魔法先生ネギま!~闇の剣と星の剣   作:路地裏の作者

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いろいろあって遅れました!



086 バーサス~黒の剣士と獣の騎士

 

「はあ、は…………」

 

 ようやく地面に倒れたアスナを見下ろし、チウが詰めていた息を吐いた。アインクラッドなら、負けていた。ALOでも、敵う相手ではなかった。ここが現実で、ほんのわずか自分の方が戦闘経験があったから勝てたに過ぎなかった。

 

 地面に横たわるアスナだが、怪我の程度は心配もいらないだろう。剣の腹側を肩口に落とされ地面に倒された衝撃で気を失っているだけだから、怪我があるとしたら肩の骨くらい。近衛の奴なら問題なく治してくれるはずだ。

 

 とりあえず周囲の戦況を確認しようと辺りを振り返ると、空中に鎮座する巨大な『水』の塊が目に入った。

 

「……………………あー」

 

「『ノアズ・アーク』」

 

 ゴポゴポという特徴的な水音を立て、10mを超える水球は地面へと落下した。周囲の水分を吸収していた大質量は、地面到達と共にはじけ、辺りのものを一切押し流していた。

 

「「「「わあああああああああああ?!」」」」

 

 当然中心部にいたエギル、リズ、シリカ、リーファの四人は水に呑み込まれもみくちゃとなる。しかし、それだけでは済まなかった。

 

「うっひゃー! ホント手加減なしだねー☆」

 

「オイ、キッド! レーカにこんな大規模なモン使わせるんじゃねえよ! 私らまで巻き込まれるだろうが!」

 

 洪水の中心部からダッシュで逃げてきたキッドに、チウが文句を言う。それでも彼女の後ろから迫る水の奔流は無くなることは無い。

 

「ああ、くそ!」

 

 足元で気絶するアスナを背中に背負い、水の流れと逆方向へと走り出す。水は留まるところを知らず、路地は全て川へと変わった。

 

「ああああああ、チクショウ! ALOでやられた時思い出すじゃねえか!!」

 

「圧倒的な洪水に呑み込まれての溺死だもんねー。リーファなんて、水恐怖症が再燃してたし」

 

 ALOでレーカと一対一で戦ったすべてのプレイヤーが、津波に呑み込まれるという恐怖体験を味わっている。そのため一部では、レーカの事を『水妖精(ウンディーネ)の青い悪魔』だの『トラウマ製造機』だのと酷い二つ名が付いていたりする。

 

 二人は忘れていることだが、鉄砲水や津波というものは、地形次第で人間よりも速度が速い代物である。そのため、進行方向に真っ直ぐ逃げる二人は、やがて津波に追いつかれていき……

 

「「う…………わあああああああああああああああッ?!」」

 

 水の中へと姿を消すこととなった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そして、そんな地獄絵図となった洪水のすぐ横では……

 

「オ――――ラァッ!」

 

「ぐっ!」

 

 洪水の届かない建物の屋上へと舞台を移し、コウとキリトの真剣勝負が再開していた。逆手に持った刀で胴を薙ぎに行き、防いだ瞬間にカウンターの突きを繰り出す。突きを皮一枚で躱したら、返す刀で腕を落とそうとする。お互いの行動が一発逆転のカウンター狙い。防御すら攻撃に組み込んで、相手をただ倒すためだけに剣を撃ち出す。

 

「ふっ――――――!」

 

 キリトの繰り出した≪ホリゾンタル・スクエア≫で一瞬お互いの間が離れ、そのままの距離を保ち互いに息を整えた。技量では圧倒的にキリトが上だった。剣戟への反応速度、技を選ぶ判断速度、相手の次の手を読む計算速度と、ありとあらゆる速度で、キリトが上回っていた。技量と速度で上回っている状態で、何故キリトが決着をつけることが出来ないのか。それは、ここが『仮想世界』ではなく、『現実世界』であるためだった。

 

 キリトが本領を発揮できるのは、あくまで『仮想世界』の中。超特製の軍用強化服で身体能力は並ぶことが出来ても、『持久力(スタミナ)』だけは変えようが無かった。ましてキリトは技術畑の人間で、元々身体能力が高い部類ではない。魔法を知ってから身体を鍛え続けていたコウやチウに比べれば、どうしても身体能力に劣る面があるのだ。

 

「は――、は――…………」

 

 荒く乱れた呼吸(いき)を見れば、追い詰められているのはむしろキリトの方。だと言うのに、コウはキリトのスタミナ切れを待って決着をつけようとはしない。先程からキリトの呼吸が整ってから、自身の力量によって正面から打ち破ろうと試みていた。

 

「は――――…………なあ、聞いていいか?」

 

