【うちの弟は転生者らしい】原作知識を呟いただけなのに、世界は3日で 姉 の手に落ちた   作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)

22 / 24
4話 改変するべきもの

俺はこの街を救うことができる。

『改変魔法(伝聞)』

俺は魔物なんかに負けない。

『改変魔法(抗魔)』

俺は "魔法使い" になる男だ。

『改変魔法(魔力)』

あのギルドの間抜けども絶対ぶん殴る。

『改変魔法(応報)』

エン達だけでも助けたい

…………

 

 

これも、これも、ダメだ。

寄生型魔物は一気に駆除できないと意味がない。

1匹でも残っていたら、あいつらはまた増える。

 

「どうすればいい。魔法で何ができればみんなを救える?」

 

なにか話しているおじさんを右手で掴みながら、街を救うイメージを探す。

どうすれば救える?

何を変えればいい?

何が足りない?

疲労から雑念が混じる。

いくつか魔法を習得できたが、それに比例して疲労が増していく。

 

イメージする。魔力を整形する。魔法を取得する。疲労が訪れる。再びイメージする。

 

そして、それも限界が訪れる。

とうとう新しく魔法を取得できなくなり、イメージするだけで全身に疲労が重くのしかかる。

まともな状態ではない。

普通ではない方法を取った代償だろうか?

酷い睡魔が眼球を握りしめる。

 

取得できた魔法は全て『改変魔法』だ。

これはそもそも新しい魔法を取得できている訳ではないのかもしれない。

あくまで俺が取得できる魔法の上限は1つだけであり、イメージの拡張と極限状態による過剰な精神状態で無理やり『改変魔法』の熟練度が上がっただけなのだろうか?

 

ぽたり

 

足元にナニかが滴り落ちる。

俺の顔から垂れているらしい。

赤い。

 

右手がなにかを握り続けている感覚はまだある。

おじさんの声が遠い。

俺がここで気を失えば、もう二度と目を開けられないかもしれない。

魔物の寄生速度は分からないが、気を失っている間に街の全てが乗っ取られる可能性は十分ある。

寝ている間なら、俺も再び寄生されるだろう。

そうなったら、ここは完全に奴らの巣になってしまう。

 

 


 

個体名:ケンシャ

種族:人間

状態:呪縛(会話)、疲労

取得魔法:

『改変魔法(栄養)』『改変魔法(衝撃)』『改変魔法(伝聞)』『改変魔法(抗魔)』『改変魔法(魔力)』『改変魔法(応報)』…………

 


 

 

ステータス欄にたくさんの『改変魔法』が出てくる。

片っ端から効果をおじさんで試し、改変できる範囲を把握していく。

俺の『改変魔法』はかなり特殊らしい。

魔王様が話してくれた一般的な『改変魔法』はもっと単純であり、できることが少ない魔法だった。

 

俺の『改変魔法』は取得した時点で "なに" に改変するかが決まっている。

不便な魔法だが、再取得することでできることが増えている。

つまり、俺の発想力と想像力、再取得に必要な精神力が持つ限り、()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

もちろん制約も見えてきた。

1. 一般的な『改変魔法』と同じく、既に発動中の魔法しか改変できない

2. 複雑な改変はできない

3. 元の魔法から大き過ぎる改変は負担がデカくなる

4. 必ずしも狙った効果を持つ訳ではない

 

 

「魔法はイメージ」

 

意識を保つため、魔王様の言葉を反復する。

同じ魔法でも解釈次第で異なる効果、異なる結果をもたらす。

 

制約の範囲内で、現状を『打開できる魔法のイメージ』が一つだけある。

それに近い『改変魔法』を手に入れられれば、この状況をひっくり返せるかもしれない。

仮説に仮説を重ねた唯の妄想かもしれない。

それでもやってみるしかないだろう。

そして、それには代償が必要だ。

 


 

『改変魔法(魔力)』

 


 

俺は習得した全ての『改変魔法』を "魔力" へ還元していく。

不思議な感覚だ。

習得した魔法は記憶に結びついているらしい。

なにを使えていたかすら、今の自分には思い出せない。

ただ、なにか大きな思いや感情を忘れてしまったような感覚があってモヤモヤする。

それでも止められない。止めるわけには行かない。

 

自分の身体が輝いて見える。

魔力が溜まってきたからだろうか?

それとも気分が悪過ぎて見える幻覚だろうか?

 

魔王様の講義では、まだ "魔力" について詳しく説明されていない。

だが、俺は『魔王様の一番弟子(自称)』だ。

鳥の雛みたいにただ(魔法の知識)を待つだけの存在じゃない。

魔王様の魔法理論を元に、魔法が持つ1つの可能性をこれから検証する。

 

そう、これは検証である。

 

魔法を扱える生物にすべからく宿っている "魔力" という力。

魔力を "イメージ" という型に当てはめたものが魔法だ。

 

魔王様は何故あらゆる魔法が使える?

