水の都で命は踊る   作:盆回

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Chapter.6 すべての終わりの始まり
疑惑渦中プレリュード


 

 快晴、晴天。

 

 

 雲も疎らな青空の下でとんからとんと木槌の音が響く、いつもと変わらない1番ドック。先程船の修理代を踏み倒しに海賊が来たが……それもいつもの事、特筆するようなことはない。

 

「おおいヒョウ太! 資材のチェック表見せてくれんかー」

「はーい!」

 専ら事務方仕事であったのが現場の仕事も幾らか回ってくるようになってしばらく、潜入調査員達とも表面上は和やかに過ごしている。

 

 

 ……が。数日前から、どうにも奴等がきな臭い。ような気がする。

 といっても根拠の一つさえも挙げられない程に傍から見ればいつも通りな為、こればかりは肌感である。潜入しているということは即ち目的があるということ、ならばこのざわつきは目標に近付いたのか、それとも強硬手段でも図りにくるのか。

 奴等の求めるものが分からない以上、その手段も読めない。万が一の際には敵対も考えなければと気を張り詰めているのが今。

 

 

 

 

 不意に、ばち、と。ひりついた気配を読み取る。隣の男が警戒を強めた気配だ。

 突然なんだと視線の先をなぞれば、知っているけれど知らない顔がいた。

 

 

 

 

 

 ──今や懸賞金一億の男、モンキー・D・ルフィ。

 額面だけ見れば凶悪犯罪者でしかないその麦わら帽子は、そこらのガキのような能天気な顔をして白昼堂々ドックへ侵入しようとしていた。

 

 

 

「カクさん、あれ」

「分かっとるわい」

 短い応酬。とん、と地面を蹴る音と共に空いていた距離を一瞬で詰めていった長鼻の元へ歩いて向かう。

 

 

「工場内は関係者以外立ち入り禁止じゃぞ」

 どっこいしょ、と柵を乗り越えるカクともう一人の長鼻から発展した漫才を一歩引いてドック内から眺めながら、思考回路に軽く身を沈める。

 

 

 相手は数ヶ月もない短期間で一億ベリーに駆け上がった海賊だ。一年坊と同じ顔をした超新星などと称される賞金首共に向ける危険視として、あの警戒は妥当だろう。

 ……しかし会うこともないと思ってから日も浅いというのに、まさかこの広い海で遭遇するとは。仮称兄にとっ捕まった以前といい、フラグなんてものが現実に存在することを信じてしまいそうだ。

 

 

 

 

 端的に結論を出して顔を上げれば、既に船を査定するという方向で話が付いたらしい。ぐっぐとアキレス腱を伸ばしているカクに声を掛けられる。

「ま、10分待っとれ。ヒョウ太! 後はよろしく頼むぞ」

 このよろしく、は海賊達を見張っていろということだろう。置かれた鋸の入れ物を回収しながら軽く頷いた。

 

 

「りょーかい、気を付けて……は要らないかな。いってらっしゃい」

「おう」

 

 

 『山風』は笑顔のままにさっとクラウチングスタートの姿勢を取り、そのまま風を巻き起こすほどの速度で駆け出した。

 

 

 

 

 あっという間に屋根を伝って遠のき、豆粒のようなサイズになったオレンジジャージを見送る。

 

「跳んだァ!?」

 カクが跳んでいった先を見ながらぎゃあぎゃあと騒ぐ麦わら達は典型的な観光客と変わらない。ガレーラ職長に余所者がどよめくのは、最早ウォーターセブンではしょっちゅう見かける光景となっている。

 

 

 

 ……六式こそ使っていないとはいえ普通の人間を気取れる身体能力ではないと思うのだが、突っ込む者は誰もいない。最早慣れなのだろう。それでいいのかガレーラ。それでいいのか諜報員。他にも超人の片鱗を時折出す者はいるし、おれとしてはどうかと思う。

 

 

 

(おれ達も動きに関しちゃカクさんと似たようなことやってるから何にも言えなくない?)

