デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)   作:赤石アクタ

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第三十六話 鏡の外側

──鏡の外側。アカネ達が鏡に入った直後──

 

 

 

「──なぁ、お前あたしをナメてんのか?えぇ?」

 

「う、ぁ⋯⋯ッ」

 

 

 銃弾に太股を撃ち抜かれ、碧雫(あおいしずく)は静かに倒れ込んだ。

 

 

「『鏡が破壊されないよう自分は外に残る』⋯⋯そう言ったな?」

 

「⋯⋯っ」

 

「それはつまり、あたしら『紅葉組(こうようぐみ)』は自分一人で対処可能だと⋯⋯そういう意味か?」

 

 

 紅葉椛(こうようもみじ)は碧雫を見下ろし、冷たい声で問いかける。

 

 

「お前を殺して鏡を破壊するなんて、簡単なことなんだぞ?なぁ?」

 

 

 その声には、確かな苛立ちが含まれていた。

 

 

「⋯⋯あなたの目的は、鏡ではありません」

 

「それはお前が決める事じゃ──」

 

「──二つとも」

 

「⋯⋯は?」

 

 

 遮るように告げられた碧雫の言葉に、紅葉椛は思わず動きを止めた。

 

 

「──あなたの目的は『二つとも』できるだけ早く回収しなければならない物のはずです⋯⋯こんなことに割ける時間はそう多くないでしょう」

 

「⋯⋯テメェ、分かったような口を──」

 

「──あぁいえ、厳密には『一つと一人』ですね」

 

「ッ⋯⋯!?」

 

 

──脅しをかけられている。

 

 紅葉椛は直感した。

 

 この女は、こちらが求めているものを把握しているのだ。

 

 

「⋯⋯」

 

 

──いやむしろ、あの口ぶりならば既に向こうの手に渡っている可能性すら⋯⋯

 

 紅葉椛の中に、一抹の焦りが生まれる。

 

 

「私はどちらも持っていませんし、興味もありませんよ」

 

「⋯⋯へぇ、そりゃ興味深い」

 

 

──銃声。

 

 

「──う、ぁッ⋯⋯!」

 

 

 銃声から数回の金属音を経て、今度は碧雫の脇腹が撃ち抜かれる。

 

──紅葉椛と相対している彼女の『背後』から。

 

 

「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯花びらで、弾丸を反射させているんですね」

 

「⋯⋯」

 

「建物や⋯⋯地面が切り裂かれていないことから、花びらが作用するのは人間のみと考えていましたが、あなたの弾丸は別みたいですね⋯⋯そして、あなたは花びらの動きそのものはほぼ操れず、また室内では花びらの数も少な──」

 

 

──銃声。

 

 

「──ッ⋯⋯!」

 

 

 三度目の銃声を聞き、即座に碧雫は回避行動を取ろうとしたが、抵抗虚しく右腕が撃ち抜かれる。

 

 

「こうしよう、お前に許されるのは質問に答えることだけだ、なぁ?」

 

「う、ぁ⋯⋯っ」

 

 

 三発の弾丸はどれも即死しないように調整され撃ち込まれていたが、出血量からしてこのままだと彼女の命は長くない。

 

 

「まず一つ、お前の目的は?」

 

「⋯⋯それは──」

 

「──おっと、ここでの『探し物』じゃねぇぞ?」

 

 

 紅葉椛はわざとらしく話を遮って告げる。

 

 

「──『春』と組んで、何を企んでる?」

 

「っ⋯⋯」

 

 

 質問した瞬間の僅かな反応を、紅葉椛は見逃さなかった。

 

 

「テメェが『春』のトップと接触したのは分かってる。『秋』をこそこそ嗅ぎ回ってたかと思えば、今度は『春』に媚びでも売ってんのか?」

 

「⋯⋯」

 

「──『四季』を上から利用してるつもりじゃねぇだろうな?あぁ?」

 

 

 紅葉椛が警戒しているのは、厳密に言えば碧雫ではなく『春』だった。

 

──領土侵略に最も積極的な『春』が『夏』の企業を取り込もうとしているとしたら⋯⋯?

 

 彼女は、ここで碧雫と遭遇した事すら『春』によって仕組まれたものではないかと疑っていた。

 

 

「⋯⋯『四季』を脅かすつもりはありません」

 

「⋯⋯あ?」

 

「そもそも『四季』には、興味がありませんから」

 

「──」

 

 

 言葉を聞いた瞬間、紅葉椛の額に青筋が浮かぶ。

 

──自分達が、『四季』を脅かせる立場だとでも思っているのか?

