全ての記憶が終わったとき、誰も何も語らなかった。そこにあったのは、ただ重苦しく暗鬱とした空気だけ。
「……あ~、とりあえず解散しよっか」
朝倉の提案に皆、反対もなく、それぞれで散っていった。それほどまでに重い記憶だった。
「……ゆえ、どう思う?」
それぞれの寝室に戻るまでの間、のどかは隣を歩く一番の親友に語り掛ける。さっきの記憶を飲み込むためにも、誰かと話したい気分だった。
「……正直、退屈な日常から、刺激的な
ネギ先生の故郷の村を襲った悲劇、そして、水原さんや長谷川さんの巻き込まれた事件は、そうした自分たちを現実に引き戻すには充分だった。
今も、世界のどこかで起こっている悲劇。自分たちはそれが想像できないほどに、『平和』という名の日常の中にいる。そんな自分たちが、これ以上踏み込んでこないよう、彼らは記憶を見せてくれた。
「――――けれど、私は退きません」
確かに、気後れもした。あそこに行く資格など、自分には無いように感じた。けれど、「それがどうした」?
「ネギ先生のためだけでは、無いです。私は、私自身が、知りたいのです。この世界を。世界の本当の姿を! 命がかかろうと、私が退く理由にはなり得ません!!」
それこそが、彼女の『根源』。飽くなき『知識欲』。世界の条理をすら、己が知識と思索で解き明かそうとする根っからの知識人。現実に引き戻されたからこそ、彼女は彼女の根源を思い出した。
「のどかは、どうするのです?」
唯一心配なのは、彼女の隣を歩く親友。彼女は、ネギ先生への恋心だけで行動を決めてきた。その根本に、果たして本当の『覚悟』はあるのだろうか?
「……うん。私、ネギ先生があんな大変な思いをしてきたなんて知らなくて……」
ここでも、ネギ先生。そんな彼女に一抹の不安を抱くが。
「でも、私、やっぱりネギ先生を放っておけない……!」
……やっぱり彼女の中心には、どこまでもネギ先生がいる。正直なところ、もし彼女に強い覚悟が無かったなら、危険からは身を引いてほしかったが。
「ふふ~ん、やっぱり二人はこのままネギ先生に関わっていくつもりなんだね~?」
そこに現れたのは、麻帆良の歩くパパラッチ、朝倉和美。覚悟というなら彼女こそ一番足りていない気がするのだが。
「朝倉さんはどうするですか? 正直朝倉さんの好きそうなネタの宝庫ではありますが、その分危険度は高すぎますよ?」
「フフフ……この朝倉さんを甘く、見て貰っちゃあ困りますなあ! スクープあれば、即参上! それがアタシの
そこで言葉を切り、真剣な顔をのぞかせる。先程までの、おちゃらけた感じが一切ない。
「ホントはさ、長谷川たちに言われるまでもなく、『SAO事件』のことについては、私もそれなりに詳しいんだ。私のジャーナリズムの師匠が≪SAO
「「!?」」
「だから、私はとっくに覚悟してるよ? いずれこんな大きなネタは必ず白日のもとに晒させるけど、クラスメートも関わるって言うなら、見て見ぬふりは寝覚めが悪いしね!」
……結局、ネタにはするのですね。ですがある意味、彼女の理由も私と似てはいますか。世界に隠された真実。どこまでもそれを追い続ける研究者と報道者。方向性は違えど、似通っています。
「ほかの皆さんはどうするのでしょうか……?」
ここで気がかりなのは、今ここにいない顔ぶれ。正直あの話を聞いた後では、覚悟もなしに飛び込むには危険すぎます。
「どうだろうね? このかは京都の実家が魔法関係だし、刹那さんもその関係。古はあの通りだし、強者がいるなら自ら飛び込んでいくんじゃない?」
「アスナさんは……どうなのでしょうか?」
彼女はもっともネギ先生と関係が深く、これから危険に曝されるとしたら、真っ先に彼女だろう。
「んー、そのことなんだけど……」
夕映の危惧に対して、朝倉は思案顔。虚空の中から、答えをつかみ取ろうとしている。
「どうも、気になるんだよね~。なんで、魔法関係では関東と関西の要人でもあるこのかの同室が、アスナなのか」
「それは、このかさんの交友関係を慮ってのことでは? もしくは、ただのくじ運とか」
「いや、交友関係だったら、西での幼馴染で、しかも護衛役でもある刹那さん放り込めばいいじゃない? 公私両面から見ても、それが最良でしょ? くじ運については無いわよ。他の生徒の安全にも関わることなんだから」
