水の都で命は踊る   作:盆回

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細石の事情

 

 

 

「ヒョウ太ー!ちょっとこっち!」

「はいはーい、どしたのウィンドさん」

 

 名前を呼ぶ声に従って、船室の一つに入る。その部屋には暖色の布や糸の切れ端、メジャーなんかが転がっていた。壁に掛かったたくさんの煌びやかな服からして、ここは衣装室のようだ。

 声の主はウィンドさん。ルッチが地味目だとかって失礼な評し方をしていたけれど、事実やっていることはほぼ裏方だから意図して落ち着いた格好をしているのだとか。

 

 

「衣装作るからな、採寸するぞー。次のショー、ヒョウ太も参加するんだろ? ……おれ達も聞かされてなかったんだけどな」

「えっ」

 やれやれ、という風に空笑いをするウィンドさんに驚きの声を出す。もしかして師匠はあれ、即興で言ってたの?

 

「ははっ、カッスン……船長はいっつも唐突だからな。慣れた」

 ……恐らくは振り回されることに順応しているらしい彼から、盛大な苦労を読み取った。

 

 

「舞台衣装を作るからにはお前の要望も聞かなきゃな。どういうのがいい?」

 そう尋ねられるが正直、困る。センスなんてのはおれには備わってないような気がしているから。……なんとなくだけど、多分ファッションセンスというモノはルッチにも、オリジナルにもないと思っている。

「うーん、ぼく服飾の知識とかないからなあ、ウィンドさんに任せるわ!」

「そうか、わかった。ま、折角だし制作過程見てくか?」

「もっちろん!」

 

 

 

 

 

 型紙の作成から布の切り出し。戦えるように鍛えられた男の腕で紡がれる、細やかでいて大胆な配色の組み合わせ。

 到底自分には出来やしない作業だ、と感嘆する050の心の声を読み取る。己がこの仕事をこなしているイメージが一切湧かないということらしい。

「すっごい……魔法みたい!」

「そ、そうか?」

 大したもんじゃないと思うんだがなあ、と頬を赤らめて掻くウィンド。自分には出来ないことというものへは憧れが強まるものなのだろう。

 ……シルクハットタンクトップサスペンダーの色々と終わっている奴のファッションセンスをおれと同列に置いたことについては、後でしっかり話し合おう。そうしようと心に決めた。

 

 

 

 

 

(言っておくが衣装作り程度出来るぞおれは。その機会も頓着もねェだけだ)

(えっじゃあルッチ、今ウィンドさんがやってたこと分かったの?)

(まァ、大体は。だからさっきの取り消せ)

(服作りができるかってのとファッションセンスってそんな関わりないんじゃなんでもないです)

 ……意識の後ろ側から釘刺し、なんだかそこはかとない圧を感じた。目を逸らしたい心地だ、合う目はないのに。

 

 

 

 おれの前身に服を当てながら調節をしていたウィンドさんが、ふ、と眉尻を下げた笑みを零す。

「そういや、ヒョウ太。言われ過ぎて飽きたかもしれないが……ありがとう、姉さんを、クラウを助けてくれて」

「姉弟、なんだっけ?」

 何かと思えばおれが出した治療費の話。普段から優しげな顔を更に緩めた表情からは深い慈愛が垣間見える。それだけ大切なのだろう、肉親の情というものは。

 

「ああ。姉さんは強い人だったから、病気を患うなんて思ってもみなかった。焦ってもおれには何も出来なくて、無力で。……だから本当に感謝してるんだ、ありがとう、ヒョウ太」

 謙遜したり、はたまた無力なんかじゃないと慰めたり、色々取れる行動はあるけれど、それらは全て脇に置く。彼が自分の無力を嘆く気持ちは、なんとなく分かるような気がしたから。

 

 

「……どういたしまして、ウィンドさん」

 だからおれは、その感謝を素直に受け止めた。

 

 

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 

 職人達の厚意で仕事を抜け海賊船に通うことを許されてはいるが、それでもしばしばガレーラの用事が合間に入ってはいる。しばらく表に出ていた050は裏へ沈み、久しぶりに今日はおれがヒョウ太として仕事場へと向かう。

 

(ふあ、……表に出るの、楽しいんだけどちょっと疲れちゃったなァ。ねむーい)

 精神の中でそうなっているということは肉体的な疲れではなく気疲れだろう。050はコミュニケーション自体は好きらしいが、慣れている訳では無いのだから。

(寝ておけ。明日も特訓だろう)

(お言葉に甘えてー……)

 

 

 意識の浮上と潜航を繰り返すぽやぽやとした050を引き連れた一番ドックへの道すがら、知っている榛色の髪に落ち着いた黄を身に纏った男を見掛けた。海賊団の一員、コンフィだ。あちらも此方を視界に認めたらしく、手を振って近付いてくる。

 

 

(050、起きているか? 交代するぞ)

(……ン、りょーかい)

