水の都で命は踊る   作:盆回

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海上渡航

 

 

『運転室より緊急連絡!!これから線路を掴むと急激に速度が上がるよ!!軽傷で済むようにしっかりしがみついてな!!』

「とりあえず怪我はするんだ……」

 

 フランキー一家がロケットマンに連結砲を撃ち出してすぐ後。スピーカーからきぃん、と車内アナウンスが響く。ジェットコースターのような勢いのままに水路から思い切り海へと飛び出して、独特な浮遊感と共に前へ前へと走る海列車がざりざりと音を立て始めた。

 

 

 

 ガチィッ!!と線路と車輪の噛み合う音が響いた瞬間、止まっても居ないのにがくん、慣性が働いて体が傾く。

 

「うおォッ!?」

「きゃあっ!!」

 

 

 

 

「うおあああああぁぁ〜っ!!!」

 ……車内の声をかき消すほどの麦わらの悲鳴が、車体の上から聞こえた。そういえば列車の上に跨っていたが、流石にここで落ちたりしないよな? 勝手に吹き飛んだらただのアホだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー、死ぬかと思った……」

「当たり前らよ全く! だから言ったろ、吹っ飛ばされるって!!」

 何人かがぐるぐると目を回す列車の中、くたびれた声にお叱りが飛ぶ。結局麦わらは後方へ吹き飛ばされたらしい、ついでに、これまた屋根の上にいたらしい車掌の孫とそのペットも。何故着いてきてしまったのか。

 

 運良く後ろに張っていたフランキー一家が受け止めたらしいが、それが無ければ出鼻をくじかれるどころの話ではなかった。

 

 

 

「いやいやびびった!!!」

「腰うった……」

「ちょっと待て」

 タイルストンとルルの声の後、胡座をかいて座る海賊狩りが腕を組んで眉を顰める。

 

 

 ……? タイルストンと、ルル?

 

 

「この車両におかしな奴らがいるぞ」

「「おいそりゃ誰だ」」

「お前らだよ!!」

「おめェもだろ!!!」

 突っ込むパウリーへ突っ込み返す緑頭。麦わら達に対して軽率にコント集団と言えなくなりそうな漫才を繰り広げる顔ぶれは、ここにいるはずのない者たち。

 

 

 海列車には、先程までは確かにいなかったはずの職長三人組がそこにいた。

 

 

 

 

「おれも一緒に行くことにした! お前らの仲間を連れ去った敵は、アイスバーグさんの命を狙った犯人でもあるんだ。……それに、あいつらには言ってやりたいことが沢山あるからな……!」

 聞いたこともないようなドスの効いた声で、パウリーがそう話す。事情を知っている其奴はともかく後の2人は何故、と思ったが、なんでも社長の敵を討つ為パウリーにくっついて炭水車に隠れていたのだと。

 

 

「更に、その敵ってのは当然フランキーのアニキを連れ去った奴らでもある!」

「そうだわいな! あたしらそいつが誰なのかもはっきりと知ってるんだわいな!!」

「やいガレーラ! あんたらアニキに何かあったらどう責任取るんだわいな!!」

「黙れ! 一番辛いのはアイスバーグさんだ!!」

 犯人の顔を見たというフランキー一家の姉妹が騒ぎ立て、それにパウリーが怒鳴る。襲撃犯がガレーラの職長達であったと知っているからか、醸し出される空気はとても良いとは言えない。

 

 それらの諍いに呼応するようにして、タイルストンが雄叫びを挙げる。

「うおおお! お前ら何をごちゃごちゃと! パウリー!! おれ達にまず説明しろ、どうなってんだ!!」

「そうだぜ、パウリー。知ってんだろ? ……真犯人。お前の口から言ってみな。おれ達もそうそうニブくねェ……大方の検討はついてる」

 別に驚きゃしねェ、と。隣の大男とは対照的に、真実を知った同僚へと静かに問い掛けるルル。その検討とやらが合っているかは知らないが……普段は抜けた人間ではあるが緊急時となると冴える奴らだ、肌感で察するところもあるだろう。

 

 

「……まァ、急に意味なく姿を消せば察しもつくか」

 

 

「じゃあはっきり言う。仮面の奴らの正体は……ルッチ、カク、カリファ!それに酒場のブルーノ。……あの4人が政府の諜報部員だったんだ。あいつらが、アイスバーグさんを殺そうとした……!」

 

 

 

 苦虫のように葉巻の煙を噛み潰し、パウリーは事実確認とばかりに同僚へと裏切りを伝える。

 

 

 

 

「なん」

「だと!!!!!」

 途端、神妙だった顔のパーツが声もなくそれぞれ限界までかっぴらかれたことによって、2人が何も察していないことを察した。……お前ら!

