デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)   作:赤石アクタ

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第二十九話 鵺との放課後

「あ゙ぁ〜〜⋯⋯」

 

 

 妖怪探偵事務所のテレビから流れてくるニュースを聞き流しながら、隣で溶けている少女へと目を向ける。

 

 

「⋯⋯鵺、大丈夫ですか?」

 

「アカネ君〜⋯⋯ちょっと休憩しない⋯⋯?チェスやろうよチェス、私強いんだぁ⋯⋯」

 

「⋯⋯まだ全然仕事減ってないじゃないですか」

 

 

 軟体動物みたいな動きでチェス盤を手に取ろうとする鵺を窘める。

 

 

「うぇ〜⋯⋯もう無理〜⋯⋯」

 

 

⋯⋯しかし、鵺が溶けてしまうのも分からなくはなかった。

 

 本来『四季候補』に数えられる程の才能故か、妖怪探偵事務所のリーダーとして、鵺がやらなくてはいけない業務は本当に多いのだ。

 

 書類の山と言って差し支えないそれを見ていると、こちらまで気が滅入ってくる。

 

 一応、秘書という名目でこうして放課後を共にしているが、別に俺が書類を処理できる訳でもないため、結局コーヒーを入れてあげるくらいしかすることがないのが現状だった。

 

 

「⋯⋯」

 

 

⋯⋯先輩も、やはり忙しいのだろうか⋯⋯俺は彼女の役に立つためにここへ来たはずなのだが、一体いつになったら会えるのだろう⋯⋯

 

 

「うがー⋯⋯っ!」

 

 

 急に鵺が可愛らしい叫びを上げ、コーヒーを一気飲みする。

 

 

「うわぁ!?お砂糖が溶けてない!?」

 

「⋯⋯アイスコーヒーなんだから当たり前でしょ」

 

「うぅ、間違えた時に教えてくれてもよかったのに⋯⋯」

 

「⋯⋯すみません」

 

 

 ありえないくらいの砂糖をぶち込む様子に驚いて、つい注意するのを忘れてしまっていた。

 

 コップに残った砂糖を飲み込もうと慎重に器を傾ける鵺を見ていると、何だかこちらまで喉が渇いてくる。

 

 

「すみません、俺もなんか飲んでいいですか?」

 

「もちろん〜」

 

「ありがとうございます⋯⋯ん?」

 

 

 事務所の冷蔵庫を開けると、何故かエナジードリンクが中を埋めつくしていた。

 

 

「⋯⋯なんですかこれ⋯⋯?」

 

「ん?あーそれ、ヒビキちゃんが持ってきてくれたんだ。自由に飲んでいいって言ってたよ」

 

「ヒビキが⋯⋯?」

 

「ていうかできれば飲んでよ。増えることはあっても減ることは無いんだよねそれ」

 

「怪奇現象⋯⋯?」

 

 

 実際には、事務所に来る度にヒビキが補充しているだけらしいが、それはそれで少し怖い。

 

 ヒビキはエナジードリンクが好きなのだろうか⋯⋯にしても買い溜めし過ぎな気もするが⋯⋯

 

 

「あ、そっちのダンボールに別の味も入ってるよ」

 

「えまだあるんですか!?」

 

 

 驚きつつも、喉が渇いている今はありがたい限りである、今度お礼を言っておこう。

 

 エナドリを一本取りだし鵺の方へ戻ると、彼女はコップ内の砂糖をざくざくと噛み砕きながら机に突っ伏していた。

 

 

「はぁ〜⋯⋯あっ⋯⋯」

 

 

 しかし突如、鵺は何かを思いついたようにスティックシュガーを手に取ると──

 

 

「──あーん」

 

 

⋯⋯それをそのまま口に流し込んだ。

 

 そして得意げにこちらを眺める。

 

 

「⋯⋯何してるんですか?」

 

「ふふん、クールでしょ?」

 

「⋯⋯」

 

 

 どうやらだいぶ限界みたいだ。

 

 

「⋯⋯はぁ、ちょっとトイレ行ってくるね」

 

「分かりました」

 

 

 自分で馬鹿らしくなったのか、鵺は一気にテンションを下げる。

 

 

「帰ってきたらいっぱい遊ぼ⋯⋯アカネ君?」

 

「⋯⋯?なんですか?」

 

 

 鵺がこちらを見て怪訝な表情を浮かべる。

 

 

「なんでアカネ君も席を立ったの?」

 

「⋯⋯え?あー、それは⋯⋯」

 

「⋯⋯ッ⋯⋯ま、まさか⋯⋯ッ!?」

 

 

 歯切れ悪く頭を搔く俺に、鵺の顔がみるみる青ざめていく。

 

 

「⋯⋯絶対ダメ」

 

「すみません鵺、もう神威さんに殴られたくないんです」

 

「⋯⋯トイレくらいなら別によくない⋯⋯?」

 

「⋯⋯トイレもついていけって言われてます」

 

「か、む、い〜⋯⋯ッ!」

 

 

──『四六時中、鵺から目を離すな』

 

 それこそ、神威さんから受けた指示であり、秘書というのも実態は監視のようなものだった。

 

 先日の洋館探索で鵺が能力を使用したことで、神威さんは特にピリピリしているのだ。

 

⋯⋯実際、鵺以外の全員が殴られた。

 

 つまり今の俺は、あの人の拳を回避するためにたとえトイレであろうと鵺に着いて行かなければならないのだった。

 

 

「はぁ、ほんっとに⋯⋯っ!神威には一回強く言わないとな⋯⋯」

 