魔王様があらゆる事象を全て具体的にイメージできるからか?

違う。

魔族という種族が特殊だからか?

違う。

何百年も魔法を扱ってきたからか?

違う。

 

圧倒的な魔力量。

"魔力" が全てを解決しているのではないか?

つまり、具体的なイメージができる方が必要な魔力が少なく済むが、魔力さえ十分にあればイメージが曖昧でも魔法が使える可能性が高い。

だから、魔力さえたくさん用意してやればいい。

大量の魔力で無理やり魔法を発動できれば、イメージがつたなくても何とかなる。

 

ただ、俺が習得した『改変魔法』を()()()()()()()()()足りないかもしれない。

だから、俺が出せるすべてを魔力に変えてやる必要がある。

そんな俺が他に差し出せるものは何か?

 

"呪縛(会話)"

 

魔王様が力任せに全ての人間にかけた魔法だ。

魔力に変えた際の魔力量は膨大になるだろう。

 

ただ……これは俺と魔王様を繋ぐ唯一の絆だ。

俺は魔王様の声を聞けなくなるだろう。

迷いはある。

だが、これを賭けないと街のみんなを救えない。

俺は "魔法使い" になりたい。

でも、故郷を救えなかった悲劇の "魔法使い" になりたい訳ではない。

 

これは魔王様との永遠の別れではない。

俺が自力で人間最強の "魔法使い" になり、魔王様と再開するまでのしばしの別れだ。

 

今日俺は、魔王様の元から卒業する。

おめでとう?

 

 


 

個体名:ケンシャ

種族:人間

状態:魔力飽和症

取得魔法:

『改変魔法(魔力)』

……

 


 

 

全て捧げた。

なんとなく身体が軽くなった気がする。

先程まで聞こえていたおじさんの声はもう聞こえない。

ただ、何かを掴んだままの感触が右手に残っている。

 

全ての魔力を使うイメージ

街を救うための具体的なイメージ

 

整ったイメージに乗せ、俺は『改変魔法』を使った。

 

 

 


 

『改変魔法(*)』

 


 

 

魔法(俺の願い)が発動した。

 

 

 

 

身体が重い。

ああ、布団か。

目頭がズキりと痛む。お腹が空いた。瞳が乾く。

 

「あ、ケンシャさん。大丈夫ですか?お水と食べられそうなもの持ってきますね」

 

エンが台所へ駆けていく。

ここは俺の家だと思う。

何故エンがここにいるかは分からない。

彼女はこの家の大家だ。いつでも入って来れるわけだが。

 

……いや、思い出してきたぞ。

エンが寄生されて、この家で留守番させて、ギルドで殴られて、おじさんと抱き合った気がする?

 

「あれ?」

 

魔王様の声が聞こえない。

あの日以来、毎日聴こえていたあの人の声が聞こえない。

 

「……ああ、そうだった」

 

全部思い出した。

無力感が身体を包む。

たが、まだ油断できない。本当にすべて終わったのか?

確かめないといけないことがある。

 

「ケンシャさん。栄養不足で街中で倒れてたんですよ。パン屋のおじさんがみんなに声かけて、家まで運んでくれなかったら大変だったんですからね」

 

エンが差し出すコップを手に取る。

俺はさりげなく彼女の手に触れ、『改変魔法』を発動する。

彼女は少し驚いた様子を見せ、目線を泳がせた。

まさかまた寄生されたか?

彼女の反応に少し不安を抱きつつ、彼女の状態を確認した。

 

 


 

個体名:エン

種族:人間

状態:魔物()()、呪縛(会話)

取得魔法:『寄生魔法』

……

 


 

 

"成功" だ。

俺は賭けに勝ったようだ。

俺が全ての魔力を消費し、イメージしたのは『1()()()()()自由に改変する力』だ。

習得したのは『改変魔法(*)』。

イメージ通り、改変できる範囲は少ないが、1文字だけ魔法を改変できるものだった。

 


 

()生 → ()

 


 

 

あの状況では、街に広がった寄生型魔物をすべて駆除し切ることは不可能だった。

だから、寄生の能力や感染力をそのまま、()()する方向へ誘導してやった。

俺がこの魔法をかけたのは、あの時のおじさん()()()()だ。

それがずっと家にいたはずのエンにまで影響している。

つまり、狙い通り "古い" 寄生型魔物を人間に友好的な "新しい" 寄生型魔物が駆逐したのだろう。

 

これで俺たちの故郷が滅びる危機は脱したはずだ。

とはいえ、寄生型魔物自体は健在なので対処方法を考える必要がある。

……まあ、それはおいおいだな。

 

「あーん」

 

「いや、自分で食えるからいいよ」

 