(……別に今は潜入してる訳じゃねェんだからいいんだよ、おれ達は)

 

 

 

 

 

 

 ──ふと、背後からかつかつと二人分の足音。

「やつは……街を自由に走る。人は『山風』と呼ぶ」

 

 声の主を振り返ればそこには思った通りの顔、先程の会話で名前が出ていた男とその秘書が。噂をすれば影、だな。

 

「ガレーラカンパニー1番ドック大工職職長、カク」

 

 

 

 アイスバーグ社長。一年経ってようやく、その呼び方に慣れた相手。

「あ、社長! お客さんですよ〜〜!」

「おうヒョウ太、後は引き継ごう」

 へら、と口許を緩めてひらひら手を振れば、胸ポケットに入った見覚えのない白いネズミを指の腹で撫ぜながら最高責任者は頷いた。

 

 引き継ぐとは言われたが、相手は海賊。敵愾心は見えずそもそもカリファがいる以上は安全ではあるけれど、万が一というものはあるだろう。それとなく社長側に身を寄せて、見知った顔の海賊を観察する。

 

 

「いや驚いた……飛ぶんだもんなあそこから」

 カクと似た長鼻──おれの記憶が正しければ麦わらとよくつるんでいた一年と同じ顔──の男が呆けたように呟いた。

「ンマー! ウチの職人達をナメて貰っちゃ困る。より速くより頑丈な船を迅速に造り上げる為には並の身体能力では間に合わねェ……ところでカリファ」

「ええ、調査済みです」

 社長はアイコンタクトで予定を挟んだバインダーを携えいる隣の秘書に指示を出す。それにカリファは即座に応じ、スラスラと頭の中に載っていたのであろう情報を声に変えていく。

 

 

「『麦わらのルフィ』『海賊狩りのゾロ』『ニコ・ロビン』、3人の賞金首を有し、総合賞金額2億3千9百万ベリー。結成は東の海、現在7人組の『麦わらの一味』です」

「も、ものすげェバレてるぞ……」

 情報が完全に漏れていることに慄いてか、長鼻の声は震えている。新聞で公になっている情報かつ最近注目のルーキーなのだ、戦力を事前に把握されるのは有名税のようなもの。カリファが調査しているのも不自然ではない。

 

 

 

 だが。羅列された情報を静かな佇まいで聞く社長に、一瞬だけ僅かな揺らぎが見えた。

 

 

 ……警戒、か? それならば一体、何に対して。

 トータルバウンティの高さは確かに脅威となるが、それ以上の海賊を顧客として扱ってきたガレーラカンパニーの社長がその程度で動揺するとは思い難い。出身も人数も普遍的なもの、であるならば……自ずと要因は搭乗員に置かれることになるだろう。

 

 

 

 『ルフィ』『ゾロ』『ロビン』。

 どれも元の世界で聞いた名であり、前者2人は生徒会の指導対象となっている生徒達で、後者は不良との絡みはあれど優等生。世界が違えど海賊になるのだろうか。……いや駄目だな、この思考は。あちらとこちらを同一視しない方が良いとは分かっているのだが、どうしたって生徒会長としての視線で見てしまう。

 

 

 

 

「無礼者っ!!」

「うわわッ!!?」

 思考を回していた最中、怒鳴り声と共にカリファが足撃を海賊に仕掛け始めた。海賊の気安さか何かが秘書としての彼女の癪に触ったのか、それはまァいいとして。

 

 

「あっぶな!」

「おっと」

 ぱし、と高いヒールを軽く腕で受け流す。……案の定こっちにも攻撃が飛んできた。社長さえもボコボコにしようとする定期的なこれが天然なのか演技なのか、おれはまだ分かっていない。

 

 一般女性にしては重く、カリファにしては軽過ぎるそれを社長の分も捌いていけば、海賊共が吹っ飛んだ辺りで怒りは収まったようだった。

 

 

 

「はっ!失礼、つい取り乱してしまいました。……ですがアイスバーグさんは市民の憧れ、あまり無礼のない様に!」

 

「カリファをあまり怒らせるなよ。この女は怒ると見境がない……ご苦労ヒョウ太」

「っもー! カリファさん危ないんだから!」

 飛ばした抗議にはっ! と口を開けたカリファの顔を見ていると、やはり天然故な気がしなくもない。

 

 

 

 

 おれたちのやり取りを放心したように見ていたオレンジ髪の女が気を取り直したように声を上げた。

 

