デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)   作:赤石アクタ

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第二十話 なぜか開戦五秒前

「──あの洋館か」

 

「はぁ、最悪。何が哀しくてあんなボロい屋敷に入んなきゃいけないわけ?」

 

「場所は関係ない。怒りを発露するか否かを分けるのはそこでの出会いのみだ」

 

 

 遠巻きに洋館を眺める三つの影。

 

 人型ではあるのだけれど確実に人間では無い。

 

 そんなシルエットが闇に紛れ、洋館に向かって歩を進めていた。

 

 

「なんにせよ、喜ばしい限りさ。ここからの役目は至ってシンプルなんだから」

 

 

「──行こう」

 

 

 

──洋館東棟。アカネ、ヒビキチーム──

 

 

 

「──ここは、結構広いな」

 

「ホールになってるみたいね。部屋がない分、調査も早く済みそう」

 

 

 この洋館は二棟とも、しばらく通路を進むと大きなホールに出るようになっているらしい。

 

 等間隔に部屋が設置されていた通路と比べたら広々とした空間だが、ここはあくまで中間地点である。

 

 このホールを中心として対称的な通路が奥にも存在し、その先で東棟と西棟の二つが繋がるといった形だ。

 

 

 鵺達ともそこで落ち合うことになっており、つまり今はようやく調査の半分が終わったという感じだった。

 

 

「じゃあ、さっさと──」

 

「──ッ!?アカネッ!」

 

 

 突然、ヒビキに強い力で引き寄せられた。

 

 

──瞬間、ガラスの割れる甲高い音。

 

 

 見れば、ガラス張りになっているホールの天井部分が破られており、パラパラと破片が降ってきていた。

 

──そして、破片と一緒に降ってきた人型の何かが、奥への通路を塞ぐように立っている。

 

 

「──ハハッ!ビンゴだ!喜ばしいねぇ!!」

 

 

──それは、人間じゃなかった。

 

 人型ではあるし、高級そうなスーツも着ている。

 

 しかし一目見て『異形』と分かる見た目をしていたのだ。

 

 

──原因は両手足と頭。

 

 

 彼の手足はまるでデフォルメされたキャラクターのように普通よりも大きかった。

 

⋯⋯正確には身につけている手袋と靴が、だが。

 

 

「⋯⋯んー、あんま強そうじゃないけど⋯⋯おーい!お前ら二人、どっちか能力者だったりするかー!?」

 

 

──そして、頭部。

 

 頭部は布で包まれており、顔を模したであろう粗雑な落書きが施されている。

 

 

──そして、何故かその頭部は蠢いていた。

 

 窮屈そうに、突き破ろうとするように、内側から力を加えられているように見える。

 

 

「あれ?聞こえてない?俺声出てるよな?」

 

 

⋯⋯理解はできないが、恐らく敵だろう。

 

 本能的に感じた危険信号に従い、身体を──

 

 

「──待って⋯⋯!」

 

 

⋯⋯動かす前に、警戒した様子のヒビキに止められた。

 

 

「待って⋯⋯お願いだから動かないで⋯⋯」

 

「⋯⋯」

 

「⋯⋯」

 

 

「⋯⋯あいつをぶっ飛ばして──」

 

「──口に出すのもダメ⋯⋯!」

 

 

⋯⋯怒られてしまった。

 

 

──瞬間、先程聞いたガラスを突き破る音が西棟の方から聞こえてくる。

 

 

「──ッ!?橘達の方にも⋯⋯!?」

 

「おいおい、余所見すんなよ。お前らには俺がいるんだから」

 

 

 目の前の相手は見るからに強く、当然余所見なんてできそうはずもない。

 

⋯⋯だが、こいつらの目的は?

 

 橘の方にも敵が現れているのなら、恐らくこれは複数人による計画的な強襲。

 

⋯⋯俺たちがこの洋館に来ることを知っていたのか⋯⋯?

 

 

「お仲間が心配か?残念だが俺がいる限り様子を見に行くことは叶わないぞ」

 

「⋯⋯何が目的だ」

 

 

 問いかけると、目の前の男(性別があるのかも分からないが)は大きめの拳を握り、ファイティングポーズをとった。

 

 

「──手合わせ願いたい」

 

「「⋯⋯⋯⋯」」

 

 

⋯⋯なんでだよ⋯⋯!

 

 

 

──洋館西棟。鵺、ナギサ、ヴィクトリアチーム──

 

 

 

「怒りで身体が震えるぜ⋯⋯なんであんなに強そうな奴がいるんだ?」

 

「はぁ、マジで最悪。二択でハズレを引くなんて⋯⋯こんな哀しいことってある?」

 

 

「⋯⋯なんか変なの降ってきたんだけど⋯⋯」

 

 

 鵺がげんなりした様子で吐き捨てる。

 

 しかし、天井を突き破って現れた目の前の存在は、確かに『変なの』としか形容できないものだった。

 

 

「⋯⋯アイツ、よく見たら魔神か⋯⋯チッ、ホントにハズレかよ⋯⋯あぁ腹立たしい⋯⋯!」

 

 

──まずは、先程から分かりやすく苛立ちを露わにしている一体。

 

 人型ではあるのだが、顔の部分がスピーカーになっている。

 

⋯⋯唯一、口だけは存在するのだが、なによりもそこが不気味だった。

 

 

──話す内容と口の動きが一致しないのだ。

 

