麻帆良に響き渡る闘争の声。彼方此方で上がる激突の炎。それら全てを俯瞰できる場所で、超鈴音は佇んでいた。
「――全く、皮肉なモノだとは思わなイカ? ハカセ」
その唇から漏れたのは、自嘲。その瞳は眼窩の闘争を眺めたことでどこか悲し気な色を帯びていた。
「何がですかー、超さん?」
「この麻帆良の光景ダヨ。戦争を憎み、平和を望んでこの時代に来たと言うノニ……その手段が、自分が忌むべき戦争ナンダ。これは本当に皮肉でしかナイダロウ?」
彼女が本当に望むのは、記憶にある『あの戦争』が起こらないようにすること……。そのために人死には最低限だとしても、異なる『戦争』を起こしているんだから、全く笑えない話だ。
「……まあ、それはいい。元々血塗られた道ダ。それよりご先祖様は動き出したのカイ?」
「あ、そうですねー。下に配置した各機からのデータによると先程市街地に姿を現し、こちらの勢力を撃破しながら世界樹広場へと向かっているよーです」
「フム……」
今のところ大勢に問題は無い。何より≪黒の剣士≫一派の協力を得られた今、戦力的にはこちらが有利だ。ネギ先生たちを押し留めるだけの予備戦力が無いのが懸念材料ではあるが。現在超たちがいる場所が麻帆良上空の飛行船の上であることを考えると、地理的に言ってここに来れるのはネギ先生と桜咲刹那くらい。その二人なら同時に相手したとしても負けることなど有り得ない。
そうなると、現在もっとも不安材料となるのは、ただ一つ。
「……ハカセ、例の人物の捜索は、どうなってイル?」
「…………すみません、超さーん。私も茶々丸も、どこにも彼の痕跡を見つけることが出来ませんでしたー…………」
その報告を聞いて、僅かに歯噛みする。前々から下準備を進めていた麻帆良学園都市のネット環境の
(一体、どこへ行っタ――――――
ハカセからわずかに見えた超の横顔。そこにはわずかばかり焦燥も見て取れた。
◇ ◇ ◇
場面は変わり、キリトたちと激しい戦闘を繰り広げるコウ達。それぞれに別れた戦場において、今一つの決着がつこうとしていた。
「――――ふう」
ヒュン、と風を切る音を立てて、
そんな彼女の目の前に、上空から、重い音を立てて一人の少女が落下した。
「――っ、ぁ、が」
それは、戦闘開始前とは異なり、ボロボロになった装備を纏ったチウの姿だった。未だ意識は保っており、武器も手放してはいないが、まさしく満身創痍。ずりずりと身体を動かし、起き上がろうとする様は見る者の同情を誘った。
「…………もう、やめよう? チウちゃん、貴女じゃ私には勝てないよ」
チウに向けられるアスナの表情に浮かんでいるのは、心底から心配した感情。恐らくこれ以上は重大な怪我をさせてしまうとでも思っているんだろう。そして、少しばかり天然が入った目の前の女性に、裏表など一切ないこともチウは理解していた。もっともそれで納得できるわけでも無かったが。
(ふざ、けんなよ……なんだよ、あのスピードは!)
切っ先は、見えている。太刀筋も、読むことができる。だと言うのに、全く身体が追いつかない。もっともこれが他の誰かだったなら、今頃あっという間にアスナに負けていただろう。仮にも感覚強化に特化したチウだからこそ、彼女の
「…………っへ、悪い、が、まだまだ付き合ってもらう、ぜ……」
「…………」
チウにとって、ここまで苦しい戦いなど久々だった。アインクラッドであれば一時期コウを探し回ってソロで戦うことがあったが、それ以降は必ずと言っていいほど、隣に
だからか、同じような立場のアスナから、不意に妙な質問をされた。
「…………ねえ、チウちゃん。どうしてそんなに苦しい思いをしてまで、コウ君の隣にいるの?」
「…………あ?」
僅かに戦いが途切れたことを幸いに想い、考え込むふりをして呼吸を整える。出来る限り気取られないように。不自然にならないように。決してアスナの質問に戸惑ったわけではない。何故なら、その質問の答えは、ずっと前に出ていたこと。これからもずっと、彼女の中に変わらずに大切でいる気持ち。
「……………………………………………………………………惚れてるからに決まってるだろうが」
長い長い沈黙の後に、チウが出した答え。それは多分変わらない。彼女にとって変えられない。多分100年後で超にメッセージを託したとかいう自分でも、全く色褪せることが無かったと確信して言える感情。
その気持ちを聞いて、アスナは長い長い息を吐いた。
「…………まあ、そうだよねえ。恋愛では惚れた方の負け、とは良く言ったものだよねぇ……。うちのキリト君もさ、自分の好き勝手に動いてさー。挙句シノンとかアリスとか、あっちこっちで女の子引っかけて戻って来るし」
「ああ、それは言えるな。こっちもレーカとかキッドとか。どんどん増やしやがって、首輪でも付けなきゃいよいよダメか?」
「あ、それいいねぇ、首輪! キリト君が女の子引っかけるたびにギリギリと締め付けるとか!」
「孫悟空の輪っかかよ」
チウは、話しながらも少しずつ体力の回復を待つ。小賢しくても、卑怯でも、今は自分に出来る全部で勝利を掴む。それだけが彼女に出来る戦いであり、コウの隣を離れないと決意した彼女の覚悟でもあった。
目の前のアスナも、当然そうしたチウの魂胆に気付いている。気付いた上で知らないふりをして、付き合ってくれた。だが、それも限界に来たのだろう。周囲の喧騒から決着が近いと悟った彼女が、再び手の中の
「――さて! それじゃあ、私たちも決着をつけようか。もしもチウちゃんが私に勝てたら、
「本当に首を絞める首輪じゃないことを祈るばかりだな。まあ、決着には賛成だが」
互いに距離を詰め、得物を構える。下段にやや寝かせる形で構えるチウと、脇構えのように体の横に並行に構えるアスナ。徐々に徐々に間合いがつまり、一定の所で爆発した。
「ハアアアアアッ!!」
「――――――――!」
先手はアスナ。これは先程までと変わらない光景。紫の光を宿した
「くっ、ああああああああ!!」
下段から爆発的な斬り上げを放ち、五連撃を全て薙ぎ払う。渾身の斬撃に硬直する身体に向け、再びアスナの紫光の
「…………!」
攻撃は、再び五連撃。先程とは反対の肩口から五つの流星が殺到し、チウのわずかな体力を削り取る。そして、まだ終わらない。終わるわけなど無いと、チウは確信していた。
加速する視界の中、
轟音。弾けた衝撃は周囲を貫き、戦場を僅かな時間静止させた。一瞬手を休めた皆が、衝撃の源へと視線を集中する。
そこに立っていたのは、二人。一人は技を放ち終わり、驚愕に目を見開いたアスナ。そして、もう一人は。
武器から手放した左の手の平を、
「な――――――」
「ここは現実だからな……HPが削れても、命が残れば勝てんだよ!!」
右手一本で振り下ろされるチウの両手剣。その衝撃がアスナの肩口に炸裂し、ここに二人の戦いは決したのだった。
チウVSアスナ、決着!まあ、ゲーム内ならアスナの勝利だったんですがw
そして、いよいよきな臭くなってきた情勢。ヒースクリフもそろそろ本性を見せるかと。