「……なんですか、キリトさん」

 

 ある程度呼吸が整ったところで、キリトから振られた話題。スタミナの回復を待っているんだと気が付いてはいたが、それでもコウは律儀に受け答えた。

 

「…………お前さ、そんなにまでして≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫と戦いたいのか?」

 

 ……キリトにとって、それは一番の懸念。もしコウが≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫とどうしても戦いたい、仇を討ちたいというのなら、キリトとしては全力で止めるつもりでいた。未来のチウのメッセージ通りなら、そうだったからこそコウは死ぬことになったのだから。

 

 キリトの質問に対し、ややしばらくコウは答えることが出来なかった。眼を瞑り、やがて自分の中で答えをまとめたのか、ゆっくりと眼を開け呟いた。

 

「…………ラフコフのことは、今でも憎く思ってます」

 

 その言葉に剣を握るキリトの手に、一段と力がこもる。それなら、もしそうなら……

 

「けど、それだけじゃないです。ラフコフは、『魔法』のチカラを手に入れてしまった。これから先、たくさんの人を不幸に出来てしまう(・・・・・・)災いの種を。なら、それを止めるのは、アイツラの恐ろしさと執念を知っている俺の役割なんじゃないか、ってそう思うんですよ」

 

 そう言うと、コウは持っていたカタナと片手剣を順手に戻した。そのまま左手の片手剣を前にだし、構える。

 

「……自分の中で、あのアインクラッドを終わらせるために。ラフコフから自分の周りの大切を守るために。そして、これから出るかもしれないラフコフの犠牲者を一人でも減らすために! 俺は絶対、ここでは負けられません!!」

 

 その言葉を聞き、キリトがふっと口元を緩めた。足を溜め、剣を掲げるのは、コウとは対称の構え。≪二刀流≫専用十六連撃ソードスキル、≪星光連流撃(スターバースト・ストリーム)≫。長期戦はお互い望ましくないと見て、今すぐ決着をつけるべく一番の得意技で勝負を賭ける。お互いにとって、一番らしい決着の方法を選んだ。

 

 じりじりと間合いが詰まり、双方にとってひと動作で斬撃が届くところまで近づいたとき、一瞬の静止の後――――爆発した。

 

「お、おおおおッ!!」

 

「ハアアアアアッ!!」

 

 互いに繰り出すのは、全く同じソードスキル。十六の流星が、互いの間で激突し、炸裂する。お互いがこの攻撃に賭けるのは、信念、願い、その他諸々の全てを飲み込んだ、ただの意地。今はただ負けられぬと言う想いを乗せて、剣に込めて叩きつけるのみ。左、右と交互に繰り出す斬撃、両肩から交叉するように放つ斬撃、剣身をそろえて刻み付ける斬撃。威力も性質も違う斬撃が互いの間で何度も何度もぶつかり合う。

 

 しかし、このソードスキルについて言えば、本当は激突する前に勝負はついていた。

 

「ぐうッ…………!」

 

 次第に押され始めたのは、コウ。当然だ。この≪星光連流撃(スターバースト・ストリーム)≫は、元々キリトの得意としたソードスキル。それをALOに入ってから伝授されたに過ぎないコウでは、練度が違いすぎる。アインクラッドで、命がけで技を磨いた剣士と、ALOで技を伝えられたに過ぎない剣士の差が、如実に現れ始めていた。

 

「アアアアアア――――ッ!!」

 

「………………ッ!」

 

 十五撃目をお互いに放ち終わり、双方の左手が後ろに引き絞られる。最後の一撃は、左手で繰り出す渾身の『突き』。だけど、直感した。これ(・・)は激突の前に押し負けてしまうと、コウは直感してしまっていた。

 

(くっそ…………!)

 

 負けるのか。届かないのか。自分は、自分の因縁に決着をつけることも出来ない程に無力で――――――

 

 そんな気持ちでいっぱいになった時、ふと右手に握った黒刀から、いつか聞いた叱り付けるような声が聞こえた気がした。

 

 

 ――――阿呆。四の五のぬかす前に、精一杯やってみんかい。

 

 

「――――――!」

 

 聞こえてきた声に、反射的に『脚』が動く。『突き』にまるで重なるように繰り出されたのは、『瞬動』。アインクラッドで、最初の師匠の元で、それこそ死にもの狂いで覚えた技。一瞬だけの爆発的な加速が、最後の突きの威力を別次元へと跳ね上げた。

 

「が、っふ………………!」

 

 機械式の片手剣を粉々に砕かれながら、身に着けていた軍用強化服の胸部から機械部品を飛び散らせながら、キリトは吹き飛んでいく。ここに、二刀流の師弟の決着はついたのだった。

 

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