水の都で命は踊る   作:盆回

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すべての時間が噴きでた夜

 

「説明っつっても正直おれも何が何だか……って、マジで寝た、のか……?」

 

 困ったように見下ろせば、寝息も立てずにヒョウ太は寝入っていた。余程疲れていたらしい。

 さてどうするか、と取り残されたパウリーは頭を搔いて、詳しい話を求めるようにこちらを向いた同僚の顔を見る。……一体、どこまで話すのがいいのだろう。

 

 

「どっから話しゃいいのか……」

 少しばかり逡巡して、知っていること全てを伝えることに決めた。ここまで来て隠し事をするのはパウリーの本意ではない。それはきっと、ヒョウ太にとっても。

 言葉を選びながらも脳裏に浮かぶのは、忘れようなどあるはずもない、記憶へ刻み付けられた残酷な話。

 

 

 

 

──『おれ達と一緒に来い、ヒョウ太。……延命治療の手筈は整っている』

 

『テメェの設計図は政府に送っておいた。……安心しろ050よ、政府にとって有用ならば生かせというお達しだ』

 

『……その、まま。そのままの意味だ、全部。この体は『ロブ・ルッチ』の体細胞クローンで、……もうじき、寿命で死ぬ』

 

『……言ったって、どうしようもねェだろ』──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そういうこと、らしい。コイツはルッチのクローンで、命だって残り少なくて、……なのに、延命だって断って……」

 仲間だと思っていた人間の非人間的なまでの冷徹な声から、諦観と絶望を孕んだ言葉まで、そのままに伝える。真摯に聞いていた2人の顔は次第に歪んでいった。

 

 

 

 

「なんだ、それは」

 

 

 ぽつ、と呟かれた言葉は常時喧しい男の声とは思えない程に微かなもの。

 

「なんだそれはァ!!! ッなんでったってヒョウ太が、そんなことォ!!!」

 控えめだったそれは、びりびりと車内の壁が振動するような大声へと変わる。含まれているのは──怒り、だろうか。当たり前だ。

 

 行き場がない故に意味を持たない怒号を放つ巨体をルルが殴り、もう片方の手で自分の頭を押さえる。

「ヒョウ太が起きるだろう、叫ぶなら窓に向かって叫べ!ああ、しかし、……ちくしょう、そうか、あの時もっと踏み込んでいたんなら……!」

 タイルストンを窓側へと押すルルの口元からぎり、と歯軋りの音が鳴る。

 

「あの時って」

「……、丁度、一年前。去年のアクア・ラグナの時に、おれの前で弱音を吐いたんだよ。……夢ならもう覚めてくれって言ってたんだ、ヒョウ太は」

 その一回だけだ、こいつが弱音を吐いたのは、と。

 サングラスの奥の目を険しく顰めながら、未だ眠った子どもから視線を逸らさない、逸らせないでいる同僚に合わせて顔を落とす。

 

 おれの前では常に気丈であった子ども、ルルに対してだって、恐らくはその一回だけ、たった一回吐き出しただけで終わってしまった子ども。気付けなかった、踏み込めなかった、話されなかった。その事実がどうにも耐え難くて、パウリーの心臓が痛みを訴えた。

 

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 

 

 

 わあわあと騒がしい中、ぱちと目を開け身を起こす。

 つきつきと刺すような眼精疲労から全身に纏わりついていた怠さまでもが改善されていることから察するに、どうやら寝ていたのは5分どころでは無さそうだ。本格的に寝入ってしまっていたらしい。

 

 

 

「起きたか、ヒョウ太……」

「うわお通夜状態」

 

 船切りに勝った、などと何やら騒がしい連中を背後にして、職長3人組は沈んだ表情でおれを見ていた。

「パウリーを疑うわけじゃないが、……本当なのか、寿命のこと」

 サングラス越しに真摯な光を湛えてそう聞いてくるのに、こくと頷く。パウリーは全て話してくれたようだ。

 

「その寿命のことっていうのが後少しってのならまァ、ほんとだよ」

「……そうか、そうか。……すまねェ」

 ルルの言葉を皮切りにして、三人ともが心から申し訳なさそうに頭を下げるものだから、どうにも困ってしまう。コイツらには全く非がない癖して、どうしてそんな表情をしてしまうのか。

「なーんでルルさんが謝るかなあ! この話でいっちばん悪いのはヒトの複製を造った科学者だよ? もしくは世界政府!」

「そうかもしれねェ……でもな、奴らの裏切りだとか、寿命だなんて重いもの。それを一年間も悟ることすら出来ないで、お前だけに背負わせていたことが心苦しくて仕方ねェんだよ、おれ達は」

 

 視線を落としたパウリーが零した懺悔に、思わずはあと溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 長く息を吐いて、見開いていた瞼をすぅと細め。

 

「いーい、三人とも!」

「いっづ!」

「あだっ!」

「おおォ!!?」

 

 三度、拳を振り下ろす。

 頭を摩って呆けたようにぱちくりと目を瞬かせる三つの並んだ顔へ、腕を組んで叱るように喝を飛ばす。

 

 

 

 

「タイルストンさんは、いいやタイルストンは直情的で、嘘だって苦手なはずなのに秘密をずっと守り通してくれていた! ルルには、……演技を見抜かれた、いくら焦っていたとはいえこのおれが! そのせいでようやっと、お前らの名前だって呼べるようになって。パウリーはいつだっておれの我儘を通してくれた、それに、さっきこそ命を救われた!」

 

 おれのことを訳ありだからと、子どもだからと、構い倒してきた大人達。鬱陶しいはずのそれにだって、いつの間にか居心地悪くなんて感じなくなっていた。

 

 

 

「ここの三人だけじゃない、ガレーラの職人共は、皆、みんな気のいい奴ばかりで」

 

 あの水の都は、脅しの材料や自由を縛っていた鎖なんかじゃない。むしろ、その温もりにおれも050も、幾度支えられたことか。躊躇いも恥も臆面もなく、率直にこんなことを面と向かって伝えられる程に。

 

 

 

「それがどれだけおれの助けになってたのかも知らねェで!! 勝手に自分を責めてんじゃねェ!!!」

 

 

 

 

 

 

「むしろ誇れよてめェらは。おれの本質は、……認めたくはないが、オリジナルとそう変わらねェ。あっちよりは甘いだろうがな。それを一年程度で絆しやがったことに胸を張れ!」

「胸張れって……」

 叩きつけるようにして放った言葉にたじろぐ3人をもう一度、今度はべしりと軽くはたいた。

 

 

「おれの覚悟は分かっているはずだ。……ここまで言ってやってもまだ、うじうじとしているつもりか?」

 

「……いや、悪かったなァヒョウ太!!そこまで言わせちまってな!!」

 弾けるような大声が上がる。こちらを向いた顔は、先程のような翳りには包まれてはいない。

「言いたいことは色々あるが、こんなところで迷う事じゃない、か」

 

 期待通りの返答に、ふ、と口許を緩める。これで立ち上がってくれるなら、立ち直ってくれるなら、此奴らは大丈夫なはずだ。

 

 

 

「ならいい。……どうか、おれ達に悔いを残してくれるなよ」

 

 




ロブ・ルッチ、言葉にしない男という認識があります。政府の駒、諜報員という性質を抜きにしても直接正の感情を伝えようとしないタイプ。
絶対CP9組仲良いし情しかないよな!っていうのは分かってましたがエッグヘッドで明言された仲間思いな面に頭おかしくなりましたね……お前カクの事相棒と思ってたんか!?本人に伝えてるかそれ?伝えてなさそうだな?って……
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