時の流れはっや……
わあわあと歓声止まぬ広場、舞台中央には主役級の赤毛と金髪。それを一際輝かせるような黒子役の者達もまた、きらめく宝石のような衣装を活かすかのように動きが芝居がかっており、一人ひとりが発光しているような錯覚に飲み込まれるようである。
──その中でも。ウォーターセブンの島民の目を何より惹いたのは、短いスパンで役回りをクルクルと変わり移るヒョウ太であった。
道化師として高所を飛んだかと思いきや次の瞬間にはトランペットを吹き回し、裏方へと回ったかと思いきやぶらりと中央へ現れ芸を行う流れるような動きに、前からの顔見知りであるということを差し引いても注目が向いたのである。
「……ヒョウ太のやつ、やるじゃねえか」
「ああ。心配無用、じゃったな!」
「────さあ、名残惜しくももうじき終幕。どうか最後まで目を逸らされぬよう!」
からりくるりと巡っていくショーはあっという間に過ぎていく。そうして、観客の熱情は冷めやらぬままに終わりの時間が訪れた。
ヒョウ太の中に緊張の心音が未だ響く中、ステージの中心へと集まり礼をする。もうすぐでサーカスの反響が、最大限にこの空間に満ちるはず。
その時。
かちゃり、と。この場にはそぐわない鉄の擦れる音が響いた。
「動くなテメェら! いやァいーいショーだったなあ?」
下衆に口許を歪め、各々武器を構えた男共が数十人舞台へと躍り出る。圧倒的人数不利に加え近距離で銃口を突き付けられても尚、ステージ場から笑顔は消えていない。
「そうか! 賞賛ありがとう!!」
「は!? 違ェそういう話じゃねえ!!」
「お客サンは演者への触れ合い禁止ですヨー、帰った帰った」
「客でもねえ!! お前ら呑気か!!? ……このショーの人気にあやかりてェとおもってなァ?」
「人気、ほうほう人気だと! 分かっているじゃあないかおれ達の魅了の程を!!」
「何だコイツ自己肯定感のバケモンか!?」
あれ? コント? と。乱入に騒然としていた観客が困惑するような会話が繰り広げられる中、ガレーラの職長達が臨戦態勢に移行していく。
「まだ残党がおったか!」
「いや、あれは賞金稼ぎじゃねェ……海賊だ!」
「先程伸した奴らとは別。ポッポー、誘蛾灯に引き寄せられた虫は存外多かったというわけか」
「見過ごしちまってたか、申し訳ねェ! とっとと片付けて──」
各々が己の武器を構えて──
「──Ladies and gentlemen!!」
大声量が、場を支配する。
「この度は直々に、アンコールまで頂いてしまいました! ならばならばそれならば! 我々も応えないわけにはまいりません!」
団長のよく通る赤と。
「元騎士団の名に恥じぬわたし達の舞、どうか一時たりとも目を逸らされませんように!」
道化師の跳ね回る黄と。
双剣を、大剣を、短剣を。
銃を、鞭を。
足を、腕を構え。
船長は高らかに宣誓する。
「これより第三幕の開始とさせていただきましょう!!」
数瞬放心した海賊達はようやくその言葉の意図を理解し、挑発されたと受け取って。青筋を立て武器を振る。
「な、舐めやがって!!」
がきぃ!! と。振り下ろされた斧と細身の剣が相対し、直ぐに斧のみが弾き飛ばされた。
「なっ」
「ショーに武器などいらないだろう! 隙あり、だ!」
カッスンが携えた双剣、その片割れの峰が鳩尾を打ち、まず一人が気絶。
大剣を構えてリフターが笑う。
「心配するな、ステージ場での流血沙汰は御法度」
短剣を手の中で回してウィンドが諭す。
「そう、おれ達は峰打ちか腹で叩くだけ。……でも」
「びしばしいっちゃうよ〜!」
「腕鈍ってるからね、本気で行かせてもらおうかな!」
「アタシに蹴り殺されたいヤツから前に出なァ!!」
ぶんぶん鞭を振るトラット、肩慣らしとばかりに腕を回すクラウ、ヒールをかつかつと床に響かせるディオン。かなり物騒な一つ声が届いてウィンドは苦笑いを浮かべるが、直ぐに表情を不敵なものへと戻した。
「武器自体には殺傷能力のない女性陣は容赦してくれないから、気ィ付けとけよ!」
「ヒョウ太サンは自分と一緒に下がってようネー」
「え、いいの? ……というか皆手馴れてない?」
コンフィにくい、と手を引かれて舞台袖へと入るヒョウ太、その顔には心配と困惑。
「いいっていいって。自分非戦闘員だからナー、銃は持ってるケド自衛の為だし。ンで、まあ慣れもするよネ。この時代、ショーなんて目立つことやってりゃ絡まれるのも自明の理だヨ」
「はへえ〜〜……」
ステージ端で煌びやかさを保った戦闘を二人で見守っていたが、カッスン達は流血沙汰が起きないように細心の注意を払って戦っている。ひどく手加減をしている上に人数の差もあり、まだ時間が掛かりそうだ。……焦れる。050は苛立っていた。なんでったって完璧なショーが崩された挙句に発散も出来ず待っていることしか出来ないのか、と。
「……というかさァ」
「?」
「庇われる必要ないくらいにぼくが強いんだってこと、みーんな忘れてない?」
こき、と首を鳴らして頭を戦闘へと切り替える。いつも戦うのはルッチばかりで050は意識の奥にいたとはいえ一心同体。戦えない筈がないのだ。動きは大きく劣るけれど。
(代わるか?)
