デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)   作:赤石アクタ

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第二十四話 雷鳴

⋯⋯鵺の、能力⋯⋯っ

 

 

『──鵺の能力は、寿命を代償に発動するんだ』

 

 

 クロックの言葉が鮮明に蘇る。

 

 鵺に能力を使わせるわけにはいかない⋯⋯!

 

 

「⋯⋯けほっ⋯⋯待ってください鵺⋯⋯っ!」

 

「私が能力使ったら、すぐ東棟に移動してあっちの二人と合流。そのまま洋館を離脱してね」

 

「⋯⋯鵺、は⋯⋯っ?」

 

「私、能力使ったあとは動けなくなるし、触れない状態になっちゃうんだよね。だからほっといていいよ」

 

「そん、な⋯⋯っ」

 

 

 鵺は何でもないように告げるが、それはナギサにとって到底受け入れられない内容だった。

 

 

「お願いヴィクトリア⋯⋯!鵺を止めて⋯⋯っ!」

 

 

 なんとか意識を保っている状態のナギサは、掠れた声でヴィクトリアに懇願する。

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

「⋯⋯?ヴィク、トリア⋯⋯?」

 

 

 しかし、ヴィクトリアからの返答は無かった。

 

 むしろヴィクトリアはナギサの身体を抑え、冷徹な瞳で鵺を見据えている。

 

 

「⋯⋯なに、してるの⋯⋯?なんでっ⋯⋯?ヴィクトリア⋯⋯っ!?」

 

「⋯⋯落ち着けよ、嬢ちゃん」

 

「⋯⋯なに、を⋯⋯っ」

 

「──今後のためにも、鵺の能力は把握しておくべきだ。そうだろ?」

 

「⋯⋯っ!?や、やだっ⋯⋯!離して⋯⋯っ!」

 

 

──ヴィクトリアはまだ完全に鵺を、『妖怪探偵事務所』を信頼している訳ではなかった。

 

 むしろ将来的に敵対する可能性すら考慮しており、この判断は酷く打算的なものだった。

 

 

「ヴィクトリア⋯⋯!お願い⋯⋯!私の言うことを聞いて⋯⋯っ!」

 

 

 ナギサは必死にヴィクトリアの拘束を振りほどこうとするが、手負いの身体では身を捩るのが精一杯である。

 

──本来、契約者は魔神に対して絶対的な権限を持っており『魔神からの物理的接触を禁じる』といった事も可能だった。

 

 つまり、ナギサがヴィクトリアに拘束されているこの状況は有り得ないものなのだ。

 

 しかし、契約してからずっとヴィクトリアと対等に接してきたナギサにとって、その権限は完全に意識の外だった。

 

 

「ヴィクトリア⋯⋯っ」

 

 

 ヴィクトリアはそれを少し憐れに思いつつも、失望の混じった瞳でこちらを見つめるナギサから目を逸らすことしかできなかった。

 

──ヴィクトリアにとって最も優先すべきはナギサの命。

 

 正直、今のヴィクトリアにとって鵺の寿命云々はあまり重要な事柄では無かったのだ。

 

 

「⋯⋯あいつ、何かするつもりだな」

 

「どうするの?」

 

「⋯⋯あっちを優先しよう」

 

 

 スピーカーはナギサにとどめを刺そうと調整していた能力の標的を切り替え、鵺を捉える。

 

 それに従いガラケーも、絵文字による包囲の中心を鵺へと切り替える。

 

 しかし鵺はそれらを意に介さず、余裕そうに準備運動を行っていた。

 

 

「──貫け」

 

 

 その隙を逃さず、スピーカーの能力による雷が鵺の頭上へと降る。

 

 

「──は⋯⋯?」

 

 

 しかし、雷は鵺の頭上で急に進路を変え、彼女の右手へと吸い込まれていった。

 

──まるで、避雷針に吸われるように。

 

 

