麻帆良武道会第一回戦、直接対決の機会を得たチウとコウは、接戦の末コウが勝利を収めた。そうして、コウはさらに続く準々決勝、準決勝に進む権利を得ていたわけなのだが……
今現在、二人は武道会場地下で、ロボットと戦っていた。
「ああ、もう、邪魔臭え!!」
暗闇の中、空中に三本の光の軌跡が舞い踊り、宙に浮かんでいたドローン型三体を細切れにした。両手剣三連撃ソードスキル、≪ホリゾンタル・ダンス≫。バチバチと未だ放電する部品に目もくれずチウが残心すると、その背後に多脚戦車型ロボットが一体近づいてきた。
「――女に
「まったく、だな!!」
チウが振り向くまでもなく、多脚戦車型の中心に黒い片手剣が突き刺さり、そのまま空中を凄まじい勢いで吹き飛ばして壁に突き刺さった。遅れて閉鎖された地下水道に、ジェットエンジンのような衝撃音が響き渡る。
片手剣単発重攻撃ソードスキル――≪ヴォーパル・ストライク≫によって多脚戦車を突き抜けて壁にまで突き刺さった片手剣を抜き、チウへと振り向く。
「ここまで麻帆良の地下空間が、広大だとはな。先に行った神楽坂さんたちは大丈夫なのか?」
「知らねえよ。あの脱げ女のヤロウ、私らを置いて行きやがって……」
何故二人がこんなところにいるかと言うと、実は二人とも、麻帆良武道会で勝ち進むことには一片の興味も無かった。むしろ直接対決の機会を得られたし、囮の役目も果たせたので、一回戦で目的は達したも同然だったのだ。
勝ち進むモチベーションも一切無かったが、二回戦、正確には準々決勝で当たるはずだった古菲選手が怪我により棄権。準決勝まで試合なく進むことが出来たのだが。
((あんな人外とは戦えません))
二人ともの共通認識として、無詠唱でバンバン重力魔法の球体を降らせるような相手と戦いたくなかった。そう言うわけで、最低限の囮の役割として、準決勝開始ギリギリまで棄権を遅らせ、主催者の目を引いておく仕事を行っていたのだ。後は会場を去って、密偵役を引き受けた天ヶ崎さんと合流する予定だった。
――菊岡さんから、彼女が消息を絶ったと連絡を受けるまでは。
慌てて武道会場内を移動していると、騒いでいる神楽坂さんたちのグループと合流。なんと同じくスパイ活動をしていた高畑先生も捕まっているということだった。
そこで、お互いに仲間の救助のため、協力を申し出たのだが。
「な・に・が! 『正義を重んじる関東魔法協会に対し、非協力的な人間からの要請は受けません』だ! 現実見ろ、現実! 関東の切り札が真っ先に捕まってるじゃねえか!!」
「大分、溜まってるなー、チウ」
「当たり前だ! なんなんだ、あの脳みそお花畑は! 正義正義って、常識より先に思想刷り込んだからあんなのが生まれるんじゃねえか! だから魔法使いは嫌なんだよ!」
向こうに一緒にいた高音という少女が、こちらから申し出た協力要請をわざわざ断って、勝手にどんどん行ってしまったのだ。しかも進む間、先頭を切った神楽坂さんに、わざわざ自分こそがリーダーだと食って掛かる始末。……失敗の予感しかしなかった。
「まあ、怒るのはそこまでにしようぜ。見たとこ、ロボットどもの武装はこっちの衣装を剥ぐ程度しか威力が無いみたいだし、最悪死にはしないから、彼女らには苦い敗北をしてもらうってことで」
「…………あー、ま、そうだな。悪いな、コウ。救助は私らが行えばいいんだし、関東にも恩が売れるか」
そう言いながら、チウは自分のスカートを見る。そこには先程光線が掠めてできた切れ目があったが、そこから見える肌には少々赤みが出た程度。直撃しても命に別状はないだろう。
そうして実に二十を超える襲撃をいなし、地下水路を進んだ先に、複数の人影を確認した。
「――――なんや、あんたらも来たんか」
「君たちが日本政府側の援軍か……」
そこにいたのは、油断なく符を構える天ヶ崎さんと、高畑先生だった。
◇ ◇ ◇
……結局のところ、天ヶ崎さんも高畑先生も何の問題もなかった。拘束されて連絡を絶ったものの、特に拷問も尋問もされなかったそうだ。それどころか、超の目的まで聞き出していた。
「全世界への魔法バレか……」
地下水道から戻り、今現在天ヶ崎さんと高畑先生が聞き出してきた超さんの目的を菊岡に報告していた。その内容を聞き、菊岡が難しい表情を作る。
「まあ、正直な話をすると、いずれは行わなきゃいけないことではあるんだよね」
