ガパリ、と開いた悪魔の口。その中に宿るのは、彼の得意魔法、石化の光。それの収束を待たずに、横合いから飛び込んだ影がネギをさらっていった。
「アホぉっ!!」
飛び込んだのは犬耳の少年。そのまま二人でもつれるように、観客席へと墜落した。
「……またも横槍とは、つくづく今日はツイテない」
「……おい」
このオッサンのツキなんてどうでもいい。それよりもコイツには、聞いておきたいことがあった。
「今の姿……ネギ先生の記憶の中で見た覚えがあるんだが?」
「ああ、ネギ君の記憶を見たのかね。そうだよ、私がネギ君の村を焼いた爵位級悪魔の一人だ」
「……成程な」
来た時には既に暴走していたネギ先生の様子が合点がいった。つまり、コイツはネギ先生にとっては仇。オレにとっての≪
「……少しばかり、お膳立てが過ぎるんじゃないか?
悪魔をはじめとする魔族は、ある特殊な召喚魔法によって使役できると聞く。そして、その召喚は極めてビジネスライクだとも。使役の際に明確な『契約』を結び、術者は対価を払い、悪魔は仕事をこなす。そのため、契約は明文化することが好まれ、悪魔に曲解を起こさせないようにしなければならないそうだ。
ここで問題となるのは、呼び出される悪魔は通常用意した魔力という対価によって決まり、特定の悪魔を呼び出すのは通常とは異なる特殊かつ難解な術式が必要となるということだ。それを考えれば、こんな『都合よく』ネギ先生の仇が現れる
「ハハハハハ。悪いが、依頼主の正体を明かさないことも契約内容だ」
「……なら、何を頼まれた? ここに来た目的は?」
「フム、それに関しては、
チッ、と舌を打つ。依頼主を明かせないのに、調査内容を明かしてもいいなんてのは、相手にその情報を掴ませることも想定している証拠だ。しかも目の前の男は、『調査』が仕事なのに、ことこの状況に至っても逃げるそぶりを見せていない。調査だけなら、さっきのネギ先生の潜在能力を見た時点で、情報を持って帰るため、一度退くはずだ。もし、ここで『戦い続ける』ことすらも契約の内容だとすれば、コイツの契約相手は、調査は二の次で、ネギ先生にこの悪魔を『殺させる』ことの方が目的かも知れない。
「君が何を『妄想』しているかは大体分かるが、そうやって迷わせることも依頼主の意図かも知れないよ?」
「食えないオッサンだな……」
成程、目の前の男は正しく悪魔だ。人を惑わし、道を誤らせる、生来の気質がある。混ぜっ返されたせいで、黒幕の意図が見えなくなった。
「水原さん!」
後ろから声を掛けられ、肩口から視線だけを向けると、理性を取り戻した様子のネギ先生と、犬耳の少年が並んで走り寄ってきていた。
「……復活したか。まあ、下がってな。コイツはオレが――」
「いえ、その悪魔の人は、僕が倒します!」
その言葉に、ネギ先生の瞳に視線を合わせる。一応、瞳は普段に戻っているが……
「ネギ君。オレは言ったよな。『孤独』の道には何もないって」
「……はい。聞きました」
「なら、何で自分で戦おうとする? 言っておくが『復讐』なんてのは、一番最悪で一番孤独な独り善がりだぞ?」
「――――そうかもしれません」
そこで一度俯いた後、ネギ『先生』は言葉を探す。そして、言った。
「でも、僕は、3-Aの『先生』なんです! 『生徒』が捕まっているのに、黙って見ているなんて出来ません!」
それは、何と言うか予想外の答え。確かに彼は『先生』だ。だけど、それはあくまで魔法使いとしての修行の一環で、半ば強制みたいなもの。正直、使命感みたいなものとは無縁だと思っていた。
けど、こちらを真っ直ぐに見据えてくる澄んだ瞳は、心底からそう思っていることの、確かな証明だった。
「――――――は」
思わず笑ってしまい、二人の少年に道を空ける。そうして、今度は未だ三体のスライムに苦戦するレーカへと向き直る。
「ハハッ!」
