水の都で命は踊る   作:盆回

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星へ行く船

 

 ゴミ処理場の裏、レンガ造りの倉庫。

 No.2と刻印されたアーチ状の扉を開けば、下へと向かう階段があった。

 

 

「この倉庫は八年は放置されてる。海列車に至っちゃ十二年以上手つかずら、もう動かねェかも知れねェな」

「おい、それじゃ困るぞ!」

 んががが、と濁声で笑う呂律の回っていない老人に、トナカイと共に階段を駆け下りた麦わらが抗議の声を上げた。土埃を上げながら先走る海賊たちに呆れながら、手の中の鍵をちゃらりと回して老人はゆるりと歩く。

「そんなに急いだって鍵がなきゃ通れねェぞ……ん? 何ら、開いてるねェ」

 その言葉に従い通路端にある扉を見れば、確かに少しの隙間が開いている。

 

 

 

 

 

「うおー!!あった!!かっこいいぞォーー!!」

「すげェ〜〜!!」

 

 

 

 

 麦わらの手によって完全に開いた扉から見えたソレ。上げられた歓声に頷ける程の船が、そこに鎮座していた。トゥーン調のサメのような船首、黒く光る車体。まるで重厚な武器のようだ。

 

 

「言っとくけどまともなモンじゃねェよ! こいつの名は『ロケットマン』、とても客など乗せられねェ、暴走海列車ら」

 

 

 暴走、などと。随分と不穏なその響きを聞いているのかいないのか、麦わらとトナカイはキラキラとその目を星に瞬かせている。

 

 きょろり見慣れない武骨な海列車を観察していると、不意にぱたん、と車体から音が鳴った。

 直ぐに足音をかつかつ鳴らして降りてくるその姿は知ったもの。

 

 

「あれ!? アイスのおっさん!」

「麦わら……よく無事だったな、海賊娘の言った通りだ。……それにヒョウ太も。よく、生きて戻ってきた」

「……社長こそ。元気、とは言えないかもだけど。無事でよかったです」

 目許を緩めて名前を呼ばれ、噛み締めるように返事を返す。……何故か、麦わらが驚いたように振り向いた。

 

 

「っあー! お前着いて来てたのか!? いつから!?」

「……今更ァ!? ずっといたよ、さっきから!」

 

 

 逆にこっちが驚いた。

 おれの同行には何の口出しもされていなかったため暗黙の了解的に了承されていると思っていたのだが、そも気付かれていなかったとは。

 

 

 

「ここまで気付かれてなかったって何ィ〜……? ホントに誰も、ぼくのこと認識してなかったの?」

「おう、全然!」

「堂々と言うことじゃないと思うんだけど! 君らは警戒心持ちなよもっと!」

 麦わらのように口には出ていないが、緑頭とトナカイも小さく目を見開いている。これはおれが自然と溶け込めていたと見るべきか、それともこの一味が気にしなさすぎなのか。どちらにせよ戦場に身を置くものとして大丈夫なのか。

 

 

 

 

 後ろの小さな騒ぎを置いて、木箱に座った社長へと車掌が声を掛けるのが聞こえた。

「命はあったようらねアイスバーグ、おめーここれ何してんらい?」

「ここにいるって事は、あんたと同じ事を考えたのさ。……バカは放っとけねェもんだ」

 短いやり取りから気安い仲の垣間見える二人がからからと笑い合う。そういえば、仕事上の付き合いだけではなく飲み仲間だと言っていたような、とふと思い出した。

 

 

 

 

 

「使え、整備は済んだ……水も石炭も積んで、今蒸気を溜めてる」

 がちゃん、と工具の入っているのであろうバッグを床へ降ろし、社長は麦わらへと望む言葉を投げた。この中で一番重体だというのに、一人でそれ程の重労働を……この人も、大概超人だ。

 

 

 

「おっさん準備しててくれたのかー!」

 能天気に両腕を上げて喜ぶ麦わらに呆れたのか、はたまた傷が痛むのか。煤に塗れた社長は一つ溜め息を吐く。

 

