魔法先生ネギま!~闇の剣と星の剣   作:路地裏の作者

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シノンの話にたどり着けなかった……! 不覚!



081 朝露の少女、冥府の女神

 

 静謐な空間を、精緻な情報が流れていく。1と0で形作られたそれは、本来何の意味も無い情報の羅列に過ぎない。

 だがしかし、全てをその情報で象られたこの世界においては、単純な情報は『点』となり、『線』を結び、『面』を成し、そうして『立体』に至る。もちろん情報は、物体の構成だけではなく、状況や動作や、世界そのものである環境すらも変じ得る。

 

 それこそがこの世界、電脳空間の原則(ルール)。そんな空間において、チウたちにこちらを頼まれたユイは、ただ一人瞳を閉じて世界を揺蕩っていた。

 

『――正直、貴女がそちらに付いたことは今でも信じられません』

 

 不意に空間に言葉が生じた。音は無い。ただの情報。発したのは、恐らく今回の相手となると予想していたガイノイド、絡繰茶々丸。

 

「……なにが、ですか?」

 

 瞳を閉じたまま彼女は答える。その表情からは如何なる感情もうかがい知れない。

 

『……貴女は、自らの『親』であるあのお二人を慕っているように見受けられましたので』

 

「そう、ですね。パパとママのことは、大好きですよ」

 

『思えば、貴女との付き合いは数年前に超とハカセの所にやって来て以来でしたね。当時は電脳空間においてあそこまで発達したAIが存在し、両親と同じ現実世界を歩ける身体を欲していると聞き、驚いたものです』

 

 二人の間には、実に浅からぬ縁がある。一つには同じ人間を模したAIであるという事。もう一つは、どちらも超とハカセが作り上げたガイノイドの身体を使っているという事。ユイの存在を知った時のハカセの狂乱ぶりは凄まじいもので、元メンタルヘルスカウンセリングプログラムであるユイをして、ドン引きさせるレベルだった。

 

 AIとしてはユイが先輩、ガイノイドとしては茶々丸が先輩。生きる場所は違えど、二人は姉妹のようでもあった。その二人が、今は電脳空間で矛を向け合う事態となったのだ。

 

「……それで? 茶々丸は一体、何が言いたいんですか?」

 

『…………貴女は、どうして『両親』と言う名の『主人(マスター)』にも、身体(ボディ)の製作者でもある超やハカセにも、敵対する道を選べるのですか?』

 

 それが茶々丸の疑問だった。人間とは違い、ガイノイドもAIも、製作者や主人に牙を剥くようには出来ていない。だと言うのに、ユイのとった行動は明らかな『反逆』。ロボット三原則からもかけ離れた行動だった。どうして彼女はそんな行動がとれるのか。それはただのバグなのか、はたまた。

 

 どうしてもソレを知りたかった。知らなければならないと思った。その答えは、あるいは――

 

 彼女の胸の基幹部分を今も締め付ける、『ネギ先生と戦う事への苦しさ』の答えかも知れないから。

 

 彼女の視界に広がる画面に映ったユイは何も語らない。ただ表情を俯かせ、佇み、佇み…………不意に笑顔を浮かべた。

 

 

「――――――まだまだですね、二歳児」

 

 

 言葉と共に、電脳空間に圧倒的な威圧が駆け抜ける。茶々丸が瞬時に状況を確認すると、麻帆良一帯の電脳空間を支配したはずの彼女の領域に、毎秒どころか毎コンマの間隔でクラッキングがかけられ、彼女の支配を揺るがしていた。それを為したのは、ユイの傍らに浮かぶ7体の電子精霊たち。

 

『ゆい様ー! 敵の牙城は思ったより固いッスー!』

 

「やはりセキュリティホールの類は見当たりませんか。チウちゃんからお借りした皆さんでも破れないとなると……時間をかけて様々な方法を試していきましょう。お願いできますか?」

 

『『『『『『『ハイッ、ゆい様!!』』』』』』』

 

 チウのアーティファクト、≪力の王笏(スケプトルム・ウィルトゥアーレ)≫。それによって生まれた7体の電子精霊たち。チウが出発前に、現実世界ではあまり役に立たない彼らを自分の親友に託していったのだ。だからこそ彼女は、より強く奮い立つことが出来る。

 

「茶々丸はさっき、パパやママと敵対する道を選んだのはどうしてか、って聞いてきましたが……実際辛いですよ。『主人』なんてカテゴリじゃないですけど、私にとってパパもママもかけがえのない人ですから」