(結構! おれはおれで試したいことあるし!)
(そうか、程々にな)
「これ借りるよ!」
「あ、ヒョウ太サン!?」
コンフィから飛んできた静止の声は聞かず、舞台袖の積み重なった小道具から目的のものを引っ張り出し、中央へと駆ける。
「ししょー、ぼくもこのショー参加させてよね!」
「ヒョウ太!? ……おう、いいぞ! でも物騒なのは勘弁な!」
「もっちろん!」
会場の人々は先程の騒動など頭から抜けたように、きらきらと舞う彼彼女らに目を奪われて動けない、動かない。まるでこのトラブルが演目として元々設定されていたのではないかと錯覚さえしていた。
そんな中。
「……ヒョウ太?」
「さあさ皆様ご笑覧!」
普段の緩さとは全く異なる……それこそまるで別人の皮を被ったような彼が、観客に向けてぱっと笑う。
「ガレーラカンパニーの雑用係、兼劇団の見習いヒョウ太が! これなる闖入者を見事捕らえましたらご喝采!」
片手は頭上へ、もう片手は胸元へ。少年は恭しく喋喋しく、ステージの乱入者へと礼をする。
「なんだァテメッ──!?」
「ここに携えますはなんの変哲もないロングリボン。ですが!」
びしぃ! と細く薄いリボンが空気を弾いて音を鳴らせば、意識は否が応でもそちらへ向く。そうして場を掌握したヒョウ太はひらりと煌びやかな衣装を翻し、海賊たちへと跳ねた。
「わたくしの手に掛かればこれこのように、自由自在なロープへと早変わり!」
くるりと回転しながら軽やかに帯を伸ばし、する、と近場の三人程度を巻き取る。
それは、ウォーターセブンの住民には見慣れた動き。
「──ロープアクション、ラウンドターン!」
「うごあッ!?」
「う、うおおおおォォ!!?」
「すげェ!! 職長の技だありゃあ!!」
驚き混じりの歓声の奥、トレース元は目を見開きはくはくと声も出さずに口を動かす。
「…………おれの技ァ!?」
やっとのことで出た言葉はそれだけだった。
「パウリー、お前いつの間に教えてたんだ」
「いや教えてねえって!見て盗んだのかアイツ!?」
ルルの言葉にぶんぶんと首を振るパウリー。彼にはまったくもって心当たりがなかった。
「ヒョウ太後ろッ!」
ディオンから声が掛かるが、敵の位置は把握済み。
「おっとォ背後から? って、させるわけないじゃ〜ん! タップ・ノット!」
「うおォ!!?」
しゅるしゅると海賊の一人にリボンを巻き付け縛り、独楽のようにぶん回す。ヒョウ太のそれはパウリーのものよりも数段曲芸じみたアレンジが加わっており、ステージ上で舞い踊るには十分な華やかさを湛えていた。
(器用だな)
(ルッチ程じゃないって〜!)
心の中ではそう言うが、事実生まれてから今の今まで誰かを真似をし続けていた050だからこそできる芸当。サーカス団での教えがその才能を開花させるきっかけであったということはルッチが何より分かっている。
そうして海賊たちは赤と黄色のリボンに彩られ。華美絢爛なままにステージ上の鎮圧は完了。
息もつかぬままに団員は並び、揃った動作で一礼をする。
「これで本当に終幕でございます! 観客の皆様、そして乱入ゲストにも感謝を!! ──良い夜を!!」
そうして。
盛大な拍手と歓声に包まれ、賑やかな騒動の幕は無事に降りた。
今話のみフルで三人称視点にすることで本当にショーを見ているような演出効果を……成立出来ているといいな……
カッスン海賊団のちょっとしたプロフィールを登場回の後書きに付けるなどしました。良ければ見てってください。