【うちの弟は転生者らしい】原作知識を呟いただけなのに、世界は3日で 姉 の手に落ちた 作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)
今世の目標は定まった。
あとは行動あるのみだ。
今の俺に足りないのは『力』と『情報』。
『力』に関しては、今ある物を工夫すればなんとか戦えるかもしれない。
今の俺では姉さんほどの魔法は使えない。
姉さんは部屋にある物 "全て" 浮遊させ、床掃除をしていた。
『清潔魔法』は対象範囲に制限があるらしい。
人間一人分であれば丸洗いできるが、部屋を丸ごと洗うことはできなかった。
『清潔魔法』はあくまで洗濯や身だしなみを整えるための魔法なのだろう。
ちなみに俺の『浮遊魔法』は自分と同じ大きさの物を浮かせるので精一杯だ。
姉さんはもっと大きいものを浮かせていたから、単純に俺の練度が足りないらしい。
今はこれ以上の大きさを浮かせるイメージができない。
だがしかし、そこでへこたれる俺ではない。
なにも大きいものを浮かせることが『浮遊魔法』の全てではない。
俺は試行錯誤の末、見つけてしまったのである。
《わかぁ、痛いよ。ヒゲは乙女の命なんだから、引っ張らないで》
隣の部屋からバモの声が聞こえる。
これはイタズラだが、ただのイタズラではない。
『浮遊魔法』を使った実験なのだ。
『浮遊魔法』は名前通り、物を浮遊させる魔法だ。
目視範囲内なら魔法をかけることができる。
対象規模は自分以下の大きさと重さ。
自分より大きいものは、一部だけ持ち上がる。
そう、『
つまり、隣の部屋で腹を丸出しにして爆睡しているビーバーの『ヒゲだけ』持ち上げることも可能。
これはすごい発見である。
悪用する方法はいくらでもある。
例えば、生物の片足だけ『浮遊魔法』させれば転倒させられるし、靴だけ浮遊させれば地面を滑るように動けるかもしれない。
ただ、欠点もある。
浮かぶのはあくまで軽い部位だけだ。
つまり、大岩の一部に対して魔法をかけても、岩の一部を持ち上げられない。
イメージとしては、俺が対象部位を掴んで持ち上げる感じだろうか。
ビーバーの髭程度なら引っ張れるが、大岩を掴んだところで俺にはどうしようもない。
とはいえ、これはもはや1つの技と言えるかもしれない。
『浮遊魔法 Typeマジックハンド』と名付けよう。
『マジックハンド』は日常生活でも使う場面が多いので、修行が捗る。
姉さんが運ぶ夕食の皿を1枚多く手伝える。
姉さんは驚いたようだが、褒めてくれた。
俺は天才である。
だが『マジックハンド』が持つ問題は多い。
制限重量は当然あるが、低い機動性と単発発動しかできないことも地味に課題だ。
『浮遊魔法』自体があくまで浮かぶことに特化しており、動き回るのはもはや『飛行魔法』の領分だろう。
複数同時発動に関しては、俺の練度がまだまだ足りていないため、できなかった。
姉さんは大天才なので、3つも4つも異なる魔法を発動している。
たぶん、アホ親父は10や20は平気で操れるんじゃないだろうか?
そう考えるとうちの一族はヤバいな。
一人でも魔王討伐に参加していれば、破壊神召喚の儀式を阻止できたんじゃないか?
もしかしたら、原作開始前にうちの一族が戦えなくなるイベントがあったのかもしれない。
……革命とか?
磔にされる親父
首輪に繋がれ、牢屋に幽閉される姉さん
ゾッとする想像だ。
しかし、ありえない訳でもない。
そんなことはさせない。絶対だ。
幸い原作知識もチートも持っている俺がここにいる。
例え手足をもがれようとも戦ってやる。
魔法の修行方針は立てられた。
『清潔魔法』や『安寧魔法』の応用技にも考えがある。
今度親父に不意打ちで使って試してみるかな。
最近、あんまり顔を見せに来ない親父が悪い。
男子三日会わざれば刮目してなんとやらだ。
一泡吹かせてやる。
とは言え、現状では『満腹魔法』は全く応用を思いつかない。
流石に腹がはち切れるくらい強化するようなことはできなかった。
あくまで満足するまで腹を満たすことがこの魔法の効果範囲らしい。
『休息魔法』は何か弄れそうだが、今は上手くいっていない。
流石に全部バモで試すわけにはいかないしな。
あいつはめちゃくちゃ頑丈だけど、大事な家族だ。
外に出て野生の魔物と戦えれば、もっと成長できそうなんだが、あの姉さんが見逃してくれるとは思えない。
そっちの対策はおいおい考えていこう。
目下鍛えるべき力は魔法だけではない。
『筋肉』だ。筋肉が全てを解決する。
勇者達も魔法の力に頼らず、筋肉だけでレベル999になっている。
カンストまで行かずとも、レベル10くらいの筋力を手に入れたい。
この赤子ボディでは、一発殴られただけでKOである。
立ち上がるので精一杯であり、剣を振るなんてもってのほかである。
貧弱な肉体が恨めしい。
