案外、飯を食うことは嫌いじゃない。
片手間で終わらせられるのであればそれに越したことはないし、絵を描いてる間は食事を忘れることは多々ある。なんなら睡眠も忘れる。ひたすらぶっ続けで二十時間、なんてことも今までにはあった。描くことが俺にとって最重要な事柄であるので、食事がそれより下のランクに位置する事象であるのはその通りなんだけど。それでも食べることは嫌いではない。
それに、俺にはもう一つ、食堂での食事を心待ちにしている理由があった。
創世学園は食堂が二つ用意されている。
文学科や演劇科の人間が使用する第一食堂、そしてそれ以外の学科が使用する第二食堂。分けられている理由はこの学園の校内が単純に広いからだ。
つまり、食堂で飯を食っている間は柊が俺の目の前に現れない。
現在、六月。これまでの二か月間の柊はものすごかった。もう、ほとんど毎日、毎時間俺のところまでやってくるのである。どんなタイミングであっても俺のところにまでやってきて俺に絵を描けと依頼してくるのだ。
しかし、ここにおいては話が変わってくる。
創作の授業中に俺の教室やアトリエに突撃してくることは多いが、わざわざ文学科の所属している一棟のほぼ対角線上にある二食まで足を運ぶのは時間の無駄だ。彼女はここまで現れない。
そんな風に思っていた時期が俺にもありました。
「や」
「……なにしに来たんだよ」
「ご飯食べに来たんだけど?」
両手でトレーを持った彼女がにこやかな笑顔で俺に声をかけた。椅子に腰掛けた状態の俺の目からも山盛りに盛られたサラダの森、そして皿から溢れんばかりのカレーの海、そして頂きまで見上げると首がおかしくなるような唐揚げの山が見える。もちろん誇張表現ではあるが、最大限の誇張表現を使用してしまいたくなるほどの量の食事だ。
軽く見積もっても俺の三倍以上の量になる。カロリー量を計算しようとするだけで並の女子高生なら顔を青ざめさせるだろう。フードファイターにでもなるつもりなのか?
「キミ、ご飯そんな量で足りるわけ?明らか足りないじゃん。男の子でしょ。もっと食べな」
「うるさいな……というか、お前は女の子なのにそんなに食っていいのかよ。フードファイター志望か?太るぞ」
「……まぁ、別にいいでしょ」
柊が俺の前の席に座りながらふいっと顔を背けた。その動作に流石に浅慮な発言だったかと思い至る。
「悪い…… 女子に言うべき発言じゃなかったな」
「いや、ボク女の子じゃないし。そっちじゃなくて太るかどうかの方が気にいらないんだけど? こう見えて体型の管理めっちゃ気を遣ってるんだからね?」
「は?」
「へ?」
流石に漫画のようにスプーンを取り落としたりはしなかったがそれでも衝撃のあまり固まってしまった。首を傾げていると彼女もフクロウのように同じ方向に首を倒す。
それは初めての衝撃だった。近しいものだとレオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』をパリのルーヴル美術館で見たときと同じような衝撃であろうか。それが俺の脳内回路を焼き切っていた。もしくは『最後の晩餐』を見たときの衝撃でもいい。どっちもダ・ヴィンチなのは意図したわけではないけど。
「女の子じゃない?」
「女の子じゃない」
「誰が?」
「ボクが」
「はい?」
「はい?」
認識することを脳が拒否していた。
いや、認識をしていたから脳が硬直してしまったのかもしれない。理解をしたことが演算できることに直結するわけではないことに近しいだろう。コンピューターでいうところの処理落ちというものがこれに近かった。
今までに違和感がなかったわけではない。彼女に手を掴まれた時に、彼女に支えられた時に、違和感はあった。確かに彼女は女子の中ではしっかりとした体幹を有していたような気もする。
でもそれだって気もする程度の話で、いや、なんだ?そんなわけがない。なんの話をしている?
