デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)   作:赤石アクタ

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第二十三話 魔弾の使い方

「⋯⋯あぁクソッ⋯⋯全身が痛ェ⋯⋯」

 

 

 マスク(仮名)は痛みで軋む身体を何とか奮い立たせる。

 

 

「⋯⋯さて、どうするかな」

 

 

 視線の先は当然、先程まで死闘を繰り広げた二人の少年少女。

 

 アカネとヒビキには知る由もないが、マスクの目的は別に二人の殺害ではなかった。

 

──しかし。

 

 

「⋯⋯」

 

 

 二人との戦闘を経て、マスクは確信していた。

 

──この二人は危険であると。

 

 よってマスクは、当初の想定には無かった『殺害』へと、この時既に思考を切り替えていた。

 

 

「⋯⋯ッ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯ッ」

 

「⋯⋯おっと。お前、まだ意識あんのか。丈夫だねぇ」

 

 

 しかし、ここでもう一つの想定外。

 

 ヒビキの方は度重なるダメージで既に意識を失っていたが、アカネは違った。

 

 二度の蹴りによる衝撃で身体をふらつかせながらも、彼はヒビキを庇うように前に立ちファイティングポーズを取ったのだ。

 

 

「⋯⋯ハハッ、喜ばしいねぇ。そういうガッツは嫌いじゃないぜ」

 

 

──長丁場になる、むしろここからだ⋯⋯ッ!

 

 そんな直感を抱きながらしかし、彼らを殺すという決意は揺るぎなく。

 

 マスクが一歩踏み出した瞬間だった。

 

 

「──ッ!?」

 

 

──雷鳴。

 

 そう形容するのが最も近いであろう衝撃と閃光が西棟の方角から放たれた。

 

 

「⋯⋯ッ」

 

 

──その瞬間、マスクは決断した。

 

 彼はアカネとヒビキを無視して、一目散に西棟へと跳躍したのだ。

 

──彼にとって、最も優先すべきもののところへと。

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

 残されたアカネの倒れ込む音が、静かに響いた。

 

 

 

──洋館西棟。鵺、ナギサ、ヴィクトリアチーム。マスクとの戦いが始まったのと同時刻──

 

 

 

 相対する二体の異形。

 

 頭部がガラケーになっている女性と、頭部がスピーカーになっている男性。

 

 

「──はぁ、なんでこんな哀しい作業を⋯⋯」

 

 

 ガラケー(仮名)が指を鳴らすと、顔文字が頭上に浮かび上がり、バラバラに分解し始めた。

 

 そしてそれら一つ一つがこちらに狙いを定める。

 

 

「⋯⋯あれがあいつの能力か、嬢ちゃん!」

 

「うん、分かってる⋯⋯!」

 

 

 とりあえず、優先すべきは鵺⋯⋯!

 

 まずは鵺の安全を確保しないと──

 

 

「──あ、私のことはお構いなく」

 

「え?」

 

 

⋯⋯しかし鵺は余裕そうに飛んでくる文字や記号を避けていた。

 

 

「えぇっ!?す、凄い⋯⋯!鵺、身軽ですね⋯⋯」

 

「あはは、まぁ避けるくらいしかできないけどね〜」

 

 

⋯⋯どうやら鵺は心配いらなそうだ。

 

 

「うおっ⋯⋯!?触るとちょっと痺れるな⋯⋯」

 

 

 ヴィクトリアも当然のように攻撃を弾いている。

 

 

「ま、この程度なら余裕だな。どんどん距離詰めてこうぜ」

 

「そうだね!私も頑張っちゃうよ!!」

 

「鵺は避けるのに集中してください⋯⋯!」

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

 顔文字による弾幕を張りながら、ガラケーは冷静に敵を分析していた。

 

 敵戦力の要は明らかにあの魔神。

 

 魔神以外の二人は回避に集中しており、魔神を中心として段々距離を詰めてきている。

 

 この事から、恐らくあの魔神は近接戦闘に特化しているのだろう。

 

──魔神の射程距離まで近づき、こちらを叩く。

 

 そんな見え透いた作戦に哀しさを覚えてしまう。

 

⋯⋯はぁ、結局ハズレ──

 

 

「──は⋯⋯?」

 

 

──瞬間、輝く何かが肩を貫いた。

 

 攻撃の射線上には、ピストルのようにした指をこちらに向ける少女の姿。

 

 

「⋯⋯ッ⋯⋯あの、女ァッ!!」

 

 

──魔弾だ。

 

 あの契約者が魔力でこちらを撃ち抜いたのだ。

 

──距離を詰めていた目的は、魔神ではなく契約者の射程距離⋯⋯!