「喜ぶのは生きてられてからにしろ、このロケットマンはパッフィング・トム完成以前の失敗作だ。どう調整しても蒸気機関がスピードを抑えられず暴走するんだ、命の保障などできねェ」

「ああ!! ありがとうアイスのおっさん!!!」

 ……話を聞いていないのか? いや、聞いた上での感謝だろう。お気楽な顔をしながら、船員ごと自分の命を懸ける男の後ろへと目を細めながら続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待て」

「どわっ」

 

 首根っこを掴まれた。見上げれば、眉間に皺を刻んだ海賊狩りがすぐそこに。

 

「なァにサラッと乗ろうとしてんだてめェは!」

「えェ〜〜ダメ? いいじゃん一人増えるくらいさァ」

 お願い、と手を合わせて頼んでみるが旗色は悪い。まァ、思考は理解できるが。ここで止められたら何の為にここまで着いてきたのか分からない。

 

 

 

 緑頭は短く息を吐いて、おれの少し浮いた体を降ろす。先程の警戒心の無さに戻って欲しいところだが。

「仲間、奪還したいんでしょ? それなりの戦力にはなるよ、ぼくは」

「お前が強ェことはさっき十分知れたがな、……あの時。全く動けねェでぶっ飛ばされたことを忘れたのか?」

「……あはは、痛いところ突いてくるじゃ〜ん!」

 

 言外に、足手まといを連れていく気は無いと。事実でしかないそれにはぐうの音も出ない。だが、反論して認めさせる以外に道はない。

 

 

 

 

 

 

 おどけたように肩を竦め、──『服部ヒョウ太』としての顔を消し、意識しての高い声も元のものに戻す。

 

「確かに、さっきは無様を晒したがな……覚悟は決めた、今のおれなら連れて行ってくれりゃあ役に立つと思うが」

 

 一瞬の切り替えにぴくり、海賊狩りの眉が動く。だがその動揺を声にすることはない。

 

 

 

 

 代わりに、問いかけを。

「覚悟ってのは、死ぬ覚悟か?」

 

 『死』と。その言葉に反応したのであろう社長のそわついた身動ぎを感じ取る。

 先程まではしゃぎつつも貧血でふらついていたはずの麦わらの視線は、いつの間にやら真剣味を帯びてこちらを向いていた。

 

 

 

 

「死に場所を探してるってんなら……」

「いいや」

 

 

 他を当たれとでも言いたかったのだろうが、途中で遮り返すのは当然否定。そっちは既に決めたことであるし、死ぬ覚悟なんざしたところで強くなるはずもない。

 

 

 

 

 決意したのは全くの別所。

 

 

 

 生徒会長として、『ロブ・ルッチ』としてのおれで。

 にぃ、と口の端を歪めて持ち上げる。

 

 

 

 

「あのクソトンチキ腹話術師の元自称兄を、一発、二発……いや、五十発殴るまでは、死なねェ覚悟を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、乗れヒョウ太! ナミが来たらすぐ出発するぞ!」

「ルフィ、いいのか?」

「おう!」

 列車へと乗り込む階段にがくりと膝を付きながらも真っ直ぐに顔を上げて、険しさを含んだ丸い目が視線を合わせてくる。

 

「お前がブン殴りてェのはハトの奴だろ? なら一緒に行こう! おれもアイツを倒さなきゃなんねェ!!」

「ああ、助かる。……今回は前のような、利害の一致での利用じゃあない。お前達の目的にも、全面的に協力させてもらおう」

 

 どこまでも一直線な目の前の男は、気に入らないが嫌いじゃない。掛け値なし、偽りのない本心を返しながら差し出された手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、遅くなった!!」

 ダダダッと勢い良く出入口から入ってきたのは、途中からいつの間にか離脱していたオレンジ髪。そしてその背後の、大荷物を引き摺る車掌の二人。

 

 