「わ、こなれてる……とにかく、あなたがアイスバーグさんね! コレ見て、紹介状です!」

「ココロばーさんか。……はあ、『ふねみてやんなよ』」

 そう言って海賊が差し出した一枚の紙を社長は受け取り読み上げた後、ノータイムでびりびりと破き始める。ココロさんといえば、海列車の駅長であり社長の知己の筈だが。

 

 

「そんな、ダメなの!? ねぇお願い、船直して! お金なら払えるのよ!?」

「頼むおっさん!!」

 無情に見えるそれを拒否だと取ったのか、海賊達が慌てて詰め寄る。……といっても見ている限り軽率に暴力へと走る気配は無い、下がって静観する。

 

 

「いいよ」

「いいのかよっ!!」

 表情を変えずにコクンと首を縦に振る社長にズッコケながらのツッコミが入った。

「じゃあなんで破くんだ!!」

「キスマークが不快だった」

 

 

 ……どうやら危険性はなさそうだ、これ以上漫才を見ている必要もないだろう。

 

 

 

 

 低い柵を乗り越えドックへと戻れば、少し先から甲高い声がかかった。

「ポッポー! どうした、海賊か?」

「ん、兄さん。あー海賊っちゃ海賊だけど……危ない奴等じゃなさそうだからいいかなって」

 

 こちらとあちらの世界では、例外はあれど同一人物の人格に相違は少ないことはこの一年で知っている。ならばあの麦わら達は、とことん阿呆でバカヤロウなだけ。ガレーラや市民に危害を加えないのであれば、おれが気にかけることもない。

 

 

「海賊嫌いを公言する割には警戒心が薄いんじゃないのかっポー」

「そんなことないよ〜! 見る目があるって言ってくんない?」

 目の前の腹話術師の興味も薄れたらしい、踵を返す男と並んで作業場へと戻る。……いや、戻ろうとしたところで。

 

 

 

 

 

「ドロボー!! 金返せェェ〜〜!!!」

 

 

 

 

 微かに籠った耳をつんざくような悲鳴が、先程離れた場所から響いた。

「……ありゃ、問題発生?」

「らしいな」

 

 

 

 振り返れば、そこには叫びながら川の脇を走っている長鼻。少し離れた場所で泳ぎ去っていくヤガラに追い縋ろうとしていると見えた。ヤガラに乗った連中は、確か解体屋フランキーの所の輩。

 

 状況と先程の発言からすると被害にあったのは海賊側らしい。

 ……助ける義理はないと思い歩を進めようとして、そういえば奴が抱えていたバッグはカリファの蹴りで飛んでいっていたような、と思い至る。……原因、ガレーラにあるな。

 

 

 

「は〜〜……取り返してくるわ……」

 長い溜め息を吐きながらまた柵を乗り越えようとしたところ、肩に手が置かれ引き戻された。

「……いや、お前は行かなくていいだろう」

「? なんで」

 つい、と差す指の先を追えば。

 

 

 

「待てェパウリー! 今日こそは逃がさんぞ!!」

「もうちょっと待ってくれっつってんだろうがよォ!!」

 

 

 また大声。聞き慣れた、聞き慣れてしまった騒動が起きていた。

 数人のスーツの男から追われているのは我らが職長、ギャンブル中毒のパウリーだ。金が無いなどと叫んでいるが、おれの記憶の限りじゃ最近飲みに行ってなかったかあの男。

 

 このまま行けば、パウリーは橋に差し掛かり。その橋の下にはちょうど窃盗犯のヤガラが来ることになる。

 

 

「……あー」

「フルッフー、先の展開は予測できるな」

 

 下に通るヤガラブルに乗っているのが一般人ならともかく、被害に遭うのは荒くれ者のフランキー一家、遠慮をせずともいい相手というのは好都合である。……パウリーが借金取りから無理矢理逃げ切ることを都合が良いと言うのであれば、だが。

 

 

 

 

 

 そしておれ達の予測通り。

 パウリーは荒くれ者共を水路に落とし、そのヤガラに乗り込むことで、実質的には海賊の金を取り戻したのだった。結果だけ見れば善行だろうが。

 

 

 

「「……はァ」」

 呆れを多分に含んだ溜め息がシンクロした。するな。

 

 




原作沿い開始。
ここから元スレと原作を反復横跳びしながら修正するフェイズに入ります。スマホで手軽に確認できるONEPIECE BASEに今年一の感謝を……
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