水の都で命は踊る   作:盆回

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語れよ真空の中で

 

 

「狙撃の島の『そげキング』!!?」

「……そう、ウソップ君の親友で、この度キミ達の手助けを託かってここにいる」

 

 

 再度列車を線路へと載せ、フランキー一家を背後へ結合させる。途端乗り込んできたのは麦わらの一味達。その中の一人、赤い布をひらめかせ、包帯の巻かれた腕を組んで仁王立ちをしている長鼻。何故顔を隠しているのかは知らないが、まず間違いなくガレーラで出会った男だ。

 

「ヒ、ヒーローだ! マントしてるからそうじゃねェかと思ったんだおれは!!」

「そうか! マントしてるからヒーローなのか……! かっこいいなー!!!」

 

 ……何を言っているんだろうか、こいつらは。

 仲間だとかそれ以前の問題で分かるほどに杜撰な変装擬きを堂々としている長鼻と、それに思い切り騙されている若干二名へと、その他大勢から冷ややかだったり生暖かかったりする視線が送られた。

 

 

 

 

 はら、と煙草の匂いが揺れる。

 

「ロビンちゃん救出の前に、一つ聞いといてくれ」

 

 

 

 

 煙を吐き出す口から語られるのは、海列車での出来事。

 一時車両を切り離して逃れられそうになったものの、ブルーノのエアドアでまた攫われたのだ、と。……そして、それ以前にニコ・ロビンには逃げる意志など微塵もなかったことも。

 ……過去のトラウマに苛まれ、自分たちに身を委ねてくれるかすらも分からずに。奪還を拒んで何がなんでも突き放してくる仲間を取り返すというのは、良い心地などしないだろうが。

 

 

 

「放っといたらロビンは殺されるんだろうが!!死にてェわけねェんだから助けるんだ!!!」

 

 やはり一切の逡巡などなく言い放った麦わらは、おれにはどうにも眩しく映る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、お前達の話は終わりか? そしてこれで一味は全員だな」

 頭を振って、纏わりついた思考を払う。腰掛けていた長椅子から立ち上がり、怪訝そうな態度を隠そうともしない新顔を含めた海賊共を見渡した。金髪がぎらりとこちらを睨んで何かを言いたげにしているのを顎でしゃくって促せば、警戒心を隠さない問いが飛んできた。

 

「ンで、てめェは何だ? 雑用。あの鳩男に良く似てるがよ」

「……おれはアレのクローンでな、まァ今は詳しい話なんざどうだっていいだろう? 少なくともおれは味方だ」

 さらりと言った内容に理解が追いつかないのか、警戒も飛んでかちりと停止しているが、気にかける暇もない。目的地はもう目の前、手早く伝えてしまおう。

 

 

「おれもただ愚鈍でいた訳じゃねェ、元の知識と相手方の擦り合わせはした……奴らの戦い方も敵戦力も。おれの知る情報はいくらでも提供してやるさ」

(ねェルッチ、今すっごい悪い顔してない?)

(心配するなよ、自覚はある)

 

 口角を歪めて眉を跳ね上げる、050曰く凶悪な笑みを表層へと浮かべて。

 

 

 

「作戦会議だ。……このおれを殺さずに、あまつさえ敵に回したこと。必ず後悔させてやる」

 

 

 

 

 

 あまり時間はない、ならばざっと概要を伝えておけばいい。それだけで情報が互いにほぼないスタート地点から優位に立てるのだから。

 

 

「大概の護衛兵士の戦力なんぞ所詮は有象無象、底が知れているからな。問題にすべきはCP9の連中だ」

 CP9、とやらが元の世界の生徒会と変わらぬ顔ぶれであることはスパイ達に探りを入れて把握済み。使う技に関しても、だ。知っておけば有利に働くこと、知らなければ初見殺し足り得ること。それらを指折り数えて話す。

 

「人数は七人、基本は統一して六式という体術を使う。……身をもって体験しただろう? 強さに差はあるとはいえ、全員が武を極めた超人なことには変わりねェ」

 指を握って開いてを繰り返す自身の手のひらを見ながらそう言えば、ごくりと息を飲む音が長鼻から聞こえる。

「そ、その六式ってのは弱点などあるのかねヒョウ太くん!」

「ンなもんはない」

 若干の震えを湛えた問いをばっさりと切り捨てる。弱点らしい弱点と言えばせいぜいが鉄塊を掛けている間は動けないことくらいだが、それを克服した奴を知っているので。

 

「六式について教える時間はねェから……そうだな、覚えていりゃあ利になることだけ言っておこうか」

 

 

 

 

「まず、ブルーノ……あー、牛の角みてェな髪型した奴だ。さっきの話にもあった通り、何処にでもドアを作って移動できる無法な能力持ち。人体にドアを作るようなトリッキーなことも出来る上、逃げに徹されたらまず追い付けねェな」

