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轟々と唸りを上げる激流。そんな急流を這い上がった建物の上から見る者たちがいた。大自然の猛威を思わせる純度100%の『人災』を見て、二人の少女は口元を引きつらせている。
「……レーカのヤロウ」
「に、にひひ……危なかったね……」
激流から脱出したチウとキッドは、疲労困憊と言った様子だった。たった今、味方の誤射で藻屑と消えそうになったので無理もない。見ると二人の姿は全身くまなく濡れそぼっており、建物のふちに寝そべったまま立ち上がる気力もないようだ。
そして、彼女らの寝そべる建物の奥側、屋上のコンクリートの上には、二人やレーカと戦っていたアスナ、エギル、リズ、シリカ、リーファの五人の姿があった。全員が全員まさに濡れ鼠といった具合で、意識を覚ます気配はない。
そのまましばらくぼーっと空を眺めていると、やがてこの『人災』を引き起こした『青い悪魔』が現れた。
「……えっと、二人ともだいじょ――――うひゃあ!?」
「チッ……外れちゃったかー」
いきなり響く発砲音。目の前の洪水を引き起こしたレーカが現れるや否や、キッドがホルスターに入れていたデザートイーグルでヘッドショットを狙ったのだ。同じ運動系部活のメンバーで、しかも同じゲームで遊ぶくらい仲が良いのに、いきなりヘッドショットを狙う辺り、キッドもキッドで容赦がない。
「何やってんだよ、キッド」
「そ、そうだよ! いきなり悪い冗談は」
「狙うなら、キッチリ当てろ」
「チウ?!」
チウもまた濁流に呑み込まれそうになったことから思うところがあったようで、容赦が無かった。しばらくの間どこか緊張するような空気が流れたが、そんなところに近づく人間を察知して空気が緩んだ。
「そっちも勝ったんだな……どうしたんだ? チウもキッドも」
「なんでもないよー、なんでも」
「ああ、何でもないさ。一切合切何でもない」
「……………………」
コウがキリトを担いでやって来たため、表面上は和やかになったが、二人の危険な空気は水面下に沈んだだけのようで、レーカは内心涙を流した。
「こっちは終わったわけだけど……どうする?」
「あー……ネギ先生か?」
正直なところ、政府側として動いているチウたちは、今回魔法が世間にバラされるのは非常に困る。だから出来る限りは協力して事態を収めたかったのだが……。
「……皆はどの程度、魔力と気は残ってる?」
「私は、両方ともほとんど無くなった。なんにもしないなら後10分くらいはこのアバターでも保つだろうが、全力戦闘は無理だ」
「私も無理かにゃ~? 濁流からの大脱出でほとんどの魔力使っちゃったから」
「…………最後の全力全開で、ほとんど使い切りました」
尋ねたコウもまた、余裕は無い。正直今は、アバターを維持するのも辛い状況だった。
「……」
視線を一度空へと上げる。そこには杖に跨って空中高くの飛行船へと上がっていくネギ先生の姿。
「――あとは、他の皆に任せるか」
◇ ◇ ◇
任された戦場、電子情報が全てを司る世界の中で。
『ゆい様ー! 電子隔壁20番から70番まで浸食されてるッスー!』
「持ちこたえてください!」
『こちらからの操作、追いつきませーん!』
「ならば次の方法を試すまでです! チウちゃんたちが諦めるまで、私も諦めません!」
ユイの指揮のもと、電子精霊七部衆があっちへこっちへと動き回り、茶々丸の展開するファイアウォールを破らんと奮戦していた。もっとも片や100年後の最先端技術を投入されて作られた機械工学の申し子、片や魂と心を勝ち取ったとは言えあくまで現代技術の枠内で作られた電子世界の申し子。どちらが上かなどある意味分かり切ったことではあった。オマケにユイは、こうした電子戦を行う目的で生まれたわけではない。この日のために電子戦もプログラミングされている茶々丸とでは、端から勝負にならなかった。
「……そろそろ超の計画の予定時刻です。速やかに次の段階へと移らせていただきます」
「くっ……」
モニタリングされた外の景色では、機械制御された鬼神兵が麻帆良各地のパワースポットを占拠しつつあった。後一か所、ネギによって下半身を消し飛ばされた鬼神兵が到達すれば、超の勝利だ。
「では、これで。この場の勝利は、我々の――」
そうして、遂に茶々丸がユイに対し、勝利しようとした瞬間だった。
「――――残念ながら、そう言う訳にはいかないな」
声が、響いた。
「なッ!」
「これは!」
二人の周りに紫電が走り、展開していたモニターにノイズが走る。その表示は全て『WARNING』の文字。
『ゆい様ー! 我々、電子的に完全に
『どこかからの強力な干渉を受けてまーす! もう動けませーん!』
電子精霊たちのそんな声が響く。茶々丸もまた何とか動こうとするが、指一本動かせない。電子世界の中に、巨大な鋼鉄の鎖で縛りつけられたかのようだった。
困惑し、何とか事態を打開しようとする二人の耳に、カツカツ、という硬質な足音が響く。やがて深海を模した電子世界の中、それに似つかわしくない人物が姿を現した。
「あなたは……!」
茶々丸は、目の前の男を知っていた。超から探すように言われていた最重要人物として。
「どうして、ここに!」
ユイもまた知っていた。その男は、ある意味自分の『造物主』だったから。
「「――ヒースクリフ!!」」
現れた紅の騎士。電子世界の戦いは、今混迷の時を迎えようとしていた。
◇ ◇ ◇
そして、麻帆良上空。ネギと超の最終決戦の舞台にて。弾丸が飛び、雷が奔る。飛行船の上で繰り広げられる二人の戦いは、互いに切り札であった航時機、『カシオペア』を破壊することによって大勢が決しようとしていた。
『カシオペア』を持つ者は、例え魔法使い相手であっても後出しで勝利を掴むことが出来る。それは絶対のアドバンテージであったが、同じ『カシオペア』使い同士であれば通用しない。
そしてまたネギが、「味方になれ」という超の勧誘を断ったことで、魔法を使えるネギが圧倒的優位に立った。
「――ハア」
そんな圧倒的不利の状況で、超が溜息を漏らす。
「『私のことは否定しない、けれど味方にはならない』……カ。流石は私のご先祖様ネ」
そう漏らすが、彼女の顔に残念そうな様子は見られない。むしろ最初からこうなるのが分かっていたかのようだった。
しかし、そんな様子も次の言葉から変わった。
「…………ケドネ」
超の雰囲気が変わる。先程までの冷静沈着な様子はどこにも見られず、そこにいたのは、どうしようもないやり場のない怒りを内包した夜叉の姿。
「そんな思い一つで、自分の教え子を死なせる奴を、認める訳にもいかないンダヨ」
そう言い、超は懐から一つの金属の匣を取り出す。彼女にしか開けぬ、その蓋を開ける。空中に浮かぶように出てきたのは、輝きが失われていた、一つの『結晶』。
「それは!?」
ネギは、その結晶に見覚えがあった。京都の戦い、長谷川たち四人が力を発揮する際に、使用していたまさにその結晶。
そして超が、一つの願いと共に、『彼女』から受け継いだ結晶だった。
『――私たちを、ネギ先生を、止めて欲しい!』
「――――――――≪リリース・リコレクション≫」
結晶を掴み、言葉が紡がれる。それは、もう一人の自分、仮想世界の自分を呼び起こす、『魔法の言葉』。
「≪リンク・スタート≫」
次回、超がスーパーモードに……。ネギ君勝ち目あるのかな?
そして、ヒースクリフェ……