水の都で命は踊る   作:盆回

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掲示板からSS移植、もしかしなくても話数区切るのに向いてないね?


Chapter.2 過ぎにし日々、ウォーターセブンで
病院の窓


 

 不良共に敗北したかと思えば見知らぬ土地で目が覚め、チンピラ共と相対し、更には異世界に来たと認識して、最後には自分や友人らに酷似した相手に遭遇して。頭も体も疲れ果てたせいか病院のベッドに横たわった途端、いつの間にか寝入っていた。

 

 

 

 

 そうして迎えた翌日、入院一日目。

 

 

 少し開いた病室の窓から水路で冷やされた風が通って、目が覚める。

 身を起こせばガラス越しに見える街並みが昨日と変わりないことに少しばかり落胆して、再びベッドに背中を預けた。

 やはりというかなんというか、元より望み薄ではあったが夢ではないらしい。夢であれよ、昨日ほど滅茶苦茶なことは今までの人生……どころか、本当の夢でさえなかったぞ。

 

 

 

 

 

 

 こんこん、と病室に控えめなノックが響く。

 

 

「はーい、どーぞ入って!」

「あの、失礼します……!」

 瞬時に眼鏡を装着し、人懐っこい笑顔を作って返事をすれば、からりと横に開いたドアから入ってきたのは昨日の女性店員だった。おどおどした態度は生来のものか、それとも後ろめたさからくるものだろうか。

 

 

 

 手に見舞い品としてフルーツの詰まった籠を抱えた女性は、ベッド横に来るなり頭をばっと下げた。

「あのっ、ごめんなさい!」

「えっ、なんで貴女が謝るのさ!」

 

「だって私、あなたを置いて逃げてしまって……そのせいでそんな傷を!」

「いやいやいや、それは貴女のせいじゃないよ!?悪いのはあの海賊だし、ぼくが弱かっただけで!」

 

 顔を上げるよう促しても尚、深く頭を下げて動かない。負い目は理解できなくもないが、そもそもあの状況で彼女に取れる最善の行動は逃げることだった。

 弱きは悪。それが適用されるのは戦いを常とする者のみで、おれたちにとっては当然の理。こうなった非は半分海賊、半分自分自身にある。

 

 

「それに、さ。貴女が助けを呼んでくれたんでしょ? 聞いたよ」

 入院前に大男から話された内容を思い浮かべてそう言う。自分たちが来たのは切羽詰まった女性に声を掛けられたからだ、と。

 

「! でも、それしか出来なくって……」

「それでもだよ! お陰でぼくは助かったんだもの。もし助けが来なかったら、……状況は今よりもっと悪かったかも」

 ちら、と包帯とギプスに巻かれた足を見る。

 意識こそ平常だったが失血量はかなりのもので、それこそ戦闘の途中に出血性ショックを起こしていてもおかしくないほどだったのだ。もしあのまま一人で戦うことになっていたら……全員制圧できていても、その場で倒れてしまっていただろう。処置が遅れて最悪の事態になっていたかもしれない。

 

 

「ぼくは貴女に助けられたし、貴女はぼくに助けられた!だったらそれでトントンでしょ?」

 そう言って、浮かない顔にニコリと笑いかける。つられて、彼女の肩肘から力が抜けた。

 

 

「……駄目ですね、私。お見舞いに来たのに逆に元気付けられてしまって」

 少し曇りは晴れたものの、表情は未だ陰っている。どうしたものかと思考を巡らせていれば、女性がぎゅう、と握り締めた手の中の存在を思い出した。

 

 

「あー、ぼくお腹空いちゃったかも」

「?」

 突飛な発言に彼女は小首を傾げる。意図が分かっていない顔を覗き込んで、いたずらっぽく微笑んだ。

 

「だからそれ、剥いてくれる?それがお礼じゃダメ、かな?」

 

 

 

 

 

 

 無言の間。

 さりさり、とナイフで林檎の皮を剥く音を聞きながら、バスケットの中身を見る。種類の多種多様なそれらはどれも新鮮そうで、明らかに高級なものだ。

 

 

「口に合うかは分からないですけど……どうぞ」

「ありがとう~~!わー、やっぱり美味しそう!」

 ベッド横の小さなデスクに置かれた白い皿の上から、薄黄のくし型を一つ摘む。

 

「ほら、おねーさんも!」

「え、わ、私? 私はいいですよ?」

「そんなこと言わないでよ〜〜、一人で食べるの寂しいんだって!」

 ずい、と皿を持ち上げて強引に勧めれば、彼女は戸惑ったようにきょときょと視線を揺らしながら一切れを手に取って口に運ぶ。

 

