水の都で命は踊る   作:盆回

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薄氷渡海インビテーション

 

「侵入者だァ!!!」

「どこに行った!? 逃がすな!!」

 

 

 

 ガラスの割れる音、それを切欠としてにわかに騒ぎ出す社内。わざわざ警戒を敷いた職人だらけの本社へ突入してくる輩がいる、ということだろう。昨日から非日常ばかりだ。

 

「申し訳ありません……外が騒がしくて」

「ンマー……何だ」

「麦わらのルフィがこの屋敷へ侵入したと」

 あまりに白昼堂々がすぎるだろ。犯人だと濡れ衣を着せられている状態でそれを本物にしようとするんじゃない、バカなのか? いやバカだったか。

 

「捕まえにいきましょーか、ぼく」

「いやいい。……カリファ、頼みが」

 

 

 

 その『頼み』の内容を聞いて、カリファと共に驚く。

 が、同時に納得もする。その聞きたいことを麦わらが知っているのかどうかは、ともかくとして。

「ぼくも部屋の中、いていい?」

「……構わない」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンマー……おれに用だろう、海賊小僧」

「そうだ、助かった……呼んでくれて」

 逃走者を呼び込んで、バタン、と閉じるドア。外からは、カリファが職人達を言いくるめて遠ざける声がする。

 

 

「この混雑の中、わざわざ一人でおれを殺しには来るまい」

「おれは本当の話を聞きに来たんだ!」

 危害を加えることを前提とした語り草に、心外だと言わんばかりに口を広げて麦わらが叫ぶ。実際、奴からは殺意など欠片も見えず、そこにあるのは困惑と心配だ。

「昨夜おれはニコ・ロビンをこの目で見た……! そこのヒョウ太も一緒に。これが事実だ」

 細められた目がこちらに向いて、おれはこくりと頷く。

 学園では中学一年生、こちらは二十八だったか。歳も離れ容姿も随分大人びたものであったが……十中八九、あれはニコ・ロビンだろう。

 

 

 

「それは本当にロビンだったのか!?」

「口を開くな。お前の言葉にゃあ、もう力はない」

 

 がしゃん、と鉄が起こる音。

 ……震える手が、一丁の拳銃を持ち銃口を麦わらへと向けた音だ。

 

 

「! 社長!?」

 思わず驚きが口から溢れたおれを目だけで制し、ガレーラカンパニーの長は真っ直ぐに『ニコ・ロビン』の船長を見据える。

 

 

「……お前をここへ招いたのは、一つ頼みがあるからだ」

 震える腕の先にあっても、銃口は一直線にブレず伸ばされている。

 

 

 

 

「今からもう一度、ニコ・ロビンに会わせろ」

 

 

 

 

 汗の浮かんだ顔で、冤罪人は少しの沈黙の後口を開く。

「…………そりゃ……無理だ、ロビンの居場所がわからねェ……」

 

 

 

 

 

 銃声。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 

 

 

「……もしかして話せたの?アイスバーグさんと」

 屋根上に座り込んだナミが、飛び帰ってきた己の船長へと問い掛ける。それにこくりと頷いて、麦わら帽子がルフィの顔に影を作った。

 

「本当にロビンを見た、って」

「そんな! どうしてロビンがそんなこと……!」

「おれは……信じねェ!!」

 それは麦わらの一味皆の総意だろう。丸い目を険しい表情に歪め、ルフィは言葉を放つ。動揺、困惑。負の感情が入り交じりながらも、仲間を信じたいと。

 

 

 

 

 その後ろから足音一つなく、脳天気な声が。

「どひゃァ〜〜! びっくりしたなァ、社長が人撃ったとこなんて初めて見た!」

 

 

 

 

「……ん?」

「ん? どしたの」

 

 

 

 

 

「……っきゃああああ!? 船大工!!」

「あーっ、お前マスクのやつ!! さっきの部屋から付いてきてたのか!?」

「だァからぼくはヒョウ太だって! ……しー、静かに。ここにいるのがバレちゃうよ!」

 静かに這い寄った少年が人差し指を唇の前に添えれば、お尋ね者二人はバッと口を押さえた。

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

「ええと、ヒョウ太くん? は攻撃仕掛けてこないの……?」

「あれ、追っかけてほしかった?」

「まさか!」

 気を取り直して屋根の上に腰を据えたところで、そう首を傾げられた。質問を質問で返せば、オレンジ髪は焦ったようにぶんぶんと首を振る。

 

 元より無駄だと分かっていることに労力を割く気は無い。

「ま、ぼくは君らが襲撃犯の仲間だとは思ってないからね〜!」

「そうなのか!? ……でも、お前もロビンを見たって! やっぱり別のやつだったのか!?」

「いや? 夜に見たあの人は、ほぼ間違いなく『ニコ・ロビン』その人だろうけど」

 頭に浮かんだ希望的観測をそのまま口に出す麦わら。だがそればかりは首を振って否定する。

 

 

「でも君らはロビンさんとは会えないまんま。その上、停まってた岬での昨夜の爆発騒ぎ……つまりは船でのゴタゴタが増えたと見た!」

「「!!」」

 

 何故知っている、とでも言いたげな顔が並ぶ。確証もないカマ掛け程度のものだったが、どうやらその通りだったらしい。

 

 

「ぬはは〜っ! そんな状況で暗殺にまで手ェ伸ばしてシラ切るだなんて、いくら腹芸が上手くたってムリムリ!」

 沈痛な面持ちを空気も読まずに笑い飛ばす。今の彼らに絡むにはこのくらいが丁度いいだろう。

 

 

 

「っじゃあ、あなたからここの住民に言ってくれない!? 私達は犯人じゃないって!」

 ばん、と屋根に手を付いてオレンジ髪が身を乗り出す。が、おれには断らざるを得ない。

「それは難しいかなァ〜。ぼくは一市民の雑用、あっちは島の市長でガレーラの社長、どっちの言い分を信じるかなんて分かりきったことでしょ?」

「……そうね」

 その理論には何も言い返せはしないようで、張っていた肩を落とした。ここに来てたった一年の人間では、市長は当然の事ながら職長の一人にだって信頼性は大きく劣ってしまうだろう。

 

 

「マスクのやつ! おれ達の敵じゃねェなら、なんでくっ付いてきたんだ?」

「ヒョウ太、ね。なんでって言われると……そうだなァ、君らならこの状況を打破できると思ったから」

 目の前の男は懸賞金一億が掛けられた首の持ち主、そしてそれに相応しい力だって持ち合わせていることは分かっている。

 

 

 おれ一人ではあの仮称兄とその仲間をどうにも出来ず、その上あちら側の人数を鑑みれば不利は明らか、抑え込まれるのが関の山。

 けれどこの海賊達を味方に付けることが出来たのなら、ガレーラの救命や、それ以上のことが可能になるかもしれない。

 

 

 

 

 

 それに。

 運命なんざ信じちゃいない、が。

 

 

 

 

 このウォーターセブンで『ロブ・ルッチ』を倒せる可能性がある存在は『モンキー・D・ルフィ』だ、と。そう思えてならないのは、贔屓目だろうか。

 

 

 ……あの時が、そうだったように。

 

 

 

 

 

 

「ぼくとしちゃあ、ガレーラ内にいた方が自由に動けない訳。だから同行させてくれない? 力なら貸せるから、さ」

 

 

 




ルッチがルフィに対して辛辣なのはデフォルト。
元の世界で味わった敗北が尾を引いてるからね、仕方ないね。
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