 

 鵺はげんなりとした様子だったが、それ以上は何も言わなかった。

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「羞恥心を感じることさえ腹立たしく感じたよ」

 

「⋯⋯すみません」

 

 

 気まずい空気のまま執務室に帰ってくると、点けっぱなしになっていたテレビが目に入った。

 

 

『これは、最近霊障が起こったと報告のあった地点の分布です。『夏』だけの怪奇現象と言われていた霊障被害ですが、ここ数日は『春』や『秋』でも存在が確認されるようになってきました!』

 

「霊障⋯⋯」

 

『この映像とか見てください!!うっひょー!私の個人チャンネルにアップしたいくらい!!』

 

『お前机の下でエゴサしてんの写ってるからな!?いいから早くCM入れろ!!』

 

「⋯⋯」

 

 

 そういえば、最近は霊がどうこうと言ったニュースが多い気がする。

 

『百鬼夜行』なんて大層な名称を付けられ、大々的に取り上げられる事が増えてきているのだ。

 

 動画サイトでも、そういった動画が多くアップされている。

 

 ニュースで霊について報道するなんて馬鹿馬鹿しいとも思うが、実際の被害報告数はかなりのものらしい。

 

 

「これって本当に霊の仕業なんですかね?」

 

 

 何の気なしに隣の鵺に聞いてみる。

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

「⋯⋯?鵺?」

 

 

 しかし、鵺から返事は帰ってこなかった。

 

 

「鵺⋯⋯鵺っ!」

 

「わっ⋯⋯!?あ⋯⋯ご、ごめんぼーっとしてた⋯⋯どうしたのアカネ君?」

 

 

──まただ。

 

 鵺の秘書を経験して初めて気づいたことだが、彼女はぼーっとしていることが多い。

 

 定期的に、何かを考え込むようにして沈黙してしまうのだ。

 

 今回が初めてではなく、今日だけでも数回起こっている事だった。

 

 

「いや、この霊障ってほんとに霊の仕業なのかなって⋯⋯」

 

「ん?うん、まぁそうだろうね」

 

「⋯⋯え?」

 

 

 調子を取り戻した様子の鵺は、こちらの言葉をあっさりと肯定する。

 

 

「魔神について説明した時にも少し話したけど、幽霊も実在するよ。ここまで活発なのは珍しいけどね〜」

 

 

 鵺はあまり興味が無いらしく、部屋の隅に置かれたダンボール箱を確認していた。

 

⋯⋯俺は未だ目撃したことがないが、遭遇すれば霊の仕業だと分かるものなのだろうか。

 

 まだ死傷者は出ていないらしいが、それでも不安になる内容だった。

 

 

「おーいアカネ君ー、ちょっと来て〜」

 

「⋯⋯?」

 

 

 呼ばれて近づくと、鵺は机の上に載せたダンボール箱を得意げに撫でる。

 

 

「これは⋯⋯?」

 

「ふふん、開けてみてよ」

 

 

 ぺたんと胸を叩く鵺に疑問符を浮かべながらも、言われた通りに箱を開けてみる。

 

 

「これは⋯⋯制服、ですか?」

 

 

 中に入っていたのは、俺の通う学校の指定制服だった。

 

 それも一着ではなく、かなりの数入っている。

 

 

「ほら、洋館探索でボロボロになっちゃってたでしょ?」

 

「それはそうですけど⋯⋯貰っちゃっていいんですか⋯⋯?」

 

「福利厚生の一つだよん」

 

「おぉ、ホワイト企業⋯⋯!」

 

 

 鵺はダブルピースをカニのようにちょきちょきと動かす。

 

 

「あ、今までバタバタしてたから言い忘れてたけど、一応うちは私服オッケーだからね!」

 

「おぉ、ホワイト企業⋯⋯!!」

 

 

 しかし、わざわざ制服を用意してくれたのだから、こちらを使わせてもらおう。

 

『夏』において制服というのは『自らを保証する』重要な要素なのだ。

 

『自分は学校に通えるくらいの財力を持った家庭にいます』とアピールすることで、不要なトラブルを避けられることも少なくない。

 

 財力がある家庭は、トラブルに対して傭兵を雇う可能性も少なくないためだ(通っている学校が傭兵団への伝手を持っていることもある)

 

 そのため、制服を持っているのに『夏』でわざわざそれを着ない理由は基本的に無いのだった。

 

 

「制服だけじゃなくて体操着も入ってるからね」

 

「ホワイト企業⋯⋯!!!」

 

 

 至れり尽くせりである。

 

 

「それにしても、よくここまでの数を用意できましたね⋯⋯」

 

「雫が用意してくれたんだ〜。なんか伝手があったらしくて」

 

「先輩が⋯⋯!?」

 

 

 途端に、手に持った制服の重みが増したように感じる。

 

──先輩が、そこまで俺のことを考えてくださっているなんて⋯⋯!

 

 綺麗に畳まれている制服を見つめながら、俺は先輩に会えないことを嘆いていた過去の自分を猛省した。

 

──たとえ直接会うことができなくとも、彼女は確かに存在し、俺に道を指し示してくれているじゃないか⋯⋯!

 

 

「あっ、そういえばアカネ君。言い忘れてたんだけど」

 

「⋯⋯?なんですか?」

 

 

 未だ感涙に打ち震えながらも、なんとか鵺に振り向く。

 

 

「──雫、明日帰ってくるから」

 

 

「⋯⋯⋯⋯え?」

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