「で、ソイツはどう対処すればいい」

「一撃で倒せ」

「脳筋戦法じゃないの!!」

 刀の柄を掴んでいる海賊狩りにそう返せば、横からオレンジ髪に怒鳴られた。正味それが一番単純で簡単な勝ち方であるため、理不尽な叱咤である。

「奴は一見冷静沈着なようで、意外と油断も慢心もある。それは己の実力に自信を持っている故だろうが、……だからこそ、一発は避けずに受けてくれるだろうよ」

 

 

 

「次に注意すべきはカク、船大工をしていた鼻が角柱の男だな。奴はオリジナルの次に六式の練度が高いはず。出来ることならこの一味の中でも主力が戦うか、おれが戦うかした方がいいな。でもって練度で言やァその次に野良犬……いやジャブラ……いや、ナマズ髭の男が来る」

「なんだ、随分と言い淀むな?」

「……癖だ、癖。気にしてくれるな」

 金髪が二度の言い直しに首を傾げる。つい伝わらない名称が口を突いて出てしまった。適宜修正をしなければならないか、と咳払いをする。

 

 

「問題にすべきは、奴が嘘吐きってところか。不意打ちの得意な男だ、彼奴の言うこと成すこと全て信用するなよ。当然、油断もな」

 奴はおれの記憶する限りじゃ能力者だが、カクもカリファもこちらでは悪魔の実は食べていなかった。どうなっているか分からないことは言うべきではないだろう。

 

 

 

「六式以外をメインに扱う奴もいるはずだ、クマドリ……ピンクの長髪をした大男だな。これに関しちゃ見せた方が早いだろう」

 言いながら下ろした髪に意識を向ける。分かりやすいように大きくうねらせれば、医者から感嘆に似た声が洩れる。

「! 髪が生きてるみたいだ!」

「『生命帰還』。全身に意識を張り巡らせることで、本来ならば操作出来ない髪だの内臓だのを操る芸当だ。拘束や攻撃に転化出来るから、長髪には注意を払った方がいい。……当人自体は冗長な話し方で隙も大きく見えるだろう。時間稼ぎにゃいいが、大抵は本当の隙じゃあないことも気を付けろよ」

 殺傷力のある髪の毛なんざ、知らなければ不意打ちを受ける可能性は大いにある。それをする性格かどうかは……おれの知るクマドリよりも悪辣になっているかもしれない事を考慮して、の話だが。

 

 

 

「カリファ……ガレーラの秘書だった奴は相対的な実力は低い、が十分超人だ。華奢な女だからと油断して掛かれば簡単に制圧されるぞ」

「ああ、あの美人秘書。女、ねー……ならサンジくんは戦えないわね」

 腕を組んで呆れ眼を金髪へと向けるオレンジ髪。

「まァ、おれは死んでも女は蹴らねェと決めてるんでな」

 信念は何でもいいが、じとりとした視線に晒されてもなお堂々としている様はいっそ清々しい。

 

 

「で、最後。全体的に丸い、フクロウという男がいるんだが……こいつは致命的なまでに口が軽い……はずだ。諜報員をやっている以上、おれの知る分よりマシになっている可能性はあるが。そうでないなら存分に利用してやれ」

「利用?」

 言葉尻のオウム返しにこくりと頷く。

 

「尋問なんぞしなくても、人の秘密だろうが機密事項だろうがなんだろうがべらべらと喋る。口のチャックが一体何の為に付いているのか分からなくなるくらいには」

 脳内を手繰って、はァ、と思わず溜め息を吐いた。一年前の記憶は未だ鮮明であり、それまでに掛けられたフクロウによる迷惑の一つ一つもまたよく覚えている。

 

「知りたいことがありゃあ野放しにしてても話してくれる。フクロウに限ってはしばらく倒さずにいるってのも手、だな」

 味方にいれば厄介な性質の幼馴染は、今は敵。ならばいくら利用したってバチは当たらないだろう?