「そんなこと言って、栄養不足で倒れたの今回で2回目ですよ。お留守番なんて言い訳して私を家に置いて行ったのも、先日の引きこもりの件も、私を何かから守ろうとしてくれたからですよね。ケンシャさんっていつもそうですね。私のことなんだと思ってるんですか?」

 

笑顔なのに目が笑っていない。

目の前にあるスプーンから放たれる圧力が凄い。

小さな頃から気が弱く、父親である前大家の陰に隠れていた小さな女の子が随分逞しくなったものだ。

 

「ご、ごめんよ」

 

「ケンシャさん。私ももう大人です。ちゃんと頼ってくださいね。いつも1人で背負い混み過ぎです。今度倒れたら大家権限で家に縛り付けますからね」

 

にっこり微笑むエンの顔からは、冗談なのか本気なのかちょっと分からない。

俺の喉からは乾いた笑い声が漏れる。

 

「ハハ、気をつけるよ。あっそう言えば東門の近くに新しく『ハンバーガー』とかいう珍しい料理を出すレストランが出来たみたいだよ。今度の休みにどう?」

 

「えっ、食事ですか。うん! 行きましょう!! パパにお小遣い前借りお願いしてみます」

 

エンの表情が昔のように子供っぽい表情に戻る。

余程、ハンバーガーに興味があるのだろうか?

 

「いいよ。今回もまたたくさん迷惑かけたしね。ケンシャおじさんの奢りだから腹一杯ハンバーガー食べればいいさ」

 

「えぇ、子供扱いはやめてくださいよ。私ももう大人なんで『ワリカン』やりたいです」

 

最近のエンは子供扱いを嫌う。

そういうお年頃なのだろう。

まあ、彼女には世話になりっぱなしだし、好きなだけ付き合ってやるつもりだ。

 

「取り敢えず、これ全部食べて早く元気になって下さい!」

 

スプーンは有無を言わさず、俺の口に突っ込まれた。

 

 

 

 

「ふぅ。大変な日だったな」

 

エンが作ってくれた食事を食べ、再び俺は横になっていた。

時間も遅いので、エンには帰ってもらった。

名残惜しそうに何度もこちらを振り返りながら、彼女は帰って行った。

まあ、ご近所なのですぐに戻って来れるのだが。

ここら辺は治安がいい。

とは言え寄生型魔物の件もあったばかりだ。

夜に出歩く時間は少ない方がいいだろう。

 

1人になった部屋の中で、俺は覚悟を決めた。

俺は自分の身体に改変魔法をかける。

あれだけやった無茶の影響を早急に確認する必要があったのだ。

そして、魔王様との切れてしまった繋がりについて再確認する意味もある。

 

 


 

個体名:ケンシャ

種族:人間

状態:祝福(会話)、魔物共生、疲労

取得魔法:

『改変魔法(魔力)』

『改変魔法(*)』

『改変魔法(会話)』

……

 


 

 

「祝福?」

 

なにこれ?

 

 

 


■ 次回

祝福

 


■ おまけ

【寄生型魔物タコゥ】

"天空紋" を通って異界からやってきた魔物が起源。

肉体を持たず、 "魔力体" と呼ばれるカラダだけの存在。

魔力や魔法に惹かれる習性を持つ。

行動原理の全ては自己複製にあり、宿主に危害を与えることはない。

触れることで自己の複製体を相手に寄生させる『寄生魔法』を使用する。

 

寄生された生物は、多幸感を覚えて開放的になる。

一部例外的に内向的になり、引きこもる事例も存在する。

これは元々の宿主の性格に依存する説が有力である。

主に魔力の高い魔物に寄生し、モンスターパレード(魔物の大繁殖)の原因になることがある。

魔物は本来一部を除き、群れない傾向にある。

しかし、この魔物に寄生されることで、魔物同士の殺し合いが減り、繁殖行動の割合が増えるため、ダンジョンを始めとした魔物の巣がオーバーフローする。

零れ落ちた魔物達が、人里を集団で襲う事件につながる。

 

『寄生型魔物タコゥ』が人間に寄生した事例は少ない。

魔力や魔法にほとんど触れてこなかった人間をタコゥでは感知できないからと言われる。

しかし、魔王様による世界征服以降、魔王の『会話魔法』に釣られ、人間に寄生する事例が出てきた。

 

撃退方法は至って単純である。

体内にある魔力の流れを整えれば、自然に体外へ排出される。

魔族の国でも年何人か寄生を確認されるが、大規模な感染拡大が起こったことはない。

一部の若者がその多幸感を得るために意図的に寄生させる事例が数件報告されている程度である。

人類に害がなく、触れた相手に多幸感を与えられる魔物。

この魔物を全人類に寄生させれば完全な平和が実現すると一部界隈では議論されている。

 

 

ただ、『幸せ』なだけの人生に価値はあるだろうか?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。