首を再度傾げる。そうして脳がようやくその事実を認めた瞬間、ダメ押しのように柊がカレーを飲み込んでから口を開いた。いや、カレーを呑むなよ。
「いや、だから、ボクは女の子じゃないよ?」
「はぁぁぁぁぁ⁉」
叫び声が口を突いて出た。
「嘘つけ!じゃあなんだそのスカート⁉」
「いや、この学園制服男女どっちがどっちの着てもいいんだよ。ジェンダーの平等ってやつね」
「いや、それは知ってるけど……!」
中等部からエスカレーターで上がってきたが女子が男子のパンツスタイルをしていることはあれ、逆は見たことないんだけど! とか。
そういうのって平等って形だけで実際はそんなことない。普通の方が優勢されるってことのが実態として多いだろ! とか。
様々な反発する言葉が口から漏れ出そうになるがその全てが倫理的に良くない言葉であったのでグッと口を噤んだ。そんな俺を見てサラダを口一杯に頬張った柊がニヤニヤしながら口を開く。……いつの間に飲み込んだんだ?
「それともボクが余りにも可愛くて女の子に見えてたのかなぁ〜?」
「女子には見えるだろ。可愛いかはともかく」
「可愛い方を肯定してよ!」
「なんだってんだめんどくせぇな!」
つまんなーい!と不満を溢してカレーを飲む(本当に飲むという表現が適切だった。さっきからこいつは食べ物を呑んでいるのである)彼女……彼は、頬杖をつきながら仏頂面を示した。こいつからこの表情を引き出したと考えるとなんだか悪くないような気がする。
いや、今まで騙されてきたことを考えたらプラスマイナスゼロどころかマイナスだな。こいつのカテゴライズが最大限譲歩して宿敵にまで行きました。
「……なんだってそんな格好してんだ?」
つい気になってそんな疑問を投げかけた。すると、柊がピクリと硬直してから腕を机の上で組んだ。そして深刻そうな顔で語り出す。
「これには深い話があって……聞いてくれるかい?」
「あ、長くなるやつならやめとくわ」
「まぁまぁ、聞いていきなよ」
立ちあがろうとする俺の足を踏みつけるようにしてこの場に固定した柊がニコニコとピカピカのスプーンを手で弄び、微笑む。この場面だけを映像に残せるのであればこいつの毒牙にかかる奴も多そうだななんて思った。『モナ・リザ』もかくやと言ったところである。
「……絵、描きたいんだけど」
「キミのアトリエ、今使えないだろ?どこで描く気さ」
「お前がドア壊したせいで使用禁止なんだけど……?」
ガムテープで補強しただけの突貫工事を行ったことがバレてしまい、修理の間一時的にアトリエを使えなくなってしまったのだ。だから今日はアトリエでサンドイッチを食べるのではなく、食堂にまで足を運んでいるのである。
誰のせいだと思ってるんだ? という俺の言葉なんて気にも止めず、柊はペラペラと話出した。
「ボクには一人、姉がいるんだけどね?これがすごく傍若無人で、人を人とも思わない血も涙もないような人なんだけどさ」
「本当にそれ姉か?」
なんだその言いよう。と水を口に運びながら言うと柊は続け様にやれやれと肩をすくめた。とても迷惑していますといった様子である。お前の俺への行動そっくりだぞ、という言葉を待っているのだろうか。
「ほんっとにデリカシーって言葉が欠如してる完全自分本位のちゃらんぽらん人間なわけなんだよね。人の迷惑より自分の面白いが優先される人間なわけ」
「訂正、お前の姉だな」
完全無欠にこいつの姉であった。むしろその人に会ったことなくてここまで姉弟ってわかるのすごすぎるだろ。どこまで性格似てるんだよ。特に自分の面白いが優勢されるとこ、完全にお前じゃん。
