「カティ・フラム!! てめェ……よくもおれの設計図をォ!!」
元々お前のでは無いだろう、と思う間もなく。
設計図が燃え尽きていく。奴等の目的のモノがこの世から灰だけ残して消えていく。それを呆然と眺めていた男のヒステリックな叫びと共に、どん、とアロハシャツを纏った巨体が空中へと放り出される。
「うわあああっアニキー!!」
「アニキが滝に落ちるーっ!!」
突き飛ばされたのだと悟ると同時に、背後から奴を慕う一家によって爆発的などよめき。騒乱の中で落ちゆく体を拾おうと地面を踏み締めて、──蹴り出す前に足が止まる。
それは、壁を押し分け破壊するような轟音が耳へと届いたから。
振り向けばそこにあったのは、地を駆け汽笛を高鳴らせる船。
「──海列車……!?」
唸りながら真正面へと突っ込んでくるサメを象ったヘッドを咄嗟に飛び退いて避ければ、行く先は滝だというのに減速など欠片もせずに、目の前を鉄の塊が通り抜けた。
そのまま、地上を進む船は中途半端に架かった跳ね橋を踏み台とし、宙へ躍り出す。思わず呆然と見ていれば、もくもくと上がる水蒸気と砂埃の奥。麦わらの一味達と思しき数人の影が、声に合わせて屋上から降ってくる。走ってくる海列車に飛び乗ったのだ。
そして。
「また飛んだァ〜〜!!」
「き、来やがったーーーッ!!!」
地上を船が走り、あまつさえ飛んで対岸へと無事に辿り着いた。それも、滝壺に落ちかけていた解体屋を拾って。……自分が乗っていた時にも同じことがあったとはいえ、傍から見れば常識外れなことこの上ないな。
「フランキーのアニキは無事だ!!」
「やっちまえアニキィ!!!」
「麦わら頑張れーーっ!!」
隣から喧しく鳴り渡る激励に、はっと意識を引き戻す。
今は呆けて見上げている場合ではない。麦わら達は無事に司法の塔へと辿り着いた、ならばおれも合流しなくては。
「……なァ、ヒョウ太。どうすんだ? 跳ね橋は止まっちまってるが」
気付くといつの間にか隣へ来ていたパウリーに、そう声を掛けられた。体を其方に向けて顔を見れば、微かな憂いが浮かんでいる。
「問題はねェ、さっき見ただろう? おれは空中を走れるからな」
とんとん、と靴の爪先で石の地面を叩く。つくづく思うが、戦闘時のみならず縦横無尽に駆け巡る為の移動手段として月歩は利便性が高い。
おれ単体ならば司法の塔へ潜り込むのは簡単だ、と示唆してもゴーグル直下の顔は依然晴れないままで、なんだと眉を顰める。パウリーはこちらの疑念を察したらしく、居心地悪そうに金髪を搔いた。
「……お前が行かなきゃダメなのかよ? アイツらに任せてるんじゃあ、ダメなのか」
……気持ちは分かった。
幾らおれが強いと言い張って、実際此処で成果を上げて強さを見せつけても。一年間共に過ごしてきた此奴等にとっては、──特にあの屋敷で散々に打ちのめされた所を間近で見ていたパウリーにとっては、そんな強さは信じられないと思われているのかもしれない。
そして、態々おれが立ち向かわなくたってもいいんじゃないか、とも。
まァでも、一言で纏めてしまえば。
心配、なのだろう。
「ああ、ダメだ」
だからこそ、はっきりと言い放つ。
向き合わなければいけない。対話しなければいけない。
ここでパウリーを振り払ってしまうのは簡単だけれど、それは嫌だと心の底から叫ぶものがある。こちらの世界の自分達が騙していた分と、今までのおれが誤魔化していた分。せめて、真摯でありたいのだと。
「目標はニコ・ロビンの奪還。麦わら達の為という訳でもないが……海賊だが悪くはねェ奴等だ。それこそ、命の危機があっても協力していいと思うくらいにな」