「──よし」

 

 

 そして、準備運動を終えたらしい鵺はそのまま『構え』をとった。

 

 

「⋯⋯なんだ⋯⋯?あの構え⋯⋯」

 

 

 戦いの構えとしては隙だらけなそれに、ヴィクトリアが首を傾げる。

 

 

「⋯⋯投球だ」

 

「⋯⋯え?」

 

 

「──野球の、投球フォームだ」

 

「──」

 

 

──雷鳴。

 

 

 そう形容するのが最も近いであろう衝撃と閃光が走った。

 

 眩い光に視界を奪われ、ナギサは思わず目を瞑る。

 

 しばらくすると雷鳴の余波が収まり、やっと彼女は目を開けることができた。

 

 

「──何、これ⋯⋯」

 

 

 視界に映った光景は信じ難いものだった。

 

 鵺の立っていた位置から攻撃方向に対して、洋館の一切が全て崩壊していたのだ。

 

──鵺は一撃で、広大な洋館の一棟を半分消し飛ばしていた。

 

 

「──はぁ!?なんっ、だあのガキ⋯⋯ッ!?」

 

「──え⋯⋯?わた、し⋯⋯?どうなっ、て⋯⋯」

 

 

 そして、相対していた異形二体の姿も悲惨なものだった。

 

 なんとか反応したのか、どちらも生きてはいるが、二人とも身体の約半分が消し飛んでいた。

 

 切断面は溶けたようにドロドロになっていて、周りの空気は未だバチバチと弾けている。

 

 

「⋯⋯ぁ⋯⋯ぬ、鵺は⋯⋯っ!?」

 

 

 目の前のショッキングな光景に対する恐怖をなんとか抑えつけ、ナギサは鵺の様子を確認しようとする。

 

 

「──」

 

 

 鵺はその場にぺたんと座り込み、完全に沈黙していた。

 

 ここからでは意識があるかすらも分からない。

 

 

「⋯⋯くそ、クソッ!おい!呆けてないであのガキを殺せッ!!」

 

「──ッ!わ、分かってるわよ⋯⋯!」

 

 

 スピーカーの怒号に、ガラケーがはっと我に返る。

 

 依然身体は動かせていないが、それでも彼女の能力はゆっくりと形を成していく。

 

 

「はぁ、はぁッ⋯⋯し、死ね⋯⋯ッ!」

 

「──鵺⋯⋯っ!」

 

 

 ガラケーの能力、絵文字が放たれる。

 

 

「──え⋯⋯?」

 

 

 しかし、それが鵺に届くことは無かった。

 

 鵺にぶつかる直前、何かに弾かれるようにしてガラケーの絵文字は消滅したのだ。

 

 

「なんだ⋯⋯!?あいつ何をした⋯⋯ッ!?」

 

「⋯⋯ッ⋯⋯電磁波よ⋯⋯!あいつ、電気の膜で覆われてる⋯⋯!!」

 

 

 よく見ると、鵺の周りの空気もバチバチと弾けており、障壁とも言えるような電気が鵺の周りを循環していた。

 

 これによって、攻撃が弾かれたのだ。

 

 

「チッ⋯⋯!あぁそうかよッ!だったら俺のも防いでみろッ!!」

 

「──ッ!?」

 

 

 今度はスピーカーが能力を発動しようとする。

 

 しかし、今度は空からの落雷ではなく、弓のように雷を引き絞っている。

 

 彼の半身は既に失われているため、あくまでそう見えたと言うだけだが、それでもナギサは確信した。

 

──あの攻撃は、電磁波じゃ防げない。

 

 

「ヴィクトリア、お願い⋯⋯っ!鵺、を──」

 

「⋯⋯」

 

 

 そして、なんとか顔を上げたこの瞬間、もう一つ確信した。

 

──ヴィクトリアは、鵺を助けてはくれない。

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

 この時のヴィクトリアには、恐ろしく残酷な選択肢が頭をよぎっていた。

 

