夜は明け、麻帆良祭最終日がやって来た。都市の片隅に集まった男一人女三人の団体は、本来優雅に朝から珈琲でもたしなんで和やかな雰囲気でいるべきだろう。しかしながら、彼ら四人にそんな余裕などありはしなかった。
「――それで、ネギ先生たちに連絡はついたか?」
チウが一際重苦しい口を開く。現在彼ら四人は、超一味の暴挙を止めるため麻帆良側の人間と交渉の場を取り付けようとしていた。一応は関東の長であるぬらりひょんへの対応は、菊岡と天ヶ崎さんに任せ、こちらは都市最大戦力であるエヴァンジェリンの弟子に落ち着いているネギ先生たちに連絡を取ろうとしていた。
本来こうした連絡は前日の内に終わらせたかったのだが、昨日はこちらの方針が決まった後すぐに超のお別れパーティーに連行され、ネギ先生一派とは話の機会が得られなかった。というより、ネギ先生はもとより、神楽坂にも話しかけたが、何か超一味とあったのか、上の空だったのだ。
まだしも話が通じそうな綾瀬や宮崎、長瀬に協力態勢について伝言を頼んだが、その後全員と連絡が取れなくなったのだ。
「ん~、無理だね。アスナにも連絡取れなくなっちゃったし」
「……やっぱり何かあったのかな」
「単に別荘に籠っているだけだといいんだけどな……」
コウの言葉に、チウは溜息を漏らす。どちらかと言えば、彼女自身はレーカの危惧が正解だと思っていた。恐らくネギ先生一味は、超一味の罠にはまった。
「あの別荘、実は色々欠陥があるからな……」
チウも体験したから分かるが、あの別荘は中に入っていると外の様子が一切分からない。その上入る時はともかく、出る時は自分の場所の指定も出来ない。いくらでも罠が仕掛けられるのだ。
「今回は茶々丸も超側なんだろ? 別荘に罠仕掛けるくらいいくらでも出来るじゃねえか」
「それはオレも同感かな。真っ先に考えられるのは、罠を仕掛けるのではなく、別荘そのものを宇宙空間に飛ばしてしまうことか。もしくは海底でもいい」
「……昨日高畑先生や天ヶ崎さんが突入した時は、一度は機械式の檻に閉じ込められたんだよね? それを設置するって方法もあるよね」
「ま、エヴァにゃんの怒りを買う覚悟があるんなら、単に地雷仕掛けるだけで終わるんだけどね~。エヴァにゃんの家も吹っ飛ぶから、その後地獄の追いかけっこだけど」
……少し考えただけで、簡単に対策が出てきた。元々あの別荘は在りし日のエヴァンジェリンが使用していたもので、最強不死身吸血鬼の基準で安全を保証されても、全く安心できない。基本的にここにいる四人は、警備がある程度厳重な普段か、外に戦力がいる時しか使用しない。
「……こうなると、ネギ先生側の協力は見込めないな。私らだけで対処するしか――――」
チウのその言葉を、軽快な電子音が遮った。チウが話を切り、携帯を取り出すとそこに表示されていたのは『神楽坂』の文字。
「神楽坂か? 一体今までどこに――」
『お願い千雨ちゃん! 何も言わずに協力して!』
この電話が、その日の激戦の幕開けだった。
◇ ◇ ◇
一般学生参加型の大規模イベント。神楽坂さんから明かされた内容は、今日の午後に行われる予定である超一味との戦闘を、都市を巻き込んだ巨大サバイバルゲームに偽装することで、一般学生も戦力として数え、都市に散らばる魔法関係者も大っぴらに戦える戦場を整える。端的に言えば、そういう事だった。
「おまけに、昨日の大会も今日のイベントの仕込みだったことにしちまうわけか。まあ、後で言い訳しなくて良くなったのは有り難いか」
「チウ、こっちのポスター、500部コピー終わったよ……」
今現在彼らがいるのは、図書室の一つ。急きょ決まったイベントの周知と広報のため、広告用のホームページ作成と、ポスター印刷を手伝っているのだ。
「にしても……ネギ先生、起きないね~」
キッドが作業の合間に、ソファで眠り続けるネギ先生を見るが、余程深い眠りについているのか彼が起きる気配はない。ネギ先生がこうなった原因についても尋ねてみたが、それは信じられない内容だった。
「タイムマシン、ねえ……」
