月の光とボールの輝き   作:中野 唯

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7 プルピケ山道攻略その一

 チャンプルタウンに降り立った彼らは一度主のボールに戻り、今度は暫しミライドンに揺られた。

 だが例のプルピケ山道までは程近かったようで、超能力に適性のある三体は大口を開けた暗闇を前にして再度呼び出された。

 

「デカグースは身体も大きいから多分私も気付けるし、大丈夫だと思うんだけど……」

 

 プルピケ山道で発見報告のあるポケモン達は、地域の生息分布による特色こそあれど、全国各地にある洞窟と傾向自体はそう変わらない。

 平たい身体と体色によって暗い岩肌に紛れ、毒ガスを吹きかけてくるヤトウモリ。ヤミラミをはじめとした、闇に紛れて奇襲する狡猾なあくタイプやゴーストタイプのポケモン達。

 これらに対抗できる、優れた索敵手段が必要だった。

 

「いくよ。ソウブレイズ、エーフィ、ブラッキー、お願いね」

 

 抜擢されたソウブレイズとエーフィは、事前の取り決め通りとはいえ主から頼りにされるのはやはり嬉しいのか、気合いの入った声を上げる。

 収まったままの他三体も「いつでもいけるぞ」と言わんばかりに、ボールをかたかたと揺らした。

 主ではなく洞窟の入り口を見つめ、呟くように返事を零したのは、静かに溶け込むような黒い彼だけだった。

 

 恐れながらも確かな足取りで踏み入った洞窟は、想像よりも明るい。通行に際し必要最低限の人工の明かりが、朧げに内部を照らしていたからだ。

 開けた空間では、大型のポケモンでも支障なく通れるほど中央が幅広く均されているが、端々に自然の名残が見て取れた。乱雑な岩肌に反響する野生ポケモンの息遣いは、方角も距離も不明瞭ではあるものの、確かに彼らを窺っているのが分かる。それらのレベルを事前に調べたトレーナーからすれば、決して隙を見せてはいけないという思いで身体が強張った。

 

 仮にも公道として扱われているのに安全が確保されていないことを憂うべきか、人間の発展のためにポケモンの住処が奪われていないことを安堵すべきか。

 未だ宝探しの道半ばたる身には、判断がつかなかった。

 

「マリルリ、『アクアジェット』! エーフィは距離に関係なくヤトウモリ優先で『サイコキネシス』! パーモットは近づけさせないことに専念して!」

 

 人間の姿を認めるなり、迷わず駆けてくる好戦的なポケモン達。愛でる対象でないのは間違いないが、あくまで縄張りへの侵入者を排除するためであったり、日々の糧を得ようとした行動に過ぎないと、彼のトレーナーは正しく認識していた。

 

 痛めつけるのは趣味ではないし、得られるものもない。体毛をはじめとした素材だけは頂きたいが、それもわざわざ戦わずとも探せばいくらでも落ちている。

 なにより、この洞窟を抜けた後はそのまま雪山をも進まなくてはならないのだ。戦闘が避けられないのであれば、索敵に長けた三体の消耗を抑えるべく他のポケモン達に頑張ってもらい、追い払うのみに留め対処していた。

 

 デカグースが率いるヤングースの群れを相手に、パーモットは見事な体捌きでいなし、打ち付け、仲間へと近づけさせない。それが苦手とするじめんタイプやゴーストタイプのポケモンは、膂力自慢のマリルリが各個撃破し、主の道を切り開く。

 互いを補い合う二体に、遊撃と自身の護衛を巧みな指示で切り替えさせる。

 

 しかしやはりと言うべきか、頭を悩ませるのはヤトウモリへの対応。

 くさタイプのマスカーニャに、どく・ほのおタイプのヤトウモリを相手取らせるなど、相性から考えてありえないと言っていい。

 パーモット、マリルリ、ソウブレイズであればタイプ相性は互角であり、純粋なバトルの実力も加味すれば余裕をもって対処できるだろうが、三体とも近接攻撃が主体であるため、毒に侵されてしまう可能性をどうしても低減できない。先を考えると、これは決して無視できるものではなかった。

 

 特殊攻撃を主体とし、堅実な対処が可能であるのはエーフィとブラッキーだが、ブラッキーの用いるエスパータイプの技は効果的な威力を維持するのに酷く労力を要する。

 対するエーフィは、その身と同じエスパータイプの攻撃技がこうかばつぐんであるため技の威力は申し分なく、それでいて負担は抑えたまま細かい制御も可能ときている。

 

 つまり、今の襲われながらも安全な行路が成立しているのは、エーフィが出ずっぱりで頑張ってくれているため。

 しかし唯一の生命線が崩れれば結局のところ全員が被害を被るのだから、彼女の休憩は必須。そう理解しながらも、索敵も行える特殊エスパータイプという手札を温存するのはあまりにも惜しかった。