──即ち、鵺を見殺しにするという選択肢。

 

⋯⋯鵺が見せた能力は規格外すぎた。

 

 辺り一面を覆い尽くす程の圧倒的な暴力。

 

 

──まるで、生前に見た『アレ』のような。

 

 生前の記憶と目の前の現状を重ねているヴィクトリアの思考は、とても冷静とは言えなかった。

 

 

「──死ね、このガキッ!!」

 

 

 結局、ヴィクトリアは動かなかった。

 

 スピーカーから放たれた雷の矢は電磁波を破り、一直線に鵺へと──

 

 

「──ぅあぁぁッ!!!」

 

 

⋯⋯到達するはずだった矢は、しかし割り込んだ少女の肩を貫いた。

 

 電磁波と少女の肉体が壁となり、矢は完全に勢いを殺され、鵺まで到達することなく消滅した。

 

 

「──はァッ!?あっ、の、女ァッ!!」

 

 

「⋯⋯嬢、ちゃん⋯⋯」

 

 

 自らの拘束を抜け出し、あまつさえ肉壁にまでなった契約者を、ヴィクトリアは信じられないものを見るように眺めていた。

 

 

「──うっ⋯⋯ぅあぁ⋯⋯ッ!鵺⋯⋯っ!今の、うちに──」

 

 

 ナギサは痺れるような激痛に表情を歪めながらも、未だ沈黙する鵺へと手を伸ばす。

 

 

「──痛ッ⋯⋯!?」

 

 

 しかし、鵺の身体に触れようとした瞬間、静電気と言うには激しすぎる電撃がナギサの指に炸裂した。

 

 指には火傷したような症状が見られ、血も出ている。

 

 

「⋯⋯ッ⋯⋯一体、どうなって⋯⋯っ?」

 

「──あわわわわわわわわ」

 

「えぇ!?なんか鵺があわあわしてる!?」

 

 

 沈黙から立ち直った鵺は小刻みに震え、口からはショートしたかのように煙とスタッカートが漏れ出ていた。

 

⋯⋯ともすれば間抜けとも言える光景だが、しかし未だ動ける状態ではなさそうである。

 

 

「──う、ぁ⋯⋯っ」

 

 

 そして、ついにナギサも糸が切れたように膝から崩れ落ちてしまった。

 

 最初に太腿と肩を貫かれた時点で、ナギサの身体は既に限界だったのだ。

 

 

「──クソッ!殺すッ!!あの女からだッ!俺の怒りを邪魔しやがって!!」

 

 

 怒り爆発といった様子のスピーカーが、次の矢をつがえようとする。

 

 しかし、それが放たれるよりも早く、東棟から飛来した影がスピーカーへと落ちた。

 

 

「──おいッ!お前ら無事か⋯⋯ッ!?」

 

 

──それは、東棟での戦闘を終えたマスクだった。

 

 鵺の放った雷鳴を見て、一目散に駆けつけたのだ。

 

 

「無事に見えるかよ兄貴!?身体の半分が消し飛んでんだぞッ!?」

 

「おぉ、グロい⋯⋯」

 

「なんだこの能天気野郎!?」

 

 

 わざとらしく両手で口元を覆うマスクに、スピーカーが物凄い勢いで罵声を浴びせるが、その声も段々と覇気を無くしていった。

 

 

「⋯⋯クソッ⋯⋯悪い、しくじった⋯⋯」

 

「いいから、もう喋るな」

 

「⋯⋯ほんとならっ⋯⋯本当ならさっき殺れてたんだ⋯⋯あの女さえいなきゃ⋯⋯ッ!」

 

「データは取れたんだろ?目的は果たしたさ」

 

 

 マスクは遠くで蹲る二人の少女、そしてその傍らで呆然としている魔神を横目に眺めてから、少し遠くで身体を捩る妹へと目を向けた。

 