「そんな彼女はある日ボクに言いました『私これから男装でいくから、あんたこれから女装ね』ってね」
「暴君か何かの話してる?」
「そっからはボクの服が姉のお下がりになりましたとさ。ってな事情なわけ」
「暴君の話してたんだな?」
こいつの暴走も相当なものがあるが、それを超える暴走で弟の服装を確定させているなんて、さらにそれを生涯押し付けているだなんて暴君という他に言葉はなかった。如何なる暴君も身内に女装を強要していないだろう。どんな変態だ。
「なんかとんでもないな……」
「とんでもないでしょ? まぁ、ボクは可愛かったからなんとかなったけど、君だったら大変なことになってたよ」
「今ここで大変な目に合わせてやろうか?」
なんかいきなり喧嘩を打ってきた目の前の女男に向かってジロリとした視線を向けた。その視線を受けて柊の手が流れるように肩を抱き、少し体を後ろに倒す。周りからジロジロと見られていることは承知だろうに、事もあろうにこいつは悲鳴にも似た声をあげた。
「
「俺が悪いみたいになるだろうがテメェ!」
キャー!なんて声をあげる柊に尊厳を破壊されぬように声を荒げた。必死の抵抗が伝わったのか周りからは「痴話喧嘩か……」という声が聞こえてくる。大方、それで話はまとまったようだ。
正直、こんなやつとカップル扱いされるのは業腹で仕方なかったが、犯罪者扱いされるよりは良い。背に腹はかえられなかった。
は?なんで俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだよ。ふざけろ。とんだ羞恥プレイだ。
「なんだ、こんなところで騒いでる暇あるんだ」
柊の言動に毎度のことながらイライラしていると嫌な声が頭の上から聞こえた。俺にわざわざ喧嘩を売るような声をかけてくる奴は一人だけだ。いや、この学内のおおよその人間が俺にあまり良い印象を抱いていないだろうけど。
「あれ、キンパツだ。君もここでご飯かい?」
「キンパ……まぁ、別になんと呼ばれようが構わないけど……」
眉をぴくぴくと動かしながら石岡が苦し紛れにそう言った。初対面の段階で意気揚々と自己紹介していたのにも関わらず名前を覚えられていないというのはプライドを傷つけたらしい。
平静を装い、顔を顰めているのを見るのは少し気分がいい。存外、石岡と同じ程度には俺も性格が悪いらしかった。
「重くんと相席希望?悪いね。今日はボクに譲ってもらうよ」
「そいつと一緒に飯を食うなんて冗談じゃない。絶対にあり得ないから安心してくれていい」
「そう?なら今後も一緒に食べようね!重くん!」
「俺に拒否権はないのか?」
鯖の味噌煮を箸で解しながら柊の発言に疑問を投げかけるも、素知らぬ顔で流されてしまった。いや、今更石岡に俺の言葉が届くだなんて思ってもないけど。
「それにしても驚いたな。お前今日も随分と先生に叱られていたのに。しかも基礎的なデッサンの取り方を注意されるなんて中等部みたいなミスを指摘されたばかりとは思えないお気楽っぷりだね」
「…………」
これに関しては何も言えない。先ほどの先生の指摘は何も間違っていない。
初歩的で、中等部の学生が最初にするような、そんなミス。あれは、デッサンにおける最も基本的なミスだった。
おかげさまで俺はクラスの笑いものだ。まぁ、それはいつも通りのことではあるが。
「へぇ、重くんレベルでも指導受けるんだねぇ」
どこかボケッとした柊の声がピリついた空気を切り裂いた。
「柊さんがどんな風に思ってるのか知らないけど、こいつはそんな大それた人間じゃないよ?」
ここぞとばかりに石岡が嫌な顔で俺を見る。
「蓮斜陽の失敗作。唯一手直しのできない汚点。期待外れの欠陥品」
