【うちの弟は転生者らしい】原作知識を呟いただけなのに、世界は3日で 姉 の手に落ちた 作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)
私は夢を見ているのかもしれない。
起きたら目の前に見知らぬ『子供』と獣がいた。
襲ってくる気配はない。
ここは安全なの? 痛くないの?
『あの子』を見ているとなんだか安心する。
そして、気付いた。
今まで感じていた痛みが嘘のように引いている。
ずっと空っぽで、私を責めるように痛み続けたお腹がとても満たされている。
こんな感覚は生まれて初めて。
周囲がとても静かだ。
怒鳴り声も、硬い物も、ここには飛んでこない。
「ピー」《 ねえ、あんた▼ 》
ビクッ
突然の後に、身体が自然と身構えてしまう。
しかし、痛みはやってこない。
「ピー」《 おーい、きこえるか▼ 》
「な、に?」
再び、鳴き声が聞こえる。
声は『赤ちゃん』を抱きしめている獣から聞こえているようだ。
「ピー」《 しかたない▼ 》
「うぅ、わかんない」
獣がこちらに向かって鳴く。
威嚇ではなさそう。
何か伝えたいのだろうか?
獣は明らかにため息をつくような仕草をする。
そんな態度を取られても、動物語は分からない。ごめんなさい。
「ご、ごめんなさい。ことばわかんない」
「ピー」《 ごちゃごちゃうるさい▼ 》
獣の目玉が怪しく光る。
私は無意識に一歩踏み出した。
また一歩、そしてまた一歩と獣へ近いて行く。
私の意思じゃない。怖い。
コイツ、ただの獣じゃない。
身体の自由が効かない。
コイツは『魔物』だ。
ママが昔教えてくれた。
魔法を操り、人を襲う『魔物』と呼ばれるオバケ達がいることを。
この魔物は『子供』を使って人に安心感を与え、誘き寄せてるんだ。
うう、ママ会いたいよ。
また手を繋いでお出かけしようよ。
頭を撫でて頑張ったねって褒めて欲しいよ。
痛いのはもう嫌だよ、ママ。
獣はもう目の前に迫っている。
逃げられない。
フサフサの毛に触れる。
筋肉質な獣の胸に触れる。
そして、私は……
おっぱいにかぶり付いた
???
自分でもその行動が理解できなかった。
しかし、口の中には甘く暖かい味が広がる。
なんだか懐かしい。なんで?優しい味だ。私何してるの?安心する。ずっとこのままでいたい。涙が溢れてくる。会いたいよ。
「……ママ」
《誰がママじゃい。アタシは若のママにゃなりたいが、アンタのママじゃないよ》
「ママ?声が、声が聞こえる。分かるよママの言葉」
《だから違うっての。バカな
ママが私に語りかけてくる。とても安心する。ママ、もういなくならないで、ずっと一緒にいて。
《いいかい。『変身魔法』ってのは
「でも、私はママを食べたことないよ」
《流石のアタシでも腕を千切ってアンタに食わせるわけにはいかないからね。賭けみたいなもんだったが、ドンピシャで良かった。『
私はなんだか気まずくなり、少しママから距離を離す。
《アンタは『変身魔法』が暴走してるみたいだからね。アタシを食わせれば、アタシの言葉が分かるようになると思ったわけだ。まあ、これでアンタも晴れて『厄災魔獣』の仲間入りみたいなもんさ。おめでとさん》
「ママの子供?」
《いや違うが?何を聞いてたんだよ、このバカ娘は。そんな事今はいいからもうちょっと飲んできな。アタシも『回復魔法』は使えないが、母乳に回復効果を持たせるくらいはできるからね。若も素直に飲んでくれたら良いのに》
そう言ってママは私を優しく抱きしめてくれた。
あの日失った温もりが戻ってきた。
ごめんなさい。
《若が心配してるからね。しっかり飲んで元気になるんだよ》
「眩しっ、なんとか無事に朝を向かえられたか……」
《若ぁ、おはよー。》
バモが俺の顔やら髪やらを舐めまわし、爪を櫛のようにして寝癖を整えてくれる。
この様子だと、ずっと寝ずに守っていてくれたのだろう。
頼りになるやつである。
「毛繕いは良いよ。それよりあの子はどう?まだ生きてる?」
《あの子?ああ、あの娘なら元気そうだよ。ほれ》
バモがそう言って何かを見せてくる。
そこには
はて?誰だこれは?
俺は少し目を擦り、再び目を向ける。
やはりそこには、見知らぬ少女が
「ママぁ」
「どういう事?」
《若が昨日拾った幼体だろ。ボケるには早いぞ若ぁ》
はぁ?
昨日のキメラみたいな生物がこの少女だと?
