水の都で命は踊る   作:盆回

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宿敵接続イミテーション

 

「何追われてんのよあんたは!」

「仕方ねェだろ! 顔は割れてんだ、見つからねえ方がおかしい!!」

「待て麦わらの一味! もう逃げきれないぞォ!!」

 

 

 指名手配の掛かった三人組を──最初は緑頭のみを追っていたのが、いつの間にか船長とオレンジ髪の二人が合流していた──好都合とばかりにまとめて捕縛しようと、武器を持った群衆が土煙を上げながら走り追う。

 

 

 

 

「そこを曲がった!! っと、ヒョウ太!?」

 

 曲がり角の先、石橋の上に尻もちをついた少年がいた。

 

「いってて……」

「オイ大丈夫か、怪我は!?」

 

 軽く頭を押さえる見知った顔に、皆が追跡も忘れて焦ったように駆け寄る。その少年はウォーターセブンではそれなりに知られたガレーラの雑用係だ、愛嬌を滲ませた顔が愛想笑いを作る。

「だいじょーぶ、ぼくはちょっとぶつかって転んだだけ……さっきの、多分手配されてる麦わらだよね? あっちの方走ってったよ!」

 伸ばされた腕に掴まって立ち上がり、ぱんぱんと服をはたく様子に問題は無いと判断したのだろう。海賊を追い回していた集団は一斉に指を差した方向へと足を向ける。

「そうか!分かった、ありがとう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 周囲に誰の気配も無くなったことを確認し、橋の下を覗き込む。そこには手足を伸ばして必死な顔で引っ付いた麦わらがいた。

「もういいよ、上がって上がって!」

「おう! 助かったー!」

 

 しゅる、と器用に体の上に乗せていた二人ごと橋の上に飛び上がった船長。それとおれとを交互に見ながら、先程は居なかった緑頭が怪訝そうに呟く。

「……コイツ、船大工ン所の雑用だろ? 一体どういう」

「まァ利害の一致ってやつ? 敵対する理由ないからね!」

 手をひらひらと振って敵意が無いことを示すが、胡乱な目と警戒は向けられたまま。しかしここで戦う理由も意味もない。ある程度の疑いは甘んじて受けよう。

 

 

 不意に石畳に響いたカツンと硬く人のものでは無い足音に、ぴくりと耳が動く。すわまた追っ手かとそちらを見れば、淡く赤い帽子の船員が。

 

「いたーっルフィ! みんな!」

「チョッパー!」

 ぶんぶんと手を振り再会にほっと胸を撫で下ろす動物系に、麦わらが手を振り返す。

 

「お前よくここがわかったなー」

「においで……ってそっちは昨日の?」

「ヒョウ太だよ〜!君こそ、船にいた……」

 

 

「……ええと、タヌキ?」

「おれはトナカイだっ!!」

 ちんまりとした体躯でぽこぽこと怒る姿は、どう見たって四足歩行のものではないと思うのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かに見つからないようにと平らな屋根へと上がり、一息ついたところで小動物からの話が始まる。……この事件のキーパーソン、ニコ・ロビンの話だ。おれが口出しするような話でもないので、一歩下がって静観しておく。耳は傾けておくが。

 

 

 

 曰く、もう一人の船員と共にニコ・ロビンに会ったのだと。

 曰く、『もうこの一味には戻らない』と。

 

 

「本当に言ったのか!? ロビンがそんなこと!!!」

 信じられない……否、信じたくないと訴えるような声色の慟哭が響く。顔に影を落としたトナカイは無言でこく、と頷いた。

 

 

 

 

 沈黙が場を支配する中、海賊狩りが刀の鞘をカツン、と屋根に叩き付けた。注目を促すその仕草に従う。

 

 

「全員覚悟はあったハズだ。仮にも……敵として現れたロビンを船に乗せた。それが急に怖くなって逃げ出したんじゃ締まらねェ」

 

 

 

 麦わらの結成は知らない、どうでもいい。

 クラスメイトだったから仲良くしましょう、なんて切っ掛けがある筈もない海賊の世界で、仲間として船に乗るにはそれぞれの思いがあるのだろうが。

 

 

「落とし前つける時が来たんじゃねェのか? ……あの女は、『敵』か、『仲間』か」

 

 

 彼らは今こそ、その思いにケジメを付けるときなのだろう。

 

 

 

 

 浮かぶ雲に仄かな橙色が映る下、アクア・ラグナの前兆に荒ぶ風に吹かれながらの話し合いは続く。

「今日限りでもう会うことはねェってんだから、今日中に何かまた事態を悪化させる様なことをするって宣言してる様にも聞こえる」

 胡座をかいたまま、緑頭は厳しい目を続ける。今起きている事件へと傾いた話に頷いて、ガレーラの人間として続く言葉を引き継いだ。

「市長暗殺未遂なんて、もう十分騒ぎになってる事件だけど。……それが悪化するってなったら、考えられるのは一つってわけね」

 

 

 ごく、とオレンジ髪が息を飲み、皆の思うそれを代弁する。

 

「今度こそ、市長暗殺」

 

 

 

 

「事が起こるとすりゃ今夜だ。……現場へは?」

「行く」

 即答だった。麦わら帽子の下の決意は固く、揺らがない。

 