それらは、今まで散々聞いてきた言葉だ。どれもこれも、聞き馴染みがありすぎておかしくなりそうなくらいに、覚えがある。
ネットの海で、現実の教室で、廊下で、ひたすらに好奇の目に晒されて、失望された結果その言葉の数々を受けてきた。
その失望の言葉は、皮肉の言葉は、全部俺に向けられた言葉だ。
「ガキの頃の方が上手かった。年々下手になっていく画家。絵画の初歩すら
今まで散々向けられてきた、悪意の結晶だ。
「それがそいつって画家なんだから」
「ッ」
つい、勢いよく立ち上がっていた。椅子が倒れこそしなかったもののガタガタと揺れる。
このままこれ以上、ここに座ってることはできなかった。これ以上座っていれば、俺の中のちっぽけなプライドが傷つけられてしまうから。
「あれ?重くんごちそうさま?」
「…………」
柊の言葉を無視してトレーを持つ。返答をせずにさっさとその場から逃げるように離れる。
さっさと消えてしまいたかった。ここからいなくなってしまいたかった。
ジジイと俺は全く別の人間なのに。
俺という存在が生きるのには常にあのジジイの存在が付いて回る。
蓮斜陽以上の存在になれない。
そんな俺が嫌で仕方なかった。
「ねぇ、重くん」
背中越しに声を掛けられる。声の主は柊だ。俺のこの態度を見てもまだ絡むつもりがあるらしい。目が付いていないのだろうか。
「今日はアトリエに何時からいるの? というか何時に修理終わるの?」
「別に何時でもいいだろ」
「行くから教えてって言ってるんだけど」
「来んなって言ってるんだよ。わかんないの?」
柊の追及を振り切って立ち去る。
背中に異なる視線が二つ。突き刺さっているのを感じた。
× × × × ×
誰か今すぐに柊を拒絶する方法を教えてくれ。
俺は教室の机の上で頭を抱えながら大きなため息を落とした。黒板には自習、とデカデカ書かれており、教室はほとんど無法地帯となってしまっていた。
クロッキー(鉛筆で絵を描く画法)をする人もいれば携帯を弄っている者や、お喋りに興じている人もいる。みんながみんな自由に過ごしているからこそ、俺のため息もよく言えば空気に馴染み、誰にも気にされていなかった。まぁ、元から空気のような存在であると言われればその通りだが。
俺が顔を上げると横にひょこりと椰子馬の顔があった。その瞳が心配そうに俺を見つめている。
「レン、顔色悪い?」
「最近疲れが取れなくてさ…… 」
「眠れてない?」
「あ〜、いや、ストレス多すぎて寝た気にならないが正しいな」
柊がもうほとんど常に俺にちょっかいをかけてくるようになって三ヶ月が過ぎた。わかりやすい拒絶を示したつもりだったし、アトリエについても鍵をかけるようになったのだが、アイツは必ずやってくる。来るなと言っても照れ隠しであるように受け取ってしまうのだ。無敵か?
「ストレス値下げるチョコある。オススメ、食べる?」
「……いいわ、腹の調子悪いし」
これは腹の調子が悪いのではなくて、腹の虫が治らないとかなのではないか。とも思うが、そんなことを考えると余計に暴れ出しそうなのでグッと堪える。最近は胃薬が友達になりつつあった。唯一の友達である。
「レンが辛そうだと、私も苦しい。無理はしないで」
「ありがとう……」
椰子馬の優しさにお礼の言葉を返す。なんでこいつはここまで俺に優しいのだろうか。……ジジイには連絡つけてやれねぇけどな……。
「おい、落ちこぼれ。元気してるか?」
椰子馬との会話を続けていると、ふいに上から声が聞こえてきた。……この声でこの始まりもう何回目だよって感じなんだけど、お前その入り方しかできないわけ?