 

 

「想像だにしてなかったのか!!」

「し、しかしあいつらは里帰りしたって!」

「するかァこの非常時に!! 一体誰だと思ってたんだよ!?」

「裏町のマイケルとホイケル?」

「そうそう」

「誰だよ!!!」

 汗を飛ばしながらクソボケ二人が頓珍漢な名前を挙げているのを聞きながら、こめかみを押さえた。

 

 ……お前ら、元から全く分かってなかったんだな?それなりに高く買ってたおれがバカみてェじゃねェかこのクソ天然共が。

 

 

「だがルッチも裏切り者なのか!? そこにヒョウ太がいるのに!?」

こちらを指差して投げられたその疑問に、パウリーの視線がさまよった。まァおれの存在は事態を無駄にややこしくする一端となるだろう。

「それにゃあ……色々事情があるんだよ、後で話す」

「? おう」

 

 

 

 

「じゃあ、まー……!」

 肉を食い終わり、腹一杯になったと立ち上がる男が話を強制的に中断させた。

「フランキー一家ともガレーラの船大工とも街じゃゴタゴタあったけど、この先はここにいる全員の敵は同じだ!」

 麦わらは車内全体を見渡して、覇気すら感じるような声音で的確に状況整理をする。

 

「これから戦う中で一番強ェのは特にあのハトの奴だ!! あいつは必ず、おれとヒョウ太でぶっ飛ばす!!」

 

 

 アクア・ラグナが迫り、皆が顔を強ばらせる中。表情をびくとも変えずにあくまで冷静に、麦わらがガレーラとフランキー一家のいる中心点へと腕を差し出す。

 

「せっかく同じ方向向いてるもんがバラバラに戦っちゃ意味がねェ」

 その言葉に金髪と片目ゴーグルが肯定の頷きを返す。がしりと、三角形に腕が組まれた。

 

 

 

「いいか、おれ達は同志だ!! 先に出た海列車にはおれ達の仲間も乗り込んでる、戦力はまだ上がる!!」

 

 どしゃりどしゃりと雨打つ車外から、士気を高めるかの如くキングブル達の嘶きが響く。

 

 

 

 

「大波なんかにやられんな!! 全員目的を果たすんだ!!! 行くぞォォォ!!!」

 海賊船長の宣誓に合わせて上がる雄叫びと同時に、ごおお、と大自然の唸り声がうねる。

 

 

 それは波、それは壁。

 まずはアクア・ラグナという天災を片付けなければ、何も成すことは出来やしない。

 

「んががが!! さーおめェら、この波何とかしてみせなァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 砲撃の音が響く直下、長椅子を占領して横になる。

 麦わらと海賊狩りがこの状況で冷静な以上、別におれが出なくともアクア・ラグナはどうにかなるのだろう。それならば戦闘に入る前に、少しでも一旦休憩をとりたい。情けない限りだが、随分と疲れてしまった。

 

『ナミさんナミさん、聞こえるか!』

「うん! サンジ君ね?」

 瞼を下ろした傍で、電伝虫からの声が聞こえる。麦わらの仲間の一人がパッフィング・トムへと乗り込んでいるというのは大きなアドバンテージだろう。

 

『こちら、ちょっと……マズイ事になってきた』

 マズイ事。隠密に失敗したとか、その辺りだろうか。潜り込んでいる奴の強さは知らないが、単独行動で存在を知られたのならば危険にも程がある。

 そう考えながら聞き耳を立てていれば、わたわたとした声、呆れたような声が受話器の遠くから割り込んできた。

 

 

『……アホ2人のせいで』

「あ、アホ?」

 

 

 あまりにも緊張感のない間の抜けた背後の声とため息混じりの台詞に、無駄な心配だったかと肩の力を抜いた。

 

 

「ねえ、サンジ君! 今からロビンの行動の理由と私達の今の状況を全て話すから、よく聞いて!!」

 

 ──オレンジ髪の口から『ニコ・ロビン』の離反の訳が語られる。

 自分の身柄を政府に引き渡すことが、麦わらの一味に手を出さない条件であった、ということを。

 

 

 あれだけすげなく断られていたのに何故こうまでして追い掛けるのか、というのは疑問として片隅にあったが、……仲間の為に自らの身を政府に差し出してとは、道理でこれ程必死になるわけだ。麦わら共が船員の自己犠牲を良しとしないことなど少し見ていれば分かることだ。

 

 

「……」

 ふい、と。

 何かの予感で目を開ける。

 

 

 

 

 瞬間、ドォォォン!!!!と。

 

 

 

 衝撃すら纏うような轟音が響いて、がたたんっ、と。線路を掴んだままだというのに車体が突然傾いた。

 

 わあきゃあと悲鳴をあげる車内の女子どもに、長椅子に座ったまま濁声でんがががと笑う老人。それらをかき消すかの如く、列車の上から歓声が聞こえる。

 

 

「アクア・ラグナを抜けたァ〜〜〜ッ!!!」

 

 

 ……見立て通り、一つ目の難関は無事超えたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、ヒョウ太寝てんのか?」

 

 列車上から戻り、おれの頭の横に腰掛けたパウリーが話し掛けてくる。

「……ちょっと目閉じてるだけ。10分、いや5分くらいでいいから休ませて」

「おう、あーそりゃいいけど……説明とか、どうする?」

 重い瞼を持ち上げて顔を覗き込めば、視線の先にあるのは二人の職長。

 

「ンー……パウリーさんがやっといてよ、話せるって思う範囲でさ」

 正直、そろそろ瞼だけではなく意識も落ちそうだ。

 本社での出来事、海に脱力した状態で溺れたこと、完徹後という一つ一つが常人以上であるはずの体力を容赦なく削り取ってきたのだから。

 

 

 もぞ、と体の向きを変えて目を閉じれば、思考は急速に闇に落ちていった。

 




生徒会長からの職長達への信頼が分かりやすく見え隠れしてくるあたり。
誰かの前で睡眠を取れるっていうのは究極の信頼だと思います。
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