 実際に彼が話している内容よりも、明らかに多く口が動いている。

 

 

──出力される情報量の不一致。

 

 それが、酷く不気味で恐ろしく感じられた。

 

 

「⋯⋯はぁ、何が哀しくて魔神なんかと戦わなきゃいけないわけ?私達への配慮が足りなくない?」

 

 

──そして、先程から落ち込んだ様子でずっとため息をついているもう一体。

 

 一昔前のセーラー服を纏った彼女もスピーカーと同様に人型ではあるが、その頭部は開いたガラケーのようになっていた。

 

 液晶画面は淡く光り、彼女が何か喋る度に画面に絵文字が表示される。

 

 彼女の言葉とは裏腹に、表示される絵文字は可愛らしく、ポジティブなものばかりだった。

 

──その不一致さが、やはりこちらを不安にさせる。

 

 

「あの人達は──」

 

「──間違いない!あいつら『能力者狩り』だ!!」

 

 

 私が言葉を発するよりも早く、鵺が叫んだ。

 

 

「知ってるのか鵺?」

 

「能力者を狙って襲ってる奴らだよ!ファンスレとアンチスレがどっちも伸びてたからよく覚えてる!!」

 

「──はぁ!?なんっだよそれ!?」

 

 

 怒号を発したのはスピーカー(仮名)だった。

 

 

「おい!どういうことだ!?俺たちのスレが立ってるぞ!?ネットの情報は全部お前が消すって話だったよな!?ファンスレはともかくアンチスレは速攻消せよ!?」

 

「黙って!私の情報管理は絶対よ!スレッドなんて立つ訳ないでしょ!!」

 

「はぁ!?でも実際あいつが──」

 

 

「⋯⋯うわぁ、ほんとに『能力者狩り』なんだ⋯⋯コスプレとかじゃなくて⋯⋯?」

 

 

 ぎゃいぎゃいと言い争いを始める二人に、鵺がドン引きしたように顔を引き攣らせる。

 

 

「⋯⋯あのガキ⋯⋯ッ!?もしかして⋯⋯ッ!」

 

 

「⋯⋯鵺、どういうことですか⋯⋯?」

 

「『能力者狩り』っていうのは、ちょっとした都市伝説だよ。まさか実在するとは⋯⋯」

 

 

──異形の姿で現れ、夜な夜な能力者を狙って暴力行為を働く存在。

 

 鵺の説明によると、それこそが都市伝説『能力者狩り』らしかった。

 

 

「スレの話はうっそぴょーん」

 

「──ガキッ!カマかけやがったなッ!?」

 

 

⋯⋯異形のキーワードでピンと来たのかもしれないが、ものすごい機転と度胸だった。

 

 

「⋯⋯いや違ったらどうするつもりだったんだよ⋯⋯」

 

 

⋯⋯しかし、なぜ『能力者狩り』が私達を⋯⋯?

 

⋯⋯私自身は能力者でないことに加え、彼らは魔神であるヴィクトリアを指して『ハズレ』だと言っていた。

 

 つまり──

 

 

「⋯⋯あの人達の狙いは、鵺⋯⋯!」

 

「あ、やっぱり?」

 

 

 鵺はどこか気まずそうにこちらを見る。

 

⋯⋯鵺に、能力を使わせる訳にはいかない。

 

──私達で、鵺を守り切らなきゃ⋯⋯!

 

 

「⋯⋯恐らくあの女の方が魔神の契約者だろうな。あっちは無視していい」

 

「はぁ、あの小さい子の方は能力者だといいけど⋯⋯いや待って、たとえ魔神と契約してても、能力者でないとは言いきれないんじゃない?」

 

「能力者がわざわざ魔神なんかと契約するか?」

 

「無いとは言いきれないでしょ?」

 

「⋯⋯チッ、分かったよ。じゃあ結局──」

 

「そうね、結局は──」

 

 

「「──攻撃すれば分かる」」

 

 

 

──洋館東棟。アカネ、ヒビキチーム──

 

 

 

「二人まとめてで構わない。来い」

 

「なんで偉そうなんだあいつ⋯⋯」

 

 

 未だファイティングポーズを崩さないマスク(仮名)を前に、ヒビキと二人で顔を見合わせる。

 

 

「⋯⋯とりあえず、私が戦うわ」

 

「⋯⋯大丈夫か?あいつは⋯⋯」

 

「分かってる。アカネ──」

 

 

 ヒビキは力強い瞳でこちらを見据える。

 

 

「──『本気』で戦うわ」

 

「⋯⋯そうか、分かった」

 

 

⋯⋯不安ではあるが、共闘をするにも経験が無さすぎる。

 

 かえってパフォーマンスが下がる可能性もあるため、これ以上は何も言えなかった。

 

⋯⋯しかし──

 

 

「む?一人ずつでいいのか?」

 

 

──奴は強い。

 

 ふざけた態度とは裏腹に、奴の構えは完璧と言える程に整いきっていた。

 

 二人まとめてなどといったのも、決して驕りからではないだろう。

 

 

──奴は、二人相手でも勝てるという確信があるのだ。

 

 

「対等を意識してくれているのか?素敵な精神性だが、この状況においてはあまり喜ばしいとは言えないな⋯⋯その上で聞こう!」

 

「⋯⋯」

 

「──君はどうする?」

 

 

 余裕そうに問いかけてくる相手に対して、ヒビキは冷たく、表情を変えずに答えた。

 

 

「──切断するわ」

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