デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)   作:赤石アクタ

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第二十一話 斬撃(如月ヒビキの場合)

──如月ヒビキの能力『彼方の切断痕(カットイン・ザ・スペース)

 

 

 空間を斬り裂く力。

 

 カッターナイフで虚空を斬ると、その座標が『斬られた』状態になり、『歪み』が生じるようになる。

 

 斬られた座標はヒビキの意思で『ずらす』ことが可能となり、この際生じる歪みに耐えきれず、巻き込まれた物体は切断される。

 

 また、『座標をずらした際の歪み』を応用して空間を圧縮し、バグ技のように擬似的な瞬間移動も可能(正確には高速移動が正しい)

 

 

 通常、能力者自身は自らの能力を感覚的に理解しているものだが、それ故に他者への説明が難しい場合も多く、この能力などは特にそれが顕著である。

 

 

 

──洋館東棟。マスク視点──

 

 

 

 目の前の少女が武器を構える。

 

 大きなカッターナイフのようなそれは、正直あまり脅威には感じられなかった。

 

⋯⋯まぁ、お手並み拝見だな。

 

 

「──ふ⋯⋯ッ!」

 

「──うぉッ!?」

 

 

──瞬間、少女がノールックで武器を投擲してくる。

 

──あのデカさで投げ物かよ⋯⋯ッ!?

 

 

⋯⋯反射的になんとか避けるが、ビビるのには十分すぎる。

 

 カッターナイフは不規則ながらも山なりに弧を描き、衝撃音とともに地面へ突き刺さった。

 

 

「⋯⋯ハハッ⋯⋯中々荒っぽい戦い方だ⋯⋯」

 

 

⋯⋯しかし、これであの女は武器を手放したことになる。

 

⋯⋯今の投擲は、初見殺しの一発ネタってだけだったのか⋯⋯?

 

⋯⋯そうは考えにくい。

 

 

──そこでふと気づく。

 

⋯⋯あ?あの女、いつの間に消え──

 

 

「──ッ!?」

 

 

──鋭く空を斬る音。

 

 

「⋯⋯なん、だ⋯⋯ッ?」

 

 

──今、何も無い空間から手が伸びてきた⋯⋯?

 

 手には通常サイズのカッターが握られており、それがそのままこちらに振るわれたのだ。

 

⋯⋯なんとか回避したが、避けるだけで精一杯だった。

 

 持っていたカッターは何の変哲もない普通のもの。

 

⋯⋯あのバカでかいカッター以外にも、通常サイズのカッターを複数所持していると見るのが妥当だろうな。

 

⋯⋯それにしても、今の攻撃はどこから⋯⋯?

 

 あの女が消えたのも理解できない。

 

──恐らくこれこそ、あの女の能力⋯⋯!

 

 

「一体どこ、に──」

 

 

 辺りを見回すまでもなく、少女を視界に収める。

 

 奴はいつの間にか、バカでかカッターが突き刺さった地点まで移動しており、既に武器を引き抜いていた。

 

 

──いつの間に⋯⋯!?

 

 

⋯⋯だが、これでいくつかの情報を得ることができた。

 

 あの女が能力でできることは今のところ二つ。

 

──瞬間移動と、虚空から体の一部だけを現すこと⋯⋯

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

⋯⋯依然、情報不足なのは変わらない。

 

 しかし現状、あの女が正面からの戦闘を避けているというのは確かだろう。

 

 武器の投擲に奇襲、そのどちらもが近接戦が苦手であることを物語っている。

 

⋯⋯俺の能力は対象に直接触れなければならない上、そもそも人間には効きが悪い。

 

──つまり、向こうの能力を把握できていない今、奴にペースを握られたままではいけない⋯⋯!

 

 

──一気に距離を詰めて叩く⋯⋯!

 

 こちらの意図が伝わったのか、彼女は身に纏ったオーバーサイズの上着を揺らし、くるりと回りながら後ろに飛び退く。

 

 

「──無駄だッ⋯⋯!」

 

 

──入る⋯⋯!

 

 

「──」

 

「──ッ!?」

 

 

──直前、咄嗟に動きを止め後ろに下がる。

 

⋯⋯拳が入る寸前までいったというのに、こちらから距離をとってしまっていた。

 

 

「⋯⋯ッ」

 

 

──しかし⋯⋯いまっ⋯⋯今殴ったら、ヤバい感じがした⋯⋯ッ!

