「おれには足手まといになるなと言っておいて? 何だテメェらそのザマは……」
「不可抗力だ!」
海賊二人が繋がれた手錠はニコ・ロビンのソレと同じく、CP9を倒して鍵を手に入れなければ拘束が解かれることはない代物。鉄の手錠であればどうにでもなったのだが、よりによって海楼石製ときた。どうやっても破壊は不可能である。
そして片腕が連結した状態ではこの場における戦力になど数えられる筈もなく、……とんでもない不利な状況に、二人三脚で足を突っ込んでいったという訳だ。
「獲物が繋がっちまった……ま、丁度いいのか? あの海賊二人と化け猫モドキ、それぞれ相手すりゃいいってこったろ」
「そうなるのう。問題はどっちがどっちと戦うかっちゅう話じゃが」
す、と二対の細められた目が、獲物を見定めるようにおれとバカ二人を往復する。そしてすぐに胡散臭い髭面が好戦的に歪められた。
「そこの化け猫モドキはおれにやらせろよ。不意打ちされた腹がまだ痛むからなァ、仕返ししてやらなきゃあ気がすまねェ!」
「……そんな状態でヒョウ太に勝てるんか? 奴の道力はルッチに迫っとるんじゃぞ、力量も測れんのかジャブラ」
「あァ!? ……チッ、そりゃ、分かったがよ。だったらてめェが戦っても同じことだろうがカク!」
いがみ合いながらの話は進まない。
……ここでこの二人を片付けてしまえば、あの男を除いたCP9のトップ2は居なくなる。とはいえ正面切っての相対は無理筋。
ならば。
気取られないように気配を消しつつ、足を踏み込み地面を蹴り。一瞬もない後に風切り音を置いてすたん、と並んだ黒服の前に現出する。
「そんなにおれと戦いたいのか? 二人とも」
「……っ!!」
それは予想の外の行動だったのだろう、見上げて覗き込んだ二対の目は見開かれ、耳に届いたのは息を飲む音。
「──いいぞ、それならてめェら両方まとめてかかってこい、よッ!」
軸足に力を入れ、真っ直ぐに。
単純であるが故に素早く、重く、居合の如く蹴りを抜き放つ。
「あ、っぶねェ……!」
「チッ」
嵐脚『線』を放った後の手応えが無かったことに舌を打ち、足を解すように軽く振る。二人目掛けた一直線の急襲は、剃で咄嗟に距離を取ることで避けられた。が、そもそもこの程度で終わるような相手ではないことは重々承知している。
「随分足癖が悪ィな……!」
「二人同時に相手するつもり、と……舐められたもんじゃのう、言っておくが手加減などはせんぞ」
ぎろりと向けられた眼光をいなすようにひらひら手を振る。別に舐めてなどいない、ただこちらとしては注意を引くことが主目的、二人掛かりで来てもらった方が都合が良いと言うだけ。おれがまとめて倒すことが出来れば御の字ではあるが、全力を出し切る訳には行かない。
「オイ、一人で大丈夫なのか!?」
「お前達は解錠に専念してろ。終わったら加勢に来い!」
おれの背後でトナカイと合流して状況説明をしている奴らを確認し、声に応えてから。
振っていた手を人差し指を残して握り込む。
獣への変化は腕のみで十二分。
「安心しろ。手加減? 元からンな期待はしてねェさ……指銃『三撥』」
だだだん、と弾いた空気が弾丸として撃ち出されていく。高速であるはずのそれは見切られているようで、有効打にはなり得なかったが。
「な、……!? あの腕、あれじゃまるで豹じゃねェか!」
飛んでくる攻撃よりも目を見張るものがあったらしい、カクより一拍遅れながらも空弾を後ろへ跳んで避け、驚きの声とともにおれを指差した。
「ええい周回遅れにも程があるぞジャブラ!」
そしてそれとは対称的に。知識のない味方へ苛立っているらしいキリン人間が前に跳び、此方へと接近してくる。
「こやつは正真正銘、ルッチのクローン! 当然能力も同じっちゅうわけじゃ、強さはオリジナルにゃ劣るがな! ──嵐脚!!」
「剃」
「ッぬう、ちょこまかと……!」
洗練された斬撃を慣れた足運びで躱す。攻撃が通らなかったからか、はたまた別の理由からかはともかく、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたカクへと向き合った。
「それはこちらの台詞だ、一発くらい喰らってくれてもいいだろう?」
