――浮遊城アインクラッド。かつてのSAO事件の舞台でもあり、彼らSAO
「……ハカセ。あの城の詳しいデータは取れるカ?」
その言葉に呆然と空を見つめていた葉加瀬も我に返る。たちまち空中に画面をいくつも投影し、魔法的見地・科学的見地の両面から分析を開始する。
「――詳しいことは接近してさらに詳細な調査が必要になりますが、あの城は
「アア……『人造異界』ダナ……」
人造異界。かなり特殊かつ大規模な魔法体系に存在する、現実を浸食して異なる世界を作り出す魔法。もっとも大規模なものとしては、火星全土に作られた『魔法世界』が代表格だ。今回の大霊地の共鳴を利用した充溢な魔力なら、城の一つや二つ無理なく作り出せるだろう。
(こうなってくると……確認しておかなければならないネ)
そう結論付け、飛行船の機首側で気絶していたネギを介抱する。ハカセに用意させたタオルを濡らして額を冷やすと、やがてゆっくりと目を開けた。
「……え…………あれ……? 僕…………」
「おはよう、ネギ先生。早速で悪いノダケド、あの城に
そうたずねてこてんと首を横向ける。まだ意識がはっきりしないのか、しばらくぼんやりとしていたネギ先生は、やがて驚愕と動揺の声を上げた。
「な、なんですか、アレ?! アレも超さんの計画の内なんですか!? あんなもの誤魔化しようが――」
「驚いているところを見ると、初見ナノカ? ネギ先生、もう一度尋ねる。未来で、つまりは
再度はっきりと問いかける。その質問に落ち着きを取り戻したのか、ネギ先生は一度深呼吸して心を落ち着け、今度はしっかりとした口調で告げた。
「……いえ、ありません。向こうの未来では、あんなものは上空に浮かんではいませんでした」
「ソウカ……」
その答えに、超はさらに深く思考する。恐らく計画が予定通り行っていたのなら、茅場はここまで大々的に動くつもりがなかったのだ。だと言うのに、今回はこんな形で介入した。二つの未来に、何か大きな違いがあったからだろう。
ならば、現状どうすればいいのか。どのように動けばベストの未来となるのか。
「クソ……」
未来から来て、未来を変えようとした超鈴音は、見えぬ未来に吐き捨てた。
◇ ◇ ◇
状況を把握しようとしていたのは、地上の魔法使いたちも同じだった。
「な、なんなんですか、あの城は?!」
「落ち着け! 今はデータの収集だ! 城の正体がつかめ次第、学園長に指示を仰ぐ!」
周囲の魔法生徒や同僚を落ち着かせながら、モニターに映る巨大な浮遊城を歯噛みする思いで、明石教授は見つめた。
とてもじゃないが、あんな巨大で奇想天外なものは麻帆良結界の認識阻害では対抗できない。精々不思議じゃないかもと信じ込ませるくらいが関の山だろうが、それでも魔法バレの危険性を考えればやらない訳に行かない。だからと言って結界の効果を高めることも出来ない。あまりにも結界の阻害効果を強めれば、一般生徒に重大な影響が及ぶことも考えられる。
懸念はいくつもある。現在麻帆良学園都市内部には、政府機関と連携を取る関西呪術協会の構成員たちが多くいる。元々過激派で西洋魔法の排斥派だった彼らは、こちらへの攻撃材料を探しているはずだ。今回のように大規模な魔法バレに繋がる事態は格好の攻撃材料だろう。日本政府もこれ幸いと麻帆良に介入してくるだろう。そうならないよう超一派を抑えようとしてきたが、どうやらあの城によって大勢は決してしまった。
(我々の…………負けだ……)
関東魔法協会は、たった一つの城によって、風前の灯火となったのだ。
◇ ◇ ◇
そして、遂に城の主が姿を見せる時が来た。突如として空中に投影されたディスプレイ。そこに映し出されていたのは、まるで鮮血のように紅いローブを目深にかぶった不気味な人影だった。
その姿を認めたSAO生還者が一様に身体を強張らせる。モニターの中でまるで鮮血が滲むように現れたその登場は、何よりその姿は、あの日のデスゲームを宣告した人物を否が応にも思い出させた。
『――私の名は、ヒースクリフ。今や遂に天空に顕現した、あの城の唯一の主だ』
言葉と共に、フードを取り払う。銀髪を上品にまとめた真紅の鎧を纏う騎士。まさしくあの日、アインクラッド第75層で戦い、死んだはずの聖騎士の姿だった。
『あの城を私が現実に持ち込んだ理由だが……本来は、こんな形をとるつもりは無かった。今回、『火星ロボット軍』がその目的を果たすのなら、介入するつもりはなかった。魔法使い側の敗北に終わるのなら、傍観するつもりでいたのだ』
その言葉に超が訝しむ。それならば、自分はネギに勝ち、計画は成就寸前だったはずだ。こんなところで彼が介入する理由などどこにも無い筈。
だが、次の彼の言葉でそれも否定された。
『それでも介入した理由は――――君だよ。ネギ・スプリングフィールド』
画面の中の騎士と、飛行船の上で様子を窺っていたネギの視線が交差する。その視線の圧力に、思わずネギが一二歩後退する。
「え……?」
『君は、決意したのだろう? どれだけ泥を被ろうと、父の後を追う道を行く、と』
「! ……そうです。それの何がいけないっていうんですか!」
後ろに下がった足を、怒りで前に進める。子供らしい、実に真っ直ぐな思い。だが、それでも。
『だからこそ、だ。君の父の辿った足跡をそのまま辿るなら、君は必ず――――『世界』か、『仲間』か。もっとも辛く厳しい選択を迫られることになるだろう』
その言葉に、僅かにネギの呼吸が止まる。目の前の人物は、父を知っている。タカミチやエヴァが教えてくれたよりも深く。それがよくわかり、彼はその衝動を抑えられなかった。
「父さんを知っているんですか!? 教えてください! 今、父さんは――」
『……教えることは、出来ない。君がそうである限り、例えこの戦いで火星ロボ軍団が勝とうが、魔法使いが勝とうが、何時かは君は『世界のために』というお題目で、
パチン、という軽いフィンガースナップと共に、地上にいた≪The Skullreaper≫がコウ、チウ、レーカ、キッドの四人を取り囲み、その身に光を纏わせる。円を描く白骨の中心に、新たな魔法陣が描かれる。
「マズイ!」
「あんのヤロウ! 何を!」
「……!」
「やっば……!」
収束した光が爆発し、煙が晴れる頃、≪The Skullreaper≫に囲まれていた四人の姿は、どこにも見えなくなっていた。
『――――――私は、全ての未来を覆す』
ヒースクリフさん、ご登場。そして、コウ達が一時退場。まあ、行方については次回やりますが。
ネギの目的……最初はずっと、『父のことを知りたい』だったのに。いつの頃からか、その父の友人たちが仕向けた『父の跡を継ぐ』に書き換わっているんですよね。会う人間会う人間、それを望んでいる奴ばかりだから、仕方ないのかも知れませんが。ヒースクリフは、その辺りに違う見解を示してます。