 

「抜けるよ!」

 

 パーモットとマリルリが、それぞれ『ワイルドボルト』と『アクアジェット』で切り開いた道を駆け抜ける。

 主が安全圏まで辿り着いたと判断したエーフィは『サイコキネシス』で砂埃を巻き上げ、野生ポケモンの追跡を断ち切った。

 

 

 

「ありがとうエーフィ、パーモット、マリルリ」

 

 小さく開けた空間に響くのは、三者三様に上げられる快活な声。

 洞窟内では比較的安全に小休止をとれると、プルピケ山道の情報を集めていた時に幾つか聞いた場所が恐らく此処なのだろう。一部は複数人が横に並ぶことも難しいと思われる狭い通路であるが、裏を返せば侵入経路を限定させる形で利用できる。

 地図と時計を確認すると、予定時刻よりも早い。間違いなく彼らが想定よりも奮闘してくれたおかげだと、普段よりも更に心の籠った感謝がトレーナーから吐き出された。

 

 それに対し嬉しそうに、そして未だ元気であると主張する彼らだが、消耗が無いという訳では勿論ない。取り分けて、自らの身体ごとぶつかりに行くパーモットとマリルリの手当は怠れなかった。

 エーフィに関しては二体が身体を張って守り切ったため攻撃こそ届いてないものの、索敵と戦闘の両方の要を担うことによる精神の負担は計り知れない。

 

「エーフィは交代ね。流石に一旦休まなきゃ」

 

 ヤトウモリにより気を配る必要は出てくるが、今は行程計画よりも余裕がある。ブラッキーとソウブレイズの二段構えならば問題ないだろうと考え、エーフィに交代を告げる。

 

「フィーッ! フィ……!」

「え? んー、でも……」

 

 どうやらエーフィは、ここ暫く活躍がないことを気にしているようだった。

 

 前回挑んだベイクタウンのジムはエスパー専門。エスパータイプ同士は互いに決め手がなく、且つジム戦では相手がその専門家というのもありエーフィの出番は最小限であった。

 そして現在目指しているフリッジタウンはゴースト専門で、ナッペ山にしてもゴーストポケモンが一定数出没する。エスパータイプは一方的に不利で、そこでも活躍は見込めない。

 

 エスパータイプ相手ほどではないにせよ、ゴーストタイプにもあくタイプは一方的に有利であるからして、引き続きブラッキーは活躍するだろう。

 ゴーストタイプ同士は互いに効果的な攻撃を叩き込めるという性質上先に一撃を与えた方が有利だが、ソウブレイズの敏捷性は随一。併せ持つほのおタイプは雪山のこおりポケモンたちにも有利である。

 マスカーニャ、マリルリ、パーモットが主に扱うくさ、みず、でんきに、更にほのおを加えた四タイプは、バトル以外でも活きる場面が非常に多い。その汎用性は初心者トレーナーに対し、第一のパートナーとして推奨されるほど。

 

「フィッ!」

「うぅん……分かった。ただし! 絶対無理はしないで」

 

 普段はひかえめなエーフィが発した、凛々しくも研ぎ澄まされた声。気の弱いところがあるものの、譲れない部分では決して引かない性格であると、ここまでの旅路で十分理解している。

 いくら溢れるほどの意欲があっても、ポケモン達のためにならないと判断すれば無理にでも休ませるトレーナーも、この時ばかりは引かざるを得なかった。

 彼女の性格を鑑みて、意固地になる可能性を避けたというのもある。そんなトレーナーであるから、旅中で活躍できないといった理由だけで不要だと断ずるような考えは持ち合わせていない。

 

 しかしエーフィからしてみれば、連れているポケモンの中で唯一活躍できるこの状況。

 主からの称賛を交えて触れ合える機会、すなわちたくさん褒めてもらえるかもしれない好機を、みすみす逃す彼女ではなかった。

 

「じゃあ引き続きエーフィに……マスカーニャとソウブレイズ、お願いね」

 

 ソウブレイズは言わずもがなであるが索敵の補助。視野が広く賢いマスカーニャは、エーフィの性格をも理解している節がある。彼らならば、指示がなくともエーフィをてだすけしてくれるだろう。

 

「もう少しで洞窟も半分。そこまで行けばポケモンセンターもあるみたいだから……皆っ、がんばろう!」

 

 気合いの入った返事が上がる。ポケモンセンターでは元々十分な休息をとると予定していたため、そこまで行けばエーフィも休んでくれるだろう。

 そう考えたトレーナーは少しでも彼女に息を整えさせるため、治療に出来る限り時間をかけると、これまた不自然にならない程度に水をゆっくり飲んでから出発した。

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