「な――」
それを目の当たりにした時、ネギは思わず息を呑んだ。今の今まで無骨で機能性重視の軍用強化服で覆われていた彼女の肢体が突如として変化した。黒曜の光が溢れ、再び現れた彼女が纏っていたのは、黒鉄の甲冑。その表面には紅い罅のような筋が縦横に走り、周囲に対する敵意を表すかのような刺々しい印象の甲冑だった。銅鎧に籠手、スカート状に広がったシルエットと、どことなくチウが現在纏う甲冑に似た印象を与える代物だった。そして、その手に持つのはチウと同じ意匠が施された漆黒の剣。表情の見えぬ
「――行くヨ」
次の瞬間、ネギの左肩から右脇腹まで、鋭い痛みが奔った。
「が……!?」
一瞬浮力を失い、高度が下がったのをあえて利用し、そのまま下方を大きく回り込んで超から距離を取る。振り向くと、自分の前に張っていた障壁が真っ二つに斬られ、空中へと溶けるように消え失せるところだった。
(≪ソードスキル≫……!)
その両手剣に宿る灰黒のライトエフェクトに当たりをつける。長谷川たちと全く同じ、障壁破壊に特化した魔力運用。それと敵対する恐ろしさに内心冷や汗をかきながら、再び20m程の距離で滞空すると、今度は超の方が追ってきた。
「そんな!」
明らかにさっきまでの強化服で浮かんでいた時とは比べ物にならない速度。よく見ると超の背中には紫色のコウモリのような翅が生えており、空中を自在に飛び回る。この瞬間に空中が何のアドバンテージにならないことを悟った。
「超さん、その力は……!」
「ああ、何てコトナイネ。私の『恩師』が授けてくれた力、ダ」
空中で≪
「長谷川、さんッ、たちと、同じ力を!!」
「その通りダ。おかしくはないダロウ? 私は彼女の『教え子』なのダカラ」
防がれる。崩撃が、双掌が、肘撃が、ありとあらゆる八極の一手が、一切通らない。身体に引き付けて構えた漆黒の両手剣で全て外側へと捌かれて、斬撃が目の前へと迫って来る。
「でも、どうやって! 確か、長谷川さんは、魔力と気の両方がある程度高くないと使えないって!!」
「オイオイ、ご先祖様、モウ忘れたノカ? 私は、サウザンドマスターの子孫ネ。コード――――」
ネギの耳に聞きなれない言葉が届く。それは、科学によって成される神秘。100年の後、遂に深奥へと到達した最悪の結実。
「ラスト・テイル マイ・マジックスキル マギステル
「――――!!」
その詠唱に慌てて近接戦闘の間合いを放棄し、距離を取る。同時に相手の詠唱終了までに唱えられるだけの障壁を多数展開し、全力で魔力を注いだ。
「――≪
「わああああああああああッ?!」
天空での最終決戦、空に大輪の焔が花開いた。
◇ ◇ ◇
「なにやってんだ、未来の私!?」
街中のスクリーンに映し出される上空での戦闘を見て、チウが叫び声を上げる。まあ、叫びたくもなるだろう。明らかに今の超が身に着けている甲冑は、チウの甲冑のモチーフにした某人気ゲームの登場人物、『オルタ』の甲冑なのだから。そんな甲冑を身に纏い、ソードスキルを使いこなし、あまつさえネギ先生並みの大魔法も使える存在。「やりすぎ」と言えるくらい理不尽な相手だった。
しかし、チウが騒いでいるのは、そんなことではなかった。
「よりにもよって! 自分の弟子に、お揃いの鎧着せるとか! しかもそれが闇堕ちした騎士王だとか!! イタすぎんだろ、アホーーーーッ!!」
青と銀で彩られた騎士王の鎧を纏った女性騎士が、将来の自分の痛々しさにもんどりうって転げまわる。中々シュールな状態ではあった。
「……あー、とりあえずあの鎧のことはひとまず置いといて」
「まあ、楽しそうなんだけっどもね~♪」
「……超の戦力分析と、これからの私たちの行動指針。この二つを念入りにしないとね」
