「ぐ……うッ!」
刀子の口から苦悶が漏れ出る。水平に構えた愛刀には、嵐のような猛攻が加えられていた。
「オオ――――リャアアアアッ!!」
目の前の、壺井の剣はメチャクチャだ。まるで剣術の型に無理に当てはめたように足運びも重心移動もなっていない。だと言うのに、繰り出す剣は鋭く重い一撃ではあるのだ。さらに、その上。
(段々と……私の剣に対応するようになってきている!)
さっきと違い、攻守が入れ替わらないのはそれが原因。刀子の攻撃がまともに決まらず、返す刀が徐々に的確になってきているのだ。苛烈な攻撃と、巧みな防御、そして的確なカウンター。京都において並ぶものなき神鳴流が、ここまで防戦一方になるなど初めての経験だった。
◇ ◇ ◇
「これは、まずいかもしれないね……」
戦場を見渡し、高畑は愚痴る。自分の相手をしている黒白の剣士もかなりの腕前だが、他の魔法先生を相手にしている者もかなりの手練れだ。正直このまま戦局が膠着すれば、どこか一つ崩れただけで敗北が見える。それを考えると、余り楽観できる状況ではなかった。
「マズイと思ってるんだったら、降伏したらどうだ? イベント終了まで手を出さないと約束すれば、もてなすぜ?」
「いやいや、こちらも魔法使いの厳しいところでね。そうそう退く訳にはいかないんだよ」
「やはりそうでしょうね……」
お互い軽口を叩きながら、隙を探り合う。目の前の二人は一切油断なくこちらを見ており、中々攻め込む糸口が見つけられない。
(しかし、彼らの≪ソードスキル≫…………こうなることも計算尽くだったのかい? ヒースクリフ)
彼らが繰り出す、かつての盟友の剣技。いつか英雄になろうと切磋琢磨したあの頃を思い出して懐かしくなり、また次世代へと受け継がれているという事実に、少し切なくもなった。そしてまた、あの全てを計算するかのような鬼才を思い出し、少しだけ背筋が寒くもなった。
「残念ながらいつまでもこうしてはいられない。次で、最後にしようか」
そう言って、身体に纏う『咸卦法』の気を爆発的に高める。死なない程度に本気の『無音拳』。それに対し、目の前の二人はそれぞれの得物を構える。
「ッ!!」
一瞬の気合と共に、極太の破壊エネルギーが二人に迫る。それに対して前に出てきた黒の剣士の右手。構えた黒の剣に、『光が灯った』。
「ハ、アアアアアアアアアアアアアアッ!!」
ジェット機のような音を立てて光を宿す黒の剣が、『無音拳』に突き刺さる。切っ先で拮抗して、そこからは圧倒的な圧力突進力のせめぎ合いとなった。
「ぐ、ぬ、ッ~~~~~!」
どちらも、動かない。いや、徐々に徐々に
「~~~~っ、あああああああああああッ!!」
そのまま、吶喊。『無音拳』の衝撃が霧散する中、黒の剣士の影から、白い閃光が飛び出した。
「セアアアアアアアアアアアッ!!」
左肩から順番に超高速の五連撃が突き刺さる。それに対し高畑は、溜めなしの無音拳で迎撃。五発全て迎撃に成功すると、未だに
「!?」
咄嗟にあてずっぽうで複数の無音拳を飛ばす。今度は右肩から斜めに決まる五連撃が繰り出され、対処に遅れたせいで右肩と左わき腹に一発ずつ決まり、奔った魔力が動きを止める。
(十、連撃!)
