デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)   作:赤石アクタ

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第四十七話 運命を名乗る少女

「──う、ぐぁ⋯⋯ッ」

 

 

⋯⋯声が上手く出ない⋯⋯あのカフカとかいう女に刺されたせいだろうか⋯⋯?

 

 かなりこっぴどくやられたが、しかしまだ俺は生きているらしい。痛みや苦しみを伴いながらも、段々意識が覚醒していく。

 

 

「──ん、起きましたか?」

 

 

 聞こえてくるのは、涼やかな女性の声。

 

⋯⋯体勢と後頭部の柔らかさから見て、たぶん今俺は膝枕をされている。

 

 

「⋯⋯せん、ぱい⋯⋯?」

 

 

 彼女は片手で俺の頭を撫で、柔らかな笑みを見せる。

 

 俺はその人、俺の運命である人間に応えようと無理やり意識、を──

 

 

「──先輩じゃ、ない⋯⋯?」

 

「ふふ、寝惚けているんですか?どちらかというと、先輩はあなたの方ですよ」

 

 

 はっきりと見えた目の前の顔。

 

 

──え?マジで誰?

 

 内巻きのボブカットに整った顔立ち。その瞳は愛おしいものを見るように俺を見つめているが、しかし俺は彼女に覚えが⋯⋯いや、どこかで会ったことが⋯⋯?

 

 記憶を探る俺に対して、彼女は笑みを抑えきれないといった様子で幸せそうに続ける。

 

 

「私の名前は水無月有栖(みなづきありす)です。覚えていただけているでしょうか?」

 

「⋯⋯水無月、さん」

 

 

 覚えている⋯⋯前に通学路でぶつかったクルセリア女学院の生徒だ。

 

 しかし、彼女と会ったのはあの一度きり⋯⋯どうして彼女がここに⋯⋯?

 

 そんな疑問を読み取ったように、水無月さんは再度優しく俺の頭を撫でる。

 

 

「ふふ、私がここにいる理由は単純ですよ」

 

 

──ぐちゃ。

 

 

「⋯⋯ぐちゃ⋯⋯?」

 

 

 突如聞こえた不快な音に、俺は身体を起こそうと──

 

 

「──は?」

 

 

 そこで、俺は気づいた。

 

 自らの身体が自由に動かないことを。

 

 そして、水無月さんが俺の頭を撫でているのとは逆の手が、『どこ』にあるのかを。

 

 

「それは私が──」

 

「え⋯⋯?おれ⋯⋯ないぞう、が⋯⋯?」

 

 

 彼女の手は、俺の腹部の『中』を当然のようにまさぐっていた。

 

 皮膚をこじ開けられ、内臓は弄ばれている。

 

⋯⋯理解ができない。

 

 

「──それは私が、あなたの運命だからです」

 

 

──水無月アリスは、まるで恋する乙女のように、ただそう告げた。

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「──でも驚きましたよ。『見世物小屋』なんて存在、私は知りもしませんでしたから」

 

 

──ぐちゃ、ぐちゃ。

 

 

「それに加えて、まさか『紅葉組』を直接見る日が来るなんて思いもしませんでした」

 

 

──ぐちゅ、ぐちゅ。

 

 

「ですが、やはりこの瞬間を選んで良かったです」

 

「⋯⋯おま、え⋯⋯ッ」

 

「──だって、あなたのこんな顔を見れたんですから」

 

 

──狂っている。

 

 この女は頭がおかしい。俺の腹の中を掻き混ぜながらこんな幸せそうな笑みを浮かべているなんて普通じゃない。

 

 

「きっとこれで、あなたは一生私のことを忘れられませんね?」

 

「⋯⋯やめ、てくれ⋯⋯ッ」

 

「ふふ⋯⋯」

 

 

 彼女は反応を楽しむように俺を観察しているが、俺は当然気が気でない。

 

 痛みはもちろんのこと⋯⋯この状況は俺にとって色んな意味でキツかった。

 

 

「たの、むっ⋯⋯たす、け⋯⋯ッ」

 

「⋯⋯ふむ」

 

 

 必死に懇願する俺に対して、彼女は考え込むように首を傾げると⋯⋯

 

 

「⋯⋯なんか、思ったより反応がガチですね⋯⋯」

 

「何ドン引きしてんだ殺すぞテメェ⋯⋯!?」

 

 

 引き気味に手を離してくれた⋯⋯マジでなんなんだよこの女⋯⋯ッ!?

 

 

「先輩、私のことどう思ってますか⋯⋯?」

 

「よくここまでの流れでそれ聞けるな⋯⋯!?」

 

 

 何ちょっと頬赤らめてんだよ。

 

 

「私、こうして先輩と二人でお話したいってずっと思っていたんです」

 

「そのために見世物小屋まで入ったの!?もっと楽な方法いくらでもあっただろ!?!?」

 

「それは、そうなんですけど⋯⋯」

 

 

 もはや痛みを誤魔化すためだけに叫んでいるような俺に対して、彼女は恥ずかしそうに目線をそらすと⋯⋯

 

 

「⋯⋯ちょっと、欲張りすぎちゃいました。私の悪い癖ですね⋯⋯」

 

「はァッ!?!?」

 

 

 もうダメだこの女とは会話が成立しないマジで狂ってるコイツ。

 

 

「少しでも、あなたの記憶に残る存在になりたかったんです」

 

「⋯⋯」

 

「⋯⋯」

 

「⋯⋯⋯⋯はァッ!?!?!?」

 

 

 納得はできても共感はできねぇよ⋯⋯いや納得もできねぇよ⋯⋯!!