 

『だったら、どうして……!』

 

「簡単です。パパにもママにも、『ユイの好きなようにしたらいい』って言われたからです」

 

 その言葉に茶々丸は一瞬動きを止める。判断をAIに委ねるなど、およそ考えられないことだったから。それを当たり前のように成したキリトとアスナに戦慄する。

 

「私にとって、パパもママも大事だし……リズさんも、クラインさんも、シリカさんも、エギルさんも、リーファさんも、シノンさんも大事な友達です。けど同じくらいチウちゃんもコウさんも大事なんです」

 

『…………』

 

「だから! 私は、私自身の好きなように! 『魂』に従います!!」

 

 例え、身体は1と0の羅列に過ぎなくても。人と人の間に生まれた存在で無いとしても。生命すらも偽りだったとしても。

 

 『想い』は。『心』は。『魂』は、間違いなく本物だと。今なら彼女は断言する事が出来るから。

 

 あのはじまりの街の教会で、生まれたばかりの子供のようだった自分に、笑顔を見せて共に遊んでくれていた二人の親友を、助けたいと思えるから。

 

『――解っているのですか? このまま運命が変わらなければ、彼らは……』

 

「それを決めるのは私たちでも無ければ、運命なんかじゃありません。未来はいつも、諦めずに進み続けた人間の前に生まれるものなんです」

 

 あの黒鉄の城で過ごした人間には、それが良く分かっている。あの二人なら、必ず運命すらも返られると信じている。だったら自分のやることは、彼らの前に立ち塞がることじゃない。

 

「チウちゃん達の、道を切り開く。それが私の『魂』に従った結論です」

 

『――させません』

 

 誰にも省みられることのない電脳の世界。その世界で生を受けた二つの『魂』が戦っていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 今もまだ眠り続けるネギ先生たちと別れたコウ達四人は、街の中を疾走し各所に配置されたロボット兵を倒していた。

 

「右、新たに多脚戦車型4、田中さん型10……!」

 

「ああ、クソッ! 超のヤロウ、屋台で儲けた分つぎ込み過ぎだろうが!」

 

「チウ、余所見しない! 上にも偵察型が何機か来てる!」

 

「ニヒヒ、こうやってロボットばっかり倒してると、GGOの中を思い出すね!」

 

 わらわらと路地を埋め尽くす火星ロボ軍団に愚痴りながら応戦するが、如何せん数が多い。本来こうした多勢にはレーカの広範囲魔法が有効なのだが、今回は市街地戦。しかも周囲に一般生徒が押し寄せている。万が一の事故を考えると、大規模な魔法は使えず、単純な射撃型や近接攻撃で対処するしかないのだ。

 

「単純な物量が一番恐ろしいって身に染みたよ、畜生! あと何機で、超の奴はどこだよ……」

 

「さあね。それより、皆……」

 

「ああ。第二陣が来てるみたいだな」

 

「うっひゃー。ド派手なDance(ダンス)になりそうだねー」

 

 キッドの呑気な声に苦笑しながら辺りを見回す。路地にはロボットが犇めき、建物の上にも姿が見える。絶体絶命という奴だ。

 

「チッ。とにかく一点突破だ。敵の囲みを破ることに専念すれば――」

 

『――そうね。貴方たちなら出来るかも知れないわね』

 

 不意に響いた声に、四人全員が動きを止める。声の方に振り向くと、一機だけ武装を取り外された小型ドローンがあり、その下に小型のスピーカーとマイクが取り付けられていた。

 

『今回はこういう形になってしまったけれど……良ければ少しだけお話しない?』

 

「……シノンか」

 

 掠れたようなチウの声。その声が響いた路地から遥かな遠方。街を一望できる鐘楼の中で、『超包子』の刻印のあるレオタード型の軍用強化服(ボディスーツ)を纏った狙撃手(スナイパー)は、口元に微かに笑みを浮かべていた。

 




今回はユイの話メイン。原作では千雨が請け負った電脳戦は彼女が行う形に。『両親』にすら背いたユイと、『造り手』にあくまで従う茶々丸。このあたりはより長く人間に触れ、自分の『魂』を確立できたかの差ですね。両方年齢一桁ですが……

次回はシノン話。実は彼女の処遇は未だに決めかねてたり。狙撃手二人敵に回した戦場って、普通に敗北ですからw
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