 

 海賊共が真剣な表情で話し合っている『仮面を被った誰か』……潜入している奴等とニコ・ロビンという女が仲間かどうかは、おれにとって問題ではない。考えたいのはガレーラがどれだけの被害を被ることになるか、そしてどうすればその被害を最小限に抑えられるかだ。……このままでは間違いなくアイスバーグ社長は殺される。死人が出るのは、何があっても阻止したい。

 

 

 

「じゃあ、行こう」

 

 一味の中で話は纏まったらしい。船長の掛け声で三人と一匹は立ち上がり、本社の方向へと歩を向ける。

 

 それについて行こうとしたところで。

 

 

 

 

「ところで雑用」

 

 

 刺々しい眼光が振り向きざまにおれを刺した。

 

 

 

 

 

 

 ただびとであれば硬直してしまいそうな程に恐ろしげな、爛々と光る獣のような瞳に見据えられる。

「てめェは何が目的なんだ、一体何をどれだけ知ってる?」

「……ぼく?」

 首を傾げて自分を指差せば、顰めっ面は更に深まった。……少し白々しかっただろうか。

 

「何って……ぼくはガレーラを守りたいの。それ以外にはなんにもないよ」

 今のおれの行動原理は真実、それだけだ。素など出してはいないというのに酷く情の湧いてしまったこの居場所を、せめて去るその時までは守りたいだけ。

「ヘェ? ガレーラを守るっつー割には本社で護衛するでもなし。わざわざ海賊と組むなんざ、何か他に目的でもねェと有り得ねえだろ」

「ちょっとゾロ……!」

「信じられるほど面識のある同行者じゃねェ。利害の一つ一つ、キッチリ把握しなきゃあロビンのことに集中出来ねェだろうが」

 諌めるようなオレンジ髪の声を野獣のような目をした男は跳ね除ける。……警戒心も野生動物の如き此奴は、すぐグループに入り込めた学園の同じ顔とは随分と違う。

 

 ……言うべきだろうか。何を、どこまで?

 

 

 

 

 

「知ってることは……確かに、あるよ」

 

 息を吸って、吐いて。顔から笑みを消し、真実味を滲ませて。

「信じ込まないでね? これは仮説。全部話してると長くなるから結論だけ。ぼくはその仮面の奴の所属を……何となく、察してる。それがどれだけ厄介で面倒で、強大であるのかってことも、っとわ!?」

 

 がし、と。

 言葉の途中で前方から伸びてきた手に肩を掴まれる。驚きの含まれた睨みに、さもバツが悪く見えるように目を逸らした。

「お前ェ、ソイツらの正体知ってたのか!? なんで言わなかったんだ!」

「……ごめんって、麦わらさん。ホラあくまで推測だからさァ〜〜、あんまり言いたくなくって! さっきも海賊狩りさん言ってたでしょ?」

 もしも真相が違ったとき、判断が鈍るかもしれない。理論の繰り返しを理解して、手が離れていく。

 

 

「……で、その正体ってのは?」

「世界政府だよ」

 

 

 ぴん、と場の空気が一瞬にして張り詰める。

 

 

 

「……ロビンと、政府が、一緒に……?」

 呆然と呟かれた言葉は誰のものだったか。

 

「推測でしかないことだけど。コレ言ったらガレーラに行くの止めようだなんて言い出さないかってのも不安でさ」

 この一年で得てきた情報は、十二分に奴らを世界政府所属の諜報部員であるのだと察せるような内容だった。間違っているかもなんて予防線を貼る必要はないのだが、確定すれば此奴らは逃げという手を取る確率が上がるのではないかと考えつつ話す。

 なんせ世界政府はこの世界で何よりも強靭で、権力を有した組織だ。それに本格的に付け狙われることになるのだと思えば、まともな人間であれば裏切った仲間一人の為に喧嘩を売るようなことはしないのが普通。

 

 

 

 

 

 

 

「何言ってんだ、止めるわけねェだろ?」

「……マジに?」

 

 だから、本当に訳が分からないという調子で眉をへの字に曲げた麦わらに、驚かなかったと言えば嘘になる。

 

 

 

 世界を敵に回すのと同義、イカれているのか? それを想定内だ、と苦笑いであったり凶悪な笑みであったりで受け入れる仲間達も大概、イカれている。

「あー、コイツはこういう奴だから……ま、それにそもそも私達はお尋ね者! 今更政府が何よ!」

「そうだぞ! 政府が怖くっちゃ海賊なんてやれないんだからな! ……それにしても、政府に……ロビン、大丈夫かな……」

「問題は二十年間逃げ回ってきたロビンが何で政府に捕まって、あまつさえ協力までしてンのか、だが」

 

 ぱしり、と握り拳を掌にぶつけ、海賊船長は宣言する。

 

 

「それは本人に聞く! 行くぞ!」

 

 

 

 

 全員、肝も覚悟も据わっている。

 どうやら想定よりも随分と頼もしい奴等らしい。もう少し情報を出しても良かったのではないか、と少しばかり脳裏を過ぎったが……行く先は結局同じ。ならばこれ以上突き詰める必要も無いだろう。

 

 

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