「――――なんの冗談だよ、それは」
ユイと合流し、詳細を聞いたコウ、チウ、レーカ、キッドの四人は驚愕を露わにしていた。なんとキリトさんをはじめとするかつての仲間たちが、揃って超に協力しているというのだ。驚かない方がおかしい。
「一体、何がどうなって、そうなってんだ?! 今回超が行ってるのは、社会の――あー、『裏』的には、問題行動だぞ!」
『魔法』の事を説明するわけにも行かないため、どうしてもまどろっこしい言い方になる。もっともそんな考えは、次に放たれたユイの言葉で容易く破られた。
「大丈夫ですよ、チウちゃん、コウ君。私も、ママも、パパも……いえ、仲間の皆が『魔法』の事を知っています」
「…………!」
話したのは、間違いなく超だろう。だけど、彼らの心情としては、巻き込みたくなかったのも事実なのだ。特にキリトが、どれほどの戦いを潜り抜け、どれほど傷ついて今の平穏を手にしているか、四人はよく知っていた。
「たぶん何もかも、あの超という人の計画のうちなんでしょうけど……私は、パパたちの行動の理由を、皆に伝えに来ました。それを聞いて、皆にどう行動するか決めてもらうためです」
「どう行動するって……そんなの、止めるしかないじゃん!」
キッドの意見は、ここにいる四人全員の答え。これからの行動は、既に昨日のうちに話し合い、どうするかなんて決めているのだ。
「キッドさん、それでも、です。みんなは、もう一度決めなくちゃいけないんです。自分たちの未来のために……」
「……どういうこと?」
レーカの問い掛けに、ユイは一度瞑目し、心を落ち着けるように呟いた。
「パパたちが、向こうに付いた理由は――――――――チウちゃん達四人を、『助ける』ためです」
◇ ◇ ◇
「――さて、まずは言い分を聞いておこうか」
ポケットに手を入れながら、高畑・T・タカミチは静かに眼前の集団に問いかけた。決して威圧を与えるものではなく、その口調は日常の中の話しかけとなんら大差ないものだった。
「言い分? なんのことだ?」
「いや、君たちがこの事態をどう認識しているのかと思ってね」
高畑に対し答える黒ずくめの剣士もまた、力みは見当たらない。あくまで自然体で、それこそ友人に話しかけているような気安さだ。
「高畑先生。ことここに至って、言い分も何もありません」
話に割り込んできたのは、ガンドルフィーニ先生。武器を構え、油断を見せずに前へと出る。
「私から話そう。君らは知らないかも知れないが、君らが加担している超鈴音は、この学園都市のルールに反している。それだけでなくもっと国際的な問題をもはらんでいるかも知れないんだ。出来れば部外者である君らは、お引き取り願いたいのだが」
そう言いつつ、決してその武器を放すことはない。用心としては当然だが、話す態度としては失格だった。
「……それは、あなた方『魔法使い』としてのルールに反する、という意味でしょうか?」
ガンドルフィーニに問いかけたのは、黒ずくめの剣士の隣に控える栗色の髪の女性剣士。堂々と見据える胆力に少しばかり気圧されながら、なおも続けた。
「ッ、知っているのなら、話が早い。彼女のしようとしていることは、我々にとって重大な犯罪行為だ。この街を
「…………『悪』、ね」
ガンドルフィーニの言葉に、黒ずくめの剣士はわずかに反応したが、表面上は平静そのもの。もっともそれは、どこか噴火前の火山を思わせるものだった。
「アンタら魔法使いのルールなんて関係ない――――俺達は、決して見捨てられない仲間の『生命』と『未来』を救うために戦う」
その黒ずくめの剣士――キリトの言葉の意味は、魔法先生たちには分からない。分かるのは、彼らから迸る圧倒的な強い意志のみ。
それを感じ取り、高畑は再びその意図を聞いてみた。
「……どういうことかな?」
「超から聞いたんですよ。このままにしておけば、俺達の仲間は――コウもレーカもキッドも、死ぬことになるって」
魔法先生たちは知らぬが、それは決して逃れ得ぬ『運命』という名の未来。
「最後に残ったチウだって……半死半生の怪我を負って、