 

「⋯⋯お兄、ちゃん⋯⋯わた、し⋯⋯まだ、ちゃんと⋯⋯壊れ、てる⋯⋯?お兄ちゃ、ん⋯⋯」

 

「⋯⋯」

 

「⋯⋯兄貴⋯⋯?」

 

 

「──充分だ。撤退しよう」

 

 

 その判断には一切の迷いが無かった。

 

 

「⋯⋯兄貴の方は、どうだったんだ⋯⋯?」

 

「⋯⋯強かった」

 

「⋯⋯殺したのか⋯⋯?」

 

「⋯⋯⋯⋯そうすべきではあったが、時間が足りなかったな」

 

「⋯⋯っ⋯⋯ごめん⋯⋯俺たちが⋯⋯っ」

 

「謝るなって。殺しなんかより、兄弟の命の方が大切に決まってるだろ?身体起こしとけ、愛しの妹を連れてくるから」

 

 

 マスクは一瞬東棟を一瞥したが、直ぐにガラケーの元へと跳んだ。

 

 

「⋯⋯向こうは、撤退してくれるみたいだな⋯⋯」

 

 

 言ってすぐ、『なんて情けないセリフだ』と表情を歪めてしまう。

 

⋯⋯身を呈して鵺を守り、今も保険として必死に意識を保っているナギサに比べて、自分は今回何をしていたのだろう⋯⋯

 

──生前から何一つ、変わっていないじゃないか。

 

 ヴィクトリアは自己嫌悪と、ナギサに対する動揺から立ち直れずにいた。

 

 

「⋯⋯はぁっ⋯⋯はぁ⋯⋯ッ」

 

 

 しかし契約者の呼吸が掠れていくのを感じた瞬間、そういった思考を一旦全て拭い去る。

 

 

「嬢ちゃん!敵は撤退した!直ぐに東棟の奴らと合流しよう!」

 

「⋯⋯おね、がいっ⋯⋯鵺、を⋯⋯っ」

 

「⋯⋯⋯⋯分かってるよ」

 

 

⋯⋯言わなくてはならないセリフがこれでないことは分かっていたが、ついぞその言葉は口から出てこなかった。

 

 

「⋯⋯」

 

 

 能力を使用してからしばらくの間、鵺の身体は帯電しているようだったが、今はもう触れない程ではなさそうだ。

 

 ナギサと鵺の二人を、軽く担ぎ上げる。

 

 

「東棟着くまでは意識保っといてくれよ、嬢ちゃん⋯⋯!」

 

 

 ナギサの意識が落ちれば、ヴィクトリアも存在を保てない。

 

 そうなれば動けなくなるだけでなく、抱えている二人は落下してしまうだろう。

 

 打ちどころが悪くて⋯⋯なんて、今は冗談にもならなかった。

 

 

「⋯⋯ヴィクトリア」

 

「無理に喋らなくていいぜ、嬢ちゃん」

 

「⋯⋯ごめんね、ヴィクトリア⋯⋯」

 

「⋯⋯なんで謝るんだよ」

 

「⋯⋯私、結局ヴィクトリアに頼りっぱなしだった⋯⋯」

 

「⋯⋯何言って──」

 

「──鵺を助けてってお願いするより先に、私が動かなきゃいけなかったんだ」

 

「⋯⋯は?」

 

 

 ナギサの声には決意と力強さが滲んでおり、それが皮肉などではない本心だと直感で理解できた。

 

 

「ごめんね。私達、対等じゃなかったよね⋯⋯」

 

「⋯⋯嬢、ちゃん⋯⋯?」

 

 

「──私、もっと強くなる、から⋯⋯」

 

 

 この時、ヴィクトリアは『間違えた』と感じたが、それが何を指しての感情なのかは分からなかった。

 

 結局、ヴィクトリアは自らの契約者にそれ以上言葉を返すことができなかった。

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