「どーお? 美味しい?」

「ふふ、そうですね」

 笑って問うと、今度はちゃんと柔らかい微笑みが返ってくる。ようやっと完全に気が解れたようだ。

 

 

 

「疲れたり悩んだりしたときは甘いものが一番、ってね」

「……いい子、優しい子ですねえ」

「えェ~? そうかなァ、照れるわ〜〜!」

 

 照れ臭そうに顔を背け、頭を搔く。

 昨日会話した時と変わらず問題なく騙せているということにほっとする。言動どれをとっても全て演技かつ打算で動く、罪悪感の欠片も覚えてはいない自分には随分とそぐわない評価だ。内心で溜め息を吐いて、手に持った林檎を口に放り込んだ。

 

 

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 入院二日目、まだベッドからは解放されそうにない。

 

 暇を持て余しいたところで、こん、と扉が叩かれた。ノックの音に明るく返答すると同時に、高い声と共に生き写しが現れる。

 

 

 

「ぽっぽー! 邪魔するぞ」

 ……うわあ。

 

 

 

 

 入ってきたのは一昨日見たのと変わらない、シルクハットにタンクトップ、サスペンダー装備の腹話術男。珍妙不可思議、形容しがたいと思っていたが最適な言葉がある。トンチキだ。なんだか一瞬で目が死んだ気がする。

 

 

「フルッフー、何だその顔は! ルッチがせっかく服を持ってきてやったというのに」

「君の同僚曰く君とおんなじ顔だよ~~……」

 

 確実におれにとっての重要人物であることは重々承知しているのだが、気を張るのが馬鹿馬鹿しくなるような言動をされては敵わない。……もしやそれが狙いか?ならばそれは大層有効である。潜入に応用できるかと考えて、脳内ですぐ却下した。

 

「ああそうだ、今日はその話に来た」

「……その話って、あー、顔のこと? ただのそっくりさんってことじゃないの?」

 

 

 そうでないことはおれが誰よりも分かっているが、相手がどれだけ把握しているか、何を知っているのかが分からない以上此方から情報を出すべきではない。

 

「あの時、お前は悪魔の実の能力を使っていたな。動物系(ゾオン)か?」

 

 ……これは、探りを入れているときの目だ。現状の把握度はおれよりもない可能性が高く、だが知らなくてはならないものを見る目。

 

 

「ン、そうだねェ……」

 変化を見られた以上は能力者であることを誤魔化すことは出来ない。だが馬鹿正直に言ってしまえばおれの予測──おれと目の前の人間が平行世界の同一人物──が正しいのなら、同じ実を食べたと考えておかしくないだろう。

 自分と同じ顔をした人間が、この世に二つとして存在しない同種の悪魔の実を食べている。それがこの男の目にどのように映るかは分からないが、警戒する理由には十分過ぎる。

 

 

「それってぼくと君が似てるってことになんか関係あんの? まァいいけどさ」

 とぼけながら軽く浮かせた手を前脚へと変化させる。体格を変える必要はない。腕だけで十分なことに加えて、見せる部位を減らすことでモデルの特徴は掴みづらくなるだろう。

 

 

 

 

「ぼくが食べたのは君の言う通り動物系、んでもってネコネコの実──モデルオセロット。あ、オセロットって知ってる? おっきい猫って感じのなんだけど」

「……名前だけしか知らねェな、ポッポー」

 

 正直、一か八かだった。読み取りにくい表情だがしかし、自分であるからこそ分かる。……どうやら、とりあえずは誤魔化せたらしい。

 

 

 

「それで? 一体何なのさ、能力のことなんて突然聞いてきて」

「……知り合いの能力に似ていてな、いつの間にか死んだんじゃねェかと思っただけだ。フルッフー、気にするな」

 

 男の手の代わりに、肩に乗った鳩の白い翼がひらひらと振られる。

「あーそゆこと!すっごい偶然だなあ、見た目のそっくりさんと能力のそっくりさんがいるなんて」

「そういうことだ」

 大真面目にすっとぼけて見せれば、素っ気ない言葉が返される。シルクハットのつばを下げたその男から言外に含めるつもりもないであろう意図を読み取った。それこそ何回、何十回、何百回も見たことのある顔をしているのだから気付かない方が無理があるというものだ。

 

 

 『それでいい、そう考えてくれるのがいい』と。誰かを騙す常套句。多くは語らず相手の思い込みに委ねる仕草。

 

 

 

 ──この男は、『何かを隠したがる人間の顔』をしている。

 

 

 

 

 