 

 

 本能的に拳を引っ込めたが、杞憂だったとしたらチャンスを逃してしまったということだ⋯⋯

 

 彼女はこの隙を見逃さず、引き抜いたカッターを構える。

 

──また投擲が来る⋯⋯ッ!

 

 

「⋯⋯チッ⋯⋯」

 

 

⋯⋯仕方ない⋯⋯やはり彼女の能力を暴かなければ、勝てはしないだろう⋯⋯!

 

 覚悟を決め、再度拳を固めた。

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「──ぐぁッ⋯⋯!?」

 

 

 また斬り傷が増える。

 

 既にかなりの斬撃をくらっているが、なんとか致命傷を避けることには成功していた。

 

 しかし、時間をかけて観察した結果、彼女の能力はだいぶ理解できたように思う。

 

 

──まず、カッターを投擲した際の軌道こそが、彼女の能力の発動範囲だ。

 

 思い返してみれば、虚空からの攻撃は毎回投擲の軌道上での事だった。

 

 彼女が毎回、投擲した武器のそばに現れるのも当然のことである。

 

──武器そのものが、能力の『軌道』なのだから。

 

 

──次に、投擲した際何が起こっているのか。

 

 これは恐らく『歪み』を生み出す類の能力と推察される。

 

 投擲の軌道上は、よく見ると少し空間が歪んでいるのだ。

 

 彼女はこの『歪み』を利用して、移動や攻撃の起点としている。

 

 

──この『歪み』こそ、奴の能力の本質⋯⋯!

 

 

 これに気づけば、あの時俺が拳を引っ込めてしまった本能的恐怖の理由も分かってくる。

 

 

──彼女は『歪み』を纏っているのだ。

 

 服の内側などにカッターナイフを仕込み、刃を出した状態にしておく。

 

 その状態で本人が動けば、それは『軌道』を生み出す行為として成立するのではないだろうか?

 

 

 あの時彼女がわざとらしく一回転したのも、全身に『歪み』の鎧を纏うためだったと考えれば自然だ⋯⋯!

 

⋯⋯もしあの『歪み』に俺の拳が巻き込まれていた場合、攻撃を防がれるだけでなく、カウンターを食らっていた可能性すらある。

 

 

──では、彼女は無敵なのか?

 

⋯⋯当然、そんな事は無い⋯⋯!

 

 

「⋯⋯安全圏にいるつもりかよ⋯⋯ッ」

 

 

──次だ⋯⋯!

 

──そろそろ一泡吹かせてやるぜ⋯⋯ッ!

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「──ふん⋯⋯ッ!」

 

 

 投擲されるカッターを気合いで避ける。

 

 何度もくらっていれば、流石に回避率も上がるというものだ。

 

 

「──うっ⋯⋯」

 

 

──そしてここで、あえて隙を見せる⋯⋯!

 

 ふらついたように見せ、歪みの方へと一歩後ずさる。

 

 

⋯⋯⋯⋯来るか⋯⋯来い⋯⋯ッ

 

 

「──」

 

 

──今⋯⋯ッ!

 

 

「──そこだッ!!」

 

「──な⋯⋯っ!?」

 

 

──掴んだッ!

 

 

「このまま⋯⋯ッ!」

 

 

──引きずり出す⋯⋯ッ!

 

 

──歪みに対して、こちらが一切干渉できない訳では無い。

 

 歪んだ空間を利用することにより巧妙にカモフラージュされているだけで、彼女は確かにそこにいるのだ。

 

 故に、一部を掴めばそこから引きずり出せる⋯⋯!

 

 

 そして、そのまま──

 

 

「──おらァッ!!」

 

 

──拳を振り抜くッ!

 

 引きずり出した彼女の腹部を、アッパーカットの要領で抉り抜く!!

 

 

「──が、は⋯⋯ッ」

 

 

──能力にはキャパシティというものが存在する。

 

 能力者は基本、『能力を使う』という行為をはっきりと意識しなければ能力の発動ができない。

 

 複雑な能力を持つものにとっては、普遍的な悩みの一つである。

 

⋯⋯もちろん例外もいるが。

 

 

 しかし戦いの中で確信した。

 

──彼女は、攻撃と防御を同時には行えない⋯⋯!