「その場合にしても、土着組織である『関西呪術協会』に伺いたてるべきやろ。この国にどんだけ『呪的封印』施された場所があると思てんや。ロクに分からんアホウに悪用されたら、国が百回は滅びるで」
「魔法は大きな『軍事力』にもなり得るからな。民間に払い下げるにしても、まずは政府内でガイドラインを作って、『安全性を確認できた』って言い訳出来る下位の技術までだろ。テロリストが≪魔法の射手≫を一斉発射してくる光景とか想像したくないぞ」
「私はそれ以前に魔法をバラされるのに、強い抵抗を感じるけどな。散々麻帆良の街を牛耳ってやがった『魔法使い』どもに煮え湯を飲まされたってのに、そいつらが大っぴらに力を行使して威張り腐る未来なんざ願い下げだ」
遠い未来ではあるけれど肯定的な見解を述べた菊岡に対し、他の三人は否定的。むしろ、この関東での様々な出来事を思えば、あまり良い印象は受けにくい。
「……問題は、それだけじゃない。今までは『魔法世界』本国は、≪立派な魔法使い≫になるという名目があったから、魔法を公には出来ないこちらの世界では大々的な活動は出来なかった。しかし、全世界に魔法バレがなされれば話は違ってくる」
「なんや、ソレ? あいつ等が大っぴらに行動しようとしまいと、傲慢まっしぐらな活動しまくるのは変わらんのやないか?」
天ヶ崎さんはそう言うけれど、確かに違うかもしれない。国が行う『大々的な活動』。つまりは。
「――――『軍事活動』まで可能になる、って言いたいのか?」
「…………ああ」
こちらの予想に、菊岡は重く頷く。成程確かに大問題だ。
「最悪、この日本やこちら側の世界の大国に攻め入って、『植民地化』することも有り得るか……」
「は?! 有り得んやろ、連中≪立派な魔法使い≫目指してるんやないんか!」
「言葉と主張なんて、いくらでも作り変えられるだろ。コウの言う『植民地化』だが……そうだな、文明として未熟な『発展途上国』への『支援と政権安定のための治安維持』って言い方ならどうだ? 内容が『実効支配』でも随分印象変わるもんだろ?」
「ッ!!」
その上魔法は、気や魔法の使い手じゃないと、戦略級の大規模破壊兵器でもなければ対応が出来ない。民間人を盾にされたら、本当に『正義』の魔法使いに実効支配されかねない。
「それもあったからこそ、僕は自衛隊内部に対抗出来る組織を編成して、土着の『関西呪術協会』とも歩調を合わせたかったんだけど……今となってはそんなこと言ってる場合じゃないな。全員に命令する。何としても彼女の計画を阻止してくれ」
「「「了解!」」」
そうして、今後の行動指針を決めようとする矢先、チウの携帯が鳴り響き、その画面に映し出されたメールの内容に、彼女が目を見開いた。
「超のやつが、学校を辞めるって連絡だ」
「は……?」
それは完全に予想外の連絡。てっきりこの後の学園祭でも暗躍して、例の計画を実行してくると思っていたが。諦めたのか?
しかし、同席していた中で、菊岡だけはその報せに難色を示した。
「いや――――それはマズイかもしれないね」
口元に手をやり、思案する。そうして一通り考えをまとめ、菊岡は今後の問題点を示していった。
「今までは彼女は、何だかんだでこの麻帆良の生徒だった。しかもチウ君のクラスメートだ。問題は起こせても、それは学業に大きな影響を与えない範囲でだ。そうだろう?」
「ああ、そうだな……だが、自分から学園を去るとなると……」
「そうか。『枷』が外れた超が、何するかわからねえな。……面倒臭くなってきやがった」
チウの懸念はその通りだろう。絡繰さんやユイの身体を作り上げるほどの科学力の持ち主が、制限なしで学園に牙をむく。考えられる中でも最悪な状態だ。
「問題は、それだけじゃない。自分から退学届を出したという事は、それだけ明日起こすと予想される『事件』に賭けているという事だよ。『覚悟』を持った相手程厄介な者はいないからね」
「くそ……」
「…………」
全員が悪態をつき、空を見上げる。そこには麻帆良の世界樹から溢れる光。空を照らす眩しい程の光が、これから確実に来る『嵐』に見舞われる
これにて麻帆良祭二日目、終了です。後は最後のメインイベント……!
魔法バレしたときのデメリットは完全にオリジナル。ですけど、例え正義の御旗を掲げていても、それが確かに正しいとは言えないんですよね。正義の敵は、別の正義ですから。ちなみに『治安維持』の名目で、民間人撃ち殺した軍隊は、星の数ほどいます。
で、来週なんですが、日曜から出かける予定が。従って次回更新は再来週以降を予定しています。