水の都で命は踊る   作:盆回

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カッスン海賊団(+ヒョウ太)容姿イメージ。超ラフですが。時間がある時に清書します。

【挿絵表示】



かがやく宝石(イラスト有)

 

 

 

 オーダーメイドの赤黄色をした舞台衣装を身に纏い、この一ヶ月で体に染み付いた動きを反復していれば、すぐに日が暮れていた。薄く琥珀に波打つ海が本番直前を告げている。

 

 

 

「よぅし皆まだ疲れてないよな!?出発地点はすぐそこ、観客はもう来てる!」

 ぐっぐっと肩を伸ばしながら船長が見る方向に意識を向ければ、微かに耳に届く歓声。住民たちの期待を感じ取り、心臓がばくりと脈打った。

 

(おれのサポートは入り用か?)

(ううん、だいじょぶ!)

 内側から声を掛けられ、心の中で(かぶり)を振れば幾分か落ち着いた。

 

 

 

「そら」

「おわっ」

 後ろからウィンドさんの声がして、ぽん、と頭に何かを載せられる。目だけで上を見れば、そこには赤色。

「……帽子?」

「カッスンとお揃いの、な。あとは、姉さん」

「はいはーい! ヒョウ太こっち向いてー」

 頬に手が添えられ、左目の下にペンが走る。擽ったさに目を閉じて、離れていったと同時に瞼を開けば目の前には鏡があった。先程まで筆が沿わされていた場所には青色の涙のメイクがなされている。

 

 

「ピエロの涙だよ。わたしとお揃い、だね!」

 そう言って笑う道化師の目元には同じ形の青いペイント。

 

 

 ……お揃い、か。

 

 

「自信持って、胸張って!」

「仲間だからな、支えるさ」

「……うん!」

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 

 

「Ladies and gentlemen! さァて皆々様本日は、我々のショーへお越しくださりありがとう!!」

 

 

 拡声器要らずのよく通る声で宣言された開始の合図が、明るいざわめきとともに煉瓦造りの街へ反響する。

「これよりお目にいれますは、我らカッスン海賊団の感謝のパレード!」

 黄色のゴンドラを載せたキングブルの上、隣で大仰に杖を振る団長の動作と同時に、きらり光と紙吹雪が舞った。

 

 

 

「わあっ!?」

 目に痛くない程度にスポットライトがおれに当たる。なにこれ!? 聞いてないけど!

「この街随一の造船会社ガレーラカンパニー、そして恩人はわたくしどもの隣に! ゲストを迎えた新生ショー、是非是非最後までご照覧あれ!!」

 

 

 

「感謝!? 恩人!?」

「ああ、感謝だ!! これはお前の為の舞台だとも!」

 き、聞いてない!そりゃ約束はあったけどここまでとは思ってなかった!どうしよう、照らされてるっていうのに顔に熱が集まってくる。

 

 

「いーから、さっさと始めて!もう!」

「はっはははは!そうだな、始めようか!」

 

 

 

 

 

 ぱぱぁん!と。

 騒めきを押し飛ばすトランペットが高らかに鳴る。

 

 追従するかのように奏でられるアコーディオンの音色に伝うように吹く風が、アクロバットに無手でトラピーズのごとく舞う道化師のパニエに持ち上げられたスカートを閃かせた。

 

 楽しげに踊り舞うようにブルのゴンドラを八艘飛びする動の黄と、キングブルを上を陣取り存在感を放つ静の赤。

 

 

 青色をしたウォーターセブンは、この時ばかりは赤黄色に熱狂していた。

 

 

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 

「ぽっぽー、始まったな」

「始まったのう」

「様になってンなァヒョウ太のやつ」

 

 潜入先の同僚達を引き連れ、己のクローンと海賊共のパレードを眺める。……ヒョウ太としての皮が素であったならば、その行動が分からないことはないが、奴──050の根本がおれとそれ程変わらないことは把握している。

 それ故に正気を疑っていたのだが、どうやら本気であったらしい。視線の中央で船上を滑るヤツは見たこともない表情で楽しんでいた。

 

「しかしあいつ豹が好きだったとはな、名前もマスクもそういえばそうだ。特注のゴンドラは豹柄にしたが……あれでいいんだろうか」

「柄にゃ気付かれねェんじゃねえか? がはは! それならそれでもいいけどな!!」

 ……自分の悪魔の実のモデルが随分と気に入っているらしい。思っていたよりクローンの自尊心が高いようで何よりだ。これは皮肉である。

 

 

 

 

 

「ふぁて、むぐ、……さて、わしらはわしらの仕事を果たさんとな」

 屋台でチョコバナナを買い食いしながら、カクがとんとんと靴を鳴らす。

 

「ヒョウ太達が広場に辿り着く前に片付けるとするか! ウオオオオ!」

「やかましいタイルストン! ……ま、おれらもせめて広場でのショーは見たい。とっとと絞めにいくか」

 見てられない程に似合わねェメルヘンチックなわたあめを携えた大男を叱り飛ばし、パウリーは武器となる縄を袖口から出して握りしめる。

 

 

 その場に相応しくあるように首を回したところで、ルルがおれの肩に手を置き、話し掛けてきた。

「弟の晴れ舞台だろう、ルッチ。おれらに任せてお前は見ていていいんだぞ?」

「……はは、だからこそ。兄であるルッチが裏方をやるべきだろう? クルッポー!」

 

