水の都で命は踊る   作:盆回

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深夜襲撃カタストロフ

 

 ある程度で仕事を切り上げドックを出る。

 まだ日が落ちるまで時間があることだし、台風の目でも見に行ってみようか。社長の考えや諜報員達の動き、その理由も何か分かるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 カク達の言っていた岬の岩場まで駆けていけば、羊の船首をしたキャラベル船が一隻停まっていた。あれか。……確かにマストから船底まで満遍なくぼろぼろの継ぎ接ぎ状態、よく東の海からここまで来れたものだと感心する。

 

 

「よっ、と」

 外から眺めるのもそこそこに甲板まで飛び上がれば、先程はいなかった顔がいくつかあった。着けた足元からぎしりと木材が軋む音が鳴る。

「ッ誰だ!?」

「フランキー一家の仲間か!?」

 ジャキン! と刀を構える海賊狩りと、その後ろで足を振り上げた金髪。先程ガレーラにはいなかった顔に臨戦態勢を取られた。警戒されているのは一目瞭然だ。

「わァ〜〜ッ待って待って! 違うって! ぼくは危害加えるつもりないからね〜!!」

 慌てた様子でわたわたと手足を動かしてその誤解を解こうとすれば、危険に目を光らせていた男共はそれを見て眉を顰めながらも肩の力を少し抜いた。

 

「あれ、さっきの船大工の?」

「船大工ゥ?……こんなガキがか?」

 

 驚いたようなオレンジ髪の助け舟を受け、怪訝そうに言いながら緑頭が完全に刀を納める。

 

「ぼくはもう14歳!ガキって言わないでよね〜!」

「ガキじゃねェか」

 ……まァ、この中でも恐らくおれが最年少なんだ、子どもと言われるのは仕方ないことだろうが。しかし元の世界で年下だった奴にガキ呼ばわりされるのは少し腹立たしい。

 

 

 

 

「それで? その船大工が何の用だ、査定が間違いだってんなら……」

「残念だけどそれはひっくり返んないよ。それに、ぼくはガレーラの雑用。大工職はまだあんまりやらせてもらえてないからね」

「……そうかよ」

 

 微かに抱いた希望は早めに潰しておく。期待する方が船にとってもクルーにとっても酷だろう。おれの言葉に緑頭は失望したようにそっぽを向いた。

 

 

「用事としては、それだけ愛されてる船を見に来たってのと……『ニコ・ロビン』って人がいるって聞いたんだけど、今はいない感じ?」

 きょろ、と船内を見渡すがそれらしい影は見えない。もう夕方、買い出しや観光があったとしても船員は戻ってくる頃だと思っていたのだけれど。

「あ゛? ロビンちゃんがどうしたって?」

「青筋立てないでよこっわいなあ! 社長が気にしてたからね、ぼくも気になっちゃって」

 かつかつと眼前に迫ってくるタバコの匂いに、大袈裟に背中を仰け反らせた。

 

 

 

「……街ではぐれちゃったんだ、ロビンとは」

 一方的な口論の狭間、下の方からぽつり、高い声が挙がる。淡い赤い帽子の動物系は、確か保健委員の。

 

「すぐ帰ってくると思ってたのに、こんな時間になってもまだ……きっと何かあったんだ! おれが目を離しちゃったから!」

「お前のせいじゃないって言ってンだろ? チョッパー。そんなに気に病むこたァねェ」

 不安に押し潰されそうな表情で嘆く小動物に金髪が優しい声音で言葉を掛ける。飄々と振る舞っているようだが、同じく心配を心の内に宿しているのは見て取れた。

 

 

 

「……はあ、不穏だなァほんっと」

 不審な動きの諜報部員共、行方の掴めないニコ・ロビンという台風の目。もうすぐ命が終わる頃だと言うのに、何事もなくとは行かないようで。

 

 

 

 

 

 

 

 目的の人物がいないならば、もうこの船に用事はない。背を向け、船の柵に足をかける。

 

「大変なときに失礼しちゃったね。……ま、ロビンさん? もし見掛けたら君らに教えるからさ」

 くるりと頭だけで振り返りそう言えば、船長が笑って手を振る。どうやら、船に関してはきっちりと選択をしたらしい。

「おう、頼んだ! マスクのやつ!」

「……もしかしてそれぼくのこと? 名前覚えてよ、ヒョウ太でいいわヒョウ太で!」

 