 

 

「テメェ──」

 

「──『神殺し』」

 

「⋯⋯は?」

 

 

 怒りのままに言葉と弾丸を放とうとした瞬間、碧雫がありえない言葉を口に出した。

 

 

「──私の目的は『神殺し』です」

 

「⋯⋯」

 

「『春』とは⋯⋯利害が一致したというだけです⋯⋯『勇者』の討伐においてね」

 

 

 雫の突拍子もない、ありえない言葉に場がしんと静まる。

 

 

「⋯⋯⋯⋯はっ、神殺しに勇者だぁ?『神殺記』の読みすぎだな」

 

 

 紅葉椛がやっとの思いで煽りを口にすると、碧雫がまるでこちらを見定めるように顔を上げた。

 

 大きな瞳が瞬きもせずに注がれる。

 

 

「⋯⋯」

 

「⋯⋯っ」

 

 

──観察されている。

 

 何を見定められているのかすら分からないその視線に、紅葉椛は苛立ちと不快感、そして本能的な警戒心を覚えた。

 

 

「ッ⋯⋯もういい、次の質問だ」

 

 

 結局、紅葉椛は吐き捨てるように告げた。

 

 彼女はこの時点で、碧雫が今行っているのは単なる『時間稼ぎ』であると結論づけたのだ。

 

 最初から質問に答えるつもりは無く、仲間が鏡から出てくるまで時間を稼ぐつもりなのだと。

 

 そのため紅葉椛は、次の質問に対する碧雫の反応をある程度観察したら、彼女を殺害することをこの時既に決意していた。

 

⋯⋯本当ならば鏡も破壊したいところだが、彼女にはそれができない理由がある。

 

 

「⋯⋯」

 

 

──最初に見た瞬間気づいた、鏡の向こうは恐らく『魔法少女都市』

 

 つまりは外界と隔絶された鳥籠であり、確実に認識阻害を施されているため外から見つけるのは極めて困難。

 

 可能性は限りなく低いが、もし自分の『目的』が『魔法少女都市』の中にあるとしたら⋯⋯?

 

──ここで鏡を破壊するのはリスクが高すぎる。

 

 そのため、紅葉椛は鏡を見つけた時点でこれを『ハッタリ』の道具として用いると決め、計画通りに碧雫の仲間を呑み込み、鏡の性質を探らせつつ自分は脅しの手段を得たつもりだった。

 

 向こうのジェイソンとやらはこちらが鏡を破壊するつもりだと思っていたようだが、そもそもマジックアイテムは叩きつけた程度では壊れない。

 

 

「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯っ」

 

 

⋯⋯しかし、碧雫にはいまいち鏡を気にしている様子が見られなかった。

 

 

「⋯⋯チッ」

 

 

──仲間を何とも思ってねぇのかよ⋯⋯!?

 

 表情にこそ出さなかったが、紅葉椛はちょっぴり引いた。

 

 

「⋯⋯二つ目の質問だ」

 

 

 鏡が脅しの道具として使えないのは予想外だが、状況は依然こちらが有利。

 

 碧雫は当然、鏡の中から仲間が帰ってきたとしても全員制圧できるだけの戦力がこちらにはあるのだ。

 

 動揺を悟らせないように、努めて冷静に告げる。

 

 

「──その『左腕』はなんだ?」

 

「──ッ」

 

 

──お⋯⋯?

 

 

「気づいてないとでも思ってたか?お前はあたしの銃撃に対して、急所ではなく真っ先に左腕を守るように反応していたな⋯⋯左腕を見せろ」

 

 

 紅葉椛は内心驚いていた。

 

──何せ、一つ目の質問より碧雫の動揺が大きかったのだ。

 

 といっても、ほんの少し顔の筋肉が強ばっただけだったが、当然紅葉椛は見逃さない。

 

──『四季』との繋がり以上に、あの左腕が重要なのか⋯⋯?