「じゃあ次はぼくが質問するね!その子、肩の鳩は君の何?かわいいなァ」

「クルッポー?」

 とはいえ、ここで踏み込めるかといえば話は別。おれが相手の表情を読めるのだから、相手からもおれの心情が読めている可能性を忘れてはいけない。

 それ故に、聞くまででもないことだが様子見として、場の空気を和らげる類の問いを放ってみた。自分のことを聞かれるとは思っていなかったらしい白い鳩が小首を傾げ、こちらを見てくる。

 

 

「おれはハットリ、こいつの相棒だっポー!共々よろしくな!」

「、ハットリ、だね!ぼくはヒョウ太!こちらこそよろしく~~」

 腹話術に合わせて身振り手振りをする、……ハットリ。

 例え世界が違えども、自分達の関係値は変わらないらしい。……今は肩にない重み、己の相棒が恋しくなる。

 

「ね、ハットリ。ぼくとこの人似てると思う?」

「クルッポ!」

 躊躇なく頷かれた。やはりその目は誤魔化されないようだ。

 

 

「君が言うんならそうなのかもね~……もしかしたら、血の繋がりとかあったりして?」

「……どうだかな」

 

 

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 ヒョウ太を名乗る少年を見舞いに行った晩。ハットリの眠る横で、ルッチは電伝虫を片手で弄んでいた。

 

 

 

 頭を抱えているのは目先の問題について。自分とそっくりな人間がそっくりな能力を使って潜入先の間近で戦闘を行っていた、などと。

 

 任務に支障が出る可能性を考えれば報告を上げるべきだろうが、それにしたって情報が足りていない。事実としてあるのは、あの少年がたった一人であの海賊達……一億近い首と七千万の首を討ち取ったということ、優先して一般人を逃がす善性があるであろうことのみ。

 動物系の能力者だという確認は取れたがモデルオセロットであるという当人の話の真偽は分からず仕舞い。手掛かりになりそうな戦いの痕跡も、あまりの混戦らしく荒れ果て過ぎていて測れなかった。悲惨な様子の店内と倒れた海賊達を見比べ、たった一人であれだけの大立ち回りをしていたのかと考えると、……やはり、一般人だとは到底思えない。どこかの所属か、それとも。

 

 

「はァ……」

 ──いるかどうかも分からない奴のバッグに関しては、これ以上あれやこれやと思考をしていても深みに嵌って結論が出ないだけだ、とルッチは意識を切り替える。

 

(血縁、か……)

 のらりくらりと何一つも本音の見えない相手が放ったあの戯れ言を信じた訳では無い。ただ一つ、自分の生き写しのような人間を見てふと思い出したことがある。

 

 

 それは取るに足らない、今の今まで記憶から抹消していた噂話。

 

 

 

 

 ──殺戮兵器のクローンが存在している。

 ほんの一時期まことしやかに囁かれたものの、すぐに立ち消えた巫山戯た噂である。

 

 

 

 

 今ルッチが持っている情報など、噂話の聞き齧り程もない。報告ついでに詳しい話を聞けるかと思い、自分の上官に電伝虫を掛けようとして……やめた。あの喧しい男と話すだけでも体力が吸い取られる上、そもそも奴は何も知らない可能性が高い。話すだけ話して笑われる未来が見えたので。

 

 掛けようとしていた番号を政府の上層部へと切り替える。

 

 ぷるぷるぷる、と数コール後、がちゃりと受話器の外される音。返ってくるのは無音の促し。

 

 

「ロブ・ルッチです。……報告と、質問が」

 

 

 

 

 

「……? ああ、以前流れていた噂のことか。我々でもその出処は調査したことがあるが……少なくとも政府内の話ではないな」

「そうですか」

 一通り状況を伝えた後、懸念について尋ねればそう返答がされる。声に嘘は見えない。やはり噂は噂かと、荒唐無稽な思い付きを思考の端に追いやっておく。

 

 

「取り敢えず、見た目も能力もそっくりな子どもが出た、と。CP9は秘匿機関。万が一敵対組織でお前のクローンが造られたというのなら大事だ、此方でも気にかけておく」

 

 無きにしも非ず程度の可能性ではあるがしかし、その可能性は必ず潰さなければならない類のものである。無関係であっても敵だとしても、今は泳がせておけばいいという結論に至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにか支障があるなら殺せばいい……まさか、自分に似ているから無理だなどとは言わないな?」

「勿論」

 

 




【ロブ・ルッチ(生徒会長)】
演技派なのは潜入捜査の為という側面が大きいのだろうが、その演技力を活かしてだろうか、学園の主演男優賞に選ばれたとかいう謎エピソードが存在する。多分演技力とか潜入力とかは現役諜報部員の原作ロブ・ルッチに負けず劣らずなんじゃない? と自分は思っている。独自解釈。
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