 

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 

 海賊船から離れたものの、かといってどうにも寮に帰る気にはなれず。

 行く宛てもなく一番ドックに戻ってきた辺りで空には上弦の月が浮かび、星が瞬き始めた。こんな雲ひとつない夜更けに……どうしてか、どうしても胸騒ぎがする。

 

 

 本社へと正面玄関から入ろうと扉を引くが、しかし鍵が掛かっていた。部屋には一つだけ明かりが灯っているようだが、恐らくは社員が全員帰っているのだろう、察するにいるのは社長一人。

 

 ピッキング程度はわけないとはいえ実行するのは気が引けて、人がいるのだから開けてもらおうと光の洩れる窓へと飛び上がる。こんこんとガラスを叩き、中を覗いた。

 

 

「社長ー? いま、す、か──!?」

 

 

 

 

 

 

 喉が、引き攣る。

 

 

 見慣れた部屋で見慣れた社長の前に、見慣れない仮面の大男と黒髪の女が立っている。

 

 

 

 

 

 

 

 五つの銃声と、赤が散った。

 

 

 

「ッ社長!!?」

「ぐ……ヒョウ、太……?」

 

 形振りなど構っていられない、おれと奴らを隔てた窓ガラスを蹴り割り、部屋へと転がり込む。がしゃりと砕けた破片を踏み締め、倒れた社長を庇い立った。

「……」

「誰……?」

 憶えのある体格をした無言の男と、戸惑った表情を浮かべた黒髪の襲撃者に相対する。

 

 ──確信した。悪い予感は的中、どころか恐らく邪推までも一致していると!

 

 

 

 

「ま、て……! 危険だ、下がれ!」

「お願い、そんな体で動かないで社長! ……誰かって、それはこっちのセリフ!」

 啖呵を切って仮面越しの顔を睨むが、返されたのは銃口。黒髪が引鉄に手を掛けようとしたのを大男が動作で制した。

 

 

 

 どうやら追撃はないらしい、壁へじりじり下がっていく2人組の元へと入り込み攻撃を加えようとして。

 

 

 

 

 

「今更庇おうとして何になる?」

 予測していた通りの低い声に、伸ばそうとしていた手が止まる。

 

 

 

 

「ここでお前がどう動こうと、全て無駄だということくらい分かっているだろう。……諦めて今まで通り愚鈍でいろ、ヒョウ太」

 

 

 

 

 息を止めて立ち尽くすおれの前で、知った能力、回転扉の奥へと二つの影は消えていく。

 

 

 

 

 

 

 ふら、と立ちくらみを覚えてよろめいた。

 

 あの男が──ブルーノが言う通り、襲撃者の正体を知ったとして、最初から分かっていたとして、出来ることは何もない。言ってしまえば殺される、おれはいいとして伝えた人間が! 守ることだって、稼働寿命などあと一ヶ月もないおれには出来やしない。……何も、出来ない。

 何をしても無駄である、自分の意識とブルーノの言葉に苛まれて仕方がない。

 

 

 

 

(ルッチ、急がなきゃ!)

「……ああ、悩んでる場合じゃねェ」

 

 意識の片割れに背を叩かれてはっと思考を現実へと戻す。目の前の物事をまずどうにかしなければ。無力感に苛まれそうな気を頭を振って飛ばし、気絶した社長を腕に抱く。

 

 ……大丈夫だ、まだ息はある。割ったガラス窓から飛び出し、最寄りの病院へと全速力で屋根の上を駆けた。

 

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 

 

 暗い病院で眠っていた医者を叩き起し、全方位に警戒を広げながら寝ずに迎えた早朝。

 

 

 ただの病院では安全面が心許ないと犯行現場となった本社へと舞い戻れば、職長の三人がそわそわとおれ達を待っていた。

「アイスバーグさんの容態は!?」

「ルルさん! ……まだ意識は戻ってないけど、命に別状はないって」

「お前さんも、怪我はないか!」

「ぼくはなんにも、カクさん」

「襲撃のことは聞いている、お前がいてくれて助かったッポー」

「ん、兄さん」

 

 

 ……この場には敵の方が多い。白々しく心配してくる約二名に向ける視線が冷たくなりそうなのを悟られないように抑え込んだ。

 

 

 