「ナミ! お前どこ行ってたんだ! 時間がねェつったの誰だよ!!」

 両手に抱えきれない程に中身の詰まった袋を荷台から降ろす彼女に麦わらは怒りながら指を差すが、怒鳴られている当人は何処吹く風。

「その荷物何だ!?」

「肉とお酒」

「文句言ってごめんなさい!!」

 言うが早いか中身へ飛びつく麦わらと、ついでに海賊狩り。……扱い慣れの一端を見た。

 

 

 

 

 ……と。また足音、それも複数。

「麦わらァッ!!!」

 突然上げられた大声の元に顔をむければ、入り口に数人の影がある。

 見覚えのある、血さえ流したボロボロの立ち姿。解体屋の連中……奴らは確かに強くはないが、一体何がどうしてそんな怪我を。

 

「あいつら……」

「フランキー一家!」

 一味と解体屋は知らぬ内に敵対を強めていたらしい。この忙しい時に、と海賊狩りが武器を構える。それを意に介さずに、片ゴーグルの男が息を吸い込んだ。

 

 

「頼む!! おれ達も連れてってくれェ!!!」

 

 息を切らした慟哭が地下に響く。

 

 

「エニエス・ロビーへ行くってガレーラの奴らに聞いた!! フランキーのアニキが政府に連行されちまって、追い掛けてェけど……おれ達だけじゃアクア・ラグナを越えられねェ!!!」

 泣き濡れてぐしゃぐしゃになったその顔には、プライドの欠片もなく。けれど確かな決意があった。

 

「冗談じゃないわ! あんた達が今まで私達に何をしたか分かってんの!?」

「……分がっでる……!! 恥を忍んで頼んでる!! アニキを助けてェんだ!!!」

 ぼた、ぼつと液体の溢れる音。それに麦わら帽子はこくりと頷いて、列車に乗り込む階段に足を掛けた。

 

「乗れ!」

「!?」

 はっ、と息を飲む音はオレンジ髪から、そしてフランキー一家から。

 

「急げ!!!」

 一拍置いて、歓声が上がった。

 

 

「ちょっとルフィ!!」

「ま、いいよ」

 仲間の咎めるような呼び掛けに、麦わらはにししと笑う。二億ベリーを取られかけた時からまた更にいざこざでもあったのだろうが、その因縁をあっさり放り投げた器の広さに感心する。

 

「すまねェっ!! 恩にきる!!!」

 土下座の体制からがつんと頭を床に打ち付け、片ゴーグルは感極まったように叫んだ。

 

 

 早く乗れと促されてもフランキー一家は海列車へ乗り込む素振りは見えない。なんでもキングブルで海へと飛び出すらしく、車両の後ろに掴まらせてくれと。……なんにせよ、無事に話は決着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 乗り込む直前、背後から声が掛る。

「ヒョウ太」

「はい」

 振り向けば、険しい顔に心配と、それを払う笑みを浮かべたひと。

 

 

 

 

「約束だ。……生きて、帰ってこい」

「……はい、必ず。アイスバーグ社長」

 意図した高い声音ではなく、本来の声で約束を言紡ぐ。……破れない誓いが一つ、胸へと収まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 石レンガ造りの倉庫の中、蒸気の昂った音が籠る。波に揺れる機関車がガタリとその身体を震わせた。

 

 

「さァ海賊共、振り落とされんじゃらいよ!ウォーターセブン発、エニエス・ロビー行き!暴走海列車『ロケットマン』!!」

 威勢のいい車掌の号令と断続的な汽笛の噴出と共に、水を掻き分け鋼鉄の船は進む。

 

 

 

 

「よォし! 出航!!」

 海賊船長の宣誓に合わせるようにして、暴走機関車は特段長い汽笛を叫んだ。

 

 

 

 

「行くぞォ!! 全部、奪い返しに!!!」

 

 

 




息抜きで書いてる遊戯王の方がめちゃ伸びてて嬉しさと複雑さでのたうち回っている今日この頃。自分の作品は全部大事なのでこっちもあっちもなるたけ丁寧に取り扱っていきます。
評価、感想、いつも励みになっています。マジで感謝!
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