「お前さんの技の場合、その一発が命取りになるんじゃがな!!」
軽口を叩きつつも、漂う空気はピンと張り詰めている。一対一ならば勝てる相手ではあるが、今は背後に控えている実力者がいるのだ。おれとて油断は許されない。
──そういう訳なので、隙を見せた奴から潰させてもらおう。
たん、と芝生を蹴り軽やかに跳んで、着地地点は呆けている狼の後ろ。
「ちょーっと隙、多いんじゃない? ジャブラ君!」
「──は、ッ!?」
動揺を誘えるかと態とらしく跳ね上げたトーンで投げた声に、期待通り反応が遅れた野良犬が振り向く頃にはもう遅い。
「嵐脚、『白雷』ッ!」
「っ鉄塊!!」
ガキィ!!! と。金属同士がぶつかったかのような音が響く。
心構えすらもろくに出来ていなかっただろうに、それでも咄嵯に防御を固められる辺りは流石政府お抱えの諜報員というべきか。先程の攻撃と合わせれば半分程は体力を削れているだろうからいいとは思えども、出来ることならば早目に一人脱落とさせたかったのだけれど。
「はーやだやだ、不意打ちだったってのにあんま効いてない感じ? 鉄塊の練度高くない?」
「な、……な、んな……ッ!?」
唇を尖らせて溜息を吐けば、ジャブラは信じられないものを見たとでも言うように三白眼をかっ開きながらはくはくと口を開閉させた。
「なんっだよそれッ!? 気色悪過ぎンだろ、全身鳥肌立ったわ!!」
やっとの事で出てきた言葉がそれである。やはりというか、拒絶反応が強い。友人の方のジャブラも『服部ヒョウ太』には何かと難癖を付けてくる為、この男はそういう性質なのだろう。
「ぬはは〜すっごい失礼! ぼくはずっとコレで通してたんだけどね、ねーカクさん!」
「いや……マスクと眼鏡もなし、髪型もルッチとまるきり同じでその演技はわしでもちょっと嫌じゃわい」
「そんなに!?」
「いいから今すぐそれ止めろクローン!気持ち悪くて戦闘どころじゃねェっての!」
「え〜? 嫌がってるんならこっちとしては僥倖ってやつじゃない? 止めるメリット、ぼく側にあるかなァ」
過剰なレベルで鳥肌が立っているという腕を摩り吠えてくる野良犬へ、それはもう爽やかにニッコリと笑いかける。戦いに支障が出るというのなら戦術として有効であるのだから、止める意味など尚のこと無い。
「だァから! クソッ、本物にしろ偽物にしろ、どっちにしても性格悪ィ……!」
「それは訂正してくんない? オリジナルよりはマシだと思うんだわぼく」
「言っておくがどっちもどっちじゃぞ」
聞き捨てならずに突っ込めば呆れ返ったような語調の言葉が飛んでくるが、そんなことはないと主張したい。あそこまで性格が悪かったら終わりだろう。
──がちゃ。
不意に、独特な音──電伝虫の受話器を取る音が、拡声器に乗って部屋に反響した。
『畜生しまった、こっちだ子電伝虫は!!何て事を、ウッカリした!よりによってゴールデン電伝虫を押しちまった!!』
「……なんだ、この放送は?」
きぃんとハウリングする叫び声に思わず素に戻り、音源を見上げる。それは睨み合いを続けていた二人も同じく。
「ウッカリ、ゴールデン電伝虫……つまりはそういうことだよな?」
「……ドジだドジだとは思っていたが、まさかここまでとは思っとらんかったわ」
内情を知っているのであろう奴らはどうやらその『ゴールデン電伝虫』とやらに引っかかっているらしい。一体何だと首を傾げたところで。
『よりによって、バスターコールをかけちまったァ〜〜ッ!!!』
CP9の長官と呼ばれていた男、スパンダム。顧問のそれと全く同じ声で、疑問の答えが叫ばれた。
バスターコール。……道中で聞いた、世界政府による総攻撃。その島の何もかもを焼き払い消滅させることで目的を果たす、極端な秩序の体現。
『あの攻撃に人の感情なんてないわ!! このエニエス・ロビーにある全てのものを焼き尽くす、建物も人も! 島そのものも……!!』
正義を名乗った業をスピーカー越しに糾弾するのは悲劇を体験した唯一の生き残り。今まさに連行されている、海賊の女。
『──あァ、結構。政府にとってもそれだけのヤマだって事さ……! お前の存在だけが古代兵器への手がかり! 一時代をひっくり返す程の軍事力がかかってるんだ、そのお前を奪い去ろうとするバカ共をより確実に葬り去る為ならば!』