悶絶するチウを放置して、話は進む。全員が疲弊しきった姿。だけれどそこに絶望は一切見えなかった。
◇ ◇ ◇
「はあ、はあ、はあ……!」
「……今のを耐えたカ。流石は私のご先祖様ダヨ」
あちこち焦げながらも空を覆う焔の渦から生還したネギ。その顔には魔力を瞬間的に絞り出したからか幾分疲労の色が見える。もっともそれは対峙する超も同じことだった。
「ヒュ――――ヒュ――――」
喘鳴が空気を震わし、彼女は身体中で呼吸を行っていた。彼女に施された呪紋は、魂を削り取ってチカラを得るもの。元々術者への影響など考えもしない代物で、無理やりに魔力を汲み出しているのだ。アバターを使ったソードスキルの使用、空中機動、魔法攻撃と、これだけのことを行っている超の消耗の方が激しくなるのは当たり前と言えた。
「ッ! ラスト・テイル マイ・マジックスキル マギステル
それでも、退かない。唇の端を噛み切り、無理やり意識を保って、彼女は魔法を唱え続ける。血を流し、傷を負い、それでも決してあきらめず。
「っ、こ、のおおおおっ!」
周囲に展開された火の精霊を風の精霊で迎撃し、ネギは拳に≪
「来い! ご先祖様!!」
対する超は八双に構えた両手剣を、一気に肩口から発射することで応じた。両手剣用単発重攻撃ソードスキル≪ヴォーパル・インパクト≫。
拳と剣。互いの想いが一度と言わず、何度も何度も手を変え技を変え、空の真ん中で激突する。
嵐のような攻防がやがて途切れ、互いに距離をとって30mほどの間合いで静止した。
「っ、はあ、は――……どうやらもう時間も無イ。次が最後の攻防になりそうネ」
言いながら、超は再び両手剣を八双に構える。同時に魔力を練り、全身全霊の攻撃を繰り出すべく準備を始めた。
「は――は――、ッ、超さん……」
言葉を切り、呼吸を整え、ネギもまた最後の攻撃に向け、体内の魔力を操る。正真正銘、次の攻撃で全てを絞り出すために。
互いに一度目を瞑り、見開く。己が全てをなげうつべく、詠唱が始まった。
「ラスト・テイル マイ・マジックスキル マギステル
詠唱のスタートが早かったのは、超。その剣を中心に焔が渦巻き、彼女の周囲を跳ね回る。彼女の得意とする≪ヴォーパル・インパクト≫に魔法を上乗せし、威力を無理に底上げするつもりだった。
「ラス・テル マ・スキル マギステル
対するネギは、かつて父が見せてくれた風と雷の砲撃魔法。必勝の颶風の顕現を、その掌へと収束させる。魔法使いとして優れた彼の資質が、超よりも早くスムーズな詠唱を実現していた。
「――≪
「――≪
発生は、同時。炎と風と雷の暴虐が両者の中間で暴れまわった。その余りのすさまじさに、映像を撮影していた報道スタッフが離れていく。
「ぐ、が、あああああ?!」
その暴虐の渦中に、超はいた。その剣の切っ先を少しでも押し込もうと、風と雷を突き破ろうと、ガリガリと生命と魂を削られながら一歩も退かなかった。
(負、け……!?)
一向に進まない目の前の魔法に、心が折れそうになる。それでも。ただ、それでも。
「……………ッ、サウザンドレインの願いの分まで――」
ジリジリと、ギリギリと、わずかに、本当にわずかに切っ先が進んでいく。飛び交った雷で、超の展開していた
「負け、る訳に…………いくかあぁぁああああああああああああああああああああッ!!」
咆哮。衝撃。轟音。遥か天空で瞬いた灼熱の閃光。それが麻帆良学園祭、最後の戦いの終幕だった。
最終決戦、終了。結末は次回。超のアバターは、もう言うまでもなく、セイバー・オルタ……赤やルーラーみたいな変化球一切なし。そっちでも面白かったかな?
気が付けば、超の方が主人公みたいに。どうしてこうなった……