言われてみればその通り。だが、だとすれば……
「アスナさんにも……何か秘密がある、と……?」
「たぶんね。私のカンだけど」
……ジャーナリストのカン。正直それだけで彼女の出自を思索するには充分なわけで。
「まあ、数日中に全員が覚悟を決めないとヤバイだろうね。ラフコフならいつ来てもおかしくないし」
「そうですね。きちんとしませんと」
彼女たちは気付かない。すでに、覚悟の選択は迫られていたことに。――賽は、すでに投げられていた。
◇ ◇ ◇
「……フフ。お嬢さん達には、窮屈な想いをさせてしまっているね」
麻帆良の一角。ステージ上。そこに、ネギに関わりのあると思しき少女たちは集められていた。……全裸で。
「ここから出すアルー!」
「開けなさーい!」
女子浴場から直接捕まったとはいえ、何とも締まらない光景である。その上、
「私まで捕まっちまってることだよなあ…………」
全裸だというのに、水の檻の中で胡坐をかいた少女がいた。長谷川千雨、この中では相応の実力者である。
「ナンカ、オメー堂々トシテヤガンナ」
「杖もカードも取られて、桜咲と同じ特別性の独房だぞ? 自分じゃ出れねえと、開き直ってるだけだよ」
色々と思うところもあって、寮に戻るなり風呂場で気分転換しようとしたのが運のツキ。瞬時の魔力強化より早く周りの水にゲートを使われて抵抗出来なかった。
「マア、ソウイウ度胸ノアル奴ハ嫌イジャネーゼ」
「ふん……それにしても、アンタもいたんだな――――シュピーゲル」
水の檻から見据える先、そこには気弱そうな青年と下卑た笑みを浮かべる金髪の男がいた。
「ん~? どうしたんだね、シュピーゲル。折角のご指名だ。あの少女に現実の厳しさというものを、骨の髄まで教えてあげたまえ」
「いえ、あの……まずその前に、彼女たちに服を渡してあげませんか」
シュピーゲルと呼ばれた青年は、決して人質の少女たちの方を見ようとしない。それどころか耳まで真っ赤にしている。
「何を言っているんだね? これは逃亡防止の意味もあるんだよ? 後は、彼女らに『分相応』という言葉の意味を刻み付けるためにもね!」
言いながら、金髪の男は嗤う。さっきから見せる、他者を見下す視線がうっとうしい。
「言葉の意味なら充分に理解している……アンタこそ、その言葉の意味分かってるのか? なんなら、私が良い教師か医者を紹介してやるぞ」
「! 調子に乗るなよ、ガキィ!」
ツカツカと金髪が、私の檻の前に近寄るが、冷めた目で見据える。内心わずかに感じている羞恥は、決して面に出さない。
「幼すぎて、僕の好みじゃないが……君の身体を、この場で穢すのも一興かもねえ? まだ捕まっていないコウとか言うガキの悔しがる姿が目に浮かぶよ」
「オベイロン!」
その言葉に、私の前に立ちふさがったのはシュピーゲル。その顔には決意と闘志がうかがえる。……やっぱ、昔からこの人は『いいお兄さん』なんだよなぁ。
「僕達は、
「……その青年の言う通りだな。こちらの仕事の邪魔は、しないでもらいたい」
シュピーゲルを援護したのは、ヘルマンと名乗る長身の男。だがその身体つきも歩き方も、どちらかといえば歴戦の勇士を思わせる。……どこか人間臭くないし。
二人の意見に、フン!と勢いよく振り向いたオベイロンは、さっさと檻から離れていった。その後、ヘルマンもまた檻から離れていく。
「ゴメンね、チウちゃん……」
「……あー、シュピーゲル、いや恭二さんに謝ってもらう筋じゃねえよ。謝るべきはあの金髪――『自称・妖精王』の須郷だけだ」
「はは……」
その笑いにも力がない。だけど、長谷川は感じた。
「……なあ、恭二さん。月並みだが、今のうちに自首した方がいいぞ? 今なら私たちが口を利いてやることも――」
「ゴメン、チウちゃん」
そう言って、檻の中にバスタオルが投げ込まれる。見ると、他の檻にも同様のタオルが投げ込まれていた。
「それだけは、できない」
そう言った恭二の眼は、今までのどんな時よりも、強い光を宿していた。
今回は悪魔編の導入ですね。いきなりチウが捕まってます……ゲスゴウは相変わらずですが、シュピーゲルは色々改変されてます。人格的にはかなりまともな部類です。そんな彼がなぜラフコフにいるのか……?それが彼自身のテーマですねw
次回投稿は何時になるかな……?