて。でもやっぱり、胸は痛いし、苦しいし、全然平気なんかじゃなかった……」
そんなことが、あったのか。ゆーなはお父さんにべったりで、お父さんが大好きだ。それなのに、そのお父さんがお母さん以外の人とお見合いするなんて、受け入れ難かったに違いない。
「GGOに出会ったのはそんな時。お母さんが生きてた頃に、海外出張へ出かける荷物の中に、一丁の銃が入っているのを見つけたことがあってね。すごく変わった形をしているのは覚えてるんだけど、どんな形だったかは、もううろ覚えでね。お母さんに聞いたんだ、『どうして銃なんか荷物に入れてるの?』って」
…?ゆーなのお母さんは、何してた人なんだろう?普通銃なんて、例えモデルガンでも海外へ持ち出せないと思うんだけど?
「お母さん、笑いながら言ってたなあ……『それは、モデルガンで、一種のお守りみたいなものよ』って。どういう意味なのか聞いてみたら、『この銃はね、ずっとずっと昔、お父さんと恋人になったときに、私があの人と一生一緒に歩くって、誓った時の物なの。思い出の品なのよ』って」
……ますます分からない。本当にゆーなのお母さんは、何をしてた人なの?
「『……銃は、戦いの道具であり、同時に決意の表れなのよ。その決意は、どんな障壁にも折れず曲がらず、まっすぐに元気いっぱいに貫くこと。私の信条そのものよ。だから、その『誓い』であり、あの人との『絆』そのものでもあるこれは、銃の形をしているの』って。その何日か後に、お母さんは死んじゃった。戻ってきた遺品には、どこにもあの銃は入ってなかったんだ」
ここまで聞いて、ようやく私にも見えてきた。ゆーながGGOに来た理由。あれほど銃を自分の全てと言い切った理由が。
「……だから、私、銃の世界であるこのGGOに来たんだ。お母さんの銃を探しに。そして証明したかったんだ。お母さんの持っていたハンドガンは、お母さんの『誓い』は、最強なんだって。……返り討ちにあっちゃったけどね」
そこまで聞いて、辺りに沈黙が流れる。ゆーなにとって……銃は、お母さんとの『絆』。亡くしてしまった絆を追い求めた。それがゆーなの理由。
「…………それでも、行かせられない」
全てを聞いて、コウが選んだのは、拒絶だった。その言葉に、キッドの目つきが鋭くなる。
「……どうして?」
「君が、今相手にしようとしてるのは、戦士なんかじゃない。どんな手を使っても相手を殺せればいいと考えている、殺人鬼そのものだ。君のお母さんへの想いがあっても、行かせるわけにはいかない」
「なんでよ! 貴方に、何が――――」
「誰かから受け継いだ想いを! 背負ってるのは君だけじゃないんだ!!」
その剣幕に、驚いたキッドが一瞬止まる。コウの顔に浮かんでいたのは、どうしようもないくらいの悲哀と、憤怒と…………憎悪。
「アイツは……≪死銃≫は! SAOで、オレの師匠を死に追いやった! 何人もの人をその手にかけた! あんな悲しみは、もう充分だ!」
感情のまま、コウは地面を殴りつける。その顔に浮かぶのは、決意。
「もう誰も、アイツのせいで死なせない――――それがオレの今の行動原理だ」
地面に手をつき、歯を食いしばる。その姿は、怒り狂った手負いの獣のようにも見えるけど、同時に行先を見失った迷い子のようにも見えた。
キッド――ゆーなは、それを呆然と眺めた後、やがてそっと彼の拳に手を添えた。
「ごめん……」
キッドが、本当の意味で仲間になった瞬間だった。
SIDE OUT
予定していた日曜に投稿できず、申し訳ありませんでした!
最近スランプ気味で、純粋に筆が止まって書けませんでした。麻帆良祭までいけば素晴らしいオリジナル展開で、一気に書けるんですが……もしかしたら、しばらく投稿が不定期になるかもしれません。ご了承ください。
さて、中身の話。ゆーなの母親が持ってたのは、言うまでもなくアレです。マスターが旦那さんなのはオリジナルですが、普段の言動からの妄想ですねw
ゆーなの内面も、オリジナルです。やたら聡明なのに、元気なおバカキャラを気取ってるところが原作でも見受けられましたのでww