水の都で命は踊る   作:盆回

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はばたく原石

 

 

 おれの意に反してとんとん拍子に海賊達との約束は取り決まり、また翌日ということになった。彼らと別れ、想定より長くなってしまったお使いをつつがなく終わらせ、帰宅。

 

 

 

 

 

 

 一人きり、いいや二人きりになったところでベッドの上に腰掛け、腕を組む。

 

 

「050。おれが怒っている理由、分かるな?」

「はい……」

 ドスの効いた声で話せば、同じ口からしょげた敬語が返ってきた。

 突如おれを押し退け表層ではしゃぎ、口を挟むことさえさせない暴走具合。表層のおれの呆れを読み取るまでもなく、やらかしたということは自覚しているのだろう。その証拠に、こうして話しかけるまで心の中の声は静まり返っていた。

 

 

 

「一つ、事情があろうと海賊は海賊、あまり心を許すんじゃない。二つ、おれの制止を完全に無視するのをやめてくれ。二重人格と思われてもおかしくなかったぞ、昼間の挙動は」

「うん……」

「表に出るときの一人称も変わっていたな。……いくらお前の素がおれの演技とほぼ等しいとしても、そこだけは違う。気を付けろ」

「あれ……『おれ』って言っちゃってた?」

「思いっきりな」

 

 パウリーにあの変わりようを見られたが、そこは奴の鈍感力を信じるしかない。他の連中、特に潜入している奴らにバレたときにどうなるかが分からない為、050の存在は隠し通したいことなのである。

 

 

 

 

「はァ……だが決めちまったもんは仕方ねェ。おれは表に出ないからな、お前一人でやれ」

「……! いいの!?」

 まあ、これくらいはいいだろう。そもおれが主導権を握っているとはいえ、050の自由意志を封じ込める筋合いはおれに無い。あうだの何だの言葉になっていない唸りを発する050にそう許可を出せば、ぱ、と暗くなりかけていた心の端が華やぐ。そんなに大道芸が楽しかったのか。

 

 

 ……それもそうか、050は閉じた世界に身を置いていたクローン。娯楽なんぞに触れる機会など皆無だっただろうし、初めて見る華やかなサーカスに心を動かされてもおかしくはないだろう。

 

 

「こうなった以上はな。それに元々お前の体なんだ、おれがあれこれ口出しするのも駄目だろ。……途中で飽きても辞めるんじゃねェぞ」

「うん! ありがとう、ルッチ!」

 

 

 

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 

 

 

 約束の日時。正規の港とは別の場所、裏手に止まった船に向かう。手配書が発行されてる海賊は真正面からウォーターセブンに入れないんだって誰かが言ってた。

 

 

 

 ボロが出ないようにだけ気を付けろ、とだけ言い残して、ルッチは意識の奥に引っ込んだ。だから、この指導を受ける期間は会話とか行動とか、全部おれがやらなくちゃいけないんだ。

 ルッチと話すときは気負わなくたっていいし、この前は勢いで全部口に出せちゃってたし。だけど今日はそうはいかないかもしれない、と気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 帆船の元へと歩いていけば、一人の人影が見えてくる。あちらもおれに気付いたようで、此方を認めて隈の出来た目を僅かに開いた。

 

「あ、ほんとに来た……」

「来ました、ディオンさん!」

 

 

 

 船の番をしていたらしい彼女は、ガシガシと青い髪を掻いてちょっと目を泳がせた。本当に来るとは思われてなかったんだろう。

 迷った末に、ついてこいとばかりに踵を返して船へと乗り込むディオンさんの背中に着いていく。

「……一人で海賊船に乗り込もうなんて、ガキの癖して度胸あるなアンタ」

「ぼくは強いからね〜〜! 海賊相手なんてへっちゃらなんです!」

 そう言って笑えば、じとりと変な目で見られた。本当のことなのに。

 

 

 