 

 紅葉椛の中で、興味と警戒心が膨らんでいく。

 

 

「──手袋を外して、袖を捲れ」

 

 

 銃を構えたまま、冷たく命令する。

 

 

「⋯⋯」

 

「⋯⋯聞こえなかったか?左腕を見せろ」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

「⋯⋯⋯⋯ッ」

 

 

 碧雫は俯いたまま、反応を返さない。

 

 時間が惜しいこの状況での沈黙は、紅葉椛に予想以上のストレスを与えた。

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

「〜〜〜ッ!!あぁクソッ!!!」

 

 

⋯⋯そして、それが爆発するのに時間はかからなかった。

 

 

「──気色悪いデタラメをべらべら語ったと思ったら今度はだんまりかぁ!?コミュニケーション能力が欠落してんのかテメェはよぉ!?」

 

 

 感情のまま、左腕に狙いを定め引き金を引こうとする。

 

 

「──ッ」

 

「──な⋯⋯ッ!?」

 

 

 コイツ、攻撃の意志を──

 

 

──警報音。

 

 

「──ッ!?何だ!?」

 

 

──瞬間、けたたましい警報音が建物に響き出した。

 

 

「この⋯⋯音、は⋯⋯ッ」

 

 

 本能的な危険を想起させるその音を聞いていると、一つの最悪な想像が頭をよぎる。

 

 紅葉椛の『目的』の一つ。

 

──ただ破壊だけをもたらす、『アレ』の存在が。

 

 

「⋯⋯お前、か⋯⋯?」

 

「⋯⋯」

 

 

 目の前の碧雫は依然沈黙している。

 

 見れば、出血はかなり深刻化しており呼吸も浅くなっているようだった。

 

 しかし今は、それどころでは無い⋯⋯!

 

 

「──テメェがッ!『起動』しやがったのか!?」

 

 

 感情に任せて碧雫を蹴り飛ばし、踏みつける。

 

──この女、なんて事を⋯⋯ッ!

 

 

「──イカれてんのか!?『アレ』が起動すれば、この建物ごと吹き飛ぶぞ!?当然テメェも死ぬ!どんな奥の手があろうと、少なくとも鏡は壊れ、て⋯⋯」

 

 

 足元で呻く碧雫の瞳を見て、思考が凍りつく。

 

⋯⋯そうだ。

 

 

──この女は、仲間をなんとも思っていない。

 

 

「──ッ」

 

 

 この女は底が見えない⋯⋯あるとは思えないが、もし碧雫が『アレ』に耐えうる手段を持っていたとしたら⋯⋯?

 

──そうなれば、あたし達の完全敗北だ。

 

 

「あ、姐さん⋯⋯!この音って⋯⋯!」

 

「ッ⋯⋯大丈夫だ!落ち着いて──」

 

 

「──『十二兵器』」

 

「──ッ!?」

 

 

 満身創痍の状態で、それでも精一杯声を張り上げて足元から告げられる、最悪の言葉。

 

 

「──なっ⋯⋯!?や、やっぱりこいつ『兵器』を⋯⋯!?」

 

「あ、姐さん!これ、もうどうしようもないんじゃ⋯⋯!?」

 

「起動したらどうなるんだ!?誰か『先代』から聞いてないのか!?」

 

 

 案の定、紅葉組の構成員がパニックに陥る。

 

 それもこれも全て──

 

 

「──こんっ、の、女ァ⋯⋯ッ!!!」

 

 

──殺してやりたい⋯⋯!

 

 自分の手で、この女の息の根を止めたい。

 

 身体の中に渦巻く激情はそう叫ぶが、今はその時間すら惜しい。

 

⋯⋯そう、今は──

 

 

「──落ち着けテメェら!!今すぐに音の出処を確認しに行く!まだ間に合うはずだ!!そもそもこいつのハッタリって可能性もあんだろうが!!」

 

 

 組員を落ち着け、自らも感情を鎮めようと呼吸を繰り返す。

 

 

「はぁーッ⋯⋯ふぅー⋯⋯ッ」

 

 

⋯⋯これでいい、どうせ碧雫は出血で死ぬ。

 

 紅葉椛は無理やり自分を納得させ、碧雫に背を向けた。

 

 

「⋯⋯今回は、テメェの望み通りに動いてやるよ」

 

 

 紅葉椛はそう吐き捨て、碧雫に背を向けて走り出す。

 

 

「⋯⋯う、ぁ⋯⋯ッ」

 

 

 そして、碧雫がボロボロの身体を何とか起こそうとした瞬間──

 

 

「──その『左腕』はもらってくがな」

 

 

──銃声が、高く響いた。

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