 

 

「おー、派手に撃たれたな。大丈夫か?」

 

「うっさい⋯⋯!てか、アンタも攻撃しなさいよ⋯⋯ッ!」

 

 

 面白がってこちらを眺めるスピーカーを睨みつけると、彼はおどけるように両手を上げる。

 

 

「分かってるよ。俺だって、お前が頑張ってた間ずっと遊んでたわけじゃない」

 

「いいから、早くやりなさいってば⋯⋯ッ!」

 

「はいはい」

 

 

 スピーカーは気怠げに応えると、指で四角を作るようにしてその中に契約者⋯⋯つまりはナギサを捉える。

 

 

「やった⋯⋯!」

 

「さっすが嬢ちゃん!完璧な狙いだぜ!!」

 

「⋯⋯待って、もう一体の方が何かしようとしてる」

 

 

 鵺の言葉に、ナギサとヴィクトリアは再度警戒を強めるが、スピーカーはそれを意に介さなかった。

 

 

「──無駄だっつーの」

 

 

──瞬間、雷が落ちた。

 

 

「──あ、が⋯⋯ッ!?」

 

 

 比喩ではなく、空から一本の雷が落ち、ナギサの肩と太腿を一直線に貫いたのだ。

 

 

「──ハハッ!!やっぱり雷は最高だぜ!怒りの比喩に使われるのも納得のクールさだ!!」

 

「⋯⋯契約者を狙う。まぁ基本ね」

 

「⋯⋯なぁ、あいつらは俺らが魔神について無知だとでも思ってたのかなぁ⋯⋯?契約者が弱点だなんて知らないと高を括ってたんじゃないか?あぁ、だとしたら怒りで沸騰しそうだ⋯⋯ッ!」

 

「はぁ⋯⋯それやめてよ、情緒不安定ってダサくてキモくて哀しいから」

 

 

 言い合いを繰り広げる二人だが、それは契約者にダメージを与えたことによる優位性、つまりは圧倒的な余裕から来るものだった。

 

 

「うぐッ⋯⋯う、あァ⋯⋯ッ!?」

 

「嬢ちゃんッ!!」

 

 

 ナギサは、肩と太腿に走る電撃のような痛みを必死に飲み込もうとしていた。

 

 傷口は焼けるように痛み、血がドクドクと流れ出すが、ナギサは絶対にこの痛みに耐えなければならない理由があった。

 

──ナギサが気絶すれば、魔神であるヴィクトリアは存在を保てない。

 

 

「⋯⋯にしてもあの女、見くびっていたと言わざるを得ないな」

 

 

 スピーカーは追い討ちの攻撃位置を定めようと再度指で四角を作りながら、ぼやくように呟いた。

 

 

「⋯⋯そうね。まさか魔弾を撃ってくるなんて」

 

 

 ガラケーも絵文字を分解し能力発動の準備をしつつ、吐き捨てるように応える。

 

 

「⋯⋯」

 

 

 それは、スピーカーの言いたかった内容とは微妙にズレていた。

 

 というのも、彼は先程の攻撃でナギサの頭を貫くつもりだったのだ。

 

──しかし、ナギサはスピーカーの攻撃に反応し、回避しようとした。

 

 肩と腿を貫くというのは十分な成果ではあったが、スピーカーの思い描いた結果とは違っていたのだ。

 

 

「魔力の扱いもそつがなかった⋯⋯恐らく年単位で魔神を使役してるな」

 

「⋯⋯はぁ⋯⋯魔力が馴染んだ契約者も哀しいくらいに脅威ね⋯⋯」

 

 

⋯⋯実際には、ナギサとヴィクトリアが契約してからはまだ一ヶ月も経っていないのだが、二人には知る由もない。

 

 

「あの魔弾といい、奴が契約者になって長いのは確定でしょうね」

 

 

──魔弾。

 

 ヴィクトリアがつい先程ナギサに教えた、魔力を用いた攻撃方法の一つ。

 

 魔力を身体の一部に集め、放出する技術。

 

 ちなみに、ヴィクトリアは教える際、ビームのような線による攻撃として教えたが、ナギサはガンマンの撃つ銃をイメージしていたため、弾丸のような形状となっている。

 

 

「⋯⋯う、ぁ⋯⋯はぁッ⋯⋯はぁ⋯⋯ッ」

 

「しっかりしろ嬢ちゃん!大丈夫だ、オレサマが──」

 

「──うーん、これちょっとヤバいね」

 

 

 痛みに耐えるナギサとそれを支えるヴィクトリアの頭上から、冷たい声が響いた。

 

 

「⋯⋯あ?なんだよ鵺」

 

「このままだと私達、全滅かもねって」

 

 

 ヴィクトリアの刺すような視線をものともせず、鵺は冷静に続ける。

 

 

「⋯⋯オレサマが──」

 

「──ナギサちゃんが痛みで気絶したら、ヴィクトリアは存在を保てないでしょ?そしたらゲームオーバーだよ」

 

「⋯⋯」

 

「それに、さっきの衝撃音からして東棟にも恐らく敵がいる。向こうの敵がこっちに合流したら、余計に勝ち目が無くなる」

 

 

 その仮定は、東棟にいるアカネとヒビキの敗北を前提としたものだったが、鵺は眉一つ動かさず冷静に告げた。

 

 

「分かる?もうこれ以上、時間をかけられない」

 

「⋯⋯正論が言いたいだけか?せめて代案を出せよ」

 

 

 ヴィクトリアは睨みつけるようにして鵺を見据える。

 

 

「もちろんそのつもりだよ」

 

「⋯⋯なに?」

 

「やられっぱなしじゃ終われない⋯⋯そうでしょ?」

 

 

 鵺は二人を庇うように一歩踏み出す。

 

 

「⋯⋯鵺⋯⋯?何、を──」

 

「──能力を使う」

 

「──っ!?」

 

 

 こちらを振り向いた鵺は、心底楽しげだった。

 

 

「──あいつらに、本物の雷を見せてやろうよ」

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