 船の上へ降り立つと、そこは赤に黄色にの派手な系統色で溢れかえっていた。……脳裏にこびり付いた、あの色と同じなのに、とても華やかで楽しげな色。

 

 

 

「船長たちは今ちょっと用事。すぐ帰ってくるから座って待ってて」

 そわそわとしていれば簡素な椅子へと座るよう促される。そのままに腰掛ければ、ディオンさんは向かい側へとどっかり座り込んだ。

 

 

 

 

「聞きたかったんだけど」

 見定めるような、赤い視線が刺さった。……ディオンさん達にとっては美味しい話でしかないから、その分警戒されるのもそりゃあそうだろう。怪しんでいることを隠そうともしていない。

 

 

「なんでわざわざアタシたちのとこに習いに来たの。普通海賊なんて忌避するものだろ」

 そんだけお金あるんならちゃんとした楽団に依頼も出来ただろうに、と。低いトーンでの当然な疑問に、顎に手を当てて考え込む。

 なんでわざわざ海賊に、ね。……それは確かにそうなんだ。ルッチは海賊自体嫌いだし、おれも好ましいと思っているわけではないし。

 

 

 

「ン、うーん……なんでだろ?」

「は?」

 思えば自分でも、具体的に何でなのかは分からなくて。首を傾げながら疑問符を返せば睨まれた。別にガン付けなくなっていいじゃないか。

 

 

 

 

「なんでなのかはわかんないけど、……凄く、きらきらしてたから」

 

 

 あの船長の言葉を借りれば、魅了された、と言うやつなのだろう。

 

 初めて見たショーは輝いていて、眺めているだけでどきどきと鼓動が高鳴って。自分でもやりたいと思ってしまったら、ルッチに怒られるなんて考えもせずに前のめりになってしまっていた。

 

 

 

「ぼくはやれることはなんでも……沢山やってみたいんだ」

 

 

 ルッチは元の場所に帰す、これは確定事項。

 おれはみんなのところに行く、これも確定事項。

 おれの寿命まではあと七ヶ月、これだって揺らぐことはないだろう。

 

 

「ここで何を知りたいのか、何を習いたいのかも、正直決まってないけど。それこそ皆に色々と教えてもらいたくって」

 

 

 ……でも、あと七ヶ月もある。だったらその間に興味のあること色々やってみたって、バチは当たらないんじゃない?

 色んなものを見てみたい。このきらきら輝く場所で、輝く人たちに、教えてもらいたいことが沢山ある。

 

 

 

「だから、ディオンさん。ぼくにアコーディオン教えてください!」

「……わかってるよ。でもアタシは演奏出来るだけ、教えるのは専門外だからね」

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 

「今帰った! 悪い、ヒョウ太もう来てる、か……って」

 

 050の意識の中から、船長を先頭にした集団がバタバタと船へ上がってくる気配を感じ取る。彼らの心配は、先日の押し掛け弟子が船員の刺々しい態度に困らされていないかといったところだろう。

 だがそれは無用というもの。

 

 

「音鳴った!鳴ったよディオンさん!」

「ふ、あはは、そりゃ鳴るよ楽器なんだから!」

 

 

「……もう打ち解けてるネ、はっやいなあ」

 

 

 最初はピリついていたようだが、随分と平和そうだ。覗く視界から見える穏やかな光景と変な音に、おれは意識の奥で緩く口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 

 全員が揃ったところで話し合いの時間、だ。

 貸してもらったディオンさんの予備のアコーディオンを返し、七人がけのテーブルについた。

 

 

 

 実は持ってきていたアタッシュケースをドンと置き、開く。訝しんでいたそれぞれの目が限界まで見開かれ、視線がおれとその手元を行き来する。この額の金は結構な大金らしくて、まとめて見ることはないから、だろうか。

 

 

 