 

 

「──あなたという存在だけが、私に現実感を与えてくれる⋯⋯私にとって、先輩は特別な存在なんです」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

⋯⋯この女の理屈は一片も理解できないが、しかし彼女は本心からそう言っていると感じた⋯⋯いやだとしたら更にやばいが。

 

 しかしどこか、俺に対して救いや希望を求めているようにも──

 

 

「──だから連絡先交換しません?」

 

「ふざっ、けんなッ!!!」

 

 

 あぁだめだ。こいつとずっと一緒にいたらおかしくなる⋯⋯内臓は既におかしくなってるし⋯⋯

 

 誰か、助けて──

 

 

「──」

 

 

──投擲音。

 

 それは、遠くから小さく響いた。

 

 

「──ッ」

 

 

 俺とほぼ同時に水無月もそれに気づき、音の方向へと意識を向ける。

 

 しかし、その時には既に投擲物⋯⋯『カッターナイフのような武器』は彼女の間近にまで迫っており、それは真っ直ぐに水無月アリスへと──

 

 

「──ふみゅ⋯⋯ッ!」

 

 

⋯⋯衝突するよりも先に、巨大な拳に殴られてその軌道を変えた。

 

 素手で武器を殴り飛ばしたのは突然現れた巨体⋯⋯俺はその拳に見覚えがあった。

 

 

「あっ!?俺をここに叩き落としたのお前かよ⋯⋯!?」

 

「彼女の名前はロプス。私のお友達です」

 

「お前の仲間かよ!?」

 

 

 最悪な奴らだった。

 

 いや、というか今はそれよりも⋯⋯

 

 

「──ヒビキ!!大丈夫か!?」

 

 

 助けに来てくれたであろうヒビキは、今どこに──

 

 

「──そんな大声出さなくても聞こえるわ」

 

「⋯⋯え?」

 

 

 気づけば、俺の身体はヒビキに抱きかかえられ、彼女の能力で既に水無月達から引き離されていた。

 

 いつの間に回収したのだろう?馬鹿でかカッターも既に彼女の手元にある。

 

 

「⋯⋯投擲はフェイクだったんですね」

 

 

 水無月が感心したように顎に手を当てる。

 

 

「通常サイズのカッターを別に投擲し、そちらで先輩への『道』を作ったんですね。本命は大きいカッターでは無かった、と」

 

 

 水無月の言葉に辺りを見回すと、俺が元いた場所の近くに通常サイズのカッターが刺さっているのがギリギリ見えた⋯⋯俺も気づかなかった⋯⋯

 

 

「にしてもロプスさん、よくあのカッターに反応できましたね。驚いてしまいました」

 

「や、やった!水無月様に褒められた⋯⋯!ふみゅぅ⋯⋯私、鈍臭いと思われがちですが意外と素早いんですっ!」

 

 

 水無月達の会話が聞こえてくる⋯⋯どうやらあの巨体に『でかいヤツは動きが鈍い』の法則は適応されないようだ⋯⋯空想科学読本みたいな巨女だった。

 

 

「アカネ、大丈夫?」

 

 

 ぼんやりそんなことを考えていると、ヒビキが俺を心配そうに見ているのが目に入った。

 

 

「⋯⋯」

 

「⋯⋯?」

 

「うぅ⋯⋯っ」

 

「え、えぇ⋯⋯!?」

 

 

⋯⋯仲間と合流できて安心したからか、あのイカレ女から離れられたからか、思わず俺は感極まってしまった。

 

 

「ひ、ひびきぃ⋯⋯!」

 

「きゃっ⋯⋯!?あ、アカネ⋯⋯?えっと、よしよし⋯⋯?」

 

 

 ヒビキは分からないなりに俺を気遣ってくれる⋯⋯優しい⋯⋯

 

 そして、すぐに彼女は水無月へと視線を投げた。

 

 

「あなた、アカネに何をしたの?」

 

「ふむ⋯⋯」

 

 

 ヒビキの言葉に、水無月はしばらく考え込むと──

 

 

「──あなたは経験が無いコト⋯⋯でしょうか」

 

 

 そう、挑発的に言った。

 

 

「──は?」

 

 

 瞬間、ヒビキの纏う雰囲気が鋭く変化する。

 

 

「⋯⋯アカネ、何をされたの?」

 

「い、いやなんと説明すればいいか──」

 

「── 一行で」

 

「腹をかっさばかれた⋯⋯」

 

「⋯⋯⋯⋯え?」

 

 

 そりゃそうなるよね⋯⋯!

 

 

「⋯⋯とにかく、あの子は敵ってことね?」

 

「それは間違いない」

 

 

 ドン引きしながらも、ヒビキはすごく分かりやすい結論を出してくれた。流石ヒビキ。

 

 

「⋯⋯今ここ以外がどうなってるか分かるか?」

 

 

 とりあえず俺は、ヒビキに現在の状況を聞くことにした。

 

 

「私とジェイソンはあなたとはぐれてすぐに傭兵の襲撃を受けたわ。相手は『傭兵団』を名乗っていたから、一人とは考えづらい」

 

「傭兵⋯⋯」

 

「そして直感的にだけど、それはあの子とも無関係じゃないと思う」

 

 

 どちらも現在見世物小屋にいる第三者達⋯⋯至極真っ当な推論だろう。

 

 

「俺も同じ考えだ。あと実は、俺もさっき変な魔法少女に──」

 

「──私の名を呼んだか?」

 

 

──背後に響く単調な萌え声。

 

 ッ、やばい⋯⋯ッ!!

 

 

「またお前かよ──ッ!」

 

「──今の私は、ボクサーだ」

 

 

 そんなふざけたセリフと共に放たれたカフカの左ストレートを振り向きざまの頬に受け、俺の意識は一発 K.O.されることとなった。

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