  050は入れ替わってすぐに、くあ、と小さく欠伸をする。眠気が此方へも移りそうになったのを歯の奥で噛み締めた。海賊との会話は050に任せよう。意識は仕事の時に代わればいい。

 

 

 

 

 

 

「ヨッ、偶然。今からガレーラ行くんだけど……ヒョウ太サン、着いてきてくれない?」

「? ぼくも丁度行こうとしてたからいいけど……」

 

 

 気さくに声を投げて誘ってきたコンフィさんと足並みを揃え、共に石畳の上を歩く。ちょっとした疑問符と共に了承を返せば、彼は片目に掛けたモノクルをカチャ、と整えて気の抜ける笑い声をあげた。

 

「んはは、良かった良かった。一人で行動するのってちょっと恐いんだヨネ、自分戦えないし。あ、ついでにチラシ配ろうナー。半分お願い出来る?」

 

 そう言ってぱさりと差し出されたのは、赤と黄色がきらびやかに印刷された紙束だ。半分を受け取って見れば一ヶ月後のパレードを予告する内容が描かれている。

「ほいっと、……コンフィさんって広報担当?」

「そそ。紙吹雪もチラシもばら撒くことには変わりないってワケ」

 

 最初に見たコンフィさんは紙吹雪の入った籠を持っていたように、色々と振りまいたりする演出担当らしい。光が映っていない黒い瞳がきら、と瞬く。色の見えないその目からは読み取ることが出来ないが、どうやら彼はその役を結構楽しんでいるみたいだ。せっかくだし、道すがら色んな人に配ってみるとしよう。

 

 

 

 

 

「海賊のパレード? 海軍に止められるのがオチじゃないのか」

「だいじょーぶだいじょーぶ、無策で挑んだりしないヨ! 気が向いたら覗きに来てネ!」

 

 

「あらあ、ヒョウ太くんも出るの? 見に行こうかしら」

「ホント〜!? ありがとおねーさん!」

 

 

 

 

 

 

 道中の通行人に手渡したり、掲示板にぺたりと貼り付けたり。地道な活動ではあるが、認知の為には必要なことなのだろう。

 

「前評判はまあまあってとこ、むしろ海賊主催ってことを加味したらいい方なんじゃないカナー」

「ウォーターセブンは海賊慣れしてるからね〜!……ところで。さっき言ってた策ってなに?」

 海軍に捕捉されないような作戦って一体何なのか。気になって首を傾げればぱち、と瞬きをしてコンフィさんがこちらを見た。

 

「ン? ……ああ、言ってなかったっけ。自分らは……ま、被害者として、劇団として。海軍内でちょーっと有名でネ?」

 そう言ってはは、と空笑いをしながら、真っ黒な目は遠い場所へ行く。

 

「サーカスをする分には、ある程度お目こぼししてもらってるってワケ。ま、賞金稼ぎとか同業者からは助けてはもらえないけどネ。勿論そんなこと気にせず捕まえに来る海軍もいるけど……」

「ひょえー……それなのに手配取り下げてもらえないの?」

「残念ながら、ネ。ヒョウ太サンも天竜人には気を付けなー」

 

 

 

 

 軽快に言葉の投げ合いをしながら揃ってドックへと入ったところで、カクさんが早足で此方へ近付いてくる。手を上げて挨拶すればにかりとした爽やかな笑顔が返ってきた。

 

「おお、来たかヒョウ太、と……ええと」

「コンフィですー。よろしくネ、カクサン」

「コンフィ、じゃな!よろしく」

 

 大人二人がガシリと握手をしているのを傍目に作業場へと進もうとすれば、いつの間にやら隣に迫ったカクさんに肩を掴まれた。

 

「ちょいと待った。今日呼び付けたのはそっちの作業じゃあないぞ」

「あれ、そなの?」

 いつもルッチがしているのは大抵物置き場であったり小さな作業台の置かれた場所での活動なのだけれど。

 

 

 

「ま、簡単なアンケートというやつじゃ! 気負わず答えとくれ」

「?」

 

 

 

 




オリキャラの見た目とかのプロフィールを活動報告にまとめたい。いずれやるさ……いずれな。
掲示板の時にちゃんと詳しく乗っけたページがあったんですが、なんか消えてましたね。下書きメモも消してましたね。これが絶望だ、ターンエンド


オリキャラ紹介
【ウィンド】
地味目と称される青年。やれやれ系の素質があると勝手に思っているけどそれが発揮される気配は無い。名前の由来は演出効果→風→ウィンド。武器は短剣。
暗めのブロンド髪、淡い赤目。料理以外の家事全般と小道具・演出担当。シスコン。

【コンフィ】
ヨ・ネのカタカナ語尾で話す、常識人寄りだが結構重度の恋愛脳を抱えた青年。名前の由来は紙吹雪(コンフェッティ)。
榛色の髪、紫っぽい三白眼。航海士兼広報担当兼演出担当。銃は持っているが非戦闘員であり、逃げ足が早い。
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