 

 

 

 

 街の路地裏、悪意を持った視線が羽虫の如く沸いている。

 光を付け狙う影というものは何処にでも存在するもの……今だけは、普段は己がその闇であるということは棚に上げ。

 おれのクローン……いや、おれの弟の舞台を整えてやろうじゃないか。

 

 

 

「街一帯がすっかりお祭りムードだな。海賊がよくやるもんだ」

「懸賞金3142万、サー・カッスンねェ……華やかな顔だけの連中だ、楽勝そうじゃねェか!」

 

 会話を盗み聞きけばどうやら奴らは賞金稼ぎらしい。ざっと二十五人程度か。……何、造作もない。一人五人と考えれば物足りないくらいには早く終わりそうだ。

 

 路地に隠れ武器を構えた男たちの背後に降り立ち、先手必勝とばかりに蹴り飛ばす。そうすればその場にいる全員がバッと振り返り、こちらへ銃口や切っ先を向けてきた。

「お、お前らガレーラの!」

「なんでガレーラが!? こちとらあの賞金首を仕留めようと……!」

 驚く連中の様子は意に介さずに、ぱきりと指を鳴らす。それを合図にして職長が一斉に戦闘態勢に入った。

 

 

「賞金稼ぎか……普段だったら自由にさせるんじゃがな」

「悪ィが我らが末っ子の大一番! 今回ばかりは介入させてもらうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 顛末は語る必要も無いだろう。

 

 地に伏し気を失った賞金稼ぎ共の上でぱんぱん、と手を叩き払う。

「よォしとっ捕まえた!これで全員か!?」

 それとなく周囲を探るが気配はない。これで邪魔もなくなっただろう、軽く息を吐く。

「フルッフー、今夜だけでいいから縛っとけパウリー」

「へいへい、ったくテメェらも手伝えっての」

 

 愚痴る金髪を傍目に空を見上げれば、日は随分と暮れていた。橙色の空は青紫色へ移り変わっていっているが、まだ時間には余裕がある。これならばパレードも半分程は見ることが出来るはず。……このつまらない戦いよりは、そちらの方が幾分もマシだろう。

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 パレードの道中も半ばを越え、街並みも変わってくる辺り。ブルの行進に合わせて波打つ群衆の中に、先程まではいなかった見慣れた集団を見掛けた。

髭面とぱちり、目が合う。何やら叫びながらぶんぶんと手を振るタイルストンさんに苦笑して、ひらひらと手を振り返した。

 

 

「ゥォォォ……!!!」

 随分と距離があるというのに、微かに雄叫びが耳に届く。ここでも聞こえるというのだから相当だ、周囲の人集りが割れたのが見える。

 

「────!」

 あ、オリジナルにはたかれてる。動物系の聴力で聞く大音量は流石に辛かったのだろう、少し同情した。

 

 

 

 ──そこに気を取られていたからだろうか。

 

(っおい050!)

(へ? ……わあっ!?)

 

 ゴンドラ上を飛び移るタイミング、空中で体制を崩してしまって。

 

 

 

 

 

(ッ月歩!!!)

 

 足が勝手に地面……いや、空気を蹴り姿勢を立て直す。

 そのままくるりと宙で一回転し、あたかも演出であったかのように綺麗に着地成功をした。

 

(た、助かったァ〜! ありがとうルッチ!)

(どういたしまして……はァ、身内がいるからとトチるなよ050)

(うん! ごめん!)

 

 

 

(……潜入員共が凄い目で見てきてるな。いいだろ別にこのくらい)

 視線が刺さるが、ルッチは開き直っている。おれが悪いこととはいえ、空を地面のように蹴るのをこのくらいと居直るのはどうなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 水上パレードは終わり、舞台は広場へと移る。既に観客席の何割かは黒山に埋まっていた。

 

 仮設テントの屋根の下には、手作りであるのに工業製品と見紛うような大道具が設置されている。

 水上パレードより王道で、それでいて大掛かりなサーカスの為。リフターを中心に全員が特急で舞台袖を駆け回って、そして直ぐに準備は完了した。

 

 

 

 

 

 アコーディオンと二つのトランペットが同時に吹き鳴らされ、ステージを隠す赤い布が引き揚げられる。

 

 

 

 さあ、第二幕の開始だ。

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 日は完全に沈み、月と星だけが人々を照らす中。ステージ場だけが耀いている中。

 

 楽しげに舞い踊る、ひらめく赤と黄色を見ていれば、おれも、意識の中の片割れも、あの薄灰色の箱で浴びた緋色の記憶さえ霞んでいくような気がして。

 

 

 

 

「どうだ?」

 

 

 きらきら、ひらひら、光が舞う。

 

 

「おれ達は約束を果たせただろうか!」

 

 

 只管に華やかなまま、住む世界が違うまま。

 おれを真っ直ぐに見て手を差し伸べてくる船長が、師匠が、眩しくなって目を細める。

 

 

「どうか目に焼き付けてくれ、ヒョウ太!」

 

 

 

 言われなくとも。

 

 誰よりも近い距離で、夜中の太陽に焼き焦がされている。

 

 

 




赤は血の色、太陽の色。
どちらにしても鮮烈なんですよね。
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