月の光とボールの輝き   作:中野 唯

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8 プルピケ山道攻略その二

 ジムチャレンジ終盤に向かうトレーナーへの試金石たるプルピケ山道。其処は甘えにも似た優しさを、容赦なく咎めんとしていた。

 

 なにせ待ち受けるは、自由を標榜するパルデアに居を構えるジムリーダー。挑戦者のレベル如何にかかわらず本気でバトルに臨むのは、一人のトレーナーとしての礼儀であり義務とすら言えた。

 無論彼らとて、挑戦者の持つバッジの数に応じて戦ってもらうポケモンは都度変更する。

 人類科学を容易く飛び越えるポケモン達といえど、バトルという一側面に限れば人間のスポーツと本質にそこまで違いはない。ポケモンの育成についてもある程度の法則性が知られているため、バトルにおける能力であればいくらか調整はできる。

 

 問題となるのはジムリーダーの指示。彼ら自身は四天王やチャンピオンにも匹敵する実力の持ち主であり、一部の天才を除いて挑戦者は未熟で当たり前。

 そうなると、挑戦者らが見せる隙をどの程度までなら見逃すのか、という質問への回答は非常に難しい。

 事前に定められたバッジ数の挑戦者だけを相手に、事前に定められた能力や技の内でそれぞれの全力を振るえばいいポケモンたちとは違い、ジムリーダーは唯一人。

 

 地方最強トレーナーの威光を知らしめるべく称されたチャンピオンや四天王とは違い、彼らジムリーダーはあくまで「意欲さえあれば十分に撃破可能な挑戦者の壁」としての役割が求められている。

 許される範囲内では本気で戦うが、全力を出すのは禁じられている。それに加え、戦い方までをも八通りに分けるというのはあまりに難しい。未だ発展途上のリーグ運営であるからして、そこまで高度なジムリーダーとしての技量なぞ要求できる訳もない。

 

 従って、ジムごとにバッジをいくつ持った挑戦者が訪れるのか、予め想定できる状況が望ましい。

 そのためジムリーダーは、パルデア最大の都市であるテーブルシティを基準に、交通の便と難易度が出来るだけ比例するように配置されている。こうすることで、初心者トレーナーがうっかり高レベルのジムに挑んでしまう場合も減り、ある程度はジムリーダー側の調整も容易になる。

 これはチャンピオンランクを制定し、リーグ運営を行い始めた当初から決められていたことであった。

 

 ジムというものは当たり前ではあるのだが、挑戦者がいなければ成り立たない上、自由奔放なパルデアにおけるアカデミーであるからして、その挑戦者も一定数が定期的に訪れるわけではない。

 対し関門として立ちはだかる彼らも、生活のため趣味のため、各々理由に違いはあれど、ジムリーダー以外にも何らかの活動を行っている。

 各街の代表者と呼べる存在であったり、比較的時間の融通が利く職についている者。連絡があれば速やかにバトルに応じられることも重要だろう。

 トレーナーとしての腕は勿論、その他にも様々な条件からジムリーダーを任されている彼らは、程度の差こそあれ多忙。

 

 それらを踏まえると、ジムのある街に辿り着くことすら必死なトレーナーにジムリーダーを突破できる可能性を見出すのは難しく、厳しい言い方ではあるが、あまりに見込みのない者にいちいち付き合っていられる訳もなかった。

 各街で固有に設定されているジムテストがあるため、よほど実力が足りていない者であればそこで落とされるものの、対応する職員の数を考えれば限度はある。

 

 つまりジムチャレンジ後半、ベイクタウンにおけるベイク洞窟や、ナッペ山におけるプルピケ山道というものは、いわば天然の篩。

 高レベルのジムテストにおいては「街に辿り着く」それ自体が最初の選別となっていた。

 

「マスカーニャはデカグース達を! エーフィは手隙の時にその援護! ソウブレイズは私と一緒に来て!」

 

 自然。それ自体が試験になり得ると判断されるほど、厳しい弱肉強食の世界に生きる野生のポケモン達。彼の者らは時に、バトルを生業とするトレーナーが繰り出すポケモンに匹敵する個体が、群れを率いる場合さえあり得る。

 

 そうした野生故の強さを発揮するポケモン達に対し、人間が味方するポケモンが有利であるのは、偏に知恵の差。

 トレーナーの管理の下で適切な食事を摂れるために真価を発揮できる場合であったり、無駄のない効率的な身体の動かし方を安全な環境で身に着けられることなども、それに含まれるだろう。

 だがあくまで戦っているのはポケモンである以上、実戦の最中にトレーナーができることと言えば、その小さな体躯で生み出される破壊力の効率的な運用方法を考案し、向ける先を指示するのみ。

 

 ポケモン達が頑張ってくれているのに自身は何もできない今の状況が、トレーナーにとってはあまりにも歯痒い。交代できる数を減らしてでも、四体目を繰り出すべきか。それほど安直な考えまでもが浮かんでいた。

 そうすれば確かに攻撃の手数は増えるだろうが、同時に守らなければいけない箇所も増える。横並びで戦えるならばまだしも、乱戦状態で一体目と四体目へ指示を出すまでの間隔を考慮すると、全体の状況を把握して的確に対処できるとは到底思えない。

 過った考えを即座に却下し、内心で己に向けて落ち着くように言い聞かせる。

 

「ソウブレイズ、落ち着いてよく見てから対応して。大丈夫、あなたなら出来るから」

「ソウ……!」

 

 デカグースの『とっしん』を意にも介さず、トレーナーに近づくヤングースの群れを切り払う。攻撃に意識が向いた瞬間を狙うヤミラミの『かげうち』も、後の先をとった『ファストガード』で防ぎきる。その様は身に纏う鎧も相まって騎士そのもの。