どこまでも高まっていく戦意。それを感じ取る魔法先生もまた、戦意を高めていく。
「仲間を助けるために、俺達はこの世界の『神』だって、敵に回す」
◇ ◇ ◇
「――成程、そういう理由か」
ユイから明かされたキリトさんたちが向こうに付いた理由。正直な話、これから先菊岡サンの下について、魔法世界へと赴けば、『チウ以外全員死ぬ』と言われても、実感はわかない。
それでも、『魔法』という人間にとって確実に慮外の能力に関わる以上、ある程度覚悟していた内容ではある。
だからこそ、コウはユイの瞳を真っ直ぐに見据え、自身の覚悟を述べた。
「教えてもらって悪かったな、ユイ。――――けど、俺は行くよ」
その言葉に悲しそうに眼を伏せつつ、ユイは先の言葉を促す。
「……どうして、ですか」
「超と、未来のチウが語った未来が本当なら、今魔法世界には≪
「だから! それが、どうしてなんですか! 魔法世界だって、バカじゃありません! 向こうの警察組織にでも任せればいいじゃないですか!!」
確かに現実的に考えれば、それも一つの方法だろう。ラフコフの危険性を正しく認識できるのが、コウやチウだけだと言うのであれば、向こうの政治組織に説明すればいいだけだ。けれど、やはり。
「わかってる。けど、それでもケジメはつけたいんだよ。アイツ等との戦いが……俺のはじまりだから」
SAOに囚われて、でも仲間にもめぐり合って。いつも三人で、無茶をする師匠に苦笑し、チウにからかわれながら過ごしたあの日々。どんなものにも代えられない、尊かったあの日常。
それがある日、突然壊されて。後悔して、憎んで。殺して、コロシて……結局『水原光』という自分は、あの日からSAOの中から戻ってきてはいないのだ。あの日から、ずっと。サクヤ師匠を殺したラフコフを憎み続ける『コウ』のままなのだ。
だから。『水原光』を、もう一度始めるために。
「決着をつける――――ちゃんと現実を生きるために、な」
そう、死ぬためじゃない。もう一度生きるために、行かなけりゃならない。
その瞳が、決して揺らがないことを感じ取り、ユイがまた悲しそうに俯いた。何とか慰めようと手を伸ばしたコウの背中を、三人の少女が力一杯張り倒した。
「まったく、仕方ねえな……」
「……うん。でも、ちゃんと考えててくれて嬉しい」
「散々コウが傷つくのって、見てる私らも結構キツイんだよ?」
チウ、レーカ、キッドが次々と言い募る。彼女らにとって、ラフコフとは確かに因縁もある。それでも確実に自分たちが死ぬとなったら、優先するべき標的でもない。だけど彼女らにとって、かけがえのない人が行くという。それだけで決意は固まった。
「……チウちゃんたちも、ですか?」
「コウが、行くんじゃなあ」
「コウの援護は私らの仕事だしね~?」
「大丈夫……首根っこを掴んででも、連れて帰ってくるよ」
決意は、固い。彼女の持つ
「だったら…………今回は、私はチウちゃん達の味方に付きます。敵はおそらく、ネットを介してあの巨大ロボットを操っているはずです。そちらを受け持つのは、私です」
「って、いいのか、ユイ? 向こうにはキリトさんもアスナさんもいるんだろ?」
チウの心配を、ユイはただ微笑んで受け流す。
「大丈夫です。パパもママも、私がチウちゃんの味方に付くかも知れないと分かっていたのに、私を送り出してくれましたから。その代わり、魔法世界からも必ず帰ってこないと許しませんよ?」
彼女もまた、揺るがぬ決意を持っている。それを感じ取ったチウは、それ以上の言及を止めた。
「――それじゃ、今度こそ」
「ああ、行くぞ、オメーラッ!」
「「「おおッ!!」」」
仮想の世界で出会った戦士たち。彼らが敵味方に分かれ、雌雄を決する時が来た。
理由説明、終了です。キリトたちが優先するのは、いつでも仲間の無事です。
キリトたちが超にあまりに簡単に従ったように見えたのも、未来の『チウ本人』がそれを見越したメッセージを残していたからです。本人と証明されて、しかも救援を頼み込まれたら、キリトたちなら動きます。
次回以降、本格的な激突。果たして魔法先生たちの運命や、如何に?!(ちなみに狙撃手二名は、アンブッシュ中)