 

 投擲後の武器のそばで張り、移動直後を狙ってもよかったのだが、それだと防御が間に合ってしまう可能性が高かった。

 

 故に、直接攻撃してくるこのタイミングこそ最適⋯⋯!

 

 

「──ヒビキっ!」

 

 

 打撃の反動で地面に叩きつけられた女に、男の方が駆け寄る。

 

⋯⋯今思えば、あの女の能力は共闘には向かない類のものだと感じた。

 

 一人ずつ戦うことこそ、彼女達の最適解だったのかもしれない。

 

 

「⋯⋯げほッ⋯⋯アカネ⋯⋯あいつの、拳⋯⋯」

 

「⋯⋯拳?」

 

「⋯⋯電気みたいなのが走って⋯⋯それで⋯⋯衝撃が、全身に伝播するみたい、で⋯⋯」

 

 

 そこまで言って、少女は項垂れてしまった。

 

 言葉の通り、彼女は全身が小さく痙攣しており、ダメージは深そうだった。

 

⋯⋯これであっちは戦闘不能。

 

 

「⋯⋯ヒビ、キ⋯⋯っ」

 

 

 男の方は女のそばで固まってしまっている様子だ。

 

⋯⋯不味いな。心が折れたか⋯⋯?

 

 

「⋯⋯ハハッ⋯⋯吹くのは泡じゃなくて、血反吐になっちまったなぁ?」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

 殴った際に落ちたであろう普通サイズのカッターを踏み潰し、煽るように言葉をかけてみるが反応が無い。

 

⋯⋯さて、どうしたものか──

 

 

「──指向性」

 

「⋯⋯は?」

 

 

 唐突な言葉に、反応が一拍遅れる。

 

 

「『衝撃に指向性を持たせ、操作する』⋯⋯それがお前の能力だ」

 

 

 男は顔を上げず、静かに告げた。

 

 

「⋯⋯何故そう思う?」

 

「ヒビキが殴られたのは腹部。しかし腕や膝にも内出血が見られ、恐らく内臓の損傷も激しい」

 

 

 すらすらと語る口調は、既に判断を終えている様子だった。

 

 

「それに、ヒビキの言葉。お前は殴ったものに拳から電気信号を与え、その信号を媒介として衝撃を運ぶ。違うか?」

 

「⋯⋯ッ」

 

 

⋯⋯こいつ⋯⋯ッ

 

 

「急所となる脳まで衝撃を移動させなかったのは、限界距離があるからだ。恐らく腕の内出血の位置がそうだろうな」

 

 

「⋯⋯得意げに語ってるとこ悪いけどよ。その女、もう死ぬぜ?」

 

「⋯⋯そう思うか?」

 

「人間の急所は一箇所じゃない。脳以外にも、一発アウトの場所が腹の近くにあんだろ」

 

 

──即ち心臓⋯⋯!

 

 流石に破裂させる程の衝撃は与えられなかったため、今のはハッタリだが、確実にダメージは入っている⋯⋯!

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

 少年は動揺もせずに、抱き抱えた少女の懐から何かを取り出した。

 

 

「⋯⋯?ッ⋯⋯お前⋯⋯!その手に持ってるのは⋯⋯ッ!?」

 

 

──奴の手に握られているのは、カッターナイフだった。

 

 

「──ヒビキの防御は、間に合ってたよ」

 

「──ッ」

 

 

──ダメージを、軽減されていた⋯⋯!

 

 

「⋯⋯⋯⋯ハハッ⋯⋯」

 

 

⋯⋯落ち着け、軽減されたとは言え、あの女はもう戦えない。

 

──形勢は依然こちらが優位⋯⋯!

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

⋯⋯だが、こいつは⋯⋯

 

 

「⋯⋯それで?」

 

「⋯⋯は?」

 

 

──この男は⋯⋯!

 

 

「能力、当たってただろ?」

 

「⋯⋯ははは⋯⋯ッ!」

 

 

 少年がゆらりと立ち上がり、強い意志を宿した瞳でこちらを睨む。

 

⋯⋯ここからだ⋯⋯

 

 

「──正解ッ!!」

 

 

──ここから、第二ラウンドだ⋯⋯!

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