「襲撃者は見たのか?」

「うん、仮面の男と黒髪の女性の2人組。ぼくにはどっちも、見覚えはなかったけど」

 あやふやな特徴のみを伝えれば、刺すような二対の視線がほんの少しだけぬるまった。この期に及んで、おれが言うはずもないことぐらい分かっているだろうに。例えここで話したとしてもルルが口封じされるだけだ。

 

 

「そうか……その情報は取り敢えずガレーラ内だけでも回しておこうかの。アイスバーグさんに犯人の心当たりがあればいいんじゃが」

 裏を知らなければ心底心配そうなカクが手配をする。ガレーラ内のみというのは黒髪の女性へ私刑が向かないようにする為だろう。ガレーラの職人ならばもし万が一暴走しても抑えることが出来る。

 

 

 カリファと兄が治療中の部屋へと入っていく。不安はあるが、この場で事を起こすような大胆さはないはずだ。

「鑑識が言うにゃ……社内のどこの鍵も開けられた形跡はないそうだ。割れた窓ガラスもヒョウ太が入った時のもの、それ以外はヒビの一つもない」

 廊下に置かれた椅子に腰掛け、腕を組んで整理をするルルの話を黙って聞く。所謂密室となるが、反則ともいえるほどの悪魔の実の能力があれば簡単に作れる状況である。

 

「入れるハズのない部屋で起きた事件。──現場で見つかったのはどこにでもありそうな仮面が一つ……」

 

 

 全て分かっているのに、何も言うことが出来ない。己の不義理さに身を固くした。

 

 

 

 

 

 

 喧しい足音を立てて、身だしなみもそぞろに慌てた様子の金髪が向かってくる。

「アイスバーグさんは!!」

「静かに! パウリーさん、社長は大丈夫だから。命に別状はないよ」

 食って掛るような勢いを留め、言い聞かせるように声を潜めた。悪ィ、と謝りながらも動揺は収まる気配を見せない。

 

 

 パウリーも含め改めて情報共有をしている最中、かつりかつりとヒールの音が床に響く。

「皆さん、静かに……部屋に入ってください」

「え……じゃあ」

ぐす、と頬と鼻を赤くして、涙目のまま襲撃犯の仲間は安心した声色で言う。

「アイスバーグさんがたった今、意識を取り戻しました」

「よかった!!」

 

 

 

 

 

「アイスバーグさんっ!!」

 ガチャとドアを開けて、いの一番にパウリーが声を掛けた。幾分か心の揺れも収まったらしい、ようやく口角を上げている。

「……ああ、ンマー……心配かけた」

 白いシーツに同化しているネズミがチュー、と鳴く。昨日会ったばかりの飼い主に懐いた小動物もまた心配しているようだ。

 

「とにかく命があってよかったぜ、ゆっくりお休みんなって! 造船所のことはおれ達で何とかしますんで!」

 パウリーは安心させるようにニカリと笑みを浮かべてベッド横の椅子に座り込む。

 

「んん……ところで昨夜。おれの部屋に侵入してきた犯人だが」

 銃創が痛むのだろう、訥々と話す社長は見たこともないほどの厳しい顔をしていた。

「ああ、それならヒョウ太が……仮面の大男と黒髪の女でしょう?」

「そいつらだ……男の方は分からなかったが、黒髪で長身の女の方。あの鋭い瞳は恐らく」

 

 

 

「『ニコ・ロビン』」

 

 

 

 ……やはり、か。

 

「──じゃあ犯人はあいつらじゃという事になるのう……」

「なんだってんだ、船がもう直らねェ事の腹いせか……!?」

 

 

 

 成程、こういう誘導か。海賊というものは得てして野蛮な奴等、襲撃犯に仕立てあげたとしても違和感を覚える者はそういないのだから。

 

 

 犯人の見当がつき俄に騒ぎたっていると、タイルストンが叫びながら部屋へ入ってきた。麦わらとフランキーの起こしている騒動を伝えれば、タイミングがいいと職長たちは奴らを捕まえに、騒がしく部屋を出ていった。

 

 

 

 

 ……しかし、この構図にはどこか既視感がある。あのゲームセンターでそうだったように、麦わらはおれ達に冤罪を吹っ掛けられる運命でもあるようだ。

 

 

 




最近気付いたんですが虚無の人間が好きです。
虚無に呑まれそうになった上で抗い立ち上がる人間はもっと好きです。
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