電伝虫越しであっても感情の揺れが分かるほどの切実な慟哭を優越さえ感じる嘲笑で切り捨てる、政府の役人。
そこには自身のミスに対する開き直りも含まれていた、けれど。
『例え兵士が何千人死のうとも、栄えある未来のための仕方のねェ犠牲といえる!! 何よりおれの出世もかかってるしなァ!!』
発言者がその内容を間違いない事実と信じているのだということくらいは、堂々とした声調で簡単に悟れる。
……海賊と、政府と。どちらが秩序なのか、分かったものじゃない。
『っ人の命を何だと思ってるの!?』
『忘れてくれるな、CP9とは政府の暗躍機関。千人の命を救う為に百人の死が必要ならば、我々は迷わずその場で百人殺してみせる! 真の正義にゃ非情さも必要なのさ! そもそも侵入した海賊共を全く止められねェ脳なしの兵士共など、死んだ方がマシなんだバカ野郎!!』
この世界に落ちてから、正義というものに向き合う機会が増えた。大多数の為に少数を排除するのも、弱さが罪であることも理解は出来る、おれの抱えた正義はまさしくその通りなのだし。……けれど。
「どうにも過剰で飲み込めねェな、ここの正義は」
「アイツが元とは思えねェ発言だなァ、クローン」
島から逃げろという焦りの声、その後に殴打、倒れる音。それを最後にしてぶつと放送が途切れる。
ぽつと洩らした呟きを拾った男が、胡乱げな瞳で此方を見ていた。
「無辜の人質を五百人纏めて皆殺し、その後人質を取ってた海賊も皆殺し。ンな奴のクローンには、誰も過剰なんぞ言われたくねェだろ」
「……おれはオリジナルじゃない。彼奴の思想に巻き込まないでくれるか」
「ハッ、巻き込むも何もそもそも同じだろ」
鋭く睨めば鼻で笑われ、びきりと血管が浮きそうになるのを抑える。……正論のような詭弁で精神を逆撫でするのが上手い奴だ、一周まわって感心した。
……おれとジャブラの関係性が、こちらでも似たようなものならば。この狼が掲げる正義も『ロブ・ルッチ』や世界政府と同じなのだろうか。そこまでつらつらと考えて、無駄な思考かと切り捨てる。
「根本は同じとしても育ってきた環境が違うってことだ。……しっかし成程、バスターコール。こんな事言い合ってる場合じゃないってことね。戦闘再開しないと、ほら!」
「ッチ、またその態度に戻しやがって! 言い合いは誰のせいだとッ」
先程剥がれた皮をまた被り直す。そうすれば、単純な野良犬は思惑通りにぎゃんぎゃんと噛み付いてくる。ここで手間取ってはいられない、煽りでも何でも、手段を選ぶことなどせずに早く倒して次へと行かなければならない。
「やめろジャブラ、見え透いた挑発に乗るんじゃないわい! 、──?」
それを諌めようとするカクが何かを予見したように横を向き。
「──ッ! 避けい、ジャブラッ!」
仲間への忠告を投げ、その場から飛び退いた。
「──七十二煩悩鳳!!」
「──必殺、煙星!!」
直後。
先程までカク達が立っていた空間を裂くような斬撃と、その後を追う黒い弾が飛来した。狙いを通り越してその先の壁を砕く鎌鼬の鋭さに目を奪われていれば、着弾した黒弾──煙幕弾が破裂し視界を覆い隠す。
「ヒョウ太、選手交代だ。こっちに下がってこい」
「ああ」
白煙によって視界不明瞭の中で聞こえた海賊狩りの声の方へ、その言葉通りに身を引く。
行動を阻害していた拘束具はもう、奴の腕にも後ろに控えるそげキングとやらの腕にもない。おれが対応している間に塔内を駆けずり回りでもしたのだろう、無事解決したようだ。
「ふ……なんじゃ、ようやく釈放か?」
「お陰様でな。笑えるのも今の内だぞ、世界政府」
書き忘れてましたがこの時点でのヒョウ太の道力は3870です。ウォーターセブンに来た当初は2441。どちらもダイスで決まったけど、絶妙だとしみじみ思う。
参照までに
ルッチ:4000道力
カク:2200道力
ジャブラ2180道力
最初は原作ルッチには遠く及ばない程度、今はカクとジャブラ両方相手取ると公平かちょっと厳しいくらいの強さってわけ……
ついでに言うとヒョウ太の身長は来た当初は170cm、現在は171.4cm。ルフィより小さい。これは抑制剤のせい。