【うちの弟は転生者らしい】原作知識を呟いただけなのに、世界は3日で 姉 の手に落ちた   作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)

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6話 厄災魔獣ゲットだぜ

どこだよここ。

俺達どうやって帰るんだよ。

海とか今世で初めて見たよ。異世界にもあるんだな。そら当然あるか。スゲェ綺麗。塩くさ。

 

……ほんとどうしよ。

 

「う……うう」

 

ボロ切れから声が聞こえる。

俺は『清潔魔法』をかける。

続いて『安寧魔法』『休息魔法』『満腹魔法』『安眠魔法』を次々かけていく。

 

「安心しろ。俺が守ってやるよ」

「ぁん。うぅ……ママ……」

 

これでこの子も少しは休めるだろうか。

少しうめいた後、寝息が聞こえ始めた。

 

「はぁ〜、キツ。なんでだ?今まで魔法を使ってここまで疲れたことないぞ」

 

俺は『満腹魔法』を自分にかける。

この魔法を覚えてなければ、2人だけで外の世界へ冒険など考えられなかった。

便利な魔法を教えてくれた姉さん様々である。

 

……ん?

 

満たされない。

腹が満たされない。

たくさん食べたような満足感はぼんやり感じるが、以前より腹が減っている。

 

「これ、マジか?」

 

俺は大きな勘違いをしていたらしい。

『満腹魔法』は対象をお腹いっぱいに回復させる体力回復魔法だ。

胃によって消化を必要とするため、ゲーム的表現で言うと『継続回復』効果を付与する魔法だ。

そう思っていた。

しかし、どうやら違うらしい。

俺は腹が減ったままなのである。

むしろ、先ほどあの子へ『満腹魔法』をかけてから余計に空腹感が強くなった。

 

《若、大丈夫?おっぱい飲むか?》

 

……いらん。

しかし、いざとなれば止むを得ないか?

 

おそらく、『満腹魔法』の本質は "エネルギーを分け与えること" だ。

そう『()()()』ことだ。

与えた体力で相手を回復し、お腹いっぱいの満足感を擬似的に体験させる魔法。

 

つまり、自分自身にかけたところで、擬似的な満足感を得られるだけ。

新たにエネルギーは得られない。

これが成立していたら永久機関の完成になっていただろう。

むしろ、あの子に『満腹魔法』をかけたことで俺は極度の空腹状態だ。

……後悔はしていない。

 

だが、状況は依然最悪だ。

原因が分かったところで改善されるものではない。

2歳児の身体は燃費が悪いのだ。

 

そもそもこんな遠くまで来る予定じゃなかった。

精神が肉体に引っ張られている。

全く知らない世界に好奇心が抑えられなかった。

これが若さか。

 

《若ぁ、魚とって来たぞ。食う?》

「生は無理だ。せめて火を起こさないと」

 

だが、火を起こす魔法など使えない。

成人男性ならいざ知らず、幼児に生魚は命の危険がある。

食料を目の前にして、飢えて死ぬのか?俺は。

どうする?

 

《若ぁ、焼けたぞ》

「え、はや。火は?」

 

俺の目の前には、見事な焚き火とジューシーな焼き魚。

俺が考え込んでいる間にバモが用意してくれたらしい。

 

「おまえ、ほんとにビーバーなんだよな?」

《ん?バーモットが火を吹くなんて当然じゃないか。何を今更》

 

???

……異世界の生物だから、あり得るのか?

これが標準なのか?うーん、そうかも?

この感覚はいつまで経っても慣れないな。

こんな都合のいい生物が現実に存在して良いのか?

まあ、元々ゲームの世界だから考えても仕方ないけど。

 

俺はバモに焼き魚の身をほぐして貰い、骨を避けながらゆっくり咀嚼する。

意外とイケる。

良かった異世界の魚は美味いらしい。

今のところ前世の味覚は今世に影響していない。

でも……姉さんのメシ食べたいなぁ。

 

異世界生活2年目にして、未開の土地で遭難。

食料なし。

側には火を吹くビーバー1匹と要救助者1名。

 

狂った村人達から逃げ切れたのは良いが、帰り方が分からない。

俺はともかく、このボロ切れの子がヤバいだろう。

さっきかけた魔法はあくまで、精神と疲労を回復するものだ。

今の俺では怪我を直接治す魔法は使えない。

早く帰って姉さんか親父に見てもらわないと危険だろう。

 

ボロ布をそっと持ち上げる。

予想通り、布の下は悲惨な状態だった。

全身あざだらけで内出血を起こしている。

髪は全て剃られており、片耳は切れている。

頭部にはカサブタ?のような()()()()がある。

歳は5,6くらいだろうか?