現状の整理とばかりに、自身の感情も含めて羅列する。パウリーは不安交じりであっても真剣な顔のままこちらを見つめてくるから、その視線を真っ向から受け止めて言葉を続ける。
「だが、おれの一番の目的は麦わらへの協力じゃない。──アイツらをブン殴る為、クビを伝える為だ」
ついさっきも言った筈だ、お前も了承済みだっただろう、と。
「ガレーラの社員として。お前達がやれねェ分、おれが奴等を倒したいんだよ、パウリー。それはあの一味だけに任せちゃならねェことだ。……ま、個人的な恨みもあるがな」
「だからおれは行く。止めてくれるなよ?」
「……そこまで言われて、引き止められるかってんだ」
決意表明のように言って口端を釣り上げれば、パウリーはふ、と息を抜いて笑う。それと一緒にぐしゃりと頭を撫でられた。
「ヒョウ太、絶対、絶対に! 無事に帰ってこいよな!」
それは祈るような、懇願するような。
切実で親愛の籠った言葉に上げていた口許が緩むのを抑えることもしないままに、頭から伝わる熱ごと受け入れて。
「大丈夫、約束だ……お前らも。ちゃんと無事に帰って、おれの帰る場所にいてくれよ」
「おう、当然!!」
──────…………
今度こそ地面を蹴って空気を蹴って、つい先程瓦礫が積み重ねられた歪な穴へと向かって空中の道無き道を進む。
たん、すとん、と。
荒れた建物内に着地すれば、最初に目に入るのはロケットマンである。真正面から突っ込んだ鈍色の海列車はヘッドが盛大に破損し役目を果たしたとでも言いたげであり、また見るも無惨な姿だ。
きょろりともう一度周囲を見渡す。此処は自分を脅かす可能性がある実力をした敵の本拠地、一つの油断が命取りとなりかねない。警戒を十二分に引き上げて状況把握に努めるが──降り立った部屋には、麦わらの一味どころか戦いの気配すらない。
全員でニコ・ロビンを追い掛けたか、はたまた妨害にあったのか、どこに行ったのかすら情報がないというのは困ったものである。
さて、どうしたものか。いっそ正義の門とやらまで跳んで、連行している所を待ち伏せでもしようかとまで考えたところで。
「んん? なんらヒョウ太、随分遅かったじゃねェか」
「……! ココロさん、丁度良かった。麦わら達はどこに?」
列車の車体の後ろから、その操縦手が現れた。こんな場所に一般人がいるというのは危険極まりないが、それは今更。現状把握の為に酒気を帯びた顔に向き合う。
「ああそれらがなァ、散り散りにCP9を探しに行ったよ。なんでも敵一人が一本ずつ、解放するための手錠の鍵を持っているんらと」
その言葉を聞いて思考回路を回す。仲間の解放の為には手錠の解除が必須、けれどその鍵は散り散りにあり、早く手に入れなくては何処かに棄てられる可能性すらあるだろう。
「成程……先に奪還をしなければならない構図、と」
「そういうことら。ンでもって、未来の海賊王はルッチを探しに行ってたね」
鍵を持たない例外としてオリジナルがいるのだと。ニコ・ロビンの護送役となっているらしい。……よくここまで聞き出したものだ、話の元はフクロウだろうか? そんな気がする。諜報員やってても口軽いのかお前は。
得ることの出来た情報を精査する。……おれはどこへ向かうべきだろうか。この塔の中で鍵を奪取する加勢をする? それとも正義の門へと直行するか?
逡巡は無駄な時間となる、勘でも理論でも即断即決、最低限で済ませよう。この場で取るべきだと決めた行動に向かって、地面を蹴った。
ルッチくんは頭が良いので地の文に難しめの長文を語らせても特に違和感ないので大変ありがたいです。基本的にこの小説は一人称視点なんですが、三人称視点と大して変わらない感覚で書けてます。頭脳明晰ってサイコー!