口元をにやけさせながら、スライムへと直進する。カタナに宿るのは緑の光。居合い系ソードスキル≪
「……コウ、なんか嬉しそうだね?」
「んー? そうかもな。あの子もオレと同じようになるんじゃないかって、心配してたんだが……」
視線の端では、二人の少年が悪魔相手に果敢に挑んでいる。その戦いに、妄執じみたものは感じない。身体を寄せ集め、復活しようとしているスライムを油断なく意識しながら、笑う。
「……どうやら安心して良さそうだからさ」
「≪
地面へと迸る雷光の一閃を背に、五芒星が描かれた瓶を持って走ってくるキッドと綾瀬さんを見て、そんなことを呟いた。
◇ ◇ ◇
……決着の決め手となったのは、予め別行動を取っていたキッドだった。彼女は戦いの中人質が捕まった水球を破壊。攻撃魔法を阻害していた明日菜さんの首飾りを破壊し、全員の安全を確保した。そして、魔法を解禁されたネギ先生の逆転のきっかけを作ったというわけだ。
「とどめを刺したまえ、ネギ君……このまま私が消えれば、私は魔界へと帰るだけ。時を置いて、再びよみがえることになるだろう」
……スライム三体は瓶への封印。悪魔の男は、徐々に召喚が解かれ、あるべき場所へと帰ろうとしている。
「君が、血のにじむような努力で覚えた、高位の魔物を消滅させる超高等呪文ならば、私を完全に滅することすら可能なはずだ。さあ、とどめを……」
……正直、オレにはこの悪魔の言葉の意図は分からない。ネギ先生を認め、倒されることを望んでいるのか、それとも
そうして、遂に彼は口を開いた。
「僕……とどめは、刺しません……」
目の前の悪魔の男は、決して人質に本格的な危害は加えなかった。そして以前の襲撃もまた、召喚者の命令に従っただけだった。だからこそ、とどめは刺さない、と。
「……つくづく甘いな、ネギ君」
ふっ、と口元を緩めながら悪魔の男は言う。その視線はネギ先生ではなく、どこか遠くを見ているようにも見えた。
「――――『人の悪意』というものが、全く分かっていない」
「「!!?」」
悪魔のその言葉が合図だったかのように、彼の近くにいたネギ先生、犬耳の少年、コウ、チウ、レーカ、キッドの6人が一斉に吹き飛ばされた。地面を削るように吹き飛ばされながら、全員が衝撃が来た方向を振り返る。
そこには、巨大な掌が、虚空より出現していた。
「――おいおい、ヘルマン卿。あんな
掌の下にいるのは、須郷。その手に握っていたのは、京都の時、フェイトという少年が回収していった、リョウメンスクナを吸い込んだあの結晶。
「フム、実際負けてしまった身としては、言い訳も出来んな。それで何か用かな? 契約の更新ということであれば、今なら一割引きで請け負うが」
「ハア? 契約ぅ? 自分の状況が、まだ分かってないんじゃないかい?」
そう言って懐から取り出すのは、新たな結晶。何かは分からないが阻止しようと、全員が飛び出したが、その瞬間に全員の額が衝撃に撃ち抜かれた。
「恭二さん……!」
須郷の後ろで、ファニングの形で止まっているシュピーゲル。速度が違いすぎる!
「言葉の意味からすると、私とは契約を結ばないということでよろしいかな?」
「ああ、その通りさ。お前はこれから、未来永劫この私に尽くす奴隷になり下がるんだよ!!」
そうして須郷の持つ結晶が妖しく輝く。その光は、あまりにも禍々しかった。
「……ああ、全く、つくづく人は度し難い」
その言葉を最期に、悪魔を名乗った男は、醜悪な笑みを浮かべる須郷の持つ結晶へと吸い込まれた。
須郷のゲスっぷり全開の回でした。この人、SAO書いてたときも思ったが、滅茶苦茶使いやすいな?
悪魔よりタチが悪いのが、『人の悪意』。特に理論武装で善意の皮被った悪意は最悪です。しかも自分で正義だと思い込んでたら、手が付けられないという……
さて順調に来てますが、どこまでこの更新頻度を保てるか……?