「ま、前払いィ!? 全額!?」

「しかも今持ってきちまってるのか!?」

「うん! お仲間さんが危篤っていうから、どうせだし早めにって……ダメだった?」

 

 食ってかかられるような勢いにこて、と首を傾げる。授業料として持ってきた金額に不足はないはずだけれど。

 

 

 思っていたのと違う反応に心配になっていると、がたりとしかめっ面の長身が立ち上がり、足音を鳴らしながらこちらへと歩いてくる。

「ヒョウ太」

「? わっ」

 リフターさんに両肩を掴まれた。何事。

 

「お前な……海賊相手に、いや海賊じゃなくても!人を信頼し過ぎていないか!? 襲われる可能性とか、持ち逃げされる可能性とか考えなかったのか……? 外野の私が心配になってきたぞ!?」

「あわ、わわわ、リフターさん!?」

(突き飛ばすか?)

(ルッチは物騒なのやめてね!?)

 がくがく揺さぶられ言葉がブレる。振動に呼応するようにルッチが意識から浮かび上がろうとするのを止めた。

 

 

(だから言っただろう、そんな大金持ち歩くのは常識がないと)

(うう、そうかもだけど……)

 

 

 

 

「……なあ、ヒョウ太。なんでアンタはそうまでして、アタシらの仲間を助けようとしてくれるんだ?」

 脳内で問答をしていれば、ふと真面目くさった顔のディオンさんに尋ねられる。

 

「なんでって……」

「この団に教えてもらいたい理由は聞いた、ならその次だ。別に金を払うのは後でもいいだろアンタ」

 先程よりは険の取れた声色だが、まだ警戒の見える語調での問いかけ。

 

「ちょっとディオン〜……?」

「まあ、聞いてみようぜトラット」

 たしなめようとしたトラットさんを落ち着いた声色のウィンドさんが片手で制する。彼もまた、表にはあまり出ていないけれど警戒はしているみたいだ。様子見の意図が読み取れる。

 

 

 

 

「……なんというか、これ言ったら失礼になっちゃうかなって思ってたんだけど……ショーはすっごくよくって、でも完璧じゃないなって」

「完璧じゃ、ない?」

 ひくり、と。自信に満ち溢れていた、カッスン船長の眉が跳ねた。やっぱり機嫌を損ねてしまっただろうか。

 

 

 

 

 

 

「完璧じゃない、か。そうだ、その通りだ!」

「へ?」

 怒りなど一切感じない堂々とした納得に、思わず抜けた声が洩れた。

 

 

 

 

「確かにおれ達はアイツが、クラウがいなければせいぜいが70%の芸しかやれない! しかしサーカスの観客にそう言われてしまえば型なし、だな」

 少し観察しているだけで自信に満ち溢れていることが分かるような、そんな人が演説のように至らなさを語りつつ立ち上がる。劇がかった手振りの中で、一粒の憂いが見えた。

 

 

 

 

 そのままくるりと衣装をはためかせ、華やかな動作でおれの前へと跪いたカッスンさんに腕を取られる。両手で右手をぎゅうと包まれる。

 

 

 

「授業金は有難く受け取る、一刻も早くクラウを治してもらう!」

 

 

 

 

 金色の瞳が光っている。

 きらきらとした、この前と同じ輝かしい笑顔が目の前に迫る。

 

 

 

 

 

「でもって、完璧なショーをお前の目に焼き付けてみせる!約束だ!!」

 

 

 




髪色とか目の色とかの描写死ぬほど入れたい。でもワンピキャラそこら辺あんまり定まってない。なのでオリキャラで容姿描写を書きたい欲を発散しています。
閑話休題の閑話休題だけど今作ではルッチの瞳の色は緑のつもり。

オリキャラ紹介
【ディオン】
口と足癖の悪いツンツンツンデレ。名前の由来はアコーディオン。
青髪赤目、船医兼アコーディオン弾き。ルフィとかと同い年で、カッスン海賊団の中では最年少。
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