なんでもネギ先生は、懐中時計型のタイムマシンで何度もこの麻帆良祭を行き来しており、彼が今眠っているのは、超の野望がかなってしまった未来から無理矢理戻って来たためだとか。
「昨日、超が宴会の時に言ってやがった100年後の未来から来た火星人で未来人で、オマケにネギ先生の子孫って話は、与太話じゃなかったわけか」
昨日のお別れパーティーで確かにそんな発言があったらしく、一気に信憑性が増してきた。
しかし、そうなると……。
「でもさ、だとしたら、超りんの目的って何なんだろう?」
キッドの疑問はもっともで、ここにいる頭脳組の人間全員が懸念していること。超の野望が叶った場合、ネギ先生は本国に強制送還され、オコジョ刑に処されるらしい。しかし本来の歴史に背いて、大きく歴史を変えてしまえば、子孫の存在だって危ぶまれる。天才を語る超が、そんなことに気付いていないとは考えられない。
「当初は『全世界への魔法バレ』って公言してたけど……」
「ここに来て、一気に怪しくなったな」
そもそもこの目的自体、捕虜にした高畑先生と天ヶ崎さんに、自ら語った内容だ。その後簡単に逃げられているし、こちらのかく乱目的も考えられる。
そんな懸念に、チウが適格に指摘してくる。
「オイ、お前ら、考えすぎるなよ。アイツが本物の策士だって言うんなら、恐らく一つの行動で複数の目的を叶えるくらい平気でしてくる。裏の目的があるとしても、こっちに一から十まで説明してくれるほど親切じゃねえだろうし、元々目的のための行動が『全世界への魔法バレ』なのが問題なんだ」
何にせよ、止めることに変わりない、とチウは締めくくった。確かに彼女に裏の目的があっても、止めることは変わらないか……。
「それよりも……綾瀬、罠に残されたメッセージは確かにコレなんだな」
「あ、はい。そうですね」
「この内容……」
神楽坂さん達がエヴァンジェリン邸に戻って見つけた超鈴音からのメッセージ。最初の内容は、確かにただの種明かしなんだ。しかし。
「『また会おう、諸君』か……」
「
「過去に戻って来ることを想定したような内容だね……」
そうなると、こちらの行動が全て向こうに読まれている可能性まである。そして、懸念はもう一つ。
「魔法先生たちを次々と撃退していった、フードコートを被った超側の勢力って、一体誰だ?」
ネギ先生たちが見てきた世界。そこでは、魔法先生に対抗できるフードコートの集団が存在しており、そのせいもあって戦力になり得る魔法先生が全て倒されたというのだ。
「今回、超に従っているはずなのは、龍宮、葉加瀬、茶々丸か」
「その中で戦闘が行えるのは龍宮さんと絡繰さんだけど、集団とまで言えないな」
「……話では、桜咲の師匠までやられたんだよね。そのフードコートの、『日本刀』使いに」
「おまけに他のメンバー全員が、卓越した近接武器使いだったんでしょ? そんな奴ら、一体どこにいるって言うのかにゃ~」
これについては結論が出ない。何せ、魔法先生全員が不意を突かれてやられており、相手の顔を一切見ていないそうなのだから。おかげで対策も取れないのだ。
そして、最後の懸念が、一番大きいのだ。
「それで、未だに魘されている先生は――――超と戦う覚悟は出来たのかよ?」
チウがネギ先生と一緒にいた全員に尋ねるが、反応は悪い。この現状で、麻帆良の中でも屈指の魔力を持ったネギ先生が迷ったりすると、それは戦局そのものに大きく影響する。その上、ネギ先生は『英雄の息子』で関東側の広告塔だ。裏切られると、動揺が広がって簡単に敗北することだってある。
「わかりません。ですが……ネギ先生なら、必ず答えを出してくれると信じています」
そう断言する綾瀬さん。それでも魘され続けるネギ先生を見つめると、言いようのない不安はどうしようもなく立ち込めていった。
準備回、終了です。次回から本格的に大戦勃発!
果たしてフードコートの集団は誰なのか?彼らを加えた発想としては、魔法先生たちと言う戦力あるの分かってるのに、果たして天才の超がそれに対して仕込みをしないのか?という疑問からです。無いのなら、有る所から持って来ましょう。