「なんだよ、今お前のせいで元気じゃなくなったけど?」
「勝負しようぜ」
「は?」
急な発言だったので、口から飛び出した反応の言葉もどこか間の抜けたものになってしまった。何とか言葉を続ける。
「なに? どういうつもり?」
「お前が天才じゃなくて、オレの方が天才であることを見せつけてやる」
そう言った石岡の顔にはどうも自身の勝利を確信した顔をしていた。その顔が歪に歪む。
「『
「なんだそれ。馬鹿みたいなこと言ってないで自分の制作に集中しろや」
「ガラクタ以外も描いてるんだろ」
「審査員には理事長や学部長も一人つけてある」
彼の発言がいつもの突発的なものではなく、周到に準備されたものであるということに気が付くと、クラス中にざわめきが広がっていった。俺も正直驚いている。
そこまでして俺のことを潰したいと思っているなんて思ってもみなかった。
「面白い試合にしよう! テーマはお前が決めていいぜ? なんだ? 油絵? 洋画?イラスト?」
両手を大仰に広げながら喧伝するように石岡が大声を上げた。ざわめきが大きくなって、人がやってくる。教室と廊下を繋げる窓からも騒ぎを聞きつけた多くの顔がこちらの反応を覗いているのが見える。
「静止画? 人物画? 何で勝負する?」
「俺に勝負するメリットがない」
「あぁ、じゃあオレに勝ったら今後一切の邪魔をしないと誓うわ。これでどうだ?」
「別に興味ない」
コイツが関わってくること自体、どうしようもなく鬱陶しいとは思うものの、コイツよりも柊の方がよっぽど俺の心をかき乱している。
「怖いんだろ」
「ビビってるならビビってるって言えよ」
「
「……ッ!」
図星だった。
石岡の言葉に過去の映像がフラッシュバックする。
多くの観客、向けられる好奇の視線。罵倒の数々、そして極めつけに、彼女の言葉──。
『君は天才じゃない』
「やめて」
俺が過去に戻りそうになっていたタイミングで椰子馬が俺の制服の袖を引きながら口を開いた。そこでようやく少し冷静になる。
「レン。そんな話にムキになる必要、ない」
「別に……しないって。馬鹿じゃないんだ」
「レンにメリットないなら、乗らない方が、いい」
彼女の言う通りだ。俺にはこんな話に乗るメリットが全くない。
この『
石岡の言っている今後一切邪魔をしないだとかは後付けで彼が付随させるものでしかなく、ことの本質は別にある。
それは
「ハハ、お前もそろそろそいつに執着するのやめたら?」
嘲笑にも似た声がする。椰子馬のことを心底馬鹿にしたような声色がやけに大きくこだまする。
「お前みたいな奴を擁護する奴の気がしれないな!だからソイツの作品もマニア向けのややウケ作品なんだよ!」
「ッ!」
椰子馬の作品は確かにマニア受けの作品だろう。病み系メイクを施したリスカ跡や血を流した少女の絵や、メルヘンな少女まで、好みの別れるような絵を描いているのは事実だ。
だからなんだ?石岡程度の人間に悪く言われるような作品か?
それは断じて否だ。
巻き込まれたからといって、罵倒される筋合いなど一つもない。
我慢の限界だった。石岡に絡まれるのも、柊に絡まれるのも、学園長に絡まれるのも限界だった。俺には余裕がないのに、絡まれるのも、どうしようもなく限界だったのだ。
その上で椰子馬にまで迷惑をかけるだなんて考えるだけでも許せなかった。
だから、ここで全部終わらせよう。
「いいぞ」
「は?」
「だからいいぞ。俺のジャンルだから勝ったなんて言われちゃ困るからな。ノンジャンルだ。サイズも好きにしろ。その喧嘩、買ってやるよ」
「なんだ、やる気になったか?ビビりくんのくせに?」
「うるせぇな。あと俺が勝ったらお前椰子馬に土下座しろ」
売り言葉に買い言葉で発言が大きくなるがもうそんなことどうでもよかった。正直何でもよかった。どうにでもなれと思ってしまった。
俺のせいで人に迷惑をかけるのも、俺の思い通りの絵が描けないのも、何もかもにムカついた。
だから、これはきっと八つ当たりにも近かったのだ。
「徹底的に潰してやる」
「そうか。謝罪させてやるから、覚悟しろよ?」
俺たちの視線が交差した。火花でも散るように視線が絡み合う。
「『
ワッとクラス中が湧いた。そりゃそうだ、『
人のゴシップで一番盛り上がるのが人間というものだから。
人の盛り上がりが時間に比例するように上がっていく、ボルテージが上がるにつれて、クラス中で様々な声がぶつかっていく。
売り言葉に買い言葉。やってしまったということに俺が気づいたのは、俺たちのこの噂が広まった後だった。