 相手に合わせ次々に多様なエネルギーを帯びる両腕は色鮮やかに輝き、トレーナーの行く手を照らしていた。

 

「マスカーニャ! 次に私が呼んだら全力ダッシュでこっちに来て!」

「ンニャアァ……!」

 

 そうしてソウブレイズが耐えていれば、マスカーニャの対処が間に合う。

 執拗に追いすがるデカグースに叩き込みたいのが十八番の『トリックフラワー』だが、それらを許さないとでも言うように絶妙な頃合いで横やりを入れるヤミラミには、妖精の力を借りた打撃が有効。

 豊富な攻撃手段を持て余さず、適切に使い分けて戦況を有利に進められるのは、マスカーニャの巧緻性と聡明さがあって初めて可能となる芸当。持ち前の素早さで颯爽と距離を詰め、鮮やかに戦線から離脱させていく。

 次々と刈り取られていく野生のポケモン達の意識を横目に、しかしてそのほとんどがトレーナーの指示によるものではなかった。繰り出される数々の攻撃は、主の意図を汲み取ったマスカーニャ自身の判断によるものである。

 ポケモンとの信頼関係を重視して仲間となるのが信条のトレーナーからしても、旅立つきっかけとなったニャオハとの絆は、手持ち六匹の中でも群を抜いていた。

 

「フィイッ!」

「エーフィ? 何が……えっ、エクスレッグ!? なんで洞窟内部に……」

 

 しかし斯様なトレーナーの彼らに対するその愛情も、この時ばかりは欠点でもあると言えた。

 此度のプルピケ山道踏破にしても、ポケモン達を一体ずつ繰り出して戦闘不能になったら交代する、というのを繰り返せば現状よりも余程楽に進めるのは間違いなく、それはトレーナー自身も理解している。

 それでも家族同然の彼らを限界まで戦わせるのを嫌ったトレーナーは、同時に複数のポケモン達で対応することにより疲労の分散を図った。ポケモン達も主の意図するところを理解し、その判断が間違いではないと証明すべくふるいたっている。

 

 綱渡りの如き危うさが見え隠れする戦闘状況ではあったが、各々の強みを押し付け、弱みを見せない組み合わせとなるように組まれた戦術は、その効果を遺憾なく発揮していた。

 パルデアでは馴染みのない三体同時に戦わせる方式でありながら、一体も戦闘不能にしないという一種の誓約すら課しているというのに、逆に言えば「時折危うい程度」で済んでいる。それは偏に、トレーナーのずば抜けた才覚故と言う他ない。

 

「ニューラまでっ……! ……くぅっ!」

 

 だがここに想定外である別種のポケモンまで参戦されてしまえば、話も変わってくる。

 エクスレッグもニューラも、普段は洞窟外縁を中心に活動する種ではあるが、内部に入ってこないとも限らない。そう理解はしていても思わず出そうになった舌打ちの代わりに、細く窄めた口から鋭く息を吐き出した。

 

 両種ともにマスカーニャが不利とする相手ではあるが、ポケモンバトルはタイプ相性が全てではない。どうしたって贔屓目は抜けずとも、自慢のポケモン達ならば多少の不利を覆してくれるだろう信頼はあった。

 しかしそれはあくまで、一対一に限った場合の話。

 好戦的且つ、タイプ相性の補完がとれた五種類のポケモンが、それぞれの群れを率いて入れ替わり立ち代わり襲い掛かってくる状況では、難しいと言わざるを得ない。

 単純に起こり得る局面の数が爆発的に増えた現状においては、相対するポケモン達への知識と、宝探しで培われた経験により齎される数秒先の未来予想図が、行動に移すまでの枷にもなっていた。

 

「さっきエーフィに言った援護ってやつ、無しで。今だからこそあなたは、ヤトウモリ達だけに専念して」

「フィイッ!」

「ニューラとエクスレッグの両方をソウブレイズにお願いしたいんだけど、いける?」

「ソウッ……!」

 

 敵の敵は味方というべきか、協力する素振りはなくとも互いの呼吸と力量を確認し、仕掛け時を窺いながらゆっくりと近づいてくる野生ポケモン達。それらから決して目を離さないまま指示を出す。

 

 ここが正念場だと分かっているのか、何も言われずともトレーナーの下に集うエーフィ達。返ってきたのは、普段より毅然とした声だった。

 

「マスカーニャ、結局いつも苦しい場面はあなた頼りなんだけど……」

「ニャオン?」

 

 視界の端に映るのは、今更だと言わんばかりに得意げな顔で返事をするマスカーニャの横顔。そこには出会った頃と変わらない愛くるしさを包み込む、確かな頼もしさが湛えられていた。

 

「ふふっ……そうだね。勝てるよ、私の指示を信用してくれるなら」

「ンナァアオ……!」

 

 ジムリーダーとのバトルですら時には不要となる、マスカーニャへの指示。それをわざわざ聞いてほしいと主が言ったというのは、つまりそういうことなのだと、マスカーニャはいっそう笑みを深めた。

 

「いくよ!」

 

 号令と共に、三体が一斉に飛び出した。




今戦っている子はやられるけど、少しでもダメージ与えておけば後続の子で確実に倒せる……って分かってても、倒されるところを見たくないからジムリーダーやチャンピオン相手だろうと無理やり交代して、全員生存したまま勝とうとしちゃうんですよね……
結果、より被害が拡大して申し訳なさで4にたくなる場合もありますが、そういう時に「かなしませまいと もちこたえた」なんてされた日には惚れる。
愛してるからな君たち……ほら、サンドウィッチだ……たんとお食べ……
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