最近は気休めかもしれないが、立ちながらおもちゃの剣を振る練習に励んでいる。
今度親父が部屋に入ってきたら、この名剣エクスカリバー(おもちゃ)のサビにしてくれる。
ガチャ
おっと、噂をすれば親父がやってきた。
この部屋にやってくるのは 姉さん か 親父 のどちらかしかない。
今まで他の人間は一度も来ていない。
そして、姉さんは態々扉を開けるなんて低俗なことはしない。
いつのまにか部屋に転移してくるか、天井を『透過魔法』で貫通して舞い降りてくる。
上からやってくる時はいつも大変だ。
姉さんのパンツがそこらの輩に見られないかヒヤヒヤしている。
外ではやるなと注意したいが、俺はまだ言葉が話せない。
姉さんはその辺無頓着で恥じらいというものがないんだ。
それはそうと、親父には練習していた渾身の一撃を与えてやろう。
ダァ《チェストおおおおおおお》
おもちゃの剣が俺の魔力に包まれ、光り輝く。
ただのおもちゃと侮ること勿れ。
これには『浮遊魔法』をほんのり付与している。
この刀身に触れた者は……
「うお、なんだ。不意打ちとかアイツどんな教育してんだ。しかもこれマジもんじゃねえか」
俺の渾身の一振りを受け止めたのは知らないオジサンだった。
おもちゃの刀身を親指と人差し指で白刃取りしている。
不審者だ。不法侵入だ。天誅だ。
俺は既に全体重を刀身に乗せている。
しかし、それでも指で摘まれた刀身ごとピクリとも動かせない。
このスタイリッシュゴリラ変質者め。
しかし、タダではやられんぞ。
「ん!? ちょ、ちょ待て、俺はお前の親父の……おぇえええ」
このイケオジさんは親父のナニカらしい。
そんなこと今更言われても止まれない。
俺の魔法が半ば暴走気味に強化される。
オジサン、俺の不意打ちを指で掴んで止めるところまではカッコよかったよ。
おもちゃに込められた魔力をいち早く察知したらしい。
でももう遅い。
この『浮遊魔法』奥義は当たったら
主に相手の尊厳に対してな!
「おえ、おい……悪ガキめ。魔法めちゃくちゃ使いこなしてるじゃんかよ」
それもそのはず、この技は刀身に触れた者の体内に "浮遊感" を与える奥義なのだ。
その名も『ジェットコースター斬り(斬らない)』。
3階から飛び降りても無傷だったバモですらキラキラしたんだ。
もちろん俺自身も試してキラキラした。
しばらく二人揃って『清潔魔法』が手放せなかったがな。
ジェットコースターのフワッとしたやつをランダムで感じる俺の最強デバフ技だ。
こんな悪質な技を生み出した理由はただ一つ。
親父がいつも展開しているバリアを貫通するためだ。
余裕ぶっこいて受け止めた瞬間、内側がシェイクしてキラキラするのだ。
「おおい、元気か我が息子よ。パパが帰ったぞ!ぎゃあああマイサンがゲロまみれ!くちゃい」
ちょうど親父も帰ってきたらしい。
なんか楽しそうだな親父。
今まで見たことがないくらい晴れやかな表情をしている。
『清潔魔法』
親父が大爆笑しながら、俺とイケオジを魔法で綺麗にしてくれる。
「おいおい、元最強勇者様がうちのプリプリプリンスにゲロぶち撒けるとか、どんな高等赤ちゃんプレイだよ。殺すぞ?」
「いや、それはお前の息子がいきなり魔法で……『おめぇなぁ。1歳の赤ん坊が言葉すら喋れないのに魔法が使えるわけないだろ?マギちゃんすら5つになってからだったのに』……えぇ、まあそうなんだが」
一瞬、親父から信じられないくらいヤバい気配がした。
元ゲロオジさんはそれを意に介した様子はない。
やはり、二人とも俺が想像するよりずっと強いのだろう。
なぜ原作で出てこなかったのだろうか?
「おお、怖かったでちゅねぇ。パパが叱っておいたからもう大丈夫でちゅよ。チュッチュ」
親父がオジサンの頭を軽くしばいた後、いつものように赤ちゃん言葉で話しかけてくる。
いつもの親父だ。
闘争心が萎える。
顔が近い、髭が痛い。
悪い人ではないんだが、いかんせんスキンシップが過剰だ。
俺の身体から『誘惑魔法』でも垂れ流されてるのかと心配になる。
「マイサンよ。マギちゃんが言ってたぞ。お前は魔王より勇者が好きなんだって?お姉ちゃん悲しんでたぞ」
「へぇ、見る目あるガキじゃねえか。このへっぽこアンポンタンの魔王よりイケメンでカッコいい俺みたいな勇者の方が良いよな」
自称勇者のイケオジはだいぶ機嫌を直したらしい。
少しホッとする。
正直不審者ではあるが、これだけ強そうな人物だ。
敵対し続けたくはない。
それにもう限界だった。
ダァ
俺は親父へ必死にジェスチャーする。
しかし、親父は姉さんではない。
言葉が通じない。
だめ……もう、限界……。
「なあ、なんか臭くねぇか?」
「ん?お前のゲロだろ」
……ふぅ
「いや、多分お前の抱っこしてるそれが原因だぞ」
「……ああ、そういうことね」
仕方ないだろ、赤ちゃんなんだから!!