麻帆良湖畔の一角、そこに集った両軍は交渉が決裂するや否や、乱戦の様相を呈していた。
「おおあッ!」
「ぐっ!」
麻帆良学園側の最大戦力、高畑・T・タカミチに対峙するのは、≪黒の剣士≫キリトと≪閃光≫アスナ。昔以上に息の合ったコンビネーションで、手数に勝る高畑の攻撃を封ずる戦法だった。
「スイッチ!」
「!?」
高畑の攻撃を引き付けていたキリトが後退し、追撃をかけようとしていた高畑がたたらを踏む。そこに滑り込んできたのは、
「はあッ!」
「……!」
繰り出される攻撃を、『居合い拳』の弾幕で防ぐ。それをソードスキルで相殺した時、二人の頭上に影が差した。
「ラアッ!!」
≪二刀流≫重突進ソードスキル≪ダブル・サーキュラー≫。空中から襲い掛かる二本の軌跡を、高畑は辛くも身を屈めて躱し切った。
「――ふうっ。見事な連携だね」
ズボンのポケットに手を入れながら、決して油断が見えない。わずかでも隙あらば究極技法である『咸卦法』を使って決着を狙ってくる油断ならない相手。ここ最近大学進学やら研究やらでこうした戦場から遠ざかっていたキリトは、内心目の前の相手の強大さに溜息を吐いていた。
「……アンタ程の強敵に褒められても、少しも嬉しくないけどな。軽く人間の物理限界超えてるんだから嫌になるよ、『魔法使い』」
「……僕は正式な『魔法使い』という訳じゃないけどね。君たちの場合、どうやら純粋な科学技術で身体能力を引き上げているみたいだね」
高畑が視線を向けるのは、キリトとアスナが身に着ける黒と白のボディースーツ。『超包子』が刻印されたソレは、超が提供した100年後の軍用強化服であり、身体能力を大幅にアップさせることが出来る。列記とした『兵器』である強化服でも、この時代の魔法使いや達人には抗し得ないのだから、ある意味理不尽とも言えた。
「まさか女性に衣服を脱げとでも? それとも卑怯だとか? どちらであっても、あなた方魔法使いを軽蔑しますよ?」
「まあ、アスナたちにそんなことを言うようなら、軽蔑以前に必ず俺が斬り伏せることになるけどな」
「怖い怖い。こっちも魔法を使っている身の上だからね。そんなことは言わないさ」
戦闘時とは打って変わった和やかな会話。もっともそれは小休止に過ぎず、すぐまた火花が散ることはお互いに心得ていた。
「……さて、そろそろ続きをやろうか」
「そうだな。アンタはここで退場してもらう」
「チウちゃんたちの為にもね……」
そうして、空中で再び響き渡る爆音。戦闘はますます激しさを増していった。
◇ ◇ ◇
「どぉおおおお!」
長剣が閃き、魔法使いの集団を横薙ぎにする。ガンドルフィーニを始めとする魔法使いたちはそれを空中に逃れることで躱し切った。
「チッ!」
ガンドルフィーニは浮遊術を使い、空中の足場から拳銃の三点バースト。神多羅木も無詠唱呪文をフィンガースナップで撃ち出す。その他の魔法使いも一斉に飛び込んで来たリーファを標的とし、さながら魔法の雨が降った。
「ピナ、≪バブルブレス≫!!」
シリカの掛け声とともに、近くを飛んでいた機械製のドラゴンがその口を開き、輪の形をしたレーザー光を放った。リング状のレーザーが魔法の雨と相殺し、宙に爆炎を噴き上げさせた。
シリカが連れているのは、超が作った『ガイノイド・ドラゴン』で、そのAIにはALOにいるピナのコピーAIが乗っている。本来『ビーストテイマー』であるシリカの能力を発揮するため、超が講じた策ではあるが、思いのほか強力な手札ではあった。
「おうりゃ!」
「でえええい!」
空中で動きを止めた魔法使いの集団に対し、エギルが、リズが、それぞれの得物を手に襲い掛かる。魔法使いたちもたまらずさらに散り散りに避けることとなった。