 

 

 

「あのハトの奴はどうなんだ!」

 鼻息荒く麦わらが聞いてくるのは、無意識に除外していた男のこと。

「チッ……アレは、戦闘面においては正直バケモノだろうよ、おれは一度も勝てたことがないな」

 数ヶ月間で蓄積した苛立ちを思い出して青筋が立ちそうになるのを抑える。舌打ちは出たが。

 

 

 

 ──奴への対策、か。流石に麦わらに頼り切りなぞせずに二対一へと持ち込むつもりでここまで来たが。

 

「奇襲奇策が通用するとも思えねェから、正面から殴り合うのが一番いい。まァ、見ている限りじゃあお前は真っ直ぐ行くのが得意だろう? それでいいさ」

「おう! んじゃ真っ直ぐ行って、なんもかんもブッ飛ばしてやる!」

 細かい作戦など伝えても、この男はどうせ投げ出すだろう。そんな諦念を知らずに麦わら帽子がかぶりを振り、肩慣らしとばかりに腕をぐるぐると回す。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして一味が息巻いているところに、何やら描き込まれた一枚の紙を床へと広げたパウリーから声がかかる。

「お前らちょっとコレ見ろ。おれがうろ覚えで描いたんだが、エニエス・ロビーのだいたいの地形だ」

 歩み寄って覗き込めば、それは黒い円……曰く滝上に浮かぶ不可思議な形をした島の簡易的な地図であった。

 

 

「とにかく、正門から正義の門までのこの直線でニコ・ロビンとフランキーを取り返せなきゃおれ達の負けだ。とはいえ全員で島へなだれ込んでも、CP9に出くわして実際勝つことが出来るのはお前らだけ。……一緒に列車に乗ってきて、その強さがよくわかった」

 麦わらの一味全員が注視しているのを確認したパウリーは葉巻を燻らせた口で言いながら、武骨な指で地図上の土地をとんとなぞる。

「だからお前らは海でこのまま五分待って、正門からこのロケットマンで本島まで突っ込んで来い!」

 

「おれ達ァそれまでに先行して、列車が通れる様に正門と本島前門をこじ開ける!」

 それに頷いて、例え何人倒れようとも構わず前へ進めとフランキー一家の片ゴーグルが言い繋ぐ。

 

 

「麦わらさん達はとにかく無駄な戦いを避けて! CP9だけを追ってくれ!!」

「ああ!! わかった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さァ、ぐずぐずしてるヒマはないよ!」

「そんじゃおれ達ァ作戦通り先行する!! 援護は任せとけ!!」

 車掌が発破を掛け、それに合わせて船大工と解体屋がぐっと拳を握り。……その中にはオレンジ髪と長鼻、若干二名の海賊が混ざっている。

「オイそこ二人はこっちじゃねェのか」

 おれの心中を呆れた様子の緑頭が代弁した。お前の仲間だろうが、どうにかしろ。

 

 

 

 

 

「……あれ? ルフィは?」

「え? さっきまでここに……」

 

 がしゃん、と前方から微かな音が聞こえた。同時にフランキー一家の一人がそちらへと指を差す。

「あれ!? 麦わらさんっ!!?」

 

 

 指の示す先、エニエス・ロビーの方面。

 ……そこには、黒い鉄柵にちょうどしがみついた赤いベストの麦わら帽子が。

 

 

 

 

「何やってんだあいつは勝手にィ!!!」

「あの人作戦全然わかってねェ〜〜!!!」

 

 

 

 

 天丼である。

 

 さっきのいい返事は何だったんだ、あのバカヤロウ。ガレーラ本社の再演の如きそれに、呆れさえも通り越しそうだ。

 

「ムダだった」

「……『わかった』って、言ってたよな」

「五分待つとか、ムリだから」

「そりゃそうか」

 

 お前らの船長だろうが、無駄だったとか無理だからとか言ってないでどうにかしろ。手綱を握れ。

 

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 

「バヒヒィ〜〜ン!!」

 二頭のキングブルが鬨を嘶き、巨体が鉄柵を飛び越えるのを海列車の中から眺める。途端に鳴り響く爆発音と銃声に、戦いの始まりを改めて実感した。

 

 

「おれも先行してよかったんだが」

 出立前にそう進言自体はしたのだけれど、主に職長達から止められたのだ。少しばかりの不満を滲ませて呟いたのを緑頭が拾う。

「さっきまで疲れて寝てたってのによく言うぜ。ルフィと一緒で温存出来ねェ性根って訳でもないだろ、てめェは」

「……カエルの衝突の時でさえ寝てたお前にだけは、居眠りのことを言われたくねェな」

 流石にあの猪突猛進と同視されたくはない。

 

 

 大人しく壁に凭れかかり、時を待つ。

 煙草を咥えて俯いた金髪に何やら金属の棒を弄り回しているオレンジ髪、怪我にふらついた長鼻に声を掛ける海賊狩りと、ヒーローのような姿に憧れの目を向けるトナカイ。独特のペースが形成された車内に、車掌室からの放送がきぃんと鳴った。

 

 

 

 

『おめェら準備はいいかい?海列車ロケットマン、あと四分後に突撃するよ!』

 

 

 




そげキングのセリフが一番書いてて楽しい。おもしれー男だからかな……そうかも……
ルフィに手綱、暖簾に腕押しとか糠に釘とかと同じ意味のことわざになれると思う。
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