あんな環境でまともな栄養を摂取できるとは思えない。

もう少し上を見積もっても良いだろう。

 

《若ぁ、カニ》

「食う」

 

この子へ向ける村人達の敵意は異様だった。

同じ人間の子供に向けていいものではない。

おそらくこの子は "魔族の子" なのだろう。

もしかしたら『人間とのハーフ』の可能性まである。

とんだ厄ネタの宝庫だ。

 

"破滅のロンド" において、『魔族』は魔王以外登場していない。

だからどんな種族なのか、俺でも分からない。

作中の人伝に聞く描写だと、黒い翼と捻じ曲がった角を持ち、魔物を操ったり魔法で病魔をばら撒くらしい。

フィクションに出てくる悪魔みたいな存在だ。

正直、真偽の程はかなり怪しい。

ただ実際、オープニングムービーに出てくる "魔王" の最終形態 や エンディングに少し映る "破壊神" はその特徴を持っている。

 

とはいえ、断定するにはサンプルが少な過ぎる。

ゲーム中においてプレイヤーキャラは世界中をしらみつぶしに探索している。

それでも魔族の魔の字も見つからなかった。

そんな珍しい存在がこんな村にたまたまいるか?

村人達が不満の捌け口として、『孤児を忌み子や魔族の子として仕立てあげた』と考える方がいくぶんかあり得る話だな。

 

《うまうま。若、こっちの貝も美味いよ》

「ん?」

 

俺は魔族の子(仮)が着ていたボロ切れに違和感を感じた。

触り心地がおかしい?ただの布じゃないな。

ビロードのような滑らかな素材だ。

そして、それは子供の背中につながっている。

 

「なんだこれ!?」

 

それは大きな翼だった。

見た目はコウモリの翼に近いだろうか?

しかも背骨から1枚だけ生えている。

明らかに飛ぶことが想定されていない。

……たぶん身体を守るために使っていたのだろう。

噂に聞いた魔族にしても明らかに奇形だ。

それに違和感はまだある。

 

「これは……尻尾?」

 

ネズミの尻尾みたいだ。

腰のあたりから生えている。

途中で切れて短くなっていたため、気付かなかった。

さらに脚には魚の鱗のようなものがちらほら見える。

コイツは ()() だ?

 

《若はバカだなぁ。これ『変身魔法』だよ?》

「なる……ほど? いやなんでそんなこと知ってんだよ」

 

《アタシは物知りなバーモットだからね》

「答えになってないぞバモ」

 

しかし、『変身魔法』か。

作中で出てくる『変身魔法』の使い手は2人だけだ。

1人目は『魔王』。

そして、2人目は『()()()()』。

正確には『厄災魔獣』達全員だが。

 

つまり、あの村人達は『魔族の子供』と間違えて『厄災魔獣の幼体』を迫害していたのだ。

()()()()()()()()()

 

致命的だ。

しかも、国が滅ぶレベルで致命的だ。

厄災魔獣はゲーム本編に登場する唯一プレイヤーが苦戦する敵キャラクターだ。

最初から()()()9()9()9()()()()()()()するのだ。

その強さが分かるだろう。

 

強さだけじゃない。

あいつらは人間よりも知能が高く、種類は多くないが魔王レベルの魔法まで使ってくる。

 

そして、本体は『厄災』の名に相応しく都市を歩くだけで更地にできる巨体持ちだ。

公式設定集によると "天空紋" から現れた異世界の頂点捕食者であり、元の世界を滅ぼしたため、弾き出されてきた追放者らしい。

だから単一種族であり、幼体など存在しないと思っていた。

目の前のコイツを見るまでは。

 

設定資料集には、魔法に関する説明も存在する。

『変身魔法』は万能ではない。

通常は成りたいものにそのまままるっと変身する魔法なのだ。

部分的に変身したり、複数の特徴を合わせた『複合変身魔法』を作中で使ったのは、『魔王』と『厄災魔獣』だけだった。

そして、この子は魔王ではない。

その場合、残る選択は一つだ。

 

「バモ、この子は『厄災魔獣の幼体』なんだな」

《え?ちが……あー、そうそう。よく分かったねぇ。さすが若ぁ(ばかぁ) このほうがおもしろそ

 

俺がここで取れる選択肢は2つ。

コイツをここで『()()』か『助ける』かだ。

ゲーム開始時点の場合、『殺す』しか取れる選択肢はなかった。

しかし、今はまだ "天空紋" が健在だ。

魔力を捧げる必要はない。

むしろ、コイツを味方に引き込んで魔王との戦いを手伝ってもらった方がいい。

 

……正直、こんな小さな子を殺めたくない。

それに約束したんだ。『守ってやる』ってな。

約束は守られるべきだ。

 

 

 

 

《うふふ、若はかあいいねぇ。食べちゃいたい》

 

 

 

 

「う、ううん。ハッ!?誰ですか?」

 

俺がウトウトし始めたところで、子供は目が覚めたようだ。

もう夜だ。

静かに寝かせてほしい。

 

「バモ、もう無理。説明よろしく」

《それは良いけど。この幼体、アタシの言葉分かるの?》

 

俺の意識は闇に堕ちた。

眠気には……勝てなかったよ。

 

 

 

To Be Continued...

 

 




■ 次回
弟死す
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