――そして、そうした戦場から、少しばかり離れた建物の上では。
「……成程。私とは一対一で戦うという訳ですか」
「まあ……そういうことになります、かね……」
葛葉刀子とクラインがそれぞれのカタナを手に、対峙していた。
「それにしても、少しばかり見損ないましたよ。壺井さん」
話しかけながらも、刀子に油断は一切認められない。むしろ闘気はより一層高まり、靄のように目に見えるまでになっていく。
「……なにを、ですかね、葛葉さん」
「貴方の人格を、です。まさかこんなテロリズムにも等しい暴挙に手を貸すような方だとは……正直、失望しました」
噴き上がる闘気は、彼女の怒りも含むのか、空気は息苦しくなり、世界は徐々に軋みを上げた。
「申し訳ありませんが、せめて一刀のもとに斬り伏せます。大人しく私の剣を受けてください」
八双に構えた野太刀の切っ先を、正面のクラインの喉元へと合わせる。視線は細まり、その様子はさながらしなやかな肉食獣のようでもあった。
「…………」
対するクラインは、あくまで自然体。彼女の罵倒にも何も喋らず、ただその機械に彩られたカタナを両手で構え、切っ先をほんの僅か、野太刀の切っ先へと傾けた。
瞬間。二人の間で甲高い衝撃音が鳴り響いた。
「はああああっ!」
「……ッ!」
刀子の攻撃は苛烈の一言。袈裟斬り、逆切り上げ、突きと猛烈な攻撃をクラインへと叩きこむ。その斬撃の全てが一撃必殺の威力。古来より歴史の裏側にて京の都を守護してきた退魔の剣は、脆弱な人間の身にて魔に抗わんとする剣術。それがため、強力な魔を屠るように発達し、一撃必殺を旨とする。本来余りにも弱い一般人に対して振るべき剣術ではないのは事実だ。
しかしその苛烈な攻撃にも関わらず、クラインはその攻撃を出来る限り躱し、捌き、いなしていく。一見すると防戦一方にも見えるが、彼もまた浮遊城アインクラッドを生き抜き、ギルドメンバーを生き残らせたギルドリーダーである。自分よりも速く、強い相手であっても生き足掻く『
「っ、ちぃッ!!」
やがて攻めあぐねた刀子の方が自ら距離を空け、構え直す形となった。彼女にも分かったのだ。防御の一点においては、クラインの方が優っていることに。
「……さっき、葛葉さんが指摘したこと、オレも思うことが無いわけじゃねえですよ」
唐突に漏れたクラインの言葉。表情は茫洋として読みにくいが、会話に糸口があればと思い、刀子もまた話を続ける。
「はて、さっき指摘したこと、と言いますと?」
「いや……テロリズム云々って言われても正直ピンと来ませんが、馬鹿な事やってるな、とはオレも思うんですよ」
「では、今からでも降伏しませんか? 今なら私が上層部に口を利くことも――」
そこまで言ったところで、完全に刀子の口が止まる。目の前の相手、クラインの雰囲気が明らかに変わっていた。
「けどな…………オレ達大人は、昔コウとチウにあんまりにも重いモン背負わせちまってんだ……!」
青眼に構えられたカタナから、戦意が迸る。気が使えず、魔法なども扱えずとも、そのカタナに込められたのは、確かな一人の人間の『意思』。
「あの二人の為だっつうんなら! オレ達は例え
クラインの言葉。それは確かな彼らの意思の表れだった。
前半戦、終了です。クラインはサクヤ師匠の事も知ってますから、SAO組の決意の代弁者になってもらいました。戦いのポイントとしては、キリアスVSタカミチと、刀子VSクラインになりそうです。
クラインは、こういう武士道的な行動理念が、本当にいいキャラなのに……なんで原作中ではカップリングが無いんでしょう?