見たところ、全身のあざは見当たらず、耳もちゃんとある。
髪なんてツヤツヤしている。
「バモ、起きてたなら何があったか分かるだろ。俺が寝てから何があった」
《おっぱいあげたら干物が水を吸ったみたいに回復したぞ。『変身魔法』が使えるんだから普通じゃないか?》
「ほんとかぁ?」
……何か怪しい。
俺の友人は嘘がうまい。
結構抜けたところが多いのだが、悪知恵が働くタイプだ。
とは言え、ビーバーに何かができるとは思えない。
異世界のビーバーが火を吐くのは知らなかったが、まさか『回復魔法』まで使えるとは思わない。
それなら一家に一体ビーバーになってる事だろう。
いや、実際にこの世界ではそれが常識の可能性も……あるか?
ゲームだと一般家庭の描写なんてない。
……いや、流石にないか。
「おい、おまえ。起きろ」
色々考え込んでも仕方がない。
もう朝だ。さっさとここから移動して家に帰りたい。
取り敢えず、非常食としてビーバーの母乳が使える事を知れただけでも良かった。
今はそれでいい。
「うう、ママ。おはよう。あと昨日の赤ちゃん」
「赤ちゃんではない。もう2歳だ。幼児と呼べ。それでお前はこれからどうしたい?俺達は家に帰るところだ。お前は……お前もついてくるか?」
「いい、の?」
言葉の途中で、俺は察した。
少女の表情から『帰る場所』なんてないと。
あの村人達の様子から薄々分かっていたことだ。
野生の生き物を拾ったら、最後まで責任を持って面倒を見ること。
数少ない前世の記憶だ。
まあ、前世で拾ったネコより俺の方が早く逝ってしまった訳だが……。
「そうと決まれば、さっさと移動しよう」
ガァああ」
「ヒュー、っぱり魔法ってのは凄いね。こんな距離からでもイメージ通り切り刻めちまうんだからな。魔王のお嬢ちゃん様々だぜ」
痛い痛い……ん?いやむしろ痛くないな。
腕は吹き飛んだが、傷まわりの感覚がない。
頭が冴えていつもより思考の回転が速くなっていのだろうか。
世界がゆっくり回って見える。
アドレナリンというやつかもしれない。
今は分析だ。状況を整理しろ。
やつは『魔法』を使った。そして、『魔王』を崇拝している。
おそらく魔族。
しかし、あの顔見覚えがあるぞ。
昨日あの子を虐めていた村人の集団にいたひとりだ。
『仮説構築』
魔王が厄災魔獣の幼体に人間への憎悪を植え付けるため、村人達に忌み子として与えた?
だとしたら、最優先目標は『あの子の奪還』。
『打開策①』
あの子を差し出して見逃してもらう
却下
さっき受けた『切断魔法(仮)』の練度は低そう。
不意打ちで喰らわなければ『浮遊魔法』で回避可能。
『打開策②』
俺が
採用
「バモ、その子を連れて逃げろ。帰って
《りょうかぁい。若も頑張ってね》
泣き叫ぶあの子をバモが咥えて走り出す。
振り返らない。
少しでも無駄な事に意識を逸らせない。
そんな事をすれば痛みで『浮遊魔法』が解けそうだ。
「頑張るに決まってるだろ。こちとらこの場で命かけてるんだよ」
こんな所で自分の命を惜しんだり、戸惑ったりするようでは、姉さん達を救う未来なんて到底辿り着けない。
だから、俺はここで一つ上のステージへ上がる。
死線を生き延びてやる。
「おお、赤ん坊が魔法を使ってやがる。魔族の子供はどいつもこいつも化け物だな。刻んで食えば魔力ってやつが増えるかな?」
魔族野蛮すぎるだろ。
そんな事には絶対ならないが、余計に負けるわけにはいかなくなった。
『斬撃魔法』
斬撃が飛んでくる。
遅い。これなら見てから避けれる。
『浮遊魔法』
俺は余裕を持ってそれを避ける。
しかし、
「ぷかぷか気持ちよさそうでちゅねぇ」
「おぇええ」
魔族の蹴りが俺の腹に当たる。
速い!
こいつ体捌きがめちゃくちゃ速い。
おじさんレベルじゃないけど、さっき使った『雑な魔法』とは熟練度が違う。
力を隠してたのか。
意識が……もう……。
「こちとら何十年も国境で魔族狩ってるんだよ。昨日暇つぶしがてら魔王様のお話聞きかじって覚えた魔法だったんだけどね。これ見て大人に勝てると思っちゃったんでちゅか?可愛いでちゅね。食べちゃいたいくらい」
「クソがああああ」
『マジックハンド』
『ジェットコースター切り』
薄れる意識の中、俺が出せる全てを使って暴れる回る。
めちゃくちゃにしてやる。
見えない腕があたりの木々を薙ぎ倒し、触れれば胃がひっくり返る効果を辺りにぶち撒ける。
「おえええ、なんじゃこれ気持ち悪りぃ。ふざけんなよ魔族のガキが!」
当たったらしい。
ザマァ、みやが……れ……
俺の意識はここで途切れた。
《あ〜ぁ、
「そんな! でもね、でもまだ分かんないよママ」
《アタシは厄災魔獣だよ?若の魔力は知ってる。それが今、完全に消滅した。カッコつけの
だから……
とっても都合がいいねぇ。
"厄災" が顕現した。
■ 次回
厄災降臨