空中で未だに動きを止めながら、ダメージを計る。幸い少しの硬直ですぐに抜けそうな程度のダメージ。戦闘続行はまだ可能と考えた。
しかし、目の前の剣士は、そんなことを許さなかった。
(な――――)
未だ空中で硬直する中、彼女の
「ハアアアアアアアアアアアアッ!!!」
二つの五連撃が交差したちょうど真ん中、胸の中心にとんでもない衝撃が突き刺さる。これぞ、アルヴヘイムで最強を誇った妖精剣士の遺した剣技。オリジナル・ソードスキル≪マザーズ・ロザリオ≫。衝撃で弾き飛ばされた高畑は、地面の上で大の字になり、はあっと息を吐き出した。
(これは……参ったな……)
身体が動かない中、視線だけで明後日の方向から迫りくるライフル弾を視認する。自分や周囲の魔法先生の周りに、同じ黒い渦が展開されたのを見て、高畑は自身の負けを自覚した。
◇ ◇ ◇
「高畑先生!!」
周囲の決着がついて行く中、あるビルの上でも決着がつきつつあった。
『クラインさん、そちらはどうする? なんなら援護するが』
「いや、
『彼女なら、敵対する前に確かめたいことがあると言って、行ってしまったからね。今頃は長谷川たちの所だ』
「そうか……」
目の前で恐らくは狙撃手と通信機で連絡を取る壺井に、刀子の鋭い瞳が突き刺さる。その瞳を受けても、彼に揺らぐ様子はなかった。
「……意識を近接戦に向けさせて、狙撃ですか。中々姑息ですね」
「葛葉さん相手にそんなことはしねえさ。……あんたは、俺が倒す」
「やれるものなら!」
裂帛の気合と共に、野太刀を大上段から振り下ろす。それを見て壺井は、両手で構えた刀にあくまで無理をさせず、柳のように絶妙に捌いて見せた。
「…………ッ!」
今日この日が来るまで、刀子は目の前の人物がこれほどの腕前だとは思わなかった。これほど剣士としての心情を重んじる人だとは思わなかった。今の世の中で珍しい程、誠実で仲間を大事にする人だとは思わなかった。
こんな形でなければ、この人の元で、『女』としても『剣士』としても幸せになれたかもと思えるほどに。
(――私は! 戦闘中に何を考えている!!)
自分の懊悩を振り払うように、空中高く上がる。高々と掲げた愛刀に雷が帯電する。
「神鳴流奥義!! 雷鳴剣!!」
文字通り降りかかる雷霆の如く。轟音を轟かせて迫る斬撃に、壺井――クラインは、ただ己のカタナを左の腰だめに溜め、緑色の光を発していた。
「――――わりいな、『刀子』さん」
≪カタナ≫専用居合型ソードスキル≪
「……ッ、ぐっ」
地に伏した彼女は身体が満足に動かないことを悟った。先程刀を取り巻いていた緑色の光。あの光からは、人工的な魔力を感じた。恐らく何らかの手段で蓄積した魔力を衝突の瞬間に魔力ダメージとして使用したのだろう。
「……本当、すまねえ。キリトよお、後頼んでいいか?」
『ああ。チウたちの事は任せてくれ』
「すまねえな……」
横に立っていた壺井が、どこかと通信を取り、改めて横に腰かけるのを感じる。そちらに目を向けると、申し訳なさそうな顔で、一発の銃弾を握り締めていた。
「コイツは、さっき刀子さんの同僚を飛ばした銃弾だ……これくらいしか償う方法知らなくてよ」
そう言うと、彼はその銃弾を再度強く握り、刀子とともに黒い渦の中に残った。
「な……!」
「…………終わったら、地面に頭こすりつけてでも謝罪すっからよ」
渦が収縮し、空中で消え去った後、そこには二人の影は欠片も残っていなかった。
という訳で、魔法先生ほぼ全滅。高畑は本来キリトとアスナ相手でも蹂躙すること自体は可能でしょうが、あの二人は魔力を持ってはいません。つまり下手に本気で攻撃すると大怪我だから本気が出せないと言う、飛車角落ちの状態であるため敗北となりました。
あと、クラインはここで脱落。イイ感じでお付き合いしてた刀子への義理と、チウたちへの義理を通した